デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記)   作:山下敬雄

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第16話 到着! スターシティ

 質問と今後の打ち合わせを終えて、タスクの森から祭壇のあるアグモンの村に戻ってきた砂雪たち一行。

 

「あはは……まさか本当に全員ぶん、説得しちゃうなんてね……」

 

 音頭の輪に混じり無邪気に踊り続けるプリスティモン、ユキアグモン、テリアモン、村のアグモンたちを見つめながら、レーナはそうつぶやいた。

 

(なんだか不思議、このこ? こうして見ると格好は年下の女子高生なのに、淡々と落ち着いているっていうか。普通に見えるのに、あのバトルの時には肝がすわっていたりとか……)

 

 レーナは隣に立つ藤色髪の少女に、密かに視線を向ける。

 紺色のブレザーに、水色のプリーツスカート。顔立ちは白い肌で同世代よりおそらく少し大人っぽいが、格好は普通の女子高生そのもの。しかし、赤いタスクモンを相手にしたバトルの時にはまるで別人、動じない強い意志をその横顔に宿していたのをレーナは目にしている。

 

 四方に角が飾られた例の祭壇の上に集まったレーナたち。耳には、踊るアグモンたちの愉快な音頭がなおも聞こえつづけている。

 そしてその祭壇の中央に運ばれてきていたのは──。

 

「これがワームホールの【コアボックス】。ワームホールの環境、すべてを制御する核の部分だね」

 

 上階のエリアの探索を終え戻ってきたジェンリャが、斜めに静かに回転するルービックキューブのような構造体を【コアボックス】と呼び、そう改めて説明した。

 

「さぁ、ざっと調べたところ問題はないようだ。いつでも構わないよ」

 

 コアボックスに特段エラーは見当たらない。ジェンリャに促された砂雪は、事前に村のアグモンたち全員分の手形を集めたデジヴァイスQを、静かに浮かぶコアボックスに今翳した。

 

 すると接続された村のアグモンたちのデータは送信され、半透明のコアボックスが色彩豊かに光り始めた。

 

「よし、名簿登録完了! 今後は手筈通りこのコアボックスをシティに持ち帰って、然るべき場所で管理・観察することになるわね!」

 

 レーナが明るい口調で宣言すると、踊っていた周りのアグモンたちがその感覚的な変化に気づいたのか、一斉に祭壇の方を振り返り歓声を上げた。

 

 やがて、空に祝砲が打ち上がる。ベビーフレイムの火だ。祭壇の上の砂雪たちに向かい、黒いアグモンたちはみんなして元気に大きく手を振っている。

 

 するとコアボックスは輝きを増し、乱回転するスピードを上げた。

 赤い花火の打ち上がった星空と、木の葉を揺らし騒ぐ森、そして虹色の光に満ちた石の祭壇。アグモンの村を形成していたワームホールは幻影のように歪みだし──。

 

「あはははすっごい見送り、花火、絶景ぇ……! ────ってな感じ? そしてようこそ、ここがサユキィーお目当てのアーカイブ大陸よっ!」

 

「ここが、アーカイブ大陸……ワームホールの外……」

 

 深呼吸するように心地よく両手を広げていたレーナが、そのまま後ろの新人に元気よく振り返る。

 

 視界に満ちた眩い光が明けると砂雪たちは広大なる大地、夕焼けのオレンジに染まる荒野の只中に立っていた。

 

 見渡す限りに広がるのは、まるで未知のフロンティア。ローファーの裏にじゃりつく感覚、切り替わって吹き流れてきた空気が、ニオイがまた違う広々とした冒険感に満ちていた。

 そんな中、砂雪の目の前には、浮かぶ一つのコアボックスが空よりゆっくりと降りてきた。夕焼けに照り返す、綺麗な虹色の輝きを放ちながら──。

 

 

 

 

 

「よーし全員乗ったわね。あ──そうだ、ジェンリャはどうする? かるく聞いた話だと、あんたたちもここのシティを訪れるのは初めてって事でしょ?」

 

 出発の準備はあらかた整った。牽引ロープを繋ぎ終えた赤いバイクに跨ったレーナは、まだ後ろにいたジェンリャとテリアモンに声をかける。

 

「──気にせず。僕とテリアモンもここに一台ある【デジボード】で、後でシティに向かうよ。マップデータはさっきデジヴァイスに送ってもらったし、悪いけど子供たちとそこの……寝ている彼のことは頼むよ。お詫びと言ってはなんだけど、僕の分の報酬は別に急がなくていい。持ち金は幾分かあるから」

 

 【デジボード】:レーナのバイクほどの馬力はないが、キックボードのような形状で浮かんで走ることのできる小型の乗り物だ。成長期のテリアモンと成人男性一人分ぐらいは難なく乗せて走ることはできる。

 

 そしてジェンリャが今目をやったデジボードよりしっかりした中型の乗り物【デジカーゴ】の上には、眠る学ランの大男レオと、その腹の上でちいさな羽を動かしうなずくパタモンの姿。また、すっかり涙をひっこめた子供とギザモンも詰め込まれて乗っていた。

 

 ジェンリャは少し大変だとは思いつつも、彼らのことを面倒見の良いレーナに任せ、自分たちは後でシティに向かうと告げたのだった。

 

「そっか、オーケー。任せて! じゃ、いくかーー! しっかり掴まっててよサユキ! ──後ろもね!」

 

「うん。──!」

 

 バイクのサイドカーに乗ったプリスティモンとユキアグモン、後部座席でレーナの背に掴まった砂雪が、協力してくれたジェンリャとテリアモンに手を振る。

 

 始動したレーナの愛機レッドインパルスはエンジンを吹かし、荒野の砂を蹴散らしながらそのスピードを上げていく。

 

「あはははは、びゅーーん」

「ぎゃぎゃぅ!」

 

 前を爆走するレッドインパルス。その赤い車体に牽引されたデジカーゴに乗る子供とギザモンは、流れる荒野の景色に歓声をあげる。

 

「すごい馬力……!」

「けっこう高かったからね! これぐらいの荷物と土産、どうってことないってぇ!」

 

 頼もしく笑うレーナ。荒野を走るレッドインパルスの見せる想像以上のパワーとスピードに、赤いヘルメットをかぶった砂雪は、思わず飛ばされないようにレーナのお腹の辺りを抱きしめてしまった。その瞬間──。

 

「うっ……!?」

「あ、ごめんなさいっ、大丈夫? レーナ?」

「へっ、平気平気! よーし、シティまでトばすよーッ!」

 

 風を切り靡く赤いポニーテール。うなじにじわりと冷や汗を流すレーナに対して、サイドカーのプリスティモンがクスクスとおかしく笑う。

 

「ふふふ、さっき裏でハいてたのにカッコつけちゃって? 多少大人になってもそういう強がり、変わってないわ」

 

「……ハいてたぁー? わーー、はやーーいッ!」

 

 赤いバイクはみんなを引き連れて、広大な荒野を突っ切る。

 ここはDワールド、アーカイブ大陸の中央部。シティを目指す彼女らを照らすオレンジの夕日は、まだまだ沈まない。

 

 

 

 

 

 

 風を切り広大なアーカイブ大陸を走る赤いバイク、舞い上がる荒野の砂。地中に埋もれた電光表示の案内モニターには、大きく【STAR CITY】の文字が映し出されていた。

 

 そしてバイクの後部座席に座る砂雪が顔を上げ、見えてきたのは──。

 

「あれがスターシティ。思ったより……大きい」

 

「そうでしょ! なに、緊張してる? 大丈夫このスターシティはきっとサユキのことを歓迎してくれるよ。腕は立つし、私が保証する!」

 

 振り返るレーナは、ポニーテールを爽やかな風に流しながら歯を見せ笑った。

 

 前方に広がるのは夕焼けのオレンジに染まる、煌びやかな巨大シティの明かり。

 中央から天に突き抜ける白い塔、聳え立つ星型の要塞、そしてその足元に広がる賑やかな街の明かりを目指して、砂雪たちを乗せた赤いバイクは突き進んでいく。

 

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

 

 《スターシティ、南コモンエリア:噴水広場》

 

 道ゆくあちこちで行き交う無数のデジモン。砂雪とユキアグモンが訪れたここは本当に、異世界の文明が息づく大都市だった。

 

「サユキぃ……見てみて、すごいすごい! デジモンがいっぱいいるーー! ユキミボタモンの村よりも、ずっとずっとおお!」

「そうね……ユキアグモン。それに、人間もちらほら」

 

 街に住む数多のデジモンたちを見て興奮気味にはしゃぐユキアグモン。よく見るとデジモンたちの中には、人間とふれあう者たちもいた。

 

「ほんとだぁー、サユキの仲間もいっぱいだね?」

「私の仲間だと……うれしいわね? ふふ」

「うんうん! きっとそうだよ!」

 

 同じような境遇の者たちも人間たちの中にはいるのかもしれない。ユキアグモンの前向きな言葉を耳にした砂雪は、そう思った。 

 

「あ、そうだ」

 

 そんな広場の賑わいに思わず立ち止まっていた砂雪へ、歩み寄ったレーナが自身のデジヴァイスQを近づけた。

 『ビコーン……!」と謎の電子音が鳴り響くと、砂雪は手にした自分のデジヴァイスQを確認した。【20,000bit】と書かれた文字が、半透明のホログラムビジョンに通知され映っていた。

 

「少ないけど今はとりあえずそれで! 後で報酬は全額キッカリ払うから、先にぶらりと街の中でも見て休んできたらどう? ちょうどあそこに良さげな商店街もあるし? ──てことで、じゃね、私は雑多な報告やらコアボックスの手続きやらを済ませてくる! 細い話はまたあとで!」

 

 なんとレーナはお小遣いにこの世界の通貨を、砂雪のデジヴァイスへといくらかチャージしてくれたようだ。

 そしてレーナが指をさす真右の方向には、【デジフリー商店街】とアーチ状の看板が飾られた、そんな楽しげな通りがつづいていた。

 

「ありがとうレーナ。分かった、そうさせてもらうわ。あ、でも──」

 

 タスクの森で自分を庇ったあの学ランの大男、レオのことが気になり、砂雪が言いかけたその瞬間──。

 

「れっ、レオのことなら気にしなくていいよ! てか気にしないで逃げ……! じゃなくて!? とにかくとにかくダイジョウブだから! 絶対、ミマイなんてしにこないでーーっ!」

 

 白衣を身に纏った救護班のパルモンたちが現場に到着した。パルモンたちが担架と蔓でレオの巨躯を運んでいく横で、相棒のパタモンが何故か必死にそう砂雪に向かい叫んでいた。

 

 羽をばたつかせてするパタモンの必死な拒絶と、釈然としない慌てっぷりに、砂雪はレーナと目を合わせ首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

▽

 

 

 

 

「わーいわーい! 絶対ティラノモンになるんだよ、ギザモン! ぼくたちも今日のお姉ちゃんたちみたいに、強くかっこよく進化するんだからッ! びゅーん、ギャギャーーン!」

「ぎゃぎゃうッ!」

 

 一人のちいさな少年がティラノモンの大きなぬいぐるみをぎゅっと抱え、嬉しそうに店先から飛び出してきた。相棒のギザモンも元気な鳴き声で、走る少年の後を追っていく。

 

「あれは……さっきの子供とあの子のデジモン?」

 

 例の商店街をユキアグモンとコロッケを食べながら歩いていた砂雪。彼女は今、横の狭い路地を走り抜けていく見覚えのある子供と、一匹のデジモンの走る後ろ姿を目で追った。

 

「ハフハフ……んーっ! サユキぃ、ぼくこのココッケ好きか……もっ? あ、サユキぃーどこ行くのー!」

 

 焼きたてのコロッケの残りを口に詰め込んだユキアグモンは、首をぶんぶんと振り今見つけた砂雪の背を慌てて追いかけていく。

 

 暗い無機質なその細い路地をふたりが行くと、赤、黄、緑、青の楽しげなカラーリングの屋根があった。さっき少年とギザモンが出ていったあの店に、ふらりと砂雪とついてきたユキアグモンは立ち寄っていた。

 

 薄暗く落ち着いた店内は、まるで迷路のようだった。

 

「ねぇねぇサユキぃ、これ何かなぁ? なんかぁ……ちっこいぼくが映っているんだ?」

 

「デジヴァイス……ではなさそうね? あっ、うんちした──」

 

 ユキアグモンが手に取って、砂雪に見せたのは小さな四角い形の機器。レトロさを感じるとても小さな液晶画面には、アグモンに似た姿のデジモンがドット絵で表示され映っていた。

 「まさにデジタルのモンスターといった感じだ」と心に思いつつ、砂雪はなんとかボタンを操作し、糞のあった画面をすっきりとさせた。心なしか画面に映るアグモンが喜んでいるように見えた。

 

 少し気になったものの手に取っていた商品を元に戻し、所狭しとファンシーな商品が並べられている棚と棚を間を、ふたりは抜けていく。

 

 そしてようやく、ここの主らしきデジモンの待つカウンターへと砂雪たちはたどり着いた。

 

『ようこそ迷いし子供達、さて──今日はどんなデジモンをお探しかな?』

 

 男のような怪しい声が、ブロックの口元から静まる店内へと響き渡る。

 商品棚の迷路を抜け出した砂雪とユキアグモン。今、彼女らの目の前に現れ店番をしていたのは、窓から射すオレンジの夕陽が透ける一体のトイアグモンだった。

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