終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~   作:APP3

12 / 12




第十二話

「このパン。どうして足跡の形をしているの?」

 

「それはですね! 向かいの山、ルプスノア峰に住む山神様の足跡を象ったものなんです!」 

 

  

 暖炉が焚かれた温かな店内。

 棚に並べられた、足跡形のパンを指さすルシアンに、赤い三角巾を被った店員の少女は答える。

 

 

「山神様?」

 

「はい!」

 

「……山神様?」

 

「はい! 山神様です!」

 

「…………なるほど?」

 

 

 二人の様子を見かねたカイルは、首を傾げるルシアンの肩を軽く叩く。 

 

 

「ルーシー。その山神様ってのは、ス(・)ノ(・)ウ(・)ウ(・)ル(・)フ(・)のことだ」

 

「スノウウルフって、厄獣の?」

 

「そうだ」

 

 

 厄(・)獣(・)

 それは、この世界に蔓延る魔力を宿した獣であり、危険の象徴だ。

  

 

「へぇ……それはまた、色々と事情があるのね」

 

 

 ルシアンもスノウウルフの名には聞き覚えがあったのだろう。  

 顎に手を当てて考える素振りを見せている。

 

 ──基本的に厄獣は駆除の対象であり、ルシアンを失ったと思っていた二年間、俺は厄獣を数え切れないほど狩った。

 

 そして気付けば、それで名まで上がっていたのだ。

 

 あの頃は、生きて帰れるかどうかなんて考えもしなかった。

 胸に空いた穴から目を逸らすように、ただ剣を振るっていた。

 

 結局そのおかげで今があるのだと考えたら、何とも妙なものだ。

 

 

「山神様達は、大きな雪崩が来る前になると、麓まで降りてくるんです。雪の上に足跡を見つけたらみんなで避難するんですよ。昔からそれで凄く助かってて、この山の近くに住むみんな、山神様に感謝してるんです!」

 

「とってもいい話を聞けたわ。ありがとね。このパン二つ貰えるかしら?」

 

「わかりました!」

 

 

 ルシアンが選んだパンを店員から受け取り、店を後にする。

 

 暖炉で暖まっていた店内から一歩外へ出ると、降り始めた雪と冷気に思わず身震いしてしまう。

 

 隣のルシアンの方に目を向けると、同じように身震いをしながら、二の腕を擦っている。

 

 ルシアンの、赤くなった指先。

 その指先へと手を伸ばし、触れようとしたその時、

 

 

『おまえの……おまえのせいでにいさまは!!』

 

 

 ──エリオットの叫びが、聞こえた気がした。

 

 

「おい、カイル? 顔色悪いぞ。まだ寝足りないか?」

 

「……そうかもしれない」

 

「はぁ……仕方のねぇやつだな」

 

 

 やれやれと肩をすくめるルシアン。

 

 

 俺は、何をしようとした?

 何を当たり前のように、彼に触れようとしている。

 俺が──ルシアンをあんな目に遭わせた俺が。

 

 昨日の出来事。

 ルシアンを抱き上げ、ベッドへと運んだ時、俺はどうにかなりそうだった。

 

 腕の中で不安そうな表情を浮かべる彼を見ると、何もかもむちゃくちゃにしてやりたかった。

 

 ──ありえないのだ。

 彼が俺の腕に抱かれていること自体が。

 

 ルシアンと俺は友達で、ライバルなのだ。

 それがなんだ。今は彼と俺は夫婦になってしまっていた。

 

 どんな形でもいい、一緒にいたいと願ったのは確かだ。

 

 しかし、その願いのためにルシアンが何かを失うことだけは、絶対にあってはならないのに。

 

 彼は何を失った?

 レグリア公爵家を継ぐ未来と、男としての人生。

 数多の人を従える、俺なんかよりもよっぽど貴族らしい貴族になっていたはずなのだ。

 

 辺境の地で、俺の妻として生活する人生なんて。

 

 

 俺は、俺は──

 

 思考が沈んでいく。

 降り積もった真っ白な雪の中へ。

 

 

「──団長ー! 雪結構強くなりそうなんで帰りましょー!!」

 

 

 遠くから響く、レックスの呼び声によって、意識が戻ってくる。

 

 

「だってよ。おい、帰るぞ」 

 

 

 ルシアンはカイルの手を握る。

 冷たい手と手が固く結ばれる。

 

 

「ルシアン」

 

「ん?」

 

「俺は、君の隣に立って恥ずかしくない人間になりたい」

 

「おぉ。どうしたんだ急に」

 

「だから、もう少し我慢していて欲しい」

 

「? 何のことかわかんねぇけど、寒くなってきたし早く帰ろうぜ」

 

 

 ルシアンに手を引かれ、馬車の方へと戻っていく。

 

 待っていてくれ。

 俺(・)が(・)必ず、君が何不自由なく暮らせる領地にしてみせるから。

 

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

元剣豪のTS巫女が昔のライバルに抱かれるまで(作者:ともがら)(オリジナル:歴史/恋愛)

狐に魅入られ女となり、剣を捨てた信太新三郎。▼かつて彼には、互いの剣に焦がれ、共に天下一となることを誓った好敵手がいた。▼それから七年。▼山里の巫女として暮らす新三郎の前に、その男——鳴海兵馬が現れる。▼兵馬が七年ものあいだ探し続けていたのは、ほかならぬ新三郎その人だった。▼互いの剣に脳を焼かれた好敵手同士が、七年越しの劇重感情をこじらせた末、元剣豪のTS巫…


総合評価:330/評価:8.5/完結:5話/更新日時:2026年09月24日(木) 19:06 小説情報

主人公に全てを託して死ぬタイプのヒロインにTS転生したっぽいし、きっちり役割を果たすぞ!(作者:匿名退場予定)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

いい感じのところで主人公に未来を託して死ぬヒロインにTSしちゃった▼でも、原作再現とかできるなら楽しくね?▼だから死ぬまでの余生を楽しむぞ!▼……なんかいきなり主人公くんと仲がいい状態から物語がスタートしちゃったけど、まあいっか▼そんな話


総合評価:683/評価:8.7/連載:8話/更新日時:2026年09月24日(木) 19:03 小説情報

『世界くらい救ってこい!』と送り出した子分、十年経ったら様子がおかしい(作者:べべべたろう)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

転生したら村娘だった。▼そんな俺の特筆すべき点は、勇者の幼馴染であること。▼「俺の子分なら、世界くらいパパッと救ってこい!」▼そう言って送り出して十年。▼帰ってきた勇者の様子が、なんかおかしい。▼*TS転生、精神的BLものです。


総合評価:644/評価:8.67/完結:10話/更新日時:2026年08月23日(日) 21:00 小説情報

TS転生令嬢は婚約したくないので魔法研究で身を立てようと思います(作者:Fiomia)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

伯爵令嬢ロザモリアには、地球でシステムエンジニアとして働いていた前世の記憶がある。▼そして何より、前世は男だった。▼五歳のとき、大病をきっかけに前世を思い出した彼女は、「男性とは結婚したくない」と考えるようになる。しかし貴族令嬢である以上、いずれ結婚は避けられない。▼ならば、魔法研究者として自立しよう。▼そう決意したロザモリアは、魔法と錬金術を学び、国内最高…


総合評価:58/評価:-.--/完結:60話/更新日時:2026年09月24日(木) 07:00 小説情報

TS娘と情緒をぐちゃぐちゃにされる相棒(作者:べべべたろう)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

▼なお、TS娘本人の情緒もぐちゃぐちゃな模様。▼【ちゃんとしたあらすじ】▼その日、冒険者ニコは女になった。物理的に。▼冒険者としての相棒兼幼馴染で親友のカイは無類の女好きである。ニコは当然、貞操の危機を覚えずにいられなかった。▼が、予想に反してカイはニコに手を出さなかった。なぜなら、奴はTSしたニコによって情緒をぐちゃぐちゃにされていたからである。▼*後天T…


総合評価:1055/評価:8.94/完結:15話/更新日時:2026年09月07日(月) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>