終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~ 作:APP3
「ごめん。めっちゃ変なこと口走った」
「大丈夫だよ。俺の方こそごめん。紛らわしいことして」
「オマエは謝んな……オレが勝手に……っ、不安になっただけだ」
カイルとルシアンは壁に背を預け、並んで床に座る。
ひんやりとした壁とは対照的に、触れ合う肩は温かい。
「なぁ、カイル。オレ、多分オマエのことが好きだわ」
ルシアンは首を傾け、カイルの肩に頭を預ける。
「……いいのか? 男同士だって言ってたろう?」
「わかんねぇよ……てか、オレが逆に聞かせろ。オマエもオレなんかでいいのかよ」
「もちろん。俺はルシアンが好きだから。気にしないよ」
「……少しは気にしろって。ばか」
悪態をつくルシアン。
そんなルシアンの手をカイルは握る。
「まぁ、オマエらしいな。昔からずっと真っ直ぐで……オレはそんなオマエが好きだ」
「──ッ! さっきから好き好きって…………言われるこっちの身にもなって欲しいな?」
「ばーか。オマエが先に言い出したんだろ。やり返してるだけだ」
ルシアンはカイルの手を握り返す。
「カイル。オレと出会ってくれて、ありがと」
「……っ! こっちの方こそ、ありがとう。俺と一緒にいてくれて」
二人はさらに肩を寄せ合う。
それからしばらく、どちらも何も言わなかった。
やがて静かな部屋に、二人の寝息だけが混ざり始めた。
ルシアンの銀白の髪が金色に光り始める。
そして、その金色が毛先から抜け、形を成していく。
現れたのはルシアンとよく似た女。
その女はベッドから毛布を手繰り寄せると、壁を背に眠る二人に掛ける。
女は薄く笑うと、ルシアンの頭に手を当て、壊れ物でも扱うかのように優しく撫でた。
◯────
「くっはっは!! 流石は王の器! 我の腕を持っていくとはな!」
「はぁ……はぁ…………クソがっ」
荒廃した校舎を背に、血に濡れた銀白の髪を垂らす男が、剣を地面に突き立て、唾を吐く。
そんな男に立ち塞がるのは、漆黒の毛を生やした巨大な猿。
獣臭い古びた鎧を身に纏い、大剣を担ぐ猿は豪快に笑う。
その猿の傍らには、銀白髪の男が切り落とした猿の腕が転がっている。
「貴殿が魔導を究める道を選べば、どれほど大成したか! 実に惜しい!!」
「はぁ……はぁ…………」
「しかし無念だ! 貴殿ほどの才なら、器にならずとも我らを従える偉大な王に成れると思っていたのだが! 致し方なし!」
猿は大股で銀白髪の男に近付く。
そして、大剣を地面に突き刺すと、大きな手のひらを男へ向ける。
「……もっと、もっとだ……力を、貸せ……!!」
銀白髪の男は剣を杖代わりに立ち上がった。
そして、その周囲を飛び回る金色の光を掴むと、全身を雷が包んだ。
「オレは、こんなところで負けられねぇんだよ……アイツに勝つまでは、誰にも負けられねぇんだよ!!!」
雷が弾ける。
男の肌を雷が焼く。
剣を横に寝かせ、頬の前に構える。
そして、地面が砕けるほど踏み込んだその時────雷が消えた。
全身から力が抜け、剣を取り落として地面に倒れ込む。
「けほっ! ゴホッ!!」
血を吐き、地面を汚す。
ピクリとも動かなくなった男は、せめてもの抵抗とばかりに、近付いてくる猿を睨みつけた。
猿の手が男に触れそうになったその時、猿は大きく後方へ跳び、何かから距離を取る。
そこに立っていたのは、黒髪の男だった。
「強者の気配だ。貴殿、名は?」
猿の問いを無視し、黒髪の男は倒れ伏す銀白髪の男を見つめ、
「よかった、間に合って。もう大丈夫。ルシアン、後は俺に任せてくれ」
心底安心したように、笑みを浮かべた。
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