デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
《スカイハイエリア──ヘブンズキッチン》にて。
ここは天高きにある秘密の場所。街を足元に見据える空に浮かぶ特別会議室。
巨大都市スターシティを守護する四つのガードリーダーたちの集う、通称──四星会議は今そこで行われようとしていた。
「今月、発生したワームホールを閉じた総数は11。持ち帰られたコアボックスの数が……2つ。穢れたものの入ることの許されない星街の中心ヘブンズゲート、そしてそこに聳えるスターバベルの頂に住まう【マザー・ウー】様に報告するには、これは少なすぎる数だ。我々シティガードの使命がシティ外の綻びであるワームホールを除去、そしてコアボックスを制御することにもあるのを忘れないでもらいたい」
今長々と皆に演説をしたその男のことを一言で表すのならば、金髪碧眼の堅物男。
北エリアを守護する【
「開幕早々まぁそんな肩肘張らずに、茶菓子でも食べ? マザーやら使命やら、いっぺんに言われてもかなわんわぁー」
ミケモン──外見は三毛猫のようだが、とても頭の良い小柄の獣型デジモン。西エリアを豊かにする商杯のキャットガードのリーダー、そして同時に巨大商会、猫又商会のトップでもある。
ミケモンが煎餅をかじり、湯呑みのお茶をすする。北のリーダーの男の堅苦しい演説を後に、そう言い呑気に一服してみせた。
「星街の民を見守るマザー・ウーの望みとあらば♪ ──本当にそうであればね?」
吟遊詩人風の格好をした男と、彼の周囲を舞う小さな妖精型デジモン──ナナシィ&ティンカーモン。南エリアを彩る蝶律のテンポガードのリーダーが、円卓から離れた場所に椅子を引っ張り、腰掛けた姿勢で静かにギターをかきならす。
アトム・ジャッジの冷徹な碧眼と、羽帽子の影から睨むナナシィの視線が一瞬絡まり合ったその時──。
『そんな雑魚狩りに興味はない』
突然おどろおどろしい声を響かせ、天を食い破るように会議室内に舞い降り現れたのは、赤い翼を広げる白面の竜。
闘相のドラモンガードのリーダー、エアドラモン。その竜の青い背から今降りた白面を被った怪しい女は、とことこと用意されていた席に向かい無言で歩いていく。
「チョット、遅れて出てきて早々、アトムのいうことが聞けないって!」
ピヨモンが嘴を大きく開け、遅刻したエアドラモンに向かい激しく囀る。
「エアドラモン、東を守護するガードリーダーの一人として勝手な発言と行動は慎んでもらいたい」
大翼に扇がれて風に乱れた金髪を整え、アトムも今派手に現れたエアドラモンに忠告をする。
「なら、俺の戦いたくなるような相手を用意しろ」
「敵は用意するものではない! 恒久的に外敵に備え、シティに起こりうる災害を未然に排除するという話をしているんだ。静観していらっしゃる我々のマザー・ウー様も、きっとそれをお望みだ」
忠告にエアドラモンが不敵に嗤うと、アトムは再度重ねて忠告をする。
「だいたいなんで進化したまま入ってくるのよ! ここに!」
大きな翼竜エアドラモンが会議室内に現れてからというもの、警戒するピヨモンはピンクの毛を逆立てっぱなしであった。
「鍛え方がちがうのさ、お前らとはな。弱い奴らの言葉は何度囀ろうが俺には響かない」
しかしエアドラモンは一切忠告や雑言を聞き入れた様子はない。他のリーダーたちを目の前に、また挑発の言葉を安易と吐いた。
「……馬鹿にっ、するな!」
ついに我慢のラインを追い越した。その場で高く飛び上がったピヨモンが、怒りの心に火をつけた。
【ピヨモン ──Evolution──> バードラモン】
全身を真っ赤な炎に染め上げた成熟期デジモン、バードラモンがピヨモンから進化しその猛々しい姿を現した。
「なんだ、土下座してドラモンガードに入りたくなったか?」
「こいつ……!」
それでもエアドラモンは動じない。それどころか皮肉の言葉を吐き、バードラモンのことを焚き付けるように挑発した。
挑発行為に怒りを滲ませるも、炎翼を大きく広げてバードラモンはなおも威嚇の姿勢を崩さない。
「あーあー、あつぅてかなわんわ」
バードラモンの生み出す熱気が会議室を包み込む。湯呑みを啜っていたミケモンは、大袈裟に猫舌を垂らして見せた。
「それになんであなたが主導でしゃべっているの! そこにいるあなたのセイントにしゃべらせなさい!」
「俺はお前らとは違う。唯一の存在。そのように群れずとも強いということだ」
「じゃあ何故、お前はムニくんを引き連れている!」
「ここの連中は、そういうお遊戯が好きそうだからな。合わせてやったのさ、ククク」
「っ! なんて悪意のあるデジモンだ」
「口だけは達者な人間もいるようだな」
宙で翼を広げて睨み合うエアドラモンとバードラモン、そしてデジヴァイスQをその手に握りしめるアトム・ジャッジ。
そんな益々加熱するセイントとデジモンの口論を見かねてか、ミケモンは円卓に湯呑みを置き、肉球を合わせて手を叩いた。
「はいはい、ここにはもっと口が達者なデジモンもおるよ。言っとくけどウチのお友達は、猫又商会の商品買ってくれるお客さんだけや。セイントとあんましつるんでないのは、そこのエアドラはんなんかとは、まったく違うで?」
この会議室に人間、セイントと呼ばれる存在と組んでいないデジモンが一匹存在する。ミケモンは自虐しながらも、自分はムニという人間の女を従えるエアドラモンの立場とはまた違うことをアピールする。
「フンッ。腑抜けた雑魚と一緒にするな」
エアドラモンは、つまらぬ口を割り込んできたミケモンのことを一蹴する。
「手厳しいな〜。怖いこと言わんと、茶菓子でもいかがや」
ムニが、とことこと近寄るミケモンの持ってきたおぼんの上の煎餅の一つに手を伸ばそうとしたが──。
「行くぞっ。お遊びは終わりだ」
「……うん。…………おせんべい」
怪しい猫が友好の態度で近づいて来た途端──エアドラモンは白面の女ムニをその背に乗せて、会議室に激しい風音だけを残し去っていった。
「あらまー。急ぎなはって」
天に昇る色彩鮮やかな竜の姿を見上げたまま、ミケモンは粉々にされた煎餅をおもむろに頬張る。
「激しい、ゆえに混沌。美しくない調べだね。いこう、チャム。──いい喫茶店を見つけたんだ」
「あっつー……あ、待ってナナシィ〜〜!」
ギターをケースに収めたナナシィと、後を追うティンカーモンのチャムも会議室内を後にしていく。
街を一望できる空に浮かぶ会議室、ヘブンズキッチンに残されたのは二人のガードリーダーと怒りと警戒の炎をようやく鎮めたピヨモンのみ。
途切れたギターの音色、生暖かい風が吹き抜ける。不定期で行われた混沌の四星会議は、激しいその終わりを迎えた。