何時もと変わらぬ夜だった。
何時ものように朝起きて、何時ものようにかぐやとヤチヨに挟まれていて、何時ものようにそれが嬉しくて、何時ものように起きてきた二人の頬にキスをして、何時ものように二人とも嬉しそうで。何時ものように私の作った朝食を三人で食べて。やっぱり自作だと『味があまりしない』けど、自分で作ったものだから特に問題なく笑いあって。
お仕事はまだお休みのままだから、何時ものように二人と過ごして、何時ものように二人の合作お昼御飯を食べて、何時もよりも『味がしっかりしているような気』がして、何時ものように美味しいよと告げるとどこか申し訳無さそうにしながら、それでも嬉しそうで。
何時ものように午後からは配信をして、何時ものように皆から心配のコメントを貰って、『なぜか少し見辛くなったコメント欄の文字を必死に辿り』、何時ものように大丈夫だよと精一杯の元気アピールをして。今日は何もボロが出なかった事に凄く安堵して。
何時ものように夕食も二人の合作で。やっぱり自作より美味しい『ような気がして』。そしてやっぱり二人は何か申し訳無さそうに笑ってて。何時ものように三人でお風呂に入って、何時ものようにじやれあって、何時ものように三人で同じベッドに入り込み、何時ものように愛して貰って。
凄く幸せなんだ。凄く満たされてるんだ。本当に本当に楽しいんだ。
なのに、なのに何故か、時折涙が溢れる。溢れ出て止まらなくなる。訳も分からずポロポロと流れ落ちる。
今のところ隠せている。だってこんなの、やっぱり何時ものように私が弱いのがいけないんだから。しゃくり上げるわけでもなければ嗚咽が漏れる訳でもない。ただただ涙が溢れるだけなんだから。
「……ぁ……」
今夜もそうだった。二人に愛されて満たされて穏やかで。そんな風に眠っていたのに、唐突に目を覚ますと同時に涙が溢れていた。いや、多分涙が溢れたから目が覚めたのか。まぁどちらでも良いけれど。このままにしておくとバレちゃうから、こっそり抜け出して洗面所へ。最近特に二人が私の事に関して敏感なのだが、どうにか起こさず抜け出せた。
パシャパシャパシャ
「……ふぅ……止まった、かな……?」
何度か顔を洗っていると漸く止まった涙。良かったと胸を撫で下ろして、何気なく窓ガラス越しに外を、空を見上げて。
つきがなかった。
「……っぁ……?ぁぇ……?」
つきがない。なんで?なんでつきがないんだろう。つきがなくなったら、かぐやはどこにいっちゃったんだろう?きえたの?たいへんだ、さがさなきゃ!
玄関を開け、タワマンを抜け、誰も歩いていない道路を走った。見えない月を追いかけて、追いかけて、追いかけ続けて。どれだけ走ろうと月は見つからなかった。
「はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!」
いつの間にか、私は自身が所長を勤める研究所へたどり着いていた。そうだ、お仕事しなくちゃ。お仕事して、早くかぐやとヤチヨのことをもっともっと幸せにして上げなきゃいけない。呑気に休んでなんていられないんだ。頑張らなくちゃ。
「「彩葉っ!?」」
あれ、かぐやとヤチヨの声だ。なんだろう?凄く慌てた、切羽詰まった声だ。どうしたの二人とも。そんな泣いて。何かあったの?
「い、いろ、いろはぁっ!なん、どうして、なんでここにっ!?」
「ヤッチョたち、凄く心配したんだよっ!?なんでここまで来たのっ!?」
なんでって……
「つきがね、みえないの。かぐや、どこにいっちゃったんだろう?かぐやとやちよは、わかる?」
そうだ、かぐやを、月を探してたんだった。なんでお月さまが見えないのかな?
「……はっ……ひぅっ……きょ、きょうは……しんげつだよぉ……?」
しんげつ?しんげつ……ああ、新月か。
「そうだね、新月だね。月も隠れてて見えないけれど、あそこでは今日もかぐやが頑張ってるのかなぁ?」
応援してあげたい。頑張れかぐやって。迎えに行きたい。お疲れ様かぐやって。でもそんなことしたら駄目だから。ここから応援してるからね、かぐや?
「ひっ、ひっ、ひぃぃぃん……っ……いろはぁ……っ……」
「さ、お家に帰ろうね……パジャマに靴も履かないで……足、綺麗に洗わなきゃね……?」
ありがとうヤチヨ。かぐや、泣かないでよ。私が迷惑掛けちゃったのかな?ごめんね。でも大丈夫。私は元気だから。もうすぐ仕事にも復帰するし。そしたら心配なくなるでしょ?
「うぇぇぇん……いろはぁ……」
「大丈夫、大丈夫だよ彩葉?大丈夫だからね?」
帰り道、お兄ちゃんや芦花、真実にも会った。私を探してたらしい。何か用でもあったの?って聞いたら泣かれてしまった。ごめんね?
─────
朝だ。何だか心地よい目覚めだ。いや、かぐやとヤチヨの二人に挟まれてて心地よくない目覚めなんてあろうか?いやないね。断言しても良い。この両名の間にある空間こそ至高の隙間に違いない、うん。
「……おはよう彩葉……良く眠れた?」
「おはよ、かぐや。うん、なんかすっきりしたよ。なんでこんなに清々しいのかな?昨日何かしたっけ?」
「……ううん、何も無いよ。身体が本調子になってきている証拠じゃないかな?」
そうかな。そうだと良いな。私は本当に迷惑しか掛けてないから。さっさと回復して、お仕事して、二人をハッピーエンドに。それが生きがいで目標なんだからね。
「……ヤチヨ……彩葉……入院させなきゃいけないのかな……?今回は皆で探して見つけられたけど……このままだと……」
「……無理やり仕事から引き離したことも原因かもしれない……いっそ、仕事に復帰させれば……改善の可能性が……?」
「……そうかも……しれない……大丈夫だよね……?彩葉、大丈夫だよね……?」
「大丈夫に決まってるよ……そうじゃなきゃ……なんで彩葉が……」
ん?お~い、どしたの~?
「何でもないよ彩葉~♡今朝はなんと!かぐやちゃん特性のパンケーキだよ~?心して食べるように!」
えっ?作ってくれたの?ごめん、朝は私の当番なのに……
「気にしない気にしない♡さ、食べよ~♡」
「い~ろは♡ヤッチョがあ~んしたげるね~♡」
「ずりぃっ!彩葉はかぐやのあ~んの方が良いもんね♡」
うぉ、なんて至れり尽くせり……勿論両方頂きますね♡
「「召し上がれ彩葉~♡」」
うん、頂きます。やっぱり美味しいね。二人の料理は最高だよ。
「ほんと~?嬉しいな♡しっかり『完食』してね?」
「『残したら駄目』だよ~?」
子供かね私は。言われんでも約束通りちゃんと食べるよ~。
「……ごめんね彩葉……」
「ヤッチョたち、何にも出来なくて……」
二人が私を見て泣き笑う。なんでかな?嬉しいのかな?そうだったら私も嬉しいな。
「二人とも何時もありがとう。大好き♡」
続く……
幸せを噛み締めよう