ぷるるるる……ぷるるるる……がちゃ
『ああ、やっと出はったんやね。連絡取っても全然出んのは学生時代から何も変わらんのね。怠惰に過ごしてはるようで羨ましいわぁ。流石は研究所の所長さん。他人に任せっきりで良いご身分やね』
あ、お母さん。ごめんね、連絡出れなかったや。なんか用なの?
『……あんた、最近仕事お休みしとるらしいやないの。やっぱりずっと変わらんね。あんたは甘ちゃんなままや。学生のお休みとは違うんやで?責任者が休んだだけでどれだけの人間が迷惑を被るのか分かっとる?それとも迷惑を掛けて当然だと思っとる?随分と偉くなったもんやねぇ?』
そうだね。迷惑を掛けてばっかりだ。私は何時までも変わらない。他人に迷惑を掛けてばっかり。成長しない。だけどそれでも頑張らなきゃ。早く治して、早く日常に戻って、早く皆に迷惑を掛けた分のお返しをしなきゃね。
『……?そ、そうやねぇ。迷惑かけてばっかり。そんなだから高校生の頃も周りに頼りっきりで、自分でなんて何も出来やしない。かぐやちゃん、やっけ。あの子が故郷だったかに帰る時も何も出来んと見送ってしまったんやろ。それで愛しているなんてよぉ言えたねぇ?笑えて来るわぁ』
そうだね。私は全然駄目だ。何やっても中途半端で、何やっても上手くいかない。だからかぐやも護れなかったし、ヤチヨに辛い思いをさせちゃった。本当に駄目なんだ。だから二人に幸せを上げないといけないの。辛かった分の、沢山の幸せを。その為にも早く早く良くならないと。
『……あんた、ほんまに彩葉か……?どうしたん……?様子おかしいで……?普段だったらもっと……反論してくるやん……何が……』
お母さん。私はね、お母さんに褒めて欲しかったの。よくやったね、頑張ったね、エライねって。だけどお母さんは、このくらいで満足してどうする、もっと上を目指せ、やる気を出せって、そればっかりだった。私はお母さんの期待する娘にはなれないんだって思って。一度は吹っ切ったつもりだったの。でも、やっぱり駄目だった。上手くいかない時、どうにもならなかった時、誰かに迷惑を掛けた時、何時だって思い出す。『あんたは甘ちゃんだから』って、お母さんの言葉が。
『え、あ、そ、そうや。あんたは何時までも甘ちゃんで……一人じゃ何もできない……』
そうだね。私は一人じゃ何もできない。天才なんて他称されて、かぐやとヤチヨの身体を作って、幸せに生きれて。だけど、どうしたって思い出すの。かぐやを護れなかった自分の事。ヤチヨを8000年も待たせた原因を作っちゃった自分の事。どうしようもない時分の事。何時だって思い出しちゃうの。
『い、彩葉?』
だからね、頑張らないといけないの。頑張って頑張って、もっともっと頑張って。かぐやとヤチヨがもう二度と悲しい想いも苦しい想いもしなくていいようにしなくちゃいけないの。その為には止まれない。止まっちゃいけない。止まる訳にはいかない。もっともっと前に。もっともっと先へ。どんな状態でも進まないと。
『あんた、何言って……』
だからねお母さん。発破をかけてくれてありがとう。お母さんは何時だって私を認めてくれないから。周りは皆私を認めて、もう大丈夫だよって、止まっても良いんだよって言ってくれるから。立ち止まりそうになる。でもお母さんだけは違う。まだ足りない、お前は駄目だ、甘ちゃんの半端者って叱ってくれるから。止まっちゃ駄目だって理解させてくれるから。本当にありがとうお母さん。
『あ、ま、ちが、そうじゃ』
私ね、お医者さんに通っているの。鬱症状、味覚障害、睡眠障害、夢遊病……後、なんか書いた覚えのない遺言状とかも見つかって。内科と耳鼻咽喉科と心療内科に通っているの。でもこんなの弱いからだもんね。私が弱いから、心が弱いから、だからこんなことしなくちゃいけないんだもんね。本当に弱っちいよね。
『待って、何それ、お母さん知らない、待って』
知らせたらまた怒られると思ったから。だけどもっと早く知らせた方が良かったね。その方がもっともっと発破をかけてくれたもんね。でもこれで十分。お母さん、心配しなくて良いよ。私、まだまだ、まだまだ頑張れるから。周りに迷惑を掛けないように精一杯頑張るから。それじゃあね。
『いろは、ま』
ぴっ
……ふぅ……
「彩葉?電話してたの?誰から?」
「ん~?お母さんから。近況報告してた。ごめんね、ご飯の準備中だったのに」
「大丈夫だけど……寧ろ彩葉が大丈夫……?お義母さんと電話なんて……」
「うん!全然平気!すっごいやる気出ちゃったよ!さ、ご飯食べよ!たくさん食べて沢山休んで、早く良くなるんだ!で、二人に心配も迷惑も掛けないようになるよ!」
「……無理、しちゃ駄目だよ?」
「勿論だよ!」
そう、無理なんてしないよ。だってお母さんは無理だったことは言わないから。つまり出来る事なんだ。私は出来る。私はまだまだ出来る。こんなところで止まってられない。頑張んないとね!
「いっただきま~す♡」
「お、良い食べっぷり。かぐや嬉しいな♪」
「彩葉?ヤッチョの作ったのも食べてよ~♪」
「おいひい♡きょうもしあわへ♡」
……ぴっ……『この番号は、おかけになった電話番号への通話は、お客さまのご希望によりおつなぎできません』……
可笑しくなっていく日常。なのに変わらない日常。