TSボクッ娘は完璧な王子様系怪盗を演じたいようです。 作:最高司祭アドミニストレータ
今回より第二章が始まりますので、よろしくお願いします。
それではご覧ください。
さあて、完璧な王子様系怪盗を演じるとしよう
〇月△日
大パニックから一夜が明けた。
冷静になって考えてみれば、十五年間も自分の人生の最終目標を忘れていたボクの脳細胞はどうかしている。健康な身体をエンジョイしすぎた代償だ。
高校入学を目前に控えた今、ボクがやるべきことは、平凡な学生生活を謳歌することではない。夜の街を騒がせ、警察を翻弄する「世界を揺るがす大怪盗」への華麗なる復帰だ。
準備を始めよう。ボクの第二の人生は、ここからが本番だ。
△月〇日
ターゲットの選定会議を一人で脳内開催した。
星凪市内に数ある美術館や財閥のコレクションをリストアップしていく。あの大泥棒ルパン三世が、常に不可能に近い大金庫を最初の標的に選んだように、ボクのデビュー戦も最も厳重な場所でなければならない。
決定した。標的は、星凪市博物館の最奥に眠るという特大のブルーサファイア、『月下の宝石』だ。
×月△日
自室のパソコンで、往年の怪盗映画や怪盗アニメの資料映像を夜通し視聴した。
ルパン三世の美学。それは、どんなピンチに陥っても決して焦らず、軽妙洒脱なスマートさと不敵な笑みを絶やさない余裕だ。
ボクはモニターに映る大泥棒の姿を目に焼き付け、あの華麗な身のこなしと精神性を、自身の十代の魂に深くインプットし直した。
〇月×日
高校の入学式。
真新しい制服に身を包み、新入生代表のような涼やかなオーラを纏って登校した。夜の顔を隠すための、完璧な昼の擬態だ。
しかし案の定、教室の隣の席にはまたしてもルルが陣取っていた。彼女はボクの顔を見るなり「あんた、顔色悪くない? ちゃんと寝てんの?」と不吉なツッコミを入れてきた。怪盗の予習で徹夜したとは言えず、ボクは無言で視線を逸らした。
△月×日
下調べ第一弾。
ターゲットである星凪市博物館へ、一般の入場客を装って足を運んだ。
無邪気な高校生を演じながら展示室の広さ、天井の高さ。そして来場者の動線や監視カメラの位置を、脳内の三次元マップに片っ端から叩き込んでいく。ボクの空間認識能力に狂いはない。
×月〇日
下調べ第二弾。深夜の極秘潜入。
インカム越しに計画を察知した母さん(アンタゴ)が、「面白そうだからついて行くよォ」と強制参加してきた。
白衣姿の母さんは、博物館の裏手に回るなり「くっふふ、正面から堂々と入るより、通気口の構造を見た方が早いねェ」と不敵に笑い、ボクと一緒にフェンスを軽々と乗り越えて夜の敷地内へと侵入した。この親、犯罪への適応力が高すぎる。
〇月△日
夜の敷地内で、警備体制と赤外線レーザーの分析を行った。
母さんと一緒に暗闇に潜み、警備員の巡回ルートをストップウォッチで計測する。さらに、展示ケース周辺に張り巡らされた不可視の赤外線センサーの波長を、母さんが特製の小型スコープで即座に解析し始めた。
「古典的だけど、今のキミのパルクールの精度なら余裕で潜り抜けられるねェ」
マッドサイエンティストからの太鼓判。心強いが、少し怖い。
△月〇日
調査結果を受け、母さんに怪盗必須のガジェットを正式に発注した。要求したのは、天井の梁に打ち込む『ワイヤーガン』と、逃走用の『スモークグレネード』だ。
母さんは白銀の瞳をギラギラと輝かせ、「おっ、ついに私特製の違法兵器の出番かい? 最高に狂った代物を作ってあげるよォ」とノリノリで地下の作業部屋にこもり始めた。嫌な予感しかしない。
×月×日
嫌な予感は的中した。
母さんが持ってきた「煙幕弾」の試作品を自宅の庭でテストしたところ、想像の百倍の黒煙が噴き上がり、近所の消防車が駆けつける大騒ぎに発展したのだ。
インカム越しに『あぁ、火薬の配合をちょっと間違えたねェ』と呑気に笑う母さんと共に、ボクはサイレンの音を背に全力で警察を撒いて逃走する羽目になった。本番前に逮捕されてたまるか。
〇月×日
高校での部活勧誘の嵐。
クラスメイトから「どの部活に入るの?」と聞かれた。本音を言えば、夜の怪盗トレーニングに専念するため「帰宅部」一択だった。
しかし、もう高校生なのだし、日々の基礎体力を鍛えるついでに運動部で汗を流すアピールをしておけば逆に怪しまれないだろう。そう自分の裁量で勝手に判断し、サッカー部の入部届に名前を書いた。
△月×日
サッカー部での練習中。
ボクはこれを『怪盗に必要な足技と俊敏なフェイントの訓練』と位置づけ、マシンのような精度で華麗なドリブルを披露していた。
そこへ、突然ルルが乱入してきた。「何やってるのよ、そんなじっとりした目つきでボール蹴ってさ!」と叫ぶなり、ボクの足元から強引にボールを奪い取り、そのまま豪快なシュートを放って嵐のように去っていった。
…じっとりとした目つきとは?
×月△日
放課後、誰にも見られない人気のないビルの屋上で、肉体改造トレーニングを行った。
高さと距離の感覚を研ぎ澄ますための、パルクールの極み。風を切り裂き、コンクリートの壁を駆け上がり、ビルの隙間を跳躍する。
思い通りに動くこの肉体。が熱く沸騰するのを感じた。
〇月△日
変装の習得。
ルパンといえば百面相だ。ボクも星凪市博物館の制服や警備員ルックに一瞬で化けるための『簡易脱着システム』を、母さんのスパルタ指導のもとで身体に叩き込んだ。
「くっふふ、早着替えが0.5秒遅い。やり直し」という母さんの鞭に耐え、ボクは変装のプロへと近づいていく。
△月〇日
金庫の構造解析とピッキング練習。
博物館の奥にある展示ケースのロック機構「ダイヤルと電子式のハイブリッド」の図面を、母さんがどこからともなく入手してきた。
ボクは自宅のダンボールで作った特製模擬金庫を相手に、ピンセットを使ったピッキングの練習を深夜までひたすら繰り返した。
×月〇日
アンタゴとの再度の現地調査。
今回は極めて実戦的な心理・情報工作の訓練だ。母さんが一般の通行人に化けて夜間警備員に話しかけ、その「注意が完全に逸れる時間」を、横の茂みでボクが秒単位で計測する。
警備員の視線を誘導する母さんの話術は、悪魔のように滑らかで完璧だった。
〇月×日
脱出ルートの完全シミュレーション。
お宝を盗み出した後、どのビルの屋上を伝って、どうやって川沿いの脱出ポイントへ抜けるか。ボクは自室の机に広げた星凪市の立体マップに、赤いペンで完璧な逃走経路を書き込んだ。
△月×日
予備の偽物の準備。
本物の『月下の宝石』を盗み出した後、しばらくの間、警察に「盗まれたことに気づかせない」ための時間稼ぎだ。
ボクと母さんは地下室にこもり、徹夜で本物そっくりの精巧なガラス細工のレプリカを作り上げた。
×月×日
インカムと通信システムの最終調整。
当日の夜、博物館内部に潜入するボクと、自宅の地下室でナビゲートをする母さんを繋ぐ『超遠隔インカム』の電波強度をチェックした。
万が一の電波障害が起きた場合のバックアップの合図も、母娘で念入りに取り決めた。
〇月△日
学校で、ボクがやけにスケジュール帳を真剣に見つめていた時のこと。
それを見たルルが、「あんた最近、やけにコソコソしてない? もしかして…彼氏でもできたわけ?」と、とんでもない誤解をしてボクの耳元をジッと覗き込んできた。
怪盗の計画がバレたかと思い、心臓が口から飛び出るかと思った。
△月〇日
鏡の前での特訓。怪盗といえば、ピンチの時ほど浮かべる不敵で美しい王子様スマイルだ。
ボクは自室の鏡に向かって、髪をかき上げながら「くっふふ…お巡りさん、お迎えには及びませんよ」とウインクを飛ばす練習を繰り返した。自分で自分のキザさに悶絶しそうになるが、これも必要な準備だ。
×月△日
予告状のデザイン考案。
最大のトレードマークである「予告状」の作成に取り掛かる。ただの紙切れでは芸がない。ボクは、星凪市の夜景をバックに、怪盗エトワールのシルエットが銀色に浮き出る特殊インク仕様のカードを母さんに発注した。
〇月×日
予告状の文面考究。
キザなポエムを考える時間だ。
『静寂の夜、月明かりを纏い、美しき星凪の宝を華麗に頂きに参る。──怪盗エトワール』
中二病全開の素晴らしい文面だ。ボクはペンを置き、一人でその美しい響きに酔いしれた。
△月×日
母さんの赤ペン指導。
ボクが誇らしげに見せた予告状に対し、母さんは鼻で笑った。
『うーん、ありきたりだねェ。もっと「あなたの警備網は穴だらけですよ」っていう社会的羞恥心を煽る一文を加えなさい』
容赦なく赤ペンで文章が修正されていく。流石はマッドサイエンティスト、悪党としてのセンスがボクの何倍も歪んでいる。
×月〇日
警察・警備組織の動向チェック。
地元の警察署のパトロールカーが出発する時間や、警備会社のシフト変更のタイミングを、ネットの裏掲示板と実地調査で最終確認した。敵の戦力と配置は、すでにボクの頭の中に完璧にインストールされている。
〇月△日
最終体力・筋力・柔軟性テスト。
母さんの管理下で全身のコンディショニング測定を行った。十五年前、病室で身動きすら取れなかった頃の影は微塵もない。
筋肉も神経も、最高のパフォーマンスを発揮できる完璧な状態に仕上がっていることを、数値が証明していた。
△月〇日
決戦前夜の緊張と高揚。
いよいよ明後日に迫った犯行に向け、緊張で胸が高鳴る。
前世の病室の天井を見上げていた自分が、まさか夜の街を駆ける大怪盗になろうとは。感慨深さと興奮で、今夜は全く眠れそうにない。
×月×日
ルルからの理不尽な最後の邪魔。
登校中、ルルに「あんた、明日なんか大事なテストでもあるの? やけに気合入った顔してさ」と言われ、勢い余ってボクの背中をパーンと豪快に叩かれた。
せっかくの怪盗の気合が削がれそうになったが、これもボクの日常のスパイスだと思うことにした。
〇月×日
最終装備のフィッティング。特製のワイヤーガン、スモーク弾、変装キット、そしてレプリカ。
すべての装備を、母さん特製の漆黒の怪盗服のポケットに完璧に収納し、無音で動けるかの動作確認を終えた。
△月×日
出発前夜。マッドサイエンティストな母さんからの最終激励があった。彼女は怪しい色のエナジードリンクをグラスに注ぎ、高く掲げながらこう言った。
『失敗して捕まったら、宇宙の果てまで私が追いかけてキミを解剖してあげるからねェ。せいぜい華麗にやり遂げておしまい』
最高にサイコパスで、最高に心強い激励だ。
×月△日
ついに、警察署のポストへ件の予告状を投函した。
明日、このカードを見た星凪市の警察が、どれほどのパニックに陥るのだろうか。それを想像しただけで、ボクの口の端がニヤリと吊り上がるのを抑えきれなかった。
×月△日
緊張の静寂。
学校から帰宅し、夕食を静かに済ませた。
すべては整った。準備に抜かりはない。明日、すべての歯車が完璧に噛み合い、ボクの本当の「第二の人生の幕」が華麗に開くのだ。
×月△日
さあて、完璧な王子様系怪盗を演じるとしよう!
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