少しずつ状態が……?
「もう大丈夫だって。私にもおんなじ症状出たことあったけど、今もこうして健康だし」
そんな一言で再度大騒動に発展するとは思わなかったんだよ、いやほんと。
─────
『……と、言う訳でして、人間の身体とは非常に繊細です。過度のストレス、プレッシャー、怒りなどの負の感情によってダメージを負い、身体や精神への生涯に繋がる可能性があります。例を挙げれば『味覚障害』、『聴覚障害』など……』
「また暗い話見てる~。チャンネル替えてよ~」
「あ、ごめんごめん」
まるでデジャブのような光景。休日の昼食後、テレビから流れてくる心理学者のありがたいお話を聞いて顔をしかめるかぐやに苦笑しながらチャンネルを換える。ちょっと前にも同じ状況があったっけな~、なんてちょっと現実逃避。あの時はあの後めっちゃ怒られたもんな~。そして前回と違う状況はと言えば。
「ストレスか~。ほんと怖いよね~。ね、彩葉?」
「え、あ、はい」
「ストレスなんて感じないように、かぐやとヤチヨでぎゅってしてあげるからね~♡」
「そうっすね」
この様に両サイドから完全拘束に近い形で抱き着かれているところであろうか。あれ以来休みの度にこうして『癒しの提供♪』とか言う名目でぎゅうぎゅうと抱き着かれるのだ。うん、めっちゃ柔らかいし暖かい。だけどめっちゃいい匂いと感触。いかん、変な気分になりそうだ。心を静めなければ。今はまだ昼過ぎ。そう言う雰囲気になるのは早すぎる。
「ん~?どうしたのかな~?もしかして、エロ葉になっちゃいそうなのかな~?」
「ば、ち、違うって!そんな万年発情期みたいに言わないでよ!?」
「え~?ヤッチョたちは万年発情期でも大歓迎なんだけれどな~?」
いやいや何を言っているのだ二人とも?私はこう見えても立場ある立派な研究所所長なんだよ?そんな万年発情期だなんて……ねぇ?そうでなくとも普段から二人に泣かされて鳴かされて啼かされて……違うって。私は別にエロ葉じゃないってば!
「しかし……ストレスから来る障害か~……」
「……ん?何?どしたの?」
「はっ!?ま、まさか、この状況がストレスになっているとか言わないよね……?そんなことになったらヤッチョとかぐや、もう……」
「いやいや、『今』はそんなこと無いってば~」
「「……『今は?』……?」」
私という奴は、一応天才だなんて他称されているにもかかわらずどうしてこう学ばないのだろうか?だがしかし、ほんとに前回と違ってそこまで深刻性も無いし大丈夫だろうと判断してしまっただけなのだ。別に二人に余計な心労を掛けたかった訳ではないのだ。
「もう大丈夫だって。私にもおんなじ症状出たことあったけど、今もこうして健康だし」
「「は?」」
……あれ?ひょっとしてプレミしちゃったかな?抱き着きに込められる力が一気にましたもん。絶対に離さないと言う確固たる決意に満ち溢れたくらいの……待った、痛い痛い痛い。抱き着きかこれ?
「ちょ、ちょっと痛いって……何、どしたの?私またなんかやっちゃった?」
「やっちゃった?じゃないんだよなぁ……今のどういう事?」
「今の、とは?」
「『私にもおんなじ症状出たことあったけど』って、どういう事?」
ひぇ~、やっぱプレミだったぞおい。言わん方が良かった奴だこれ。
「あ、あのね、怒んないで聞いてね?ほら、かぐやが地球に来たばっかりの頃、私がパンケーキ作ったじゃない?あの、小麦粉と水だけの奴。あれってさ、かぐやがまずいって言っているの、実は良く分かんなかったんだよね。そもそも味しなかったの。で、さ。その、あの、えっと……い、今も、偶に……あ、味が、おかしくなることが……あったり、なかったり……?」
芦花と真実から偶にスイーツとかご馳走になった時も、甘そうな見た目だけで『おいしいね、これ』とかやってたっけ。二人に嫌な想いさせないようにって。いやほんと懐かしいよね。だけど二人からしたら大問題だったらしい。話している内にどんどん二人の表情が強張っていくのが分かる。これ、怒っているとかそう言うレベルじゃないな、うん。
「「……か……」」
「か?」
「「確保~っ!」」
「いやもう確保されてうわいてぇ!?」
やはりデジャブだ。二人によって拘束され台所へ連れ込まれる。そのまま二人は冷蔵庫を開けて、何やら作り始めた……うん?ジャムサンドイッチかな?
「彩葉?これ食べて?」
「え、あ、はい……うん美味しい。いちごジャムのさっぱりした感じが……」
「塩、混ざっているのに?」
おっとやべぇ。マジでやっちまったぞ。二人の瞳にみるみる涙が溜まっていく。
「い、いやほら、その時その時で症状まばらなんだよ。今日は偶々全然駄目なだけで、普段はもっとちゃんと味を感じているから」
これは本当である。ただ症状は完治しないようで、時折こうして味覚が消え失せることがあるのだ。なんかSFの主人公みたいな設定だね☆
「あのね彩葉?これから病院行くよ?」
「大袈裟だって。これくらい大丈夫だって。もう10年以上こうなんだから」
「10年以上こうなのが異常なんだよう……お願いだからちゃんと病院行こうよう……」
泣きながら言われると流石に罪悪感がヤバい。これはもう素直に応じるほかにあるまいて。
「ヤチヨ、朝日に連絡するから、そっちは芦花と真実にお願い」
「分かっている。彩葉、今回は前回よりも長いお説教だからね。覚悟してね」
「ほんと大事にしないで……こんなの私が弱かったから起こっただけなんだし……」
「どうしようヤチヨ。彩葉の自己肯定感がほんとにヤバいよう……」
「エライ事になりそうじゃなくて、もうエライ事になっていたなんて……」
悲痛な表情の二人に罪悪感はまずばかりだ。いやだなほんと、大丈夫だってばぁ……ね?
ぴぴぴろん
おっと?二度あるデジャブは三度目のデジャブ?端末へのメッセージも覚えがあるぞ……多分お兄ちゃんたちからだよね……?
『彩葉お前マジでふざけんなよ後は何を隠している全部吐けおい』
『酷いよ彩葉……そんなこと言ってくれなかったじゃん……そんな気遣い要らないよぉ……』
『気が付けなかった自分にも腹立っているし、隠されていたことにも腹立っています。ちゃんと言い訳考えておいてね?全部叩き潰すから』
「」
ほらね?やっぱりだった。しかも前回よりもめっちゃ怒ってた。震えてきやがったぜ……
「ほら彩葉、病院行こうね……」
「大丈夫、きっと良くなるからねぇ……」
そんな今にも死にそうな反応するの止めてくんない?絶対医者からも大したこと無いって言われて終わりだよ……
─────
「この状態で10年以上……?はは、何の冗談ですかね?」
医者からもめっちゃ怒られました……笑顔だけどなんか青筋立ってたし……定期的に内科、耳鼻咽喉科への通院、それから心療内科へも受診を勧められてしまったがこっちは断固拒否した。かぐやとヤチヨと一緒以上の心の癒しは無いしね。
「かぐやちゃん、ヤチヨちゃん。二人だけが頼りだ。今後彩葉に何かあった際は何時でも言い、俺に連絡くれ、な?」
「私にもお願い……何時でも良いから……少しでも力になりたいから……」
「私も、何時でも出れるかは分かんないけれど、可能な限り協力するからね……」
まるで人を重症患者みたいに……
「重症なんだよう……」
「自覚してよう……」
「はい、ごめんなさい……」
この日以降、エナドリの飲用は厳密に管理されるようになってしまった。ジャンクなやつも可能な限り控え、素朴な料理や薄味の料理なんかで味覚調整の運びとなった。後は、研究所から定期的に業務から完全シャットアウトしての休養を厳命された……私が所長だよね……?
「うっせぇ休め。シャットアウトの時に来たら懲戒会議するからな」
所員一同からすっげえ怖い顔で言われた……一番偉い筈なのに……
「彩葉?これは?美味しい?」
「はい、美味しいです。ちゃんと塩っ気もあって……うん、味分かるから……そんな泣きそうな顔せんで……」
「じゃあこれは?」
「甘いよ……うん甘い……大丈夫だから……自分で食べれるから……」
二人からのあーんでの食事の毎日。自分で食べようとすると誤魔化される可能性があるとか何とか……信用なさすぎだよね?皆も隠し事はしちゃ駄目だぞ?彩葉とのお約束だ☆
「「いろは?」」
「反省していますごめんなさい……」
続く……♡
まだ大丈夫……もう少し、大丈夫……