デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記)   作:山下敬雄

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第15話 アグモンの村の真相

「疲れたろ? 預かるよ」

 

 そう言って近づいてきたジェンが優しく声をかけ、砂雪の抱えていた緑のデジタマを受け取った。

 

「モーマンタ〜〜イっ」

 

 ジェンの首元に長い耳で抱きつきながら、テリアモンがのんびりと呟く。

 

 そしてユキダルモンの進化が解け、舞い散る雪のデータと共にユキアグモンが砂雪の元へと両手を広げて落ちてきた。

 

「サユキぃ! ぼくたちまた勝ったね!」

「ええ、そうね。無事、逃げずに白星をあげられたってことかしら」

「シロボシ……? なにそれー?」

「白いユキアグモンが勝ったってことよ」

「なんだぁーそういうことかー! わーい、シロボシー!」

 

 両手にはおさまらない元気なユキアグモンを受け止めて転んだ砂雪は、雪に染まった地から身を起こしつつ、勝利の喜びを分かち合った。

 

「ジェン、テリアモンもシロボシー!」

「あぁ、はは。何はともあれ、そういうこと──でっ!?」

「わー!?」

 

 砂雪とユキアグモンのことを傍らで微笑ましく見ていたジェンとテリアモンも、伝染した勝利の喜びを分かち合おうとしたその時──。

 

「っしゃー! 白星白星ー! あんたらなかなかやるじゃない! やったじゃない! どうよどうよ最後の連携! 即興ながらいい線いってたんじゃなーい!」

 

 二人の後ろから不意に飛び込むように割り込んだのは、咲夜レーナ。共闘したジェンと砂雪の二人の肩に腕を回しながら、その有り余る元気さで二人の肩をぽんぽんと叩く。

 

「あれがきみのパートナー? ゲンキマンサイって感じー?」

「フフ、レーナはガンガンいくタイプだから、よろしく巻き込まれてやってね」

 

 レーナの後ろからのハグを避け、ウルヴァモンの頭の上に慌てて飛び移ったテリアモン。ウルヴァモンはテリアモンを頭上に乗せたまま、パートナーの彼女のはしゃぎっぷりを見て目を和ませる。

 

 タスクモンとの戦いを終えた人間とデジモンたちは、そうして笑い声を交え、しばらくお互いの勝利を讃えあうのであった。

 

 

 

▽

 

 

 

「ジツは……元は、あのタスクモンたちもオレたちと同じアグモンだったんだ」

 

 束の間、砂雪たちが勝利の余韻に浸った後、森の中に再び集まってきた黒いアグモンの一匹が、ぽつりと真実を語り始めた。

 

「同じアグモンが進化した? あのタスクモン兄弟はそうだったのか……」

 

 ジェンはそれを聞いて今までのアグモンたちの行動に合点がいったのか、険しい表情で深く頷いた。

 

「そう、元々やんちゃだったけど、進化しちゃってからのアイツらはどんどん狂暴になったんだ。それで上のエリアはアイツらタスクモン兄弟の寝床で、俺たちは追いやられたここにいるわけ」

 

「……毎日たのしいウタゲをやること。そして、ここにやってくるセイントとそのデジモンたちを森の奥のロウに捕まえること。そうしないとオレたちは、アイツらにやられちゃうんだ……。ア、でも! サユキィーたちのおかげでオレたち助かったんだ! ホントホントありがとう! ケハハハハ!」

 

 祭壇の四方に飾られていた大きな角はおそらくタスクモンたちの物。宴と捕縛──それがタスクモン兄弟に逆らえないアグモンたちに課せられた仕事だったのだろう。

 

 砂雪はやがて顎に手を当てたいつもの考える仕草を解く。感謝をし満面の笑みで小躍りするアグモンたちを見て、砂雪は釣られたようにやわらかい笑みを浮かべていた。

 

 今目の前で、心を開き語り明かすアグモンたちが嘘をついているようには見えない。今おそらくおおよその真相を知ることができた、何はともあれこれでワームホール内で起こった戦闘と事件は一件落着か。

 そう思ったジェンがふと右から左方へと目線を移すと、微笑んでみせた砂雪とちがい逆にレーナの方は顎に手を当てたまま、少し難しい表情でいるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒いアグモンたちを先に村へと帰したレーナたちは、タスクの森の中でまだ話し合っていた。

 

「さて、サユキ。質問があるならなんでも聞いて」

 

 赤いバイクに腰掛けたレーナがそう両手を広げ言うと、砂雪はさっそくその言葉に甘えて、頭に浮かんだ質問を幾つかしてみることにした。

 

「それじゃあ──ここは?」

「ん? 【ワームホール】だけど」

「ワームホール?」

「なんというかシティに属さない野良のデジモンたちが巣食う穴、多くは階層構造になっている独立したエリアのことよ。あれ、そこから知らなかった?」

 

 近場のシティで暮らすレーナにとってはワームホールの存在は常識。砂雪の初心の質問に首を傾げつつも、しっかり答えた。

 

「うん。ここは初めてだから。ワームホール……独立したエリアということは、ここは細かく言えば【アーカイブ大陸】じゃない?」

「え、初めて!? えーと……ま、まぁ大別しなけりゃそうなるわね? 今言った広い【アーカイブ大陸】にちいさく空いた特別な穴の一つに落ちた──といった感じで捉えればいいんじゃない?」

 

 淡々と「ここは初めて」だと口にした砂雪に、レーナは驚いた。その事情は後で聞くとして、驚き上がった眉を元に戻したレーナは、また砂雪の質問に例えを用いて丁寧に答えていく。

 

「特別な穴の一つ……おそらく理解できたわ、ありがとう。それで、次の質問だけど──倒したタスクモンたちの【デジタマ】はどうなるの?」

「え、えーっとね、【デジタマ】の処理や賞金についてはこの場の一言で説明は難しいかな。でもまぁ……一旦こっちに預からせてくれると私たち的には助かるって感じかな。──え、いいの? えーと、ジェンリャ?」

 

 思ったより新人のする質問のペースが速い。レーナは忙しい手振りで自分で自分を落ち着かせながら、今度は自分にとっても大事なデジタマの処理について語ろうとする。

 すると、木陰で二人の話を聞いていた男──ジェンリャが、並べていたデジタマの一つを拾い上げ、それを今近づいたレーナへと手渡した。

 

「僕たちはまだ調べたいことがあるから先に上の方を見て来るよ、これは一旦君のバイクに積んでおいてくれ。サユキさんは?」

「私もそれでいいわ。ジェンリャくん、レーナ」

「……なるほど、分かった! 安心して、報酬は後でしっかりシティに着いて支払うから!」

 

 テリアモンを背負うバッグに乗せたジェンリャが、そう二人に告げるとその場を去っていく。どうやら彼はまだ未探索の上のエリアを先に探索する気のようだ。

 

 ジェンリャと耳を振るテリアモンのことを、手を振り返し見送った砂雪はここでようやく本題の質問に切り込んだ。

 

「本題の方だけど……ここのアグモンたちの処遇は?」

「さぁ……事情が事情だしタスクモンを倒した今悪いことはもうしないだろうけど、どっちみち一度シティに戻ってお上に報告はしないとだね。それしだい?」

 

 質問をされたレーナは先ほどより険しい表情をしていた。

 実は事前にジェンリャに耳打ちでこの質問をした方がいいと、それとなく教えられていた砂雪。彼の読み通りに、今投げかけたこれは本題になりうる複雑な事情の絡む質問だったらしい。

 

「他に、あのアグモンたちを助けるには? 何かあるのかしら?」

「え? ……ここでそこを聞いてくるか。ははーん……んとね。じゃぁっ! できるだけ簡潔に言うつもりだけど、少し難しいからよく聞いてね──!」

 

 砂雪は表情を引き締めてするレーナのその言葉に、こくりと頷いた。

 

「ワームホール内の【コアボックス】を回収して、ここのアグモンたち全員のシティへの【観察デジモン申請】の承諾を得る──それこそがイタズラしたアグモンたちを助けるための最適の手段よ!」

 

「コアボックス? 観察デジモン申請? 後者の方は少し分かりそうだけど……」

 

 いきなり知らない言葉が二つ並べてレーナの口から出てきた。砂雪が顎に手を当てた素振りを見ると、レーナは両手に落ち着かせるようなジェスチャーを交えて話をつづけた。

 

「あぁーコアボックスの説明の方は追々、きっとさっきジェンリャとテリアモンが探しにいってくれたと思うから今は一旦置いといて……。【観察デジモン申請】──要するに悪いデジモンか善(い)いモンかを、設けた一定の期間ワームホール内でアグモンたちのことを観察をすることよ。具体的にはそのデジモンたちの特性に合わせた簡単なワークをさせて、シティ職員や私たちはその様子を見守るの。スコアをつけたりしてね」

 

「悪いモン……善いモン。それでシティへのデジモンたちの協調性と順応性を測る……?」

 

 レーナの説明を聞いた砂雪はまた、顎に下ろしていた手を当てる。

 独特の間を生み出す砂雪の鋭い推理ごっこにのっかり、気をよくしたレーナは左指を軽快に弾き鳴らした。

 

「ビンゴっ、そういうこと! そう認められれば、最終的にはシティへの住民登録ができるよ。保護したアグモンたちのワームホールからシティ内への出入りも自由になるってわけ。もちろん、そのままワームホール内で暮らしたっていいわ。てかその場合、観察を終えたワームホールも安全とみなされて、申請が通ればシティの一区に組み込まれることになるからね」

 

「ただ野良デジモンたちの保護と観察をするだけじゃなくて、拡張エリアもシティにとってはメリットになる?」

 

「ぬふふ、そゆことー! あとワームホール内を安定に操作し保つには、そこに棲まうデジモンたちの力が必要だからね。──なんだサユキィー、あんた賢いじゃーん!」

 

「──どうも。説明の仕方が良かったのかしら?」

 

「あははは。そゆことー!」

 

 質問者もそれに答える者も最後に笑みを浮かべた。アグモンたちの処遇と【観察デジモン申請】について、レーナの意外に熱心な説明もあり、砂雪はおおかた理解できたようだ。

 

「はぁー、これいいっっコレっ! 戦闘後のアイスティー……!」

「チョット、ぼくはれいぞうこじゃないよぉー……? サユキぃー、助けてぇー!」

 

 一方、会話を区切りよく終えたレーナと砂雪の今振り返る木陰には、憩う二匹のデジモンたちの姿。仲の良い光景かと思いきや──。

 幹にもたれ座る先輩のウルヴァモンが、指示した後輩のユキアグモンが両手で冷やしつづけるグラスをストローで吸う。そのキンキンに冷えたアイスティーの味は、疲れた身とデータに沁みる格別のようだ。

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