後日談といこう。
あれから更に1ヶ月程が過ぎた。精神科医との幾度かの面談と、各科医による診察の結果、私は一先ず退院の運びとなった。そりゃもう、皆大喜びの大騒ぎだったよ。当人の私以上に。
「今後も定期的な通院は必要になります。服薬についてもキチンと守って下さい。それから、無理は絶対に駄目ですよ。自分の身体を気遣って下さいね」
「はい、先生。お世話になりました」
結局と言うべきかなんと言うか。私の身体は完治することはなかった。そりゃそうだ。問題が解決したとて、そこから1ヶ月入院した程度で十年分の病巣が完治などするものか。そも、体毛なんかはストレス性の脱毛症のせいで元には戻らんみたいだし。が、それでも治る部分は少しずつ快癒の方向へは向かっているらしいのは間違いないらしく。味覚については。
「さ、彩葉、召し上がれ♪」
「ヘルシーで美味しい、かぐヤチ特性ハンバーグなのです♪」
「うん、ありがとう……いただきます」
箸を入れればジューシーな肉汁が溢れるハンバーグ。おからとかを混ぜてボリュームを上げつつ、身体に優しい作りにしたらしいそれをぱくりと一口。
「……ん、美味し……これ、ケチャップと……ウスターソースも混ざってるのかな?ソースも絶品。付け合わせの野菜も茹でられてて甘いし……ほんとに美味しいよ」
「……ふぐっ……ちゃ、ちゃんと……あじ、わかってくれてる……っ!」
「よが、よがっだ……いろは……たくさんたべてね……っ!」
食事一つでこれである。いや感動しすぎだよお二人とも?なんて、原因も私だと思えば苦笑するのも何と言うか憚られる次第だ。とは言えこうして味覚をちゃんと取り戻せたのは大きいのではないかと思う。二人の料理を味わえるのは素晴らしい事なのだから。
「それにしても、その眼鏡に合うねぇ。彩葉にぴったりなのです」
「ほんとにね~。元々頭良さそうだったけれど、なお一層そう見えるよ」
「そっかな?そう言ってもらえれば嬉しいよ」
視力は未だぼやけている。改善の為に眼鏡を着用しているがこれはこれで慣れつつある。聴覚の方も同様に骨伝導補聴器を使用。まだまだ療養中の身だが、それでも日常生活をキチンと送っていくことが出来る。文明の利器だよねほんと。
「お~い、彩葉~?」
「ちゃんと食ってるか~?」
「あ、芦花、真実!」
「いらっしゃいませ~」
芦花と真実にも随分と迷惑を掛けた様に思う。思うと言うか掛けた。何度泣かせ怒鳴られたことだろう。自分の状況を深刻に捉えていなかったかつての自分に恥じるとともにお説教かましたい気分だよね。勿論物凄い謝罪したよ。
『別に良いの。前にも言ったでしょ。私は……彩葉がちゃんと生きていてくれたなら、それで良いんだよ』
『友達じゃん。堅苦しいのは抜きだよ抜き。それよりちゃんと飯食え。もっと食え。肥えろ』
とは彼女たちの言葉だ。以来こうして時折訪ねて来ては身体に気を使いつつのカロリー爆弾みたいな料理を持ち込んでくる。今日は……アボカドたっぷりピザのようだ。おいおい、私は今ハンバーグ食っとるんだが?
「夜にでも食べれば良いよ。遊んでくんでしょ?」
「芦花と真実もヘルシーハンバーグ食べる?」
「「食べる~♪」」
だそうだ。ほんと……得難い友人だ。これを蔑ろにしていたとかほんと……本来は土下座でも許されないよね……?
後は……そうだな……
「おっす、彩葉。お、芦花ちゃんと真実ちゃんも居るんか?」
「ひょっ!みかどさまきた。どどどどうしようろか?」
「まだ慣れないのか……どうも朝日さん、お邪魔しています……あ」
「……どうも、皆さんお集りのようやね……」
お兄ちゃんと……お母さんも頻度はそこまで高くないものの、度々訪れて来ては様子を確認していく。お兄ちゃんはともかく、お母さんは何処かばつが悪そうと言うか、居心地悪そうにしていると言うか……ねぇ?
「……お、お母さん?その、かぐやたち、ヘルシーハンバーグ作ってくれたん・・・・・・一緒に、食べてかへん……?」
「い、いやその、私が居ったら空気悪なるやろ……様子見に来ただけやし、後は皆さんで……ってうぉっ!?」
「はいはい、お義母さんは彩葉の隣にどうぞ~?」
「義娘の料理が食えねぇと申されるか~?」
何かあっちはあっちで色々あったようだ。完全にとは言えないだろうが、そこそこ関係は良好なように見えるかぐやとヤチヨとお母さん。ぎこちないように見えるが、それでも天性の人誑し技能所持者であるかぐやとヤチヨの前にはお母さんでも抵抗は難しいらしい。
「あ、ぅ、その、元気しとるか……?」
「……ん。まぁまぁ。まだ全然療養中だけど……お仕事の方も何とか復帰しているし」
そう、仕事だ。研究所の出勤停止は解除された。所員一同にも要らぬ苦労を強いてしまっただろう。私がやらなければいけないスポンサーさんとのやり取りや、技術実証試験の公開なんかも全部任せっきりだっただろうし……
『所長……お帰り、お待ちしておりました……』
所員の皆が泣きながら久方ぶりの出勤を出迎えてくれた時は割とガチ目にビビった。なんでだよと声を上げそうになったよね。迷惑掛けたのこっちだよって。
『いいえ、所長に対して不遜な物言いをしたことは事実。この上は職を辞してお詫び申し上げる次第にて……』
やめんか!?ただでさえ優秀な人材は不足しておると言うに!皆みたいなシゴデキ職員を切るとかあり得ないからね!?ほんとに辞めないでね!?フリじゃないよ!?てな感じで引き留めた。説得には結構な労力を費やしたが……結局は。
『あ~あ、皆が辞めたら私がまた無理することになっちゃうな~』
という脅し説得で何とか事なきを得た。ったく……何だってこう、忠誠心が強いのかねぇ……?
「……そ、そか……まぁ、無理し過ぎて体調管理疎かにせんようにな……人様に迷惑掛けるようなことの無いように……あ、いやちゃうくて……」
「……ふふ、大丈夫。分かっとるから」
私とお母さんの関係修復にもまだまだ時間が掛かるだろう。だけど、修復できるのだ。此処からまだ取り戻せるものがある。それはどうしようもない幸福な事なのだろう。
「それじゃ、改めて頂きま……う、うぅん?」
なんて考えながら再度食事を摂ろうとしたところ……なんだろ?お腹痛い……?
「え!?彩葉どうしたの!?どっか具合悪いの!?」
「びょ、病院!病院行こ!ね!?」
「しっかりして彩葉!」
「大丈夫!?何処が痛いの!?」
「すぐに車回すわ!母さんは彩葉の傍に!」
「横になれるか!?ほら、ゆっくりでええからっ!」
やべ、皆が青褪めて私を気遣いだした。しかしこの痛み、何か凄い前に覚えが……う、ん?
「……あ、これ……」
「「「「「「なにっ!?」」」」」」
いや、言葉に出したくないんだが……うぅぅぅ……取り合えず、トイレ行かせて……後、お兄ちゃんはマジでその……遠慮して欲しい……
「なんでやねん!?お兄ちゃんやぞ!?」
「……あ、も、もしかして……彩葉、あんた……?」
……た、多分、だけど……
─────
「お赤飯買って来たよ~!」
「彩葉、お腹あっためておこうね。痛み止めもキチンと飲もうね?」
「良かったねぇ……良かったねぇ……」
「ほんと、ほんとに良かったぁ……」
「これは確かに……俺、居らん方がええんかな……?」
「まぁ、もうしゃあなしやろ……」
今度はお兄ちゃんが気まずそうに正座しちゃった……ご、ごめんね?何かその……こんなタイミングで……え、っと……『おつきさま』が戻るとは思わんくて……
「めでたい事だよ!彩葉の身体がちゃんと治ってきている証拠なんだから!」
「取り合えず明日お医者さんに報告しようね?でも今日はゆっくり休んで?」
はぁい……ふふふ……
「なんか……嬉し……私、すっごい愛されているなぁ……」
口に出した途端、ぽかんとした皆の表情。次いで優しい笑みで頷かれる。それだけで何だか……胸がいっぱいで泣いちゃいそうで、でもやっぱり嬉しくて。私も笑っちゃうのだった。
END♪
ぽた……ぽた……
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ……っつぅ……あたま、いた……あ、はなぢ……?ううん、これはちがう……これは、わたしがわるいんだから……みんなは、わるくないんだから……かぐやも、やちよも、わるくないんだから……わたしがえらんで、みせてもらったんだから……いっつつつ……」
END……?
何もかも上手くなんていかないって、言ったでしょ?
これにて完結です。この後?ないですね……だって彩葉が選んだ結果ですから……
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