デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
「何がメガよ、大袈裟な口数が増えたぐらいで! あと赤と星のファッションは……被ってんのよーッ!」
色褪せた腕の白い星と、逆に深々と染まった赤い体色。そんなメガタスクモンなどと自称するデジモンに、赤いライダースーツと黄星がトレードマークのレーナは怖けずに啖呵を切る。
「硬くってもそう単調ではね!」
ウルヴァモンも勇ましいレーナの言葉を耳にし、同じように強気の表情を浮かべた。
「ハッハッハ、そちらの強がりコンビはご退屈か? ナラこれはどうかな? 【パンツァーナックル:マインッ】!」
「ふっ、どこを狙って──!」
まるで遅い。やけに溜めた赤いタスクモンの遅いパンチを見切ったウルヴァモンは、飛び上がりその恐竜の顔を殴りつけた。
赤いタスクモンは、左の頬を手痛く殴られながらもニヤリと牙を見せ笑い、そのまま地面に外した拳を叩きつけた。
すると竜爪と拳が地にめり込んだ瞬間、とてつもない振動がこの森の広域に広がった。木々が一斉に激しく揺れ、葉が騒ぎ舞い散る。
「どうかな、メガタスクモンの技のお味は?」
「っナ!? ……これぐらいで!」
ウルヴァモンが再び地に足をつけた瞬間、その地を支配する凄まじい振動に身動きができないほど全身を揺さぶられた。
だが、歯を食いしばるウルヴァモン。この程度の間接的なダメージ、まだやられた訳じゃないと、赤いタスクモンを睨み返した。
「フハハハハ。さすがセイントのデジモン。だが、お前たちはそうでも、片割れの人間たちの方はどうかな!」
「ぅぐっ……」
「レーナ!? こいつっ!」
依然つづく凄まじい振動に、レーナは立っていられない。地にべたりとひれ伏した彼女の姿を見て、振り返るウルヴァモンは叫んだ。
「ジェンーっ!」
(っ……タスクモン……あの腕の星の数がパワーアップのトリガーになっていたのか……だからあいつはさっき味方殺しを……ぐっ……もっと早くにこのデジモンの特性に気づけば──)
武術の心得があるジェンも片膝をつきながら、喋ることもままならない。逃れることのできない竜の拳が地に振動を起こし、彼らの体を低く縛り付け、さらに延々と揺らし蝕む。
今さらタスクモンの不可解な味方殺しと星の意味に気づいたところで、どうしようも対策はできなかった。
それはまさに赤いタスクモンが編み出した人間殺しの技であった。デジモンへのダメージは落ちても、人間へのダメージは効果的であったのだ。
ひれ伏す絶景。嗤う赤いタスクモンは悠々と揺らぐ森の地を歩き、彼らセイント、こうべを垂れる人間たちに歩み寄ろうとする。
「このぉ! あ──タマっ……! たぁーー!」
「レーナにそれ以上近寄るな! ッ──!? はぁあ!」
奇しくも同時に起こった弾切れ──ガルゴモンとウルヴァモンは、パートナーを守るべく振動する地を飛び上がり肉弾戦を挑んだ。
だが、見え透いた突撃に赤いタスクモンは、堅牢な肩の角を振り回し二体のデジモンを同時に吹き飛ばした。セイントたちの協力と冷静さを失ったウルヴァモンとガルゴモンを、まるで羽虫を払うようにあしらっていた。
「これはこれは……ギョウコウ! ギョウコウーッ! ……さて、ドレニシヨウカナ、ぜんぶオレ様の言うとお──ンン?」
遊ぶように鋭い爪をさす。よりこのメガタスクモンに相応しいセイントはどちらか。
よりどりみどりで嗤う赤いタスクモンが今、その鋭い爪先をふと止めたのは──。
「──!? ホォ……なぜオレの人間殺しの技を受けて、涼しげに歩けている? ふはは、おひとり様でピクニックか?」
「……」
奇妙な光を放つペンダントをブレザーの胸元に宿し、涼やかに靡く藤色髪が、足を止めたタスクモンの元へとゆっくりと歩き近づいていく。
「ハハハ、そうかッ! オレのセイントになる気になったか、そこの大人しいラベンダー毛! いいぞ、オマエはなんだか他にはない見込みがありそうだ!」
「残念だけど──、私はあなたより強いデジモンを知っている」
沈黙をしていたラベンダー毛──今、静かに足を止めた橘砂雪が、大きな赤いタスクモンのことを見上げながら、そう言葉を発した。
「ナニィ……? ぬかせッ、オマエも見ていただろう! オレこそが最強のデジモンだ! この星を見ろ! 数多のデジモンを葬ってきたオレ様、メガタスクモンこそが! 最強足り得るソンザイなのだーーっはっっは!」
赤いタスクモンは左の腕に刻まれた白い五つの星を、生意気な言葉を口にしたその女に見せつける。そう、自分こそが最強のデジモンなのだと認めさせようと、声高々に叫んでいた。
「ならこれから私たちがあなたにあげるのは、黒星。もうあなたが増やせる星は、それだけよ」
「サユキは……ぼくが守る! へんなツノしたオマエなんて……! ゼンゼンこわくなーーい!」
胸に不思議な光を宿したラベンダー毛の女は、いくら凄まれても表情を変えない。
そして恐い顔を至近にまで下げ近づけたその赤いデジモンの鼻先と、砂雪の立つその間に、ユキアグモンは両腕を広げて立ちはだかった。
何の自信があるというのか。勇ましく飛び出してきたちっぽけな白いデジモンと、奇妙な光を放ち続けるラベンダー毛のセイント。
何故だか森へと吹いてきた見たことのない粉雪が、足元に舞い落ちていた木の葉を白く染め上げていく。
奇妙な怪奇現象と、ふたりを目にした赤いタスクモンは、一瞬首を引き慄きつつも──。
「ぐうううう、なにがクロボシだ! それでウマイことを言ったつもりか! オマエラ……弱っちいデジモンどもを従えて、ハッタリをぬかせええええッッ!」
タスクモンがそのエネルギーを蓄えた怒りに震える巨手を、砂雪とユキアグモンに向けて振り下ろした、その時──。
ひび割れたデジヴァイスQを握りしめた砂雪と、彼女を信じて前に立つユキアグモンの下へと今、光の柱が天を貫くように立ち上った。
【ユキアグモン ──Evolution──> ユキダルモン】
やがて細まる眩い光と凍える吹雪を纏い現れたのは、赤い巨竜に見劣りしない巨大な雪の戦士。
「最強じゃなくても、弱っちくなんかない。それを証明するためにやるべきことは一つよ──ユキダルモン、止めなさい!」
「あはは。カチコチに分かった、サユキぃーっ!」
身に迫る赤い拳を、物怖じせずに突き出した白い雪の拳で受け止める。サユキの思いに応えたユキアグモンが、成熟期のユキダルモンへと大きく進化し現れた。