デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
【Project infinity】──その研究の狂気に囚われたナノモンの背が見える。
これ以上の口での説得はできない。このまま捕らわれたまま何もできずにいるしかないのか。それでも砂雪は拘束台の上で、まだ諦めずに思考を巡らせつづけた。
その時だった。
『忘れてはなりません。時は一瞬の煌めき──決して遡れない、強く信じた先にあることを────』
背中を押す風のような声が、脳に体に直接吹き及ぶように響いた。なおも吹く不可解だが暖かい風に、砂雪は身を任せてみる。
すると彼女が目を瞑ったその
ナノモンが砂雪から奪い取ったデジヴァイスQに、接続した膨大なデータを研究所のメインコンピューターから転送していく。その転送作業の67パーセント程が完了し、今か今かとナノモンが歓喜と完成の瞬間を待っていた──まさにその時だった。
ナノモンの見つめていたモニターが、全面に映る0と1の数字と、その数字で象られた謎の女の顔に埋め尽くされた。予期せぬエラーの発生に、狂気の笑みを見せていたナノモンが一転、慌てふためく。そしてまた次の瞬間、不測の事態が立てつづけにも起こり、メインコンピューターの電源が突如落ちた。
「研究の時間はおしまいよ。ユキアグモンは私の友達っ。あなたの望む最強のデジモンじゃなくたっていい」
チカチカと明滅していたコンソールパネルが、死んだように光をなくす。
拘束台は堅牢にロックされたまま、だが何の脱出マジックか、その台に磔にされていたはずの砂雪の身は抜け出し、メインコンピューターに繋がる電源レバーを自らの両手でしっかりと落としていた。
「クッッギィ……ナゼだ、ナゼ抜け出している! やってくれたな小娘が……! 友達などという知性も合理性もない戯言で、ワタシの、ワタシタチの価値ある研究の邪魔をするなーー!」
予期せぬ研究の邪魔をされたナノモンは怒り叫んだ。そして自在に伸びる機械の手が、まっしぐりに砂雪の方へと向かい、その身を再び拘束し締め上げていく。
「ずーずー……やまもり……ういんなー……ずぅ〜…………ハッ!?」
「サユキっ! サユキ、サユキをかえせーーっ!」
遅れて目覚めたユキアグモンは目覚めるとすぐに、飛び込んできたその危うい光景。砂雪を締め上げる謎の機械のデジモンにユキアグモンは叫び、四肢と尻尾を縛る拘束台の上で激しく暴れ続けた。
「クックック、返すものか。成熟期スペックのデジモンでもその台は壊せやしない。無駄なっ、ワっ────な、ナンダこのヒカリ!?」
嘲笑うナノモンの言葉を遮るように──床に落ちていたデジヴァイスQが眩い純白の光を放った。
一条の光の帯は、ナノモンの頭上を掠めて研究所のモニターを反射し、拘束台の上のユキアグモンへと向かい降り注いだ。
どこからともなく吹き荒れる雪と風。
研究室全体を包み込むほどの強大なエネルギーと数多なデータ片が、ユキアグモンの身体へと積もっていく。
【YUKIAGUMON ──Evolution──> YUKIDARUMON】
積もり切った真っ白な雪のデータが、新たな力と存在を構成する。拘束台を粉砕して今堂々と立ち上がったのは、氷雪のデータを宿した巨躯の戦士。
「ぼくのサユキをいじめるな! メカやろうーーッ!」
ユキダルモンへと進化した一匹のデジモンの咆哮が、地を、天を、激しく揺らした。