終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~   作:APP3

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第八話

 審判の時を待つように、ルーシーは目を瞑る。

 そんなルーシーを──カイルは抱き締めた。

 

 

「ルシアン。ベッドへ行こう」

 

「──ッ!」

 

 

 カイルはそのままルーシーの身体を抱き上げ、ゆっくりと立ち上がり、大きなベッドへと運ぶ。

 

 

「カ、カイル?」

 

「降ろすよ」

 

 

 ベッドに降ろされた身体が、柔らかな寝台にわずかに沈む。  

 固まってしまったルーシーをよそに、カイルはボタンの外れた上着を脱ぎ捨て、ベッドに腰を下ろした。

 

 そして、ルーシーの髪を指で梳く。

 

 

「ルシアン」

 

「ちょっ、ちょっとまって!!」

 

 

 ルーシーが慌てて声を上げると、カイルは手を止める。

 

 

「まっ、まだ、まだ心の準備が!! ちょっと待ってくれ……」

 

 

 カイルは何も言わない。

 ただ黙り、じっとルーシーに視線を向けるだけ。

 

 

「抱くのは、いい……覚悟してきたことだ。だけど、一つだけ、お願いしてもいいか?」

 

 

 ルーシーは一呼吸置く。

 

 

「ルーシーって、呼んでくれ…………ルーシーを、抱いてくれ」

 

 

 ──これが、自分を、ルシアンを守る最後の砦。

 

 ルーシーなら、なんだっていい。

 ルシアンの双子の姉として生まれ、ずっと隠されてきた存在なのだと。

 そんな姉が、救国の英雄様と結婚して、子を作ったのだと、言い訳できるから。

 

 でも、ルシアンだけはダメだ。

 

 

「ルシアン」

 

 

 名を呼ばれた。

 しかし、その名は双子の姉の名前ではない。

 

 

「……違う」

 

「ルシアン」

 

「違う、違う」

 

「ルシアン・アルヴェイン」

 

「違うっ、違う違う違う!!」

 

 

 ルーシーは叫ぶ。

 耳を塞ぎ、目を瞑り、身体を丸める。

 

 

「オレは! おれは、わたしは……ルーシーなんだ」

 

「聞いてくれ、ルシアン」

 

「嫌だ! なんで分かんねぇんだよ!!」

 

「ルシアン!!」

 

「──ッ!?」

 

 

 ルーシーの肩を掴み、叫ぶカイル。

 

 これまで生きてきて、初めて見るカイルの剣幕。

 思わずルーシーは口を噤む。

 

 

「俺が、憧れたのはルシアンなんだよ……」

 

()が、あの日からずっと、一緒にいたいと願い続けたのは──誰でもない、ルシアンただ一人なんだ!!」

 

 

 ──心臓が、跳ねた。  

  

 

 

「ふっ、ふざけんな! なんなんだよ! お、おまえ。意味、わかんねぇよ……」

 

「何度でも言うよ、ルシアン。俺はルシアンとずっと一緒にいたいんだ。どんな関係でも構わない。ずっと隣にいたいんだ」

 

「だからそれが意味わかんねぇって! 言ってんだろ!」

 

 

 嫌だ。

 

 

「俺は君に救われたんだ。あの日、あの時、俺を見つけてくれたあの瞬間に!」

 

 

 どうして。

 

 

「ルシアン。これだけは聞いてくれ!」

 

 

 こんなにも──

 

 

「俺は、ルシアンが好きだ!」

 

 

 ──胸が高鳴るんだ。

 

 

 

◯────

 

 

「落ち着いたか?」

 

「落ち着いてなかったのはオマエじゃねぇか……」

 

 

 ベッドに二人、並んで腰掛ける。

 

 随分取り乱してしまった。

 それも、よりにもよってコイツの前で。

 

 でも、コイツが悪いんだ。

 オレのことを好きだなんて言いやがる。

 

 

「ごめん。勝手に髪を触ってしまって」

 

「どこ謝ってんだ、てめぇ」

 

「……はっ! もしかして、俺が君を抱くつもりだと思ったのか? もちろん君を抱こうとか、そんなことをしようとしたんじゃないんだ!」

 

「……じゃあなんで上、脱いだんだよ」

 

「え? それは寝苦しいから……」

 

「ややこしいわ!」

 

 

 大きくため息をつきながら、ルシアンはベッドへ倒れる。

 

 

「ルシアン」

 

「……なんだよ」 

 

「俺は、別にルーシーを否定したわけじゃないんだ。ただ、ルシアンを殺してまでルーシーになる必要はないって思って」

 

「ルーシーとして生きてる君も、昔みたいな君も、俺はどっちも好きって言いたくて、それで、なんだ、上手く言えないけど──」

 

 

 身振り手振りを交え、あたふたしながらも伝えようとしてくるカイル。

 

 そんな彼を見て、ルーシー、否、ルシアンは笑った。

 

 

「ありがとな、カイル」

 

「──え?」

 

「あのさ。オマエさえ、嫌じゃなかったらでいいんだけどよ……寝る前に、こうやってオマエの部屋に来ても、いいか?」

 

 

 隣から突き刺さる視線を避けるように、ルシアンは目を逸らし、指と指を合わせる。

 

 

「まだ、オマエにルシアンとして抱かれるってのは、怖いから、無理だし……オマエには苦労をかけると思うけど……」

 

「気にしなくていい。大丈夫だよルシアン。俺はどんなルシアンでも好きだから」

 

「さっきから好き好き言い過ぎなんだよ……」

 

 

 コイツは、本当に馬鹿だ。

 こんなオレのどこが良いんだか。

 

 ルシアンは枕を手に取り、顔を埋めて丸くなる。

 

 

「まぁ、なんだ。オマエが本当に我慢できなくなったら……その、手でするぐらいは、してやるから……そん時は、言えよ?」

 

 

 枕から少し顔を上げ、カイルと目を合わせる。

 

 カイルはゆっくりと立ち上がった。そして──

 

 

「ルシアン──ちょっと走ってくる」

 

「は? 今から?」

 

「今日はありがと。また朝」

 

「ちょっ、カイル!?」

 

 

 脱いだ上着を引っ掴み、部屋を飛び出していくカイル。

 

 

「なんだってんだ。アイツ」

 

 

 そんな後ろ姿を眺めながら、ルシアンはコクリと首を傾げた。

 

 

 

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