デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
「はぁ!? 俺たちがシティガード!? そんな勝手なことなんでできるってんだよ! どこの噂だ? 誰に吹き込まれた? 冗談だろ、レーナの姐御?」
「待ってよ、オレもレオに喧嘩売ってきたシティガードのお仲間になるなんて納得できないやい!」
皆の驚きを代弁するように真っ先に声を荒げたのは、レオとパタ坊だった。
「まぁまぁいっぺんに問い詰めるよりも、一つずつ状況を整理していこう」
「ジェンの言う通りぃー、レーナにもじじょーがあるよー」
レオの言動に一定の理解を示しつつも、ジェンリャは混沌となっていた場を一旦落ち着けようとする。テリアモンもジェンの発言に乗っかり、レオとパタ坊たちのことを共に
「そ、そうだな。わりぃ……。じゃあ、この事はいつごろ知ったんだ? まさか……サユキさんをこの店で歓迎していた昨日の時点ってことはねぇよな?」
「つい30分ほど前のことよ。もちろん! 昨日の時点で判明していたら、サユキたちに隠すなんてしなかったわ」
レオの邪推するような事はない。この緊急の用件を知ったのはレーナ自身、つい先ほどのことであったという。
「心当たりのある原因は?」
「さぁ、わからない……。でも、昨日のワームホールのことで誰かに目をつけられたのかも」
次に、ジェンリャのする簡単な質問に、少し落ち着きを取り戻した様子のレーナは答えていく。
「だとすれば、仮に──私たちは四つのガードチームの内のどこに配属されるのかしら?」
シティガードは四つの陣営に分かれている。そのことを思い出した砂雪は、もう少し踏み込んだ質問を投げかけた。
「ごめんっ……! それも今んところ謎なのよ……」
「謎……大事のように語る割には話がイマイチ見えてこねぇぞ? だったらなんだ、野球みたいにドラフトで指名でもするってのか? あぁ……とにかく! そんなもんに拘束力はねぇぜ。こっちからはなんの届けも出してないんだからな。レーナの姐御も、心配する必要はねぇってことだ。はははは!」
「確かにレオの言う通りだね。それに、このスターシティに来て間もないテイマー……いやセイントが自分を含めて二人もいるんだ。そんな立場の違う四人をまとめてリストアップってのは、なかなかな考えづらいんじゃないかな?」
最後に笑い飛ばすレオ、整然と語るジェンリャ。二人の男性陣はまるで杞憂だと、レーナに言い聞かせるも──。
「レオやジェンリャの言うこともめちゃくちゃ分かるんだけど! ……それが……そうもいかないのよ」
レーナは眉間に皺を寄せる険しい表情を崩さない。そして、そっと自分のデジヴァイスQを取り出し、問題の一枚のメールをホログラムビジョンに浮かべてみせた。
「なんだ……このちんけな星のマークのついた地味なメールは? それがしけた面になっちまうほどの、心配の種だってのか?」
今レーナが見せたたった一通の珍妙なメールのことを、レオが鼻で笑うも──。
「ちんけなら良かったんだけど……星つきの盾……それは四星のマークなのよ。だからガードチームのリーダーから破棄できないそのメールが、私のデジヴァイスQ宛にいきなり送り付けられてきたってこと! ここにいる四人、それにデジモンたちの名前もしっかり添えてね……」
「んな!? つまりこいつは俺たちに向けたタチの悪いラブレターってことかよ。──あ? 何見てやがる、パタ坊?」
レーナの口から明かされる衝撃のメールの送り主に、レオは驚愕する。
「星のマークはリーダーの四星、盾の形のメールはシティガードを意味するってところみたいね?」
盾を模した灰色のメール。色褪せた星を封蝋にしたそれは、シティガードのリーダー四星たちから送られてきたものであることを示していた。
推察した砂雪が補足するようにそう言うと、レーナもこくりと頷いた。
「あぁそうみたいだね。なら、いったい誰からだ。それさえ分かれば、何か対処法を打ち立てることもできそうだけど?」
ジェンリャはメールの送り主の正体の名を、レーナの口から出るのを期待する質問を投げかけるも、彼女はゆっくり首を横に振った。
「普通なら盾の色でどこのガードチームのものかを判別できるのだけど、これはあえてか知らないけどモノクロ仕様に加工されていて、それすら分からなくなっているみたい……」
レオが「ちんけ」と感想を抱いたその電子メールは、あえて黒の暗いモノクロの色味に加工されていたようだ。
「よっぽど情報を他に流したくないのかな。秘匿のメールか。昨日の今日、タイミング的にも……」
「確かに、シティガードは一枚岩じゃないと昨日高山くんからも聞いたわ。そのメールには、他のチームを出し抜きたい意図もあるのかもしれないわ」
どうやらこの灰色のメールの送り主は周到な準備をしてきているようだ。ジェンリャが難しい顔で固まっていると、砂雪は既知の情報を皆に共有し、メールの相手の意図を予測していく。
「てことはよ。タスクモンの野郎をぶっ飛ばしたサユキさんユキ坊らの強さを見込んで、先にツバでもつけようってのか? どっちにしろなんか気に食わねぇやり方だな……! 図々しく囲ってきているってのに、ここまで正体が見えてこねぇところとかよ……」
「そうだね。陣営が四つもあるなら、既に独自に戦力を引き入れるために調査に動いているチームがあってもおかしくはないか……」
「あと、これ以上推理ごっこってやつを続けんのもいいけどよォ。皆忘れてねぇか? ソレって、ただのいたずらの可能性もまだあるってことをよ?」
灯台下暗しとでも言いたいのか──足元をしきりに両手で指差ししながら、レオはこのメールの一件がまだ、単純ないたずらの可能性があることを指摘する。
「確かに、他チームへの妨害工作の線もまだあるかもしれないわ。今の私たちみたいにシティガードへの警戒心を高めさせる、そういう目的を持ったいたずらかも?」
ジェンリャと自分はスターシティに初来訪の身。さらに昨日ここでも話した内容から、既にシティ内に住んでいたレーナやレオは元より四つのシティガードに対してあまり良い印象を持っていない。
様々な要因を踏まえた上で、砂雪はレオの今言った「いたずら説」に乗っかり、シティガードへの敵意や警戒心を高める妨害工作の線もあるかもと、自身で考えたことを皆に伝えた。
「あぁ、きっとそれだサユキさんッッ! 俺はどうもさっきから……メールの送り主のこいつが、影でクスクスおちょくってるようにしかみえねぇんだよ。わざわざこんな回りくどいことしやがって、よっぽど捻くれてんじゃねぇかこいつ?」
レオは荒い口調ながら砂雪の考えに同調し、メールの主の性格までを分析し出した。
「ちょっとバカだけど、こういう時のレオの直感はよく当たるんだぜ!」
「あら、うちのレーナもどっちかというと直感タイプね」
「それならぼくのサユキも負けてないよー!」
「うーん、ジェンよりボクの方が直感〜?」
パタ坊はじめデジモンたちそれぞれが、自分のパートナーである人間が「直感タイプ」かどうかを自慢げに語り始めた。
「はは、そう言えばブレーキを踏むことは多かったかな……。──と、こっちのカウントはそろそろ待ってはくれないようだね」
ジェンリャが突然、天井に指を差す。皆が見上げるとそこには、謎の電子数字のカウントが減りつづけていた。
「うおッ、なんだありゃ!? 足元じゃなくて上かよっ!」
「あれがゼロを刻んだ時、開く──ということかしら?」
「うん。嘘か本当か……それを一緒に確かめるためにも皆を呼んだの。ごめん、あと1分でその次のメールが開くわ」
レーナは既にその天井に映し出されたカウントが始まっているのを知っていた。皆にこれ以上不必要な緊張を与えないために、ジェンリャが気づく今まで黙っていたようだ。
「レーナ、モーマンタイっ!」
「そうそう、こんな時こそモーマンタイだぜ! さっそくの使いどきじゃねぇか」
「ふふ、モーマンタイ。大丈夫」
「無問題……なるようになるさ」
「そうね……! モーマンタイッ……!」
陽気に耳と手をあげるテリアモンを皮切りに、気づけばここに集う各々が口にし出した「モーマンタイ」の合唱。
反時計回りにゆったりと回り続ける灰色の電子レター。天井に照らし刻まれた赤、青、黄、緑の電光の数字。
カラフルな色彩で減りゆく謎のカウントダウン。それらが四つのゼロに切り替わる瞬間を、喫茶店に集ったセイントとデジモンたちはただただ息を呑み──見上げつづけた。