デジモンDワールド-Repair-(ユキアグモンと少女の冒険記) 作:山下敬雄
橘砂雪がメールの送り主Kの手引きで、慣れないコンソールパネルをなんとか操作し終えた。翳したデジヴァイスQでモニターに映ったデジ文字の集合体をスキャンした後は、データの解析を丸々Kに任せ、砂雪はひとり部屋にあるであろう資料・アイテムなどの物色を開始した。
だが、砂雪が見つけて手にした紙の資料を読みふけっていた最中に、突然──。閉ざされた部屋のダクトから謎のガスが静かに流れ、やがて眠気を誘うその怪しげな空気が中に充満していった。
そうして気付かぬうちに彼女の意識が暗転してから、どれほどの時間が経っただろうか──。胸に飾った砂時計のペンダントは教えてくれない。
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【DEGIPROラボ地下三階、メイン研究室】にて──。
鉄の拘束台にすやすやと寝かせた一匹の白い小竜のデジモン。その小さな姿の中に秘められし、たった今検出した未知のデータに、調べていたナノモンは驚愕した。
「コ、コレハ、なんという強いパワーを秘めたデジモンだ!? 通常の成長期タイプの1.5倍のスペック……いや、それ以上。今まで調達したものとは比べ物にならん、素晴らしい数値を持つ素体だぞぉーッ」
手製の簡易検査機器でスペックを調べただけでは物足りない。
拘束台の上に寝かせたまま、気になる白いデジモンの全身をさらに詳細にフルスキャンしていく。そしてナノモンが興奮気味に手を動かし、研究施設にあるデータベースを照合・検索し、今ヒットしたユキアグモンの進化図をモニターの上に蜘蛛の巣状に展開していく。
「【ユキアグモン】──なるほど、さほど珍しくはないが……辿ると……腐ってもあのエンシェントグレイモンの血とデータ因子を引く氷雪系のデジモン……悪くもない。そうかっ、これをベースにすれば……」
モニターに重ねて映し出したのは、太古の世界の資料。石碑に刻まれた伝説のデジモンの荘厳たる立ち姿。ナノモンの半壊した機械頭脳が熱を上げ出した──今手に入れた素体であるそのユキアグモンのことを様々な資料と照らし合わせながら、さらに値踏みしていく。
「天使系の持つ飛翔能力や知性、メタル種の誇る外殻の硬度、膨大なデータ量を送信するための植物系のエネルギーチューブ──一つ一つの素晴らしいパーツではなく、それらをエラーなく循環させるための素晴らしいラジエーターが先に必要だったわけさ。……なんだ、そんなことで良かったのか。クックック」
せっかく手に入れた優れた素体だ、もっとじっくり時間をかけて研究したい。そう思考したナノモンは備え付けの研究設備を作動させる。果たして本当に、自分の思い描いたこの実験に耐えうる力を持つのかを測るため、眠るユキアグモンのより精密な自動解析を行った。
「計算結果が楽しみだ……! そしてェ……」
データをロードし、その解析と計算が完了するにはまだ時間がかかる。昂る興奮に待ち切れない様子でいたその間にも、ナノモンが次に目をつけ近づいたのは、眠る人間の女。
長い藤色の髪が台の上で、人形のように力無く垂れ下がっている。もう一つの拘束台に寝かせていたそんな彼女のおでこに、ナノモンが機械の手を伸ばそうとしたその時──。
静かに閉じていた瞼が今、突然パッと咲いた。そして開いた彼女の翠の瞳が、ナノモンのことを真っ直ぐに見つめた。
「────Project infinity .」
「ム……!?」
そのプロジェクトの名を聞いた時、伸ばしていたナノモンの手がピタリと止まった。拘束台の上で目覚めた砂雪はさらにその機械の体のデジモンに向けて、言葉をつづける。
「デジモンたちの進化には無限の可能性がある。──でしょ? 上にあった資料にはそう一番最初に記されてあったわ」
「……」
ナノモンは手を後ろにゆっくりと引き、カメラの目をチカチカと明滅させながら、その女のことを黙り睨みつけている。
「ここは、この世界、デジタルワールドの研究施設?」
「デジタル……ワールド……。そうだ……そうだな。あの時ソラが剥がれ落ちてきた、あの賑やかな世界はそんな名だった気がする」
上で探った資料を元にした砂雪の問いかけに対して、やっと口を開いたナノモン。だが、ナノモンは今思い出したようなあやふやで抽象的な言葉を吐いていた。
「空が……はがれ落ちた? 事情は分からないけど──あなたはそのプロジェクトを手伝い研究していた。いや、あなたたち──」
「そんなデータはないいいいい!」
砂雪の言葉を遮るように突然、ナノモンは合成音声の音量を上げ叫んだ。
「ないっ、ないのだああああ肝心の中身がっ! ワタシのそのデータを盗んだのは……オマエかああああ!」
「──!?」
黄色いアイカメラが血のような赤に染まる。怒りのスイッチを入れたナノモンは、機械の右手を伸ばし、拘束台で戯言を吐いたその生意気な女の首を締め上げた。