デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記)   作:山下敬雄

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第14話 負けるワケにはいかない

「何がメガよ、大袈裟な口数が増えたぐらいで! あと赤と星のファッションは……被ってんのよーッ!」

 

 色褪せた腕の白い星と、逆に深々と染まった赤い体色。そんなメガタスクモンなどと自称するデジモンに、赤いライダースーツと黄星がトレードマークのレーナは怖けずに啖呵を切る。

 

「硬くってもそう単調ではね!」

 

 ウルヴァモンも勇ましいレーナの言葉を耳にし、同じように強気の表情を浮かべた。

 

「ハッハッハ、そちらの強がりコンビはご退屈か? ナラこれはどうかな? 【パンツァーナックル:マインッ】!」

 

「ふっ、どこを狙って──!」

 

 まるで遅い。やけに溜めた赤いタスクモンの遅いパンチを見切ったウルヴァモンは、飛び上がりその恐竜の顔を殴りつけた。

 

 赤いタスクモンは、左の頬を手痛く殴られながらもニヤリと牙を見せ笑い、そのまま地面に外した拳を叩きつけた。

 

 すると竜爪と拳が地にめり込んだ瞬間、とてつもない振動がこの森の広域に広がった。木々が一斉に激しく揺れ、葉が騒ぎ舞い散る。

 

「どうかな、メガタスクモンの技のお味は?」

 

「っナ!? ……これぐらいで!」

 

 ウルヴァモンが再び地に足をつけた瞬間、その地を支配する凄まじい振動に身動きができないほど全身を揺さぶられた。

 だが、歯を食いしばるウルヴァモン。この程度の間接的なダメージ、まだやられた訳じゃないと、赤いタスクモンを睨み返した。

 

「フハハハハ。さすがセイントのデジモン。だが、お前たちはそうでも、片割れの人間たちの方はどうかな!」

 

「ぅぐっ……」

 

「レーナ!? こいつっ!」

 

 依然つづく凄まじい振動に、レーナは立っていられない。地にべたりとひれ伏した彼女の姿を見て、振り返るウルヴァモンは叫んだ。

 

「ジェンーっ!」

 

(っ……タスクモン……あの腕の星の数がパワーアップのトリガーになっていたのか……だからあいつはさっき味方殺しを……ぐっ……もっと早くにこのデジモンの特性に気づけば──)

 

 武術の心得があるジェンも片膝をつきながら、喋ることもままならない。逃れることのできない竜の拳が地に振動を起こし、彼らの体を低く縛り付け、さらに延々と揺らし蝕む。

 今さらタスクモンの不可解な味方殺しと星の意味に気づいたところで、どうしようも対策はできなかった。

 それはまさに赤いタスクモンが編み出した人間殺しの技であった。デジモンへのダメージは落ちても、人間へのダメージは効果的であったのだ。

 

 ひれ伏す絶景。嗤う赤いタスクモンは悠々と揺らぐ森の地を歩き、彼らセイント、こうべを垂れる人間たちに歩み寄ろうとする。

 

「このぉ! あ──タマっ……! たぁーー!」

 

「レーナにそれ以上近寄るな! ッ──!? はぁあ!」

 

 奇しくも同時に起こった弾切れ──ガルゴモンとウルヴァモンは、パートナーを守るべく振動する地を飛び上がり肉弾戦を挑んだ。

 だが、見え透いた突撃に赤いタスクモンは、堅牢な肩の角を振り回し二体のデジモンを同時に吹き飛ばした。セイントたちの協力と冷静さを失ったウルヴァモンとガルゴモンを、まるで羽虫を払うようにあしらっていた。

 

「これはこれは……ギョウコウ! ギョウコウーッ! ……さて、ドレニシヨウカナ、ぜんぶオレ様の言うとお──ンン?」

 

 遊ぶように鋭い爪をさす。よりこのメガタスクモンに相応しいセイントはどちらか。

 よりどりみどりで嗤う赤いタスクモンが今、その鋭い爪先をふと止めたのは──。

 

「──!? ホォ……なぜオレの人間殺しの技を受けて、涼しげに歩けている? ふはは、おひとり様でピクニックか?」

 

「……」

 

 奇妙な光を放つペンダントをブレザーの胸元に宿し、涼やかに靡く藤色髪が、足を止めたタスクモンの元へとゆっくりと歩き近づいていく。

 

「ハハハ、そうかッ! オレのセイントになる気になったか、そこの大人しいラベンダー毛! いいぞ、オマエはなんだか他にはない見込みがありそうだ!」

 

「残念だけど──、私はあなたより強いデジモンを知っている」

 

 沈黙をしていたラベンダー毛──今、静かに足を止めた橘砂雪が、大きな赤いタスクモンのことを見上げながら、そう言葉を発した。

 

「ナニィ……? ぬかせッ、オマエも見ていただろう! オレこそが最強のデジモンだ! この星を見ろ! 数多のデジモンを葬ってきたオレ様、メガタスクモンこそが! 最強足り得るソンザイなのだーーっはっっは!」

 

 赤いタスクモンは左の腕に刻まれた白い五つの星を、生意気な言葉を口にしたその女に見せつける。そう、自分こそが最強のデジモンなのだと認めさせようと、声高々に叫んでいた。

 

「ならこれから私たちがあなたにあげるのは、黒星。もうあなたが増やせる星は、それだけよ」

 

「サユキは……ぼくが守る! へんなツノしたオマエなんて……! ゼンゼンこわくなーーい!」

 

 胸に不思議な光を宿したラベンダー毛の女は、いくら凄まれても表情を変えない。

 そして恐い顔を至近にまで下げ近づけたその赤いデジモンの鼻先と、砂雪の立つその間に、ユキアグモンは両腕を広げて立ちはだかった。

 

 何の自信があるというのか。勇ましく飛び出してきたちっぽけな白いデジモンと、奇妙な光を放ち続けるラベンダー毛のセイント。

 何故だか森へと吹いてきた見たことのない粉雪が、足元に舞い落ちていた木の葉を白く染め上げていく。

 奇妙な怪奇現象と、ふたりを目にした赤いタスクモンは、一瞬首を引き慄きつつも──。

 

「ぐうううう、なにがクロボシだ! それでウマイことを言ったつもりか! オマエラ……弱っちいデジモンどもを従えて、ハッタリをぬかせええええッッ!」

 

 タスクモンがそのエネルギーを蓄えた怒りに震える巨手を、砂雪とユキアグモンに向けて振り下ろした、その時──。

 

 ひび割れたデジヴァイスQを握りしめた砂雪と、彼女を信じて前に立つユキアグモンの下へと今、光の柱が天を貫くように立ち上った。

 

 

【ユキアグモン ──Evolution──> ユキダルモン】

 

 

 やがて細まる眩い光と凍える吹雪を纏い現れたのは、赤い巨竜に見劣りしない巨大な雪の戦士。

 

「最強じゃなくても、弱っちくなんかない。それを証明するためにやるべきことは一つよ──ユキダルモン、止めなさい!」

 

「あはは。カチコチに分かった、サユキぃーっ!」

 

 身に迫る赤い拳を、物怖じせずに突き出した白い雪の拳で受け止める。サユキの思いに応えたユキアグモンが、成熟期のユキダルモンへと大きく進化し現れた。

 

 

 

 

 

 雪のデータで多くを構成されているデジモン、ユキダルモンの体に、その振動攻撃の拳はあまり通じない。

 そのまま逆に、不意に進化したユキダルモンに拳を押し込まれたタスクモンは、反動を利用し一度退がる。そしてすぐさま姿勢を低くし、両肩の角をユキダルモンの白く肥えた腹へと向かい突き刺そうとした。

 

 ユキダルモンはタスクモンの放とうとした突進に対して一歩距離を詰め、猛進する両角をがっしりとその両手に受け止めた。

 

「このままカチコチに止まっちゃえー!」

 

「バカめ、オレは止まらぬううううう! だからこそタスクモンっ……メガタスクモンなのだアアアッッ!」

 

 赤いタスクモンは鋭い両角を止めても、ただでは止まらない。牙を剥き出しに怒り、首を伸ばし、ユキダルモンに勢いのまま噛みつこうとしたその時──。

 

「なんだこの表示……【inf】……? ──! もしかして残弾が回復している?」

 

 ようやくあのひどい振動が止んだ地面。ジェンが重い体を起こし、光り出したデジヴァイスQのホログラムビジョンの表示画面を見つめると、そこには三文字のデジ文字が浮かび上がっていた。

 

「え、こっちも!?」

 

 痛む頭を押さえながらも立ち上がったレーナが、土に汚れた自分の両手の平をおもむろに覗くと、ジェンと同じような光るデジ文字が浮かび上がっていた。

 

 そして、前線で今もなお奮闘する白く大きなデジモンの背と、藤色髪の女子高生の背を見ていたジェンとレーナが、お互いの目を合わせて力強く頷いた。

 

「ならっ、側面から派手に撃ち尽くせ、ガルゴモン!」

 

「なんだか知らないけどっ、いっけぇえええ! ウルヴァモン!」

 

 二人は、吹き飛ばされ木に衝突し倒れていたパートナーデジモンに、それぞれ大声で熱く呼びかけた。

 

「負けないよーー」

「フっ、負けてられないわね!」

 

 ガルゴモンとウルヴァモンは二人からの激励と不屈の心で今立ち上がり、各々の武器を構え、勢いよく左右に分かれ飛び出した。

 

 

【COOPERATIVE ORDER──TRIGGer HAPPY bst-Ⅱ】

 

 

 レーナとジェン、息を合わせてリンクした二人のセイントによる協力指示。タスクモンを左右から挟撃乱射するガルゴモンの無骨なガトリング、ウルヴァモンの赤い武装アームが盛大に火を吹く。

 

「はなせえええ! うおお!」

「タスクモン、あなたが止まらないのならっ!」

「付き合ってあげるってねー!」

 

 砂雪とユキダルモンのコンビも思考をシンプルに切り替え、突如息を吹き返したように始まったジェンたちの粋な援護射撃をアシストする。赤いタスクモンの突き出した角を決してその雪の両手に離さなかった。

 

「ええい! 小賢しいことを思いつきよって!」

 

 噛みついたつもりが、がっぷりと組みつかれた。残弾は確かにゼロだったはず、今さら銃弾の雨の中で我慢比べなど聞いていない。

 だが激しい銃撃にさらされた赤いタスクモンは、ここで思わぬ機転を見せた。なんと自らユキダルモンに掴まれていた両角を切り離し、その銃弾の雨の中を抜け出してみせたのだ。

 

 地鳴りするバックステップで後ろに退がったタスクモンは、再び急速に右肩の角を生やし、ショルダータックルの構えを見せる。

 

 そう、タスクモンは己の角を鮫の歯のように生え変えることのできる特性を持つデジモン。さらにまるで、一本の直槍のような形状に角を精錬し直し、タスクモンはユキダルモンを一撃で貫き息の根を止めようと仕掛けた。

 

 するとユキダルモンは両手に先ほど外された角を掴んだまま、突撃してきたそのタスクモンの長い角槍をなんと、バツ字に交差させた持ち角で受け止めた。

 

 勢い勝ったタスクモンの槍は、両手に握った同じ堅牢な角にいなされ、ユキダルモンの左耳を抉るように貫いた。

 

「バカめ、角なしの白いハリボテが! もらったぁああ!」

 

 角を武器に用いた成熟期同士の刹那の攻防──結果、タスクモンの突撃は、ユキダルモンに致命的なダメージを与えることはできなかった。

 だが、タスクモンはニヤリと嗤うと、左肩から生やすもう一本の角でユキダルモンの無防備なその腹を再び貫こうとした。

 

「──ナ、ナニぃい!?」

 

 右の鋭い角槍は、見せつけた囮。しかしタスクモンの生やそうとした本命の左槍は、その白い腹を貫くことも突き出すこともできなかった。

 

 観察眼の鋭いジェンはその瞬間に目撃した。今機敏に身を反転させ突き出したタスクモンの左肩だけが、堰き止められるようにカチコチに凍結していたのを。

 

「うまいっ! 時間差であえて片側だけを! 攻撃を限定して隙を誘ったのか!」

「おっしゃー! 新人っ、そのまま叩き込めぇーー!」

 

 敵自ら肩と首を差し出し転がってきた、その千載一遇の大チャンスに──思わずレーナが声量を上げ叫び、砂雪とユキダルモンのことを後押しする。

 

 

【ATTACK ORDER──絶対零度アッパー】

 

 

 砂雪の握りしめるデジヴァイスQが熱く冷たく鼓動する。今から繰り出すこの一撃は、小細工なし。レーナの叫ぶように勢いと魂のまま叩き込むだけ。

 

 欠けた角の武器を両手から投げ捨て、地から天へと左手を豪快に突き上げる。ジェンとガルゴモンのコンビに倣ったような、砂雪とユキダルモンの放つ渾身のアッパーが、赤いタスクモンの隙だらけの下顎に直撃する。

 

「ゴバァっっっ!?」

 

 とてつもない冷気とデータ質量を宿したイチゲキが、赤い巨竜の図体を高々と天へと舞い上げた。

 

「終わっちゃいない、今度こそ押し込め!」

「ダダダダダダダダ!」

 

「胸に刻んでおきなさい最強ッ、乱れ咲く敗北の星を!」

「ヒュー、氷の檻の中でね!」

 

 ジェンとレーナの発した強力な協力オーダーはまだ終わっていない。ガルゴモンとウルヴァモンは惜しみなく、全技、全武装を、上空に浮かぶ赤いターゲットへと叩き込んでいく。

 

「──おっ、オレはーーーーっ!?」

 

 凍りついたその身を、熱き無数の銃弾の星が射抜いていく。最強のデジモンと自負していた赤いタスクモンの巨体が、今ついに、粉々に砕けた。

 

 そして、曇天に浮かんだ緑のデジタマが、高々と散った氷の花火を見上げていた砂雪の元へと落ちていく。

 

「ふぅっ……逃げないのって、難しいのね」

 

 緑のデジタマをその胸と両手に受け止めて、砂雪はそう呟くと、一つ冷たい白い息を吐く。

 

 ダイヤモンドダストのように煌めくデータ片が、空から、勝ち残った人間とデジモンたちへと降り注ぐ。

 手にした確かな勝利と、言い難いバトルの高揚感。ドキドキとした鼓動がなおも、ブレザー裏の彼女の胸に、鳴り止まずにいたのだった──。







今話の一部で、柴猫侍さんの公開していたデジ文字フォントを試しに使わせてもらいました。文字は【INF】と書いています。ありがとうございます。

それと今話を含めた感想などあれば、ぜひ。今後のデジモン二次創作の執筆の際の参考にさせてもらいたいと思います。

ここまでお読みくださりありがとうございます。次回は後片付け、ジェンやレーナとの交流、ワームホールの説明やシティへの移動などの回になると思います。
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