デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
バーガモンの案内に従って雪原を進むことしばらく──突如として、白銀の世界に穴を開けたように現れたのは、湖だった。
「わぁ海だ、海! サユキっ、お水がいっぱいあるよ!」
「これは、海というより湖……? その中にまた陸地が見えるわね」
穏やかに静まるその水面を、白い湖畔から眺めていたユキアグモンと砂雪。そんな珍しそうな目で立ち止まるふたりの耳に、呼びかけるバーガモンの声が聞こえてきた。
「こっちだガー! ここから船に乗るんだガー!」
「船? ここには乗り物らしきものは見当たらないけれど」
バーガモンの手招きに応じてその場に近づいた砂雪が周囲を見渡すも、辺りは積もる雪ばかり、湖を横断してくるような船の影も見当たらない。
すると、バーガモンが足元の雪をぽんぽんと幾度か踊るように踏みつけた。直後──地が重く震動する音を立てた。
変哲なく広がっていた雪原は小さく割れ、湖に接していた雪地の一部が湖の上をゆっくりと動き始めた。
「デジタルなら……これもありよね?」
「はやくこっちに飛び乗るんだガー!」
「うんっ」
「とぉっ! わぱっ──」
湖のぎりぎりでローファーの足を踏み切り、砂雪は先にバーガモンを乗せて動き出したその雪原の断片へと飛び移った。つづいてユキアグモンが飛び移ろうとするも、勢い余って砂雪の胸元へと飛び込み、ふたりしてその小さな地の上で転んだ。
なんとか無事に不思議にも湖を進む雪の船の上へと、乗り移ることができた砂雪たち。歪なその白い船の行き先は、湖の中央に陣取る雪原の内陸地へと吸い込まれるように向かっているようだった。
そして5分にも満たない航行で船を着けて、難なく目的地へと上陸を果たした砂雪たち。
「ここね……。さて、どこが入り口なのかしら?」
たった今、上陸したのは小さな雪の地。そして、砂雪はすぐそこに雪化粧をした平たい建物を発見した。バーガモンの垂れ込みにあった建物と特徴が合致するように見える。
「それなら覚えてるんだガー、おいらに任せ……て、あっちからもわらわら来てるガー!」
さっそく砂雪は、この雪に隠れるように佇む平たい建物の入り口を探ろうとする。遠くから観察していた様子の彼女に、バーガモンが振り向いたその時だった。
藤色の髪を靡かせる彼女の後ろ側、今、湖の向こうから同じような雪の船が、青い小鬼たちをぎゅうぎゅうに詰め込んでやって来ていた。
バーガモンは頭の帽子を落としてしまうほどに驚きつつも、ふたりにその迫る危機を声にし知らせた。
「よーし、ぼくに任せて!」
それならと、ユキアグモンが雪をかき集めて、村の雪合戦でも見せたような大きな雪玉を作りあげた。
「待って、それはダメ────今っ、シュートっ」
しかし砂雪はユキアグモンの考えた悪戯のし方を読んだのか、突然その行動に待ったをかけた。そして彼女にタイミングを指示されたユキアグモンは、一旦地に置き直した大きな雪玉を、豪快にもその足で蹴り飛ばした。
「【スノーロック】!」
船に密集していたスノーゴブリモンたちが島地に取り付いたちょうどその時、なんとも絶妙なタイミングで雪玉がお迎えに転がってきた。敵対デジモンの集団は、迫り来るその大きな雪玉にぶつかり、哀れにも纏めて湖へと落ちていく。
「わーいわーい! あれ、でも? さっきなんで止めたの、サユキぃ?」
ボウリングのピンを全て倒したような爽快さに、喜び跳ね回っていたユキアグモン。だが何故あの時、砂雪が自分を止めたのか、ふと気になったことをユキアグモンは彼女の目に向かい聞いてみた。船に乗っているところを叩けば、結果は似たようなものにも思えたからだ。
「帰りに使える船は多い方がいいから。それに、あまり一方的な喧嘩の仕方は良くないとも思ったの。だから──降りるまでは待ったわ? ふふ」
「あはっ、やっぱりサユキはやさしいんだね!」
「そうね? そういうことにしておきましょうっ」
どうやら船の上で攻撃を仕掛けるやり方を、彼女は好まなかったようだ。
ユキアグモンはそんな砂雪の考えに「やさしい」と感じたのか、そう素直に言葉にして感情を表した。
過程は違えど敵を蹴散らした結果は一緒、その腹積もりや心境がどうであったかは彼女にしか分からないのかもしれない。砂雪は笑うユキアグモンに向かい微笑み、首を縦に頷いてみせた。
そんな愉快なお喋りをしている彼らの背で、雪の中から今芽吹くように、一本の細いホースがゆっくりと伸びた。
ホースの先端に咲いた白い造花、その花弁の内側で──小さなレンズが一瞬きらりと怪しく光った。