デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
船で揃ってやって来た追っ手のスノーゴブリモンたちを、巨大な雪玉の技で歓迎し退けた砂雪たち。
つづく敵の襲撃がないことを確認した後、バーガモンが所定の場所に持って来ていたデリバリーの袋を置いた。
すると突如、──雪原が怪しげにうごめいた。
ガタガタと音を立てて稼働し始めた雪の下のコンベアに乗せらせ、デリバリーの袋が平たい建物の方へと向かって運ばれていく。
やがて、建物上部のハッチが開き、デリバリーの袋がその中へすっぽりと吸い込まれていった。
そしてハッチが賢く閉じようとしたそのタイミングで、平たい建物の上を駆け上った砂雪が動いた。
砂雪が手にしていたのは、ユキアグモンに言って事前に作ってもらっていた氷の杖。モジャモン村長のいつも所持していた杖を模した物を、閉じかけのそのハッチへと上手く噛ませた。
「上手くいったガー? ならバーガモンはここで船を見張ってるガー。食材は頼んだんだガー」
「ええ、お願いね。ユキアグモンと中を調べたらすぐに戻るわ。もちろん食材も見つけるようにするわー」
手筈通り、バーガモンに見張り役を任せた砂雪とユキアグモンは、さっそく開いたままのハッチへと向かい足裏から飛び降りた。
やがて噛ませていた氷の杖はひび割れ、折れ──頭上に開いていたハッチが重く閉まる音が鳴った。
「メカメカに入れたー! わぱっ──ふぁ、ユっ、ひぃ!?」
侵入そして着地成功──。中の通路に降り立つなり、ユキアグモンが喜びの声を上げようとしたその時、隣にいた砂雪がユキアグモンのその特徴的な白い顎を、両手で上下から押さえた。
「しーっ……他のデジモンの家かもしれないわ。ここからは〝忍び足〟でいきましょう」
それを聞いたユキアグモンは、コクコクと首を縦に振った。砂雪はそのまま聞き分けのいいユキアグモンの鼻先を撫でていく。
「サユキぃ、サユキぃ、ところで〝しのび足〟ってどんな足ぃ?」
「そうね……静かに獲物を狙う時の足よ」
「あぁ〜! わかった、わかったぁっ!」
意思疎通と確認を終え、慎重に奥へと進み始めるふたり。
だが、しばらく見知らぬ通路を歩いた後、ふと振り返った砂雪は思わずその足を止めた。
「べつに這わなくてもいいのよ? そんなに腹をこすっちゃって……ふふっ」
見れば、ユキアグモンは床を低く這いながら、忍び足よりももっともっと慎重な姿勢で進んでいた。まるで雪原に身を潜める要領で、本当に獲物を狙う様をやってくれていたようだ。
獲物を狙う時の足は、少々例えが悪かったようだ。同じように静かに自分の後を来るように、そうシンプルな言葉で砂雪はユキアグモンに言い直した。
気を取り直し、ふたりは、中でまだ続いていたコンベアの線路沿いを辿っていった。だがその途中でコンベアのレールは途切れてしまっていた。
見失ったデリバリーの袋がまた別のハッチに吸い込まれたのか。それに、ふたりが降り立ったこの建物の中は、まるで複雑な迷路のように入り組んでおり、一筋縄ではいかない構造のようだった。
駆動音が止まったコンベアと行き止まりの壁の辺りを見つめたまま、砂雪が顎に手を当て、通路で悩ましげに立ち止まっていると──。
その時、砂雪の羽織るブレザーのポケット内に収めていたデジヴァイスQが振動した。突然のバイブ音に反応した彼女は、それを手に取った。
「なに? ……K? ああ、電話ボックスの『デジデジ』さんの──」
封蝋のように、鮮やかな緑の文字で中央に「K」と書かれていた──。そのイニシャルに聞き覚えのあった砂雪は、デジヴァイスQに突如届いた一通の赤いメールを開いてみる。
すると、砂雪が指先で触れた緑のK、赤いメールに施されたそのおしゃれな封蝋が溶け出した。
そして折りたたまれていたメールはみるみると展開され、なんと、砂雪の眼前に広がる一枚のホログラムマップになった。
「この建物の地下に入ってまだ間もないと思うのだけど……仕事のできる人って、こんな感じなのかしら?」
デジヴァイスQが投影するこのホログラムマップが示唆しているのは、きっとこの迷宮のように入り組んだ建物のことに違いない。マップの通路部で緑に点滅し重なる二つのポイント、全容と現在地点をざっと確認した砂雪はひとり頷いた。
「──うん。なら一度この地図のルート通りに進みましょう」
どうやってこのような精巧なマップを作り上げ、このデジヴァイスに送信したのか。もしかしてここにKなる人がいるのかもしれない。砂雪はその可能性も考えた。
あるいは罠──。だが、電話越しにもKと話した限りでは、彼がそのような事をする人柄にも砂雪は思えなかった。結果、マップ上にご丁寧にも光る黄色い線で示されたそのガイドに、彼女は従うことにした。
「サユキっ、サユキッ! これ見てっ、ここっ、お宝だー!」
「さぁ、どんなお宝かしらね」
ユキアグモンがホログラムマップに示されたお宝のマークを、飛び跳ねながら指差す。
今、砂雪が指先になぞっていいた黄色いガイドを行き先は、そのお宝のありか。
はしゃぐユキアグモンのことを見て一抹の疑念をも振り払った砂雪は、さっそく行き止まりの通路を引き返し、確かな足取りで前を目指した。