デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
「で、文句は?」
「……ない! むしろ消耗せず助かりました!」
「ハハっ、含みがありそうだけど、オーケー! あとは……」
あとで報酬の取り分や、デジタマの処理の仕方などでいざこざになってはいけない。念の為に、加勢してもいいかどうかをもう一度確認するレーナ。ジェンは指に挟んでいた白いカードを胸のポケットに仕舞い込むと、感謝と承諾の言葉を返した。
「うぐ……白いやつ、なんで……」
「ぼくがノンキじゃないところ、キミたちにたっぷり見せないとねっ!」
「パタモン、最後にこの子たちをお願い」
「うん、任せて! さぁこっちだよ、オトコならすぐに泣かないんだよー! なさけないレオの分もぼくたちでがんばるんだ!」
「ぐすん……うんっ……」
ユキアグモンが負傷した黒いアグモンに肩を貸す。他にも手の空いているデジモンたちに負傷した者たちを運んでもらい、砂雪は最後にレオの相棒のパタモンに頼み、牢から助け出した子供とギザモンを安全圏へ誘導していく。
「ふむふむ……よし、じゃあやるよっ! 大丈夫、合わせろなんて贅沢は言わないから!」
「あぁっ、合わせる。
レーナは背後の救護対象たちが避難していくのを確認すると、前線にいたジェンの横に今並び立ち、独特の言い方で共闘を要請する。
ジェンもレーナの呼びかけに応じ、再度まだ扱い慣れないデジヴァイスQを握りしめる。
「イカしてるじゃない?」
「そっちもねー」
ウルヴァモンがガルゴモンの巨大なガトリングを見てそう言った。ガルゴモンもウルヴァモンの赤い武装アームを見て笑い、陽気に言葉を返す。
軽いご挨拶を終えると二体のデジモンは二手に分かれ、左右から揺さぶるように各々の武器をターゲットに向けて乱射した。
もちろん敵も黙って棒立ちをする気はない。体勢を立て直したタスクモンが巨大な角を突き出し、突進で一気に前に仕掛けてきた。先ほどの横槍を入れられた腹いせか、ガルゴモンを無視してウルヴァモンへ一直線に狙いを定める。
「それで本気?」
「ナ!?」
しかし肩に備わる堅牢な角を活かし、得意のショルダータックルをかましたタスクモンのその角の上には、──華麗に両足をつけて乗るウルヴァモンの姿があった。
嘲笑うように敵の攻撃をいなした銀毛のデジモンが、クールに微笑する。
「悪いけど初っ端から
パートナーデジモンの煽りに乗っかってか、レーナは両手をぐっと握りしめ、全身に気合いを込めた。
【ATTACK ORDER──トムボーイブレイズ】
両手の赤い武装から激しい火炎を放射するウルヴァモン。
本来デジヴァイスQに内蔵されているオーダーシステム。デジモンと人間が一時的に高度なリンクを果たし、より強力な技と精密な指示を与えるこのシステムを、レーナはデバイスを使わずにやってみせたようにジェンには見えた。
「デジヴァイスもなしに……デジモンにオーダーシステムを……。よし、こっちもさっきの技だ、かませッ、ガルゴモン!」
「【ダムダムアッパー】!」
「シラフで二度もウケるかぁー! ハハハ、バカみたいに叫んでればなあああ!」
だが、タスクモンは火炎に眩まされた視界の中でも機敏に顎を引き、下からのアッパーを引きつけるように見切った。
空を切った渾身のアッパー。そしてまんまと目の前の高さに無防備な姿勢で釣り出された長耳のデジモンに、タスクモンは大きく顎を開き一噛みに襲い掛かかる。
「と見せかけてぇー! ダダダダダダダダ!」
「こっちだ! 【ガトリングアーム+ブレイジングファイア】!」
「あぐあぐあっぐあああああ!?」
しかしこれもまたガルゴモンとジェンの用意した巧妙なブラフだった。本命はもう片方のガトリングでのゼロ距離射撃。大きく開いたその恐竜の恐ろしいお口に、成長期テリアモンの技をブレンドした緑の炎弾を、これでもかとオーダーシステムで威力を強化し喰らわせていく。
「へぇ。レーナも、あぁいう機転どうかしら?」
「ちょっとウルヴァモン、嫌味? まっ、今度使わせてもらってもいいかな! よーし、いけええええ!」
最後、高々と飛び上がったウルヴァモンが、炎弾の雨にさらされたタスクモンの顔面に向かい強烈なパンチを叩き込んだ。
驚異的なタフさを誇っていた巨躯のタスクモンが、ついに仰向けに倒れ伏した。
とどめとなった一撃を放ったウルヴァモンは尻尾をふりふりと振りながら振り返り、お茶目にウインクしてみせる。
ガルゴモンも熱を吐くガトリングを持ち上げ、長い耳をぱたぱたと動かして応えた。
「いけいけーーっ! やったぁーー! って、あーーーー!? そうだ、ぼくのぶんをたおしちゃ……ん、サユキぃ……?」
「あれがデジモンと人間の戦い方……思ったよりも、激しいのね」
大声で応援していたものの、最後に出番を取られてしまったことを知ったユキアグモン。また大袈裟に頭を抱えたユキアグモンが、ふと、隣にいた砂雪の顔を覗くと──。
彼らの戦いの模様と、四つの影を伸ばす頼もしい後ろ姿を、砂雪の緑の瞳がじっと静かに見つめていた。
二体の成熟期デジモン、ウルヴァモン、ガルゴモン。そしてレーナとジェン、彼らの即興の連携が上手くはまり、早くも狂敵タスクモンとの決着はついたのだった。
ウルヴァモンとガルゴモン、二体のデジモンがタスクモンを圧倒し、勝負は誰の目にも決したように思えた。だが、まさにその時──。
穴が空き綻んでいた上空から突如、巨大なデータ質量を伴った巨影が降り注いだ。
不意に現れたその緑の恐竜は、倒れていた同族の腹をその凶悪な角で豪快に突き刺したのだ。
貫かれたタスクモンは、多量のデータ片を宙に撒き散らしながら断末魔を上げ、消滅していく。
「な、なんだ!? 別のタスクモンが! 自分の味方を……攻撃した?」
ジェンは舞い広がる激しい土煙にさらされながらも、確かにその目で目撃していた。上空から降ってきたもう一体のタスクモンが、仰向けでノックダウンしていたタスクモンをその角で真っ逆さまに貫いたのを──。
「くははは、何を言っている。手こずっていたから助けてやったというのに」
降り立った味方殺しのタスクモンは、悪びれる様子もなくそう言い放った。
「助けたですって? どう考えてもあんたが弱ったところを上から不意打ちしただけじゃない! それも自分の仲間をッ……何考えてんの!」
レーナは今飛び散った殺されたタスクモンのデジタマを、走り両手と胸に受け止める。そして語気を強め、余計な手を下した敵のことを睨んだ。
「そういう横取り、好かないわねッ」
「そーだそーだ!」
ウルヴァモン、ガルゴモンまで同じにように激しい口調でレーナに同調する。いくら敵でも、迎えたその不測の結末は気持ちいいものではなかった。
「おぉ、ブラザーはバカなやつだからな。ここまで追い詰められるほどに、お前たちセイントの力をみくびっていた。だからこれ以上情けない姿をさらす前に、オレが慈悲のトドメを泣く泣く刺してやったのさ。ハハハ……こうしてな?」
同族を仕留めた禍々しい形状をした角。タスクモンの左腕に刻まれた星のマークが、妖しく赤く明滅する。
(なんだ……? タスクモンの腕の星……今出てきた奴の方が…………)
普通であればわざわざ同族の仲間を、駒を一つ失くしてまで殺す必要などないこと。今出てきたやけにインテリぶったタスクモンには何か裏がありそうだと、ジェンは怪訝な表情で目を細め警戒を深めた。
「はぁ? ずいぶんべらべらと喋るわね。嘘八百を!」
顔を顰めたレーナは自分の手のひらに拳を叩きつけた。
「この牢屋に村の来訪者を閉じ込めるよう、アグモンたちへ悪事の指示もお前がやったのか? 少なくともさっきのタスクモンは、バトルでも小細工を好まないやつだったように感じるっ」
ジェンの冷静な指摘に、賢ぶったタスクモンは牙を見せ不気味に笑った。
「悪事? フハハハ……いいやオレ様はその逆、実はお前ら人間ども、特にセイントと呼ばれる者たちの能力を高く買っている。できればこれから仲良くしたいと思っている。タスクモンの中でもきっての穏健派なのだよ。ハハハ、酔ったブラザーが失礼したな」
「穏健派? 俺たちテイマー……いやセイントと呼ばれる者たちと仲良く……?」
「ジェン、こんなヤツの言うことなんてまじめに聞いちゃダメ! どうせウソマンサイだよー!」
真面目に受け答えをするジェンとは対照的に、ガルゴモンが耳を一瞬逆立て両腕のガトリングを構え直す。
「そうッ……コレカラキサマラ全員を踏み潰しッ、最後に生き残っていたやつを褒美にッ……! オレ様専用の〝セイント〟にしてやろうと言うのだーーーーッ!」
この狂暴なデジモンに理知的な会話など求めてはいけない。突如、本能のままに叫んだタスクモンが、ジェンたちに向かい突進を仕掛けてきた。
「どこが穏健派なのよ! さっきのと変わらない猪じゃない!」
レーナの思った通り、穏健派など真っ赤な嘘。味方殺しのタスクモンはやはり好き勝手に暴れ出した。
警戒を最大限まで強めていたウルヴァモンとガルゴモンが即座に迎撃へ動く。二体のデジモンは、突進を仕掛けるその直進する巨体へと、たらふくの弾を斉射した。
唸るガトリング、唸る武装アーム。たまらず足を止めたタスクモンへ怒涛の銃弾の雨が襲いかかっていく。
だが、緑のターゲットに突き刺さった攻撃は、結果的に思ったダメージを与えることは叶わなかった。
銃弾の音が森中に鳴り響いていた途中、起こったのは異変──いや変異。
タスクモンの全身の厚い皮膚がみるみるうちに赤く変色すると、腕に刻まれた妖しい光を放つ星のマークは色味を失ったように白くなった。
「えー、これ効いてないーっ!?」
「さっきのより、手応えが硬い……!」
ウルヴァモン、ガルゴモン一同が驚愕するそこに現れていたのは、聳え立つ赤いターゲット。緑から真っ赤に染まった見たことのない威容を放つタスクモンの姿だった。
「ハハハハハ、あんな不出来な二つ星のブラザーと一緒にされては困る。オレ様こそがタスクモンを超えた超新星【メガタスクモン】! ……盛大なる祝砲をご苦労ッ、ハーッハッハハ!」
その巨大デジモンを覆う硬質の皮膚は、取るに足らない成熟期のデジモンが放つチャチな銃弾なぞ一片たりとも通さない。
今、タスクモンを超えた存在──メガタスクモンと堂々と名乗り上げた赤い怪物が、ジェンとレーナたちの前に巨大な影を覆い立ちはだかった。