終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~ 作:APP3
隣に立つのは、純白のドレスを身に纏った、銀白の髪の美女。
カイルの誓いが終わると、神官は隣に立つルシアンへ静かに目を向ける。
「汝、ルーシー・アルヴェイン・ド・レグリア。カイル・ローデン・ド・シルヴァレインを夫とし、その生涯を共に歩むことを誓うか」
「誓います。今日この時より、カイルを我が夫とし、その名誉を守り、喜びを分かち、苦難を共にし、生涯その傍らを歩むことを」
──カイルはルシアンの誓いを聞き、息を呑んだ。
何よりも、誰よりも大切な友。
そんな友と、こんな日を迎えるなんて。
「両名の誓いを、ここに神の御前にて認めます」
神官は二人を見渡し、静かに微笑む。
「では最後に──誓いの口づけを」
どこか複雑そうな顔をしながらも、意を決したのか、顔を上げ、目を瞑ったルシアン。
カイルはルシアンを見つめる。
二年前、もう二度と会えないと思っていた。
パーティーで再会した時、本当は伸ばした手で君を掴みたかった。
掴んで、もう二度と失わないように、目の届く所にいてもらえるように攫っていきたかった。
でも、もうそんなことを願う必要はない。
君は、こんな俺を知れば気持ち悪がるだろう。
きっと嫌な顔もする。
それでも君は今日、自分の意思で俺の隣に立ってくれた。
どんな形でもいい。
俺は、ずっと君の側にいたいんだ。
いくら待っても口づけないカイルを心配したのか、ルシアンは薄目を開ける。
「──ッ!?」
そんなルシアンの唇に、カイルはそっと唇を重ねた。
◯────
結婚式が終わり、カイルが一足先に領地へ赴任してから二週間。
ルシアンの輿入れの準備が終わった。
揺れる馬車の中、婚姻が決まってからの慌ただしい日々を思い返しているうちに、ルシアンはいつの間にか唇を撫でていた。
辛かった。
誓いの文を暗記するのも、婚礼の作法を学ぶのも──何より、嫁ぐ決心をするのも。
そんな鬱屈とした馬車の中──ルシアンとは別に一人、能天気に笑う馬鹿がいた。
「奥様! 雪ですよ雪!!」
「えぇ……そうね。少し肌寒くなってきたし、上着を取ってくれないかしら。アーシャ」
窓の外を目を輝かせながら見つめる、実家から連れてきた、否、半ば押し付けられた侍女のアーシャ。
「わっかりました! どーぞ上着です!」
こいつが犬なら尻尾をブンブンと振っているのだろう。
実際にはポニーテールに纏めた桃色の髪を尻尾の代わりに振っているが。
随分とご機嫌なアーシャから上着を受け取り、羽織る。
こいつの反応を見ていれば旅の退屈な時間も紛れるかと思っていた時、コンコンと窓が叩かれる。
アーシャが窓を開けると、実家からの護衛が顔を見せた。
「奥様。ここからはシルヴァレイン男爵家の護衛へ引き継がせていただきます」
「わかりました。ここまでご苦労さまでした。気を付けて帰ってくださいね」
「はっ。では失礼します」
労いの言葉をかけたルシアンに一礼し、護衛が馬車から離れてしばらくすると、
「お、すげぇ別嬪さん!」
茶髪の軽薄そうな男が、開いた窓から顔を覗かせた。
誰だか分からないが、貴族の馬車に顔を突っ込む不敬者を見て、ルシアンは顔を歪ませる。
「奥様! この男危険です!!」
「ぐぇっ!! ちょっ、ちょっと!! はっ、挟まってる!」
勢いよく窓を閉めたアーシャ。
窓と窓枠に首を挟まれ、呻く男を見てルシアンは溜息を吐く。
「アーシャ。開けてあげなさい」
「はい!」
開かれた窓から顔を抜き、首を擦る男。
そんな男がコホンと咳払いし、胸に手を当てる。
「改めましてどもども! 私の名はラウル。ここからは栄えある我らがシルヴァレイン男爵麾下の戦士団が、護衛任務を引き継がせてもらいますね!」
「団長……じゃなかった、男爵様が首を長ーくして待ってますよ」
ラウルと名乗った茶髪の男は、人懐っこい笑みを浮かべた。
次話、今日の21時頃に上げる予定です