デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
「DIGIPROラボのナノモンさん、まだやると言うのなら」
「ぼくが相手になるっ!」
砂雪とユキダルモン。ふたりは強く真っ直ぐな目を、コンソールパネルにもたれかけ狼狽えるナノモンに向けた。
とはいえ、ユキダルモンはまだまだ鼻息荒くやる気を見せるものの、両腕を破損し痛々しい姿になったナノモンとのこれ以上の喧嘩を砂雪側からは望まない。それは事実上、降伏を促す敵対デジモンへの配慮と警告であった。
──だが、その時だった。背部の隠しアームでコンソールパネルを密かにいじったナノモンは、引きちぎられて床に落ちていた両腕を遠隔操作し、指の先端から小型のミサイル【プラグボム】をユキダルモンに向かい発射した。
「危ない、ユキダルモンっ……伏せて!」
「ぅがぁっ!?」
砂雪が途中でそのトラップに勘づくも遅かった。ナノモンのミサイルが、死角の足元から白い巨躯のユキダルモンに炸裂していく。
「無駄なデータは削除削除削除削除! 修正削除ッ!」
狼狽えていたのは演技だけだったのか。ナノモンはれっきとした完全体のデジモン、成熟期に進化したばかりのそのユキダルモンを強制的に退化させる実力行使に打って出た。
「そうだ、辛かろう苦しかろう。優れた素質を持ちながら、そのような低き軟弱な進化に甘え流れたことをコウカイしろっ! そしてその身に刻み教えつけてやろう、その苦しみから逃れる術は一つだけ。即刻忘却と退化をし、新たな正しい最強の進化の軌跡を辿るのだーーーー! ワタシのユキアグモンッ!」
操る十の指から斉射され乱れ飛んだミサイル。ナノモンの叫びの限り休みなくつづいた爆発が今ようやく明け、濁る白煙の漂う視界の中。
嗤うナノモンのアイカメラに、巨大な影が浮かび上がる。その大熊のシルエットは、まだ完全に溶けちゃいない。
やがて『カチ……カチカチ……』と、地にリズムを刻むのは、凍ったまま落ちていく小さなミサイル。途中からか、ナノモンの放った技は凍結され無力化されていた。
そして、白い霧を取り払いそこに聳え立っていたのは、片耳の欠けた大きな大きな白いデジモンの姿だった。
「間違いは──己の手で正すしかないわ、ユキダルモンっ」
「サユキぃっ! カチコチに分かったぁーー!」
堂々と今並び立つのは、一人の人間と一匹のデジモン。覚悟と熱を宿した各々の瞳の色が、ナノモンを同時に睨みつけた。
「ナナっ……なんだと!? 今ナニガ起こった……!? ありえん、ナニが分かったト、ぉおおお!?」
まるで時が止まったように動けない。そのデジモンが身に纏い放つ白いデータウェーブと、藤色髪の人間が突如にして宿し始めた凝縮されたデータ質量が、その光景を目の当たりにしたナノモンを圧倒する。
《ATTACK ORDER──【絶対零度パンチ】》
天に高々と放り投げたデジヴァイスQをもう一度握りしめて、砂雪の左の拳が美しい雪の結晶の紋様を放ち光った。
「頭をヒヤせよ! メカやろうーーーーッ!」
砂雪の動作とシンクロし挙動した左の拳が猛烈な吹雪を巻き起こす、そしてユキダルモンが渾身の力で振り抜いた必殺の技──【絶対零度パンチ】が、ナノモンのメタルボディを打ち抜いた。
万物が一瞬にして凍りつく、決着の拳。
分厚い氷塊と化したナノモンが、狂っていたその赤い眼光を静かに消灯し、今ようやく機能停止した。