デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
数多のデジモンたち、人間たちを乗せ動き出した巨大な箱のような移動要塞は、太陽のギラつく荒野の中を走り続けている。
移動都市【キャッスルビートル】屋上、ニク畑にて──。
「こらっ、畑のニクは1日3つまでだ!」
「3つまで! これ以上近寄るとしばくベー!」
ニット帽の男──アグ郎は、無断で大事なニク畑に忍び込んだデジモンたちをきつく一喝した。相棒のベタモンもアグ郎につづき、威嚇の電撃を体からバチバチと発した。
「ってもうしばかれてる〜〜っ!? うびびびびび!?」
「そんなんじゃオレたちガシしちゃうよ! うびびび!?」
「そうだそうだ! しびびび!?」
「ニクを独り占めすんなー! 鬼ーー! うびびびしびびびびび!?」
「ニク3つの掟」を破った四体の成長期。クネモン、ガブモン、パタモン、ピヨモンは口答えするも、それぞれお仕置きの電撃をきっちりと浴びてしまう。
「そう言うと思って──はいっ、ベタモンと採ってきた【焼きデジタケ】だ。さぁお前ら、たくさん食ってじゃんじゃん進化しろよ! その際は、できればヌメモン以外で頼むぞ」
ニクの代わりに用意されたのは、担いでいた籠に入った大量のデジタケ。七輪で焼いた香ばしい香りが、アグ郎に団扇であおがれ辺りに漂い出した。
「ヌメモンになりたくなければ、アグ郎の言うことを聞いて食えべーー! ベタモンもこれで進化できるまで育ったべー!」
「そうっ、食事にトイレにトレーニングを欠かさずっ! ちゃんといい子にしてないとヌメモンやスカモンになっちゃうぜ?」
アグ郎とベタモンの口にしたその言葉は、成長期のデジモンたちにとってこれ以上ない忠告だったのかもしれない。
「うぅ……おいらヌメモンスカモンいや」
「オレも……かっこいいティラノモンになりた〜い」
「おれはデビモーーン!」
「ニク食いたいぃ……ニクぅ……」
晴天の下のニク畑で、盗みを咎められた食べ盛りのデジモンたちは、それぞれの思い描く進化をするために焼きたてのデジタケを頬張っていく。
ニク3つの掟は絶対──移動都市キャッスルビートルの食糧事情は、どうやら少し厳しいようだ。
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敵対デジモンたちの襲撃が収まり、静まり返った夜の9時──キャッスルビートル、13Fメイン制御室内。
「チョコやったのは内緒だからな。ちゃんと分け合って食べるんだぞー!」
幼年期のデジモンたちが板状のチョコを受け取り、操舵手を務める大男、ジュンペイの元から嬉しそうに飛び跳ねながら去っていく。
「はぁ、俺がブリッツモンに進化できるようになったら、襲ってくる奴らともちょちょいと戦えるのになぁ。なんなんだよこの変なデジヴァイス、俺だけいまだに全然使えやしねぇ? あー、もどかしいって、まさにこのことだよなー」
操舵輪から手を離し、オート操作に進路を委ねる。後ろの椅子にどっしりともたれかけたジュンペイは天を見上げながら、長ったらしい愚痴をこぼした。
「フッ……冗談? あなた、人間がデジモンに進化するなんて本当に思ってるわけ? ン──チョコちょうだい」
静かに制御室のドアを開けて現れたのは、移動都市の治安を守るキャッスルガードの一員を務めるルキ。さっきすれ違った幼年期のデジモンたちに与えていた秘蔵のチョコを、近寄ったジュンペイに手振りで要求した。
「はいはいチョコですね、ただいま。っていやいや、ルキさん本当なんだって! 伝説の十闘士ブリッツモンとボルグモンが昔俺と一緒に戦ってくれてだなぁ。って一緒というよりなんつぅんだろう! 一身……こう一言では説明できない感じというか……」
「だって。その伝説のジュットーシ、レナモンなにか知ってる?」
ルキは壁際に静かに立っていたパートナーデジモンのレナモンに、今ジュンペイから回収した一欠片のチョコを軽く投げ渡した。
「ワタシは聞いたことのないデジモンの名だが……デジタルワールドに轟くような伝説なら知らぬはずはない……と思う」
「うぅー……レナモンさんまでっ……!」
デジモンであるレナモンも伝説の十闘士のことは何も聞き覚えがなかったようだ。手にした甘いチョコを齧りながら冷静な口調でそう言った。
「また始まったのかい、ジュンペイくんの興味深い妄想劇場は。そうそう──アグ郎先生からもらったデジタケで、香ばしいデジタケ茶を淹れてきたよ。ぜひ、これを飲みながらつづきを聞かせてくれたまえ、ふふっ」
キャッスルビートルの定時メンテナンスのために制御室に現れたノナカ博士は、お疲れの皆に熱いデジタケ茶の湯呑みを配った。
「つづき」と言われても、面白半分で問われては今日はこれ以上話す気力は湧かなかった。だがジュンペイはデジタケ茶を飲み溜息を吐くと、最後にこれだけはと、口を開き語り出した。
「今日は喋るエネルギーを使い切ったんで、そのおもしろ話の方はまた今度で……。はぁ……とにかく俺だってやる時はやって切り抜けてきたんだぜ? それはもう、デジタルワールドが崩れるようなとんでもなくやべぇピンチの連続を! たとえ博士やルキさんたちに笑われても、そこは揺るがねぇよっ! 揺るがねぇ……よな?」
ブリッツモンとボルグモンの力を借りて幾度もピンチを切り抜けてきた、そんな記憶はある。確かにある。だが、記憶の肝心な部分にノイズのような砂嵐がかかり、はっきり思い出せないでいるようにもジュンペイは思えた。
「ふーん」
「フンっ……」
「ほぅ……それは……」
握った己の拳を見つめるジュンペイの最後の演説を聞いたルキ、レナモン、ノナカ博士はなんとも言えない三者三様の反応を見せる。
「私はジュンペイのこと、信じるのです。あなたの目は、ぜんっぜん、うそなどをついていないのですからっ!」
こっそりお邪魔した制御室内を駆け寄ってきたのは、キアラ姫様。年は10歳ほどと幼いが、この元のシティから独立し放浪する巨大なキャッスルビートルを治める唯一の姫君である。
「姫様ぁー! うぅ、この柴山純平を信じてくれるのはあなた様だけだーー!」
「私だけじゃないですよ? ねっ?」
意気消沈から突如やる気を見せたジュンペイに、高い高いをされたキアラ姫は、その身を抱えられながら正面に映るルキたちの表情を見る。
姫様には、周りの彼らの目はジュンペイのことを疑ってばかりではないようにも思えたのだ。
「プロットモンも!」
つづいてキアラ姫のパートナーデジモン、白い子犬の姿のプロットモンが後ろから嬉しそうにジュンペイに飛びかかる。
「あぁ、プロットモンもか……がっ……ちょっ、首わっ、首がっーー!?」
プロットモンの首に飾られていた一際大きなホーリーリングが、そのままジュンペイの首元にスポっと引っかかった。
夜の荒野を多脚を走らせ彷徨いゆく巨大な移動都市は、今日もあてもない逃れの旅をつづけていくのだった────。
あと1話で砂雪たちのお話に移る予定です。これからもデジモンDワールドRepairをよろしくお願いします。