デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
「では改めてご紹介を! 俺は青龍学園二年、高山嶺黄。そしてこいつは相棒のパタ坊だ」
遅れて駆けつけてきた相棒のパタモンと合流すると、砂雪を前にどこか浮ついていたレオもそれでようやく心の落ち着きを取り戻したのか、ビシッと自己紹介を始めた。
「高山くんに、パタモンじゃなくてパタ坊?」
「オレはどっちでもいいよー」
「そう。私は橘砂雪、さっき呼んでいたけどこの子はユキアグモン」
噴水広場の前でおもちゃの剣を振り回し遊んでいたユキアグモンが、砂雪の呼びかけに振り向く。
「よろしくねタカヤマぁー! さっき、ニクのお花のおやつありがとー!」
「お、おぅっ、どうってことねぇ! ユキ坊と……さっ、サユキさん!」
「ユキボー? ぼくはユキアグモンだよ?」
「もしかして高山くんはデジモンにニックネームを?」
ユキアグモンがレオの言う不思議な呼び方に首を傾げると、砂雪はそれがパタモンに付けられたニックネームの一種であると気づいた。
「ま、みたいなもんです! すみません、つい癖で! 勝手に……」
レオは灰色の髪をかきながら、軽はずみに独自のニックネームをつけて呼んでしまったことを砂雪たちに謝った。
「モンの代わりに坊? いえ、なんだかおもしろいと思ったの。そう言えばそういうの考えてなかったわ……。ユキアグモンはどうする? ユキ坊とか、ユッキーとか呼んでほしい?」
「う〜ん……ぼくはこのままでいいよサユキぃ。だって、このさきもいっぱい進化するからね! そしたらサユキに強くなったぼくの名前、いっぱい呼んでもらうんだー!」
「ふふ、なるほど。分かったわユキアグモン」
少し悩んだ素振りを見せたものの、今ユキアグモンの口から無邪気に放たれたその言葉は、耳にした砂雪にとってもなかなか納得できるロジックを有していた。
(そ、そうきたか……! さすがサユキさんの相棒っ、見上げたもんだぜ! なるほどな──さっきフルネームを名乗ったのは正直大ヘマこいたと思っちまったが……俺もいずれは、かっこいい姿をサユキさんに見せて『レオくん』って……悪くねぇ筋書きだぜ? ははは)
何故かレオの心にもユキアグモンの言葉は響いたようだ。心の中で何かを唱えながら怪しい笑みを浮かべた。
「わーそれいいなー……進化したらオレもパタ坊じゃなくなるのかなぁ?」
デジモンのことはデジモン自身が一番良く共感できたのか、パタ坊が思わずぼそりと、そうつぶやいた。
だが、そんな吐露したパタ坊の言葉に、おもちゃの剣で遊ぶのをやめたユキアグモンが反応する。
「え? きみぃ、もしかしてマダ進化できないの?」
「──!? も、もちろんできるやい! なっ、なぁレオ!」
無邪気に放たれたユキアグモンの一言を受けて、慌てた様子を見せたパタ坊。レオの頭の上にぱたぱたと小さい羽を動かし飛び移り、パタ坊は自分の相棒に必死に問いかける。
「も、もちろんだ! あの時はみっともなく倒れちまったが、ばっ万全のパタ坊と俺なら進化ぐらい余裕……だ!」
するとレオもパタ坊の見せた強がりに乗っかり、勇ましい言葉で言い切った。
「わーホントっ! きみぃ、どんなデジモンに進化するの? 見せてみせてーたのしみー!」
「ユキアグモン、高山くんもパタモンも今日は頑張って疲れているから無茶なことよ」
「うー、ごめんサユキぃ……でもぼく見たかったなー」
「私も少し気になるけど? 無茶じゃないかしら?」
急に進化を見せてと言われても、きっとそれは困ること。そう思った砂雪は、せがむユキアグモンのことを静かにたしなめる。しかし、しょんぼりと謝るユキアグモンの言う通り、パタモンの進化が気にならないと言えば嘘になる。今後、ユキアグモンが進化する時にも何かの参考や手本になるかもしれない──。
見つめる砂雪とユキアグモンの視線が静かに深く、レオとパタ坊に突き刺さる。
(れ、レオ……!)
(きっ、気合い入れろパタ坊……サユキさんの前でこれ以上の恥は見せられねぇ!)
(えぇえ、またかっこつけでそんなこと……)
(お前もだろうが! とにかくやるぞ! 気張れば進化ぐらい……!)
(うぅ……分かった!)
身から出た錆とはいえ、追い詰められた頭上のパタ坊は相棒のレオにこそこそと意思疎通し相談する。
やがて覚悟を決めた二人は、一心同体となりその身を気合いを入れ始めた。
「おっ待たせーユキアグモン、サユキー! ……って、あんたたちそこで何やってんの……?」
高く吹き上がる噴水の前で大地を踏み締めて立つ大男と、彼の頭上で小さな羽を目一杯広げるパタモンの姿。それを真正面から真剣な眼差しで見つめる藤色髪の女子高生と、構えるユキアグモン。
砂雪たちとの待ち合わせの広場で奇妙なシーンに出会してしまった咲夜レーナは、両腕を広げて呆れたように首を傾げてみせた。