デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
《アーカイブ大陸??部:レイヤー2、オソレヒエィ山》──中腹。
聳え立つ雄大なるその山は恐ろしいデジモンたちの巣食う場所。勝ちを重ね牙を研ぎつづけたものだけが、その頂へと登り詰めることができると言う。
今、不気味な羽音を立て、自慢の強靭な鋏の顎を大きく開き、滑空し襲いくるのは赤いクワガタのデジモン。
木の切り倒された開けた野に突っ立つ一人の男は、静かにそこで目を閉じたまま佇んでいる。集中を高める彼の耳には近づく虫の羽音さえ聞こえなくなっていた。
「【シザーアームズ】!」
「──はぁっ!」
地のすれすれを高速で飛ぶ赤い大きなクワガタが、まさに今衝突しようとしたその時──男は突如、開眼した。
そして、前に挑むように飛びかかってきた道着姿のその男に、一瞬で左の拳を合わされたクワガーモン。激突するその人間の拳は砕けない、逆にクワガーモンの誇る硬い右の鋏に深い亀裂が走った。
拳一つで自慢の鋏を折られ、必殺技を砕かれたクワガーモンが飛行していたバランスを崩し地に落ちた。
地に激しく叩き落とされながらもその身に受けたダメージと怒りで振り返ったクワガーモン。その成熟期の虫型デジモンの複眼に映ったのは、燃え上がるようなデータ片を左の拳から放つ、異様な男の佇まいだった。
未知の存在、未知の恐怖に、今もなお顎に痺れるように走る未知のダメージ。やがてクワガーモンは、じっと睨むその男のいるナワバリから逃げるように飛び去っていった。
喧嘩に負けて逃げていくデジモンを殴る趣味はない。
男は今、腰の帯からおもむろに手に取った朱色の筆で、墨で描かれたクワガタの絵の半紙に大きな丸印を描き加える。そしてそれを、開けた野に建っていた道場らしき建物の外壁に貼り付けた。 道場の外壁には既に同じように赤い丸印がつけられた幾多の半紙が、所狭しと飾られていた。それらはすべて、この男がこれまでに拳一つで語らい叩きのめしてきた、喧嘩相手の証である。
「ン──この気……なんだ……?」
不意に男は手を止め、軒下を移動し野の真ん中から天を見上げた。
遥か上空、空を突き抜けた先に何かが落ちてきた。そんな今までにこの世界で感じたことのない奇妙な鳴動が、男の心には響いていた。
「へっ……おもしれぇ。お前がもし本物だと言いてぇのなら、俺が拳を掲げたここまで自力で来てみやがれ! ……はぁっ!」
伸びっぱなしの髭をさすった男はニヤリと口端を釣り上げると、天に向かって疼くその拳を今高々と突き上げた。
結んでいた帯が波打ち解け、野の草が横薙ぎにひれ伏していく。とてつもなく激しく熱い赤き