終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~   作:APP3

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短めです。



第十一話

「カイル様! こっちこっち!」

 

 

 カイルに手招きしながら、周りを見渡す。

 

 寒空の下、脇道の雪を掻く人々。

 通りには、雪を落とすため傾斜をきつく取った屋根の家々が並んでいる。

 

 多くはないが露店もちらほら見え、活気も悪くない。

 

 

「やぁ、可愛らしいお嬢さん! ノルデンの町は初めてかい? どーだい、メープル酒は! 暖まるよ!」

 

 

 露店の男が声を張った直後、潮の匂いを含んだ風が吹き抜け、着込んでいるにも関わらず身体が震えた。

 

 

「二つ貰えるかしら?」

 

 

 ルシアンは指を二本立て、店主に見せる。

 

 ──シルヴァレイン領内で最大規模の町、ノルデン。

 

 簡素だが港もあり、シルヴァレイン領の税収の七割を支える重要な交易拠点だ。

 

 実家にて書類で確認していたが、実際に見れば印象は変わる。

 

 

「はい! メープル酒二つ……って、領主様ではないですか!」

 

 

 店主の驚きの声に、ルシアンは後ろを振り向く。

 少し遅れていたカイルが、いつの間にかすぐ後ろまで来ていた。

 

 

「カイル様も一緒にどうですか?」

 

「ありがとうルーシー。店主、片方は俺に」

 

「へいどうぞ! で、もしや、そこのお嬢さんは」

 

「あぁ。俺の妻だ」

 

「これはこれは! 何ともまぁお似合いなことで!」

 

 

 カイルと店主の雑談を眺めながら、ルシアンは受け取った木杯に口を付ける。

 

 

「……甘っ」

 

 

 思わず眉を顰めた直後、生姜の刺激が舌を刺し、温かな酒が喉を流れ、身体を暖めていく。

 甘ったるいだけかと思えば、悪くない。

 

 

「どーだい奥さん! メープル酒はノルデンの名物なんだ!」

 

「とっても美味しいです!」

 

「嬉しいねぇ。あ! あそこの赤い屋根の店、ウチの妹がパン屋をやってるんだ! うめぇから是非寄ってってくれよな」

 

 

 メープル酒を飲み終わり、店主に見送られながらその場を後にする。

 

 店主に言われた通り赤い屋根を目印に二人で並び、街路に足跡を付けていく。

 そんな時、ちらりと隣で歩くカイルに目をやる。

 

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「……なんでもねぇよ」

 

 

 ──正直な話、思っていたよりまともな町だ。

 

 エリオットに取り寄せてもらった、王都提出用の領地台帳を見る限り、もっと困窮していると予想していたのだが。

 

 害獣駆除に寒さ対策。

 毎年かかる必要経費は大きく、それに対して税収は決して潤沢とは言えない。

 

 それでもこれだけ町を維持しているのだから、領政を預かっていた者の腕は確かなのだろう。

 

 どうりで剣しか取り柄のない男が領主でも問題ない訳だ。

 

 

「ねぇ旦那様。手、繋ぎましょう?」

 

「いいのか?」

 

 

 ルシアンはカイルの質問に答えず、手を掴む。

 硬く、ごつごつしていて、男らしい手に包まれる。

 

 

「夫婦なのですから。ね?」

 

「……ルーシー」

 

 

 ルシアンはその手を引っ張り、そのまま歩いていく。

 

 

 現在、この領地の政務は、その有能な者一人によって支えられているのだろう。

 

 そして、カイルはその者に任せっきりなはずだ。

 

 ──自分のやるべきことが見えた。

 

 誰に指図されたわけでも、願われたわけでもない。

 ただ、自分がそうしたいからだ。

 

 カイルを支える。

 カイルに足りない所を補う。

 

 妻として、男爵夫人として。 

 そして──認めたくはないが、友として。

 

 

「カイル」

 

「ん?」

 

「──二人で頑張っていこうな」

 

「……ッ! あぁ、もちろん」

 

 

 しんしんと雪が降り始める中、二人の吐く白い息が溶け合った。

 

 





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