終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~ 作:APP3
審判の時を待つように、ルーシーは目を瞑る。
そんなルーシーを──カイルは抱き締めた。
「ルシアン。ベッドへ行こう」
「──ッ!」
カイルはそのままルーシーの身体を抱き上げ、ゆっくりと立ち上がり、大きなベッドへと運ぶ。
「カ、カイル?」
「降ろすよ」
ベッドに降ろされた身体が、柔らかな寝台にわずかに沈む。
固まってしまったルーシーをよそに、カイルはボタンの外れた上着を脱ぎ捨て、ベッドに腰を下ろした。
そして、ルーシーの髪を指で梳く。
「ルシアン」
「ちょっ、ちょっとまって!!」
ルーシーが慌てて声を上げると、カイルは手を止める。
「まっ、まだ、まだ心の準備が!! ちょっと待ってくれ……」
カイルは何も言わない。
ただ黙り、じっとルーシーに視線を向けるだけ。
「抱くのは、いい……覚悟してきたことだ。だけど、一つだけ、お願いしてもいいか?」
ルーシーは一呼吸置く。
「ルーシーって、呼んでくれ…………ルーシーを、抱いてくれ」
──これが、自分を、ルシアンを守る最後の砦。
ルーシーなら、なんだっていい。
ルシアンの双子の姉として生まれ、ずっと隠されてきた存在なのだと。
そんな姉が、救国の英雄様と結婚して、子を作ったのだと、言い訳できるから。
でも、ルシアンだけはダメだ。
「ルシアン」
名を呼ばれた。
しかし、その名は双子の姉の名前ではない。
「……違う」
「ルシアン」
「違う、違う」
「ルシアン・アルヴェイン」
「違うっ、違う違う違う!!」
ルーシーは叫ぶ。
耳を塞ぎ、目を瞑り、身体を丸める。
「オレは! おれは、わたしは……ルーシーなんだ」
「聞いてくれ、ルシアン」
「嫌だ! なんで分かんねぇんだよ!!」
「ルシアン!!」
「──ッ!?」
ルーシーの肩を掴み、叫ぶカイル。
これまで生きてきて、初めて見るカイルの剣幕。
思わずルーシーは口を噤む。
「俺が、憧れたのはルシアンなんだよ……」
「
──心臓が、跳ねた。
「ふっ、ふざけんな! なんなんだよ! お、おまえ。意味、わかんねぇよ……」
「何度でも言うよ、ルシアン。俺はルシアンとずっと一緒にいたいんだ。どんな関係でも構わない。ずっと隣にいたいんだ」
「だからそれが意味わかんねぇって! 言ってんだろ!」
嫌だ。
「俺は君に救われたんだ。あの日、あの時、俺を見つけてくれたあの瞬間に!」
どうして。
「ルシアン。これだけは聞いてくれ!」
こんなにも──
「俺は、ルシアンが好きだ!」
──胸が高鳴るんだ。
◯────
「落ち着いたか?」
「落ち着いてなかったのはオマエじゃねぇか……」
ベッドに二人、並んで腰掛ける。
随分取り乱してしまった。
それも、よりにもよってコイツの前で。
でも、コイツが悪いんだ。
オレのことを好きだなんて言いやがる。
「ごめん。勝手に髪を触ってしまって」
「どこ謝ってんだ、てめぇ」
「……はっ! もしかして、俺が君を抱くつもりだと思ったのか? もちろん君を抱こうとか、そんなことをしようとしたんじゃないんだ!」
「……じゃあなんで上、脱いだんだよ」
「え? それは寝苦しいから……」
「ややこしいわ!」
大きくため息をつきながら、ルシアンはベッドへ倒れる。
「ルシアン」
「……なんだよ」
「俺は、別にルーシーを否定したわけじゃないんだ。ただ、ルシアンを殺してまでルーシーになる必要はないって思って」
「ルーシーとして生きてる君も、昔みたいな君も、俺はどっちも好きって言いたくて、それで、なんだ、上手く言えないけど──」
身振り手振りを交え、あたふたしながらも伝えようとしてくるカイル。
そんな彼を見て、ルーシー、否、ルシアンは笑った。
「ありがとな、カイル」
「──え?」
「あのさ。オマエさえ、嫌じゃなかったらでいいんだけどよ……寝る前に、こうやってオマエの部屋に来ても、いいか?」
隣から突き刺さる視線を避けるように、ルシアンは目を逸らし、指と指を合わせる。
「まだ、オマエにルシアンとして抱かれるってのは、怖いから、無理だし……オマエには苦労をかけると思うけど……」
「気にしなくていい。大丈夫だよルシアン。俺はどんなルシアンでも好きだから」
「さっきから好き好き言い過ぎなんだよ……」
コイツは、本当に馬鹿だ。
こんなオレのどこが良いんだか。
ルシアンは枕を手に取り、顔を埋めて丸くなる。
「まぁ、なんだ。オマエが本当に我慢できなくなったら……その、手でするぐらいは、してやるから……そん時は、言えよ?」
枕から少し顔を上げ、カイルと目を合わせる。
カイルはゆっくりと立ち上がった。そして──
「ルシアン──ちょっと走ってくる」
「は? 今から?」
「今日はありがと。また朝」
「ちょっ、カイル!?」
脱いだ上着を引っ掴み、部屋を飛び出していくカイル。
「なんだってんだ。アイツ」
そんな後ろ姿を眺めながら、ルシアンはコクリと首を傾げた。