デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
ユキアグモンの道案内に従って雪原を歩いていくこと約20分──。砂雪たちがたどり着いたのは、半球状の雪の家〝かまくら〟が立ち並ぶ小さな集落だった。
「かまくらがいっぱい……ここは?」
「ユキミボタモンの村だよーっ」
「ユキミボタモンの村……」
「ぼくの住んでた村なんだ! おーいみんなぁー、ぼうけんから帰ったよー!」
村に着くや否や胸を張り、ユキアグモンは誇らしげに声を上げた。
すると、あちこちのかまくらから、そろりと顔を出して来たユキミボタモンたち。
彼らに手を振りご挨拶をする砂雪とユキアグモンであったが、村のユキミボタモンたちは、かまくらに顔を引っ込めたり、また出したり二人のことを警戒した様子だった。
「あれぇ、なんでみんな出てこないの?」
「あなたが進化したから、みんなびっくりしているんじゃない?」
「あぁー、そうだった!」
「それに私のことも珍しいのかもね」
「えぇ? でもサユキやさしいからぼくは好きだよ」
「ありがと、ユキアグモン」
元は同じユキミボタモンだったユキアグモンのこと、そしてこのコチコウチでは珍しい人間の姿をした砂雪。ユキミボタモンたちが遠巻きに彼らを警戒するのも無理はなかった。
「ところでサユキィ……」
「なに?」
「ぼく、お腹すいたぁー……」
「お腹? あぁ……そう言われれば私も晩御飯はまだだったかしら。あっ、そう言えば」
ユキアグモンはお腹の辺りを撫でながら『きゅ〜』と腹の虫を鳴らした。自分も晩御飯がまだだったことを思い出した砂雪は、同時にKから電話ごしに教わったある事を思い出した。
「さっきデジヴァイスQの使い方を少し教えてもらったんだったわ。えっと確か背面のボタンをこうすると……あったわ『ファイルバック』」
手にしたデジヴァイスQから、ホログラムビジョンが外に飛び出すように浮かび上がる。それは【ファイルバック】と言われるデジヴァイスQに内蔵された、データ物質を収納・圧縮できる便利な電子鞄の機能であった。
しばらく浮かぶ半透明のビジョンに触れながら、砂雪がファイルバック内の項目を検索していくと、そこには彼女の馴染みの家具やアイテムがあった。
「思った以上にあっちのアイテムを引き継いでいるのね? 取り出すには……ドラッグ&ドロップでいいのかしら? ──あっ」
「わぁっ!?」
ぽんっ、と軽い効果音と共に、村の中央の平地に〝こたつ〟が上から降るように忽然と現れた。
それは砂雪の家にあったこたつと同じものだった。砂雪とユキアグモンは同じく驚いたものの、とりあえずテーブル代わりになるものを取り出せたことに砂雪は一人頷いた。デジヴァイスQに内蔵されていたファイルバックは、Kから聞いた噂通りにちゃんと機能しているようだ。
砂雪は引き続いて、ドラッグ&ドロップを試みる。指定したこたつの机上の座標に、今ファイルバックから選択した鍋を置いた。
それはまだ暖かな湯気を放つ〝おでん〟の入った鍋だった。
「スープも中身もデータとして残っていたようね。不思議だわ」
「サユキサユキ、これなに!? いいにおいする!」
「これは〝おでん〟よ。冬に食べると美味しいの」
「フユ?」
「あ、冬という概念はここにはないのね? 寒いところで食べるとより美味しくなるのよ。それがおでん」
「へぇーそうなんだっ。ねぇねぇサユキぃ、食べていい?」
「ええ。そのために出したんだから、温かいうちに食べてユキアグモン」
「わーいっ!」
台所の火元で煮込んでいたおでんの鍋がそのままの状態で、ファイルバックに保存されていた。ヨダレを垂らし興味津々におでんのことを聞くユキアグモンに、砂雪は微笑みながら、どうぞ食べてと食事の許可を出した。
「これは」
「ごぼてん」
「むしゃむしゃ、これはっ」
「じゃがいも」
「はにゅはにゅ、これはッ!」
「ウインナー」
「サユキぃ、ぼくウインナー好きぃ!」
「ふふっ。お父さんと一緒ね。いいわ、どんどん食べて」
「わーーい!」
砂雪は鍋の底から箸で摘んだウインナーを、気に入ったと喜ぶユキアグモンの小皿へと次々と取り分けていく。
「あら?」
デジモンと二人で食事を楽しんでいたら気づくと、砂雪の座るこたつの周りをユキミボタモンたちが囲んでいた。
「あなたたちも欲しいの?」
「ぼたっ」「ぼたぁ」
砂雪が静かな声で問うと、各々その場で飛び跳ねて頷くユキミボタモンたち。どうやら美味しそうなおでんの匂いにつられて、籠っていた白いかまくらの中からみんな出て来たようだ。以前見せていた警戒心のようなものは、すっかり溶けてなくなっていた。
近寄って来た友好的で可愛らしいデジモンたちを見て、砂雪がファイルバックから大皿を取り出そうとしたその時──。村にある一番大きなかまくらから、氷の杖をつきながら一匹の老デジモンが現れた。
「モッモッモ。村一番のわんぱくっ子がどこに遊びに行っていたかと思えば、まさか人間の子を連れて来るとはのぉ」
「あっ、モジャモン村長!」
ウインナーを片手に持ったまま、ユキアグモンが今出て来た大きな老デジモンに向かい嬉しそうに手を振る。
砂雪もユキミボタモンたちが群がるこたつから立ち上がり、威厳と貫禄のあるその白毛のデジモンに向かい深々と一礼をした。