終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~ 作:APP3
雷が弾け、銀白の髪に金色が混ざり始める。
「立て」
ルシアンはベッドから身体を起こし、同じく身体を起こしたカイルを突き飛ばす。
「ぐぁっ!?」
雷によって強化された身体で突き飛ばされたカイルは、そのままベッドから転がり落ちる。
「立てよ」
「うぅっ」
倒れるカイルの胸倉を両手で掴み、無理矢理立たせ、そのまま壁に押し付ける。
「なぁ。お前は何が言いたいんだ? え? 言ってみろよ」
「…………俺が君と出会わなければ、君に勝たなければ、君があんな無茶な魔法を編み出すこともなかった。あの日だって、俺がもっと早く助けに行けていれば、君があそこまで無理をすることもなかったって」
俯くカイル。
ルシアンは更に力を込めて壁に押し付ける。
「──ッ!! お前がオレの人生を評価してんじゃねぇ!!」
叫ぶ。
「オレはな、お前に勝ちたくて努力したんだよ!! 同じ天才って呼ばれてたお前の鼻をへし折りたくて、あの魔法を編み出したんだよ!!」
声を荒げる。
「それをお前は失敗だと、馬鹿だと評価すんのか!? あぁそうだろな、世間様から見たら大失敗もいいところだ!! 剣士になんかならず、魔法だけ使ってりゃ、こんなことにはなってなかっただろうしな!!」
髪を振り乱す。
「オレの今までの人生はな、お前を倒すためだけに費やしてきたんだ!! そのせいでオレの人生はめちゃくちゃだ! でもな、後悔なんて一つもねぇんだよ!!!」
視界が歪む。
「なんでか分かるか!?」
頬に涙が伝う。
「それはな──お前に負けたことが、何よりも悔しかったからだ!!!」
胸倉を掴んでいた手から力が抜け、ルシアンはその場にへたり込む。
「お前がそうやって思うのは勝手だ……でも、こうやってオマエといることを選んだオレの選択まで間違いだって、言わないでくれ…………」
「ルシアン……」
「オマエは覚えてねぇかもしれないけど、小さい頃、オレがお前に勝ったら、その後自分はどうなるのかって聞いてきただろ……? オレはな、その時オマエを部下にしてこき使ってやるって言おうと思ってたんだ……」
ぽたり、ぽたりとカーペットが濡れる。
「でも、それを決めるのはオレじゃねぇ……オマエの人生はオマエだけのものだから」
「本当は、オレはあの時からずっと、オマエと一緒にいたかったんだ……オマエだけなんだ……オレに媚びず、機嫌を伺わず、ただのルシアンとして見てくれたのは……」
顔を俯け、膝の上でぎゅっと手を握り込むルシアン。
そんなルシアンを──カイルは抱き締めた。
◯───
──俺と、同じだったんだな。
ルシアンを抱き締める腕に力がこもる。
同じように他者から勝手に天才と誉めそやされて、勝手に期待されて。
俺は勘違いしていた。
ルシアンは強くて、俺なんかよりも立派で、俺みたいにウジウジ悩まなくて、俺よりももっともっと素晴らしい人生が相応しいのだと。
唯我独尊を地で行く彼の、その心の内まで見ようとはしていなかった。
誰よりもルシアンの側にいたはずなのに。
俺もまた、俺達を勝手に評価した人間と同じように、ルシアンはこうあるべきだと押し付けていたのだ。
「ルシアン。ごめん…………俺は、君をちゃんと見ていなかった」
「……俺は、君なら何でもできるって思ってた。君にはもっと凄い人生が相応しいって……勝手に思ってたんだ」
「でも違った。今、やっとそれに気付いたんだ」
ルシアンの頬を伝う涙を親指で拭う。
「君は最初からずっと────ルシアンだったんだね」
赤く腫れたルシアンの目が、痛いほど真っ直ぐ向けられる。
「そうだ……オレは、ずっとオレなんだ…………ルシアンなんだよぉ……!」
ルシアンがカイルの胸元に縋り付く。
「カイル、頼む……オレを…………オレを選んで。他の誰でもない、ただのオレを選んでくれ……」
「ルシアン、大丈夫だよ」
カイルは縋り付くルシアンの両肩に手を添え、僅かに身体を離し、目を見合わせる。
海のように蒼い瞳が揺れる。
ルシアンは身体を震わせ、顔をみるみるうちに青ざめさせていく。
「待って。嫌だ……嫌だ……!! オレを一人にしないで! オレを見て!!」
「ごめんね。後で殴っていいから」
「──ッ!?」
カイルは、そんなルシアンの──唇を奪った。