デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
《WH78──ツノの祭壇》にて。
激しい光が弾けた直後──砂雪とユキアグモンのふたりは、硬い地の上に落っこちていた。砂雪の腕に巻きつけていた小型のオートパイロットの機器は、デジ文字の彫られた石の床の上に転がり、大きな負荷による熱と煙を放っていた。
辺りに雪は降っていない。肌身に感じる気温もそんなに寒くはない。
どうやら古いそのオートパイロットは作動し、コチコウチの地下ラボから別の場所にふたりのデータを転移させることに成功したようだ。
四方を黒と赤の大きな角で囲まれた、石の祭壇の中央。そんな今降り立った不思議な舞台の上から彼女が眺める空は、なんだか閉塞感があり、いびつに歪んでいるようにも見えた。
しばらくそうして、石床から起き上がったふたりが不思議そうに辺りを観察して見ていると──。
不意に、祭壇の階段を慌ただしく駆け上る足音が近づいてくる。そして気づけば砂雪とユキアグモンの周りには、黒い体色をした未知のデジモンたちが続々とその姿を現していた。
「みてみてサユキぃ、ぼくがいっぱい出てきたよ! あははは」
「黒い……ユキアグモン……歓迎してくれているのかしら?」
そこに取り囲んでいたのは黒いユキアグモン、いや黒いアグモンの群れだった。
やがて、ざわざわと騒ぎ出した祭壇の上。突如落っこちてきた一人の人間と一匹のデジモン。未知の旅人と白いアグモンのことを、幾多の黒いアグモンたちの眼が不思議そうに見つめていた。
並び立つアグモンたちは空に向けその黒い顎を開き、ベビーフレイムが一斉に放たれた。そして冷たい石造りの祭壇に盛大に火は灯され、歓迎の宴は始まった。
「「「ここはようきなアグモンの村。あぐっ、あぐっ、あっぐあっぐあぐっ!」」」
陽気な歌声とともに、祭壇の上下あちこちで輪になってリズム良く踊る黒いアグモンたちがいる。
飲めや食えや歌えや騒げのなんでもあり、燭台に赤い火の灯された大きな祭壇を贅沢にもステージにし、とにかく彼らは騒ぎつづける。
「アッグアッグ! あははははあれ……なになに、ぼく? え、あっちにおいしい食べ物があるの? う〜ん、──いいよ。なら、サユキにもとってこようっと」
いつまでも終わらない賑やかな宴の途中、音頭に釣られて踊っていたユキアグモンの肩が、不意にちょいちょいと叩かれた。
まだ小腹がすいていたユキアグモンは今呼び止め、森の方に指を差したその黒いアグモン集団の誘いに、一旦ここの喧騒を抜け出してついていくことにした。
▽
《WH78──タスクの森》にて。
アグモンの村の隣に構えていた薄暗い森の中を列をなし歩きつづけて、約十分。
黒いアグモンたちが背後からしつこく呼ぶ余所者の声に振り返ると、途端に彼らは悪顔を浮かべ、ついてきていた白いアグモンのことを突き飛ばした。
「いたたたっ……! な、なにするのッ」
激しく後ろに突き飛ばされたユキアグモンは起き上がると、いきなり殴りかかってきた五匹の黒いアグモンたちを、むすっとした顔で睨んだ。
「うるさい、白いやつ! おまえみたいなノンキなやつの顔、見てるだけでムカつく!」
「もうっ……ぼくはノンキなんかじゃないよ? つかれてるサユキのために、おいしいものを取ってくるシゴトがあるんだから。ついでにぼくのぶんもネー」
宴の最中、どことなく疲れた様子であったサユキのことを遠目に見たユキアグモンは、パートナーの彼女のためにおいしい食べ物を運んでくる仕事があると言い、胸を張る。
「けへへバーカ! ほしけりゃそこらの土でも勝手にほっとけ」
五匹のうちの一匹のアグモンが、ユキアグモンに口汚くそう言い返すと、踏ん張りながら突然その辺に野糞をした。
そんな悪口を超えた振る舞いに、アグモンたちはけらけらと内輪で笑い始めた。
「え、どこにあるの? ここ、ココっ! そろそろ教えてよ」
「けっ、やっぱりノンキなやつだな」
「気にイラねぇ」
「ここがダレのナワバリかも知らずに」
話が通じず土を掘り返そうとするユキアグモンの有様を見て、黒いアグモンたちはそれぞれムカついた表情で言葉を吐き捨てた。
「もうっぼくがノンキなら、キミたちもさっきおどっていたじゃん? ほらっ、あぐ、あっぐあっぐ! どう、うまい? あははは」
「うるさいっ!」
「わぱっ!?」
音頭を取り踊り出したユキアグモンのことを、アグモンはまた怒声を上げ、殴りかかり突き飛ばした。
「おいしい食べ物」など始めからここにはない。
宴で見せていた陽気さが嘘のように、目つきを鋭く豹変させた黒いデジモンたちは、その白い珍妙な余所者を寄ってたかって襲いつづけた。