デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
足元に転がってきたまだ熱の残るデジヴァイスQの画面を、確認するように見つめる砂雪。
「ユキアグモンが、ユキダルモンに……これが無限の可能性?」
大きな白い雪像の背が、ナノモンの拘束から解放され、べたりと床に座り込む砂雪の前に確かにあった。
「バカを言え、無限の可能性などではない! なんて、なんてことだ……それは間違った進化だ。こんなもの……ワタシの算出した進化ではないぃいい!」
驚き静かにユキダルモンの背を見上げる砂雪の反応とは正反対に、ナノモンは彼女のこぼした発言を即座に否定した。どうやらそのユキアグモンの進化は、ナノモンの予期していなかった姿だったようだ。
「間違った……? あっ、これはもしかすると、村でした雪合戦の影響ね。まるで雪の化身……誰よりも大きなユキダルマ……」
「ユキ……ガッセン!? な、なんだソレハ……」
音声認識によりコンピューターのデータ領域を検索。該当データは一件──。ナノモンが電源を入れ直したモニターには、女の映る見知らぬ写真が一枚、映し出された。
「サユキぃ、ごめんぼく進化しちゃった……! ペンモンたちがあの時のユキガッセンで進化したのが、やっぱりぼく、ちょっとくやしかったみたいなんだ……」
ユキダルモンがその場でくるりと振り返り、熊のような丸い頭を照れくさそうにも、申し訳なさそうにも、掻いた。ユキアグモンの時に砂雪とした「お互いまだ進化しない」──あの約束を、まだその身に覚えていたようだ。
掻いた粉雪が上から、見上げる砂雪の髪にまでこぼれ落ちていく。
「いいのよユキアグモン。いいえ……ユキダルモン。あなたがしたいようにすればいいの。約束ごとなんてきっとない、進化は自由よ。──なんてね。ふふっ」
藤色の髪に優しく降り積もる、雪。「進化は自由」だと優しく言い放つ、砂雪。
見上げるほどに大きく成長した真っ白なユキダルモンの姿と、そのオニキスのように輝く黒い瞳を見つめながら、砂雪は微笑んだ。
「【ユキダルモン】だと……そんな可能性のないモノに馴染むなーーーー! ええい戻れ、戻せ! 今ワタシの用意したこのデータをロードするんだ! ダメダダメダてんでダメダッ、焦るな、急くナ、踏み外すな! オマエの進むべき道はスペックの低いそっちじゃない! 安心しろ、オマエは強いチカラを持ったエンシェントグレイモンの血とデータ因子を引くシュゾ……ッ──」
メインコンピューターを再起動させたナノモンは、狂気と焦燥に支配された背姿でコンソールパネルを狂ったように叩き打つ。その進化チャートでは絶対に強くなれない──確信するナノモンは、この研究所に蓄えた残りのデータを正しくロードし直すことを彼らに熱弁し推奨する。
「うるさいっ! オマエみたいなヤツは嫌いだぁーーーーッ!
しかし、ユキダルモンはごちゃごちゃと捲し立てるナノモンに、腹からひり出すものすごい勢いの声で叫んだ。そして怒りの叫びとともに伴った猛烈な吹雪が、振り返ったその機械のデジモンを敵と見做し威嚇する。
「グギギギィ……!? またっ……このふっ、不可解なデータ質量か!? ッ……早く、戻せぇえッ、まだ間に合うその玩具の実験機器で早急に退化サセロぉおお! 自分勝手なイレギュラーな進化などこのワタシ、DIGIPROラボのナノモンが許さぬぅうううう!」
「サユキに手を出すな! 許さないのは、──ぼくだっ!」
間違った進化をし怒るユキダルモンを鎮められるのは、おそらくそのデジモンと紐づけられた彼女の持つ球体の機器だけ。
性懲りも無く砂雪に向かって伸びたナノモンの両手を、ユキダルモンは掴み取り、その凍てつく剛腕でフレキシブルワイヤーごと力任せに引きちぎった。