終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~ 作:APP3
初めて入った友の寝室。
貴族の嫡男だというのに飾り気のない、寂しい部屋。
そんな部屋に、鼻をつく薬品の匂いが充満していた。
「なんで、どうして」
声を零したカイルの視線の先には、ベッドに横たわり、目を閉じたままピクリとも動かないルシアンの姿があった。
「にいさま! にいさまぁ!!」
ベッドの側で泣き崩れる、ルシアンの弟、エリオット。
そんなエリオットの頭を撫でる、覇気を失ったレグリア公爵の背中。
おかしいだろ。
俺は確かにあの時、ルシアンを救ったはずだ。
間に合ったはずだ。
「体内の損傷が激しい。これほどの損傷は、全身に強い雷でも流さない限り起こりません。何か心当たりは?」
診察が終わり、医者の声が部屋に響く。
──背筋に、嫌な汗が流れた。
俺は知っている。
昔、ルシアンが天才的な魔法だと言い、俺との勝負でよく使っていた魔法だ。
雷を直接身体に流し、擬似的に身体強化を行う魔法。
「彼がいつ目を覚ますのか、私にはわかりません。一週間後に目が覚めるかもしれませんし、そのまま眠り続けるかもしれない」
俺か? 俺のせいなのか?
俺がルシアンと一緒にいたいって願ったから?
「おまえの……おまえのせいでにいさまは!!」
エリオットがこちらを必死の形相で睨みつけ、叫ぶ。
俺は、その顔を一生忘れられないだろう。
そうだ。
──全部、俺のせいなんだ。
◯────
「アーシャ。頼めるかしら」
「任せてください!」
鏡台の前、背後に立つアーシャに髪を櫛でとかれ、慣れた手付きで綺麗に纏められていく。
「手際がいいわね?」
「えへへ。ウチの妹達にもやってたので慣れてるんです!」
「へぇ……仲、いいのね」
「勿論です! 大切な家族ですから」
「……大切にしなさいよ。後、手紙も出してあげなさい。私が父に送る手紙と一緒に送ってあげるわ」
「いいんですか!? ありがとうございます!!」
アーシャの満面の笑みが鏡に映る。
──家族、か。
ルシアンは眉を顰める。
偉大な父に、まだまだお子様な弟。
離れてしまったが、今後途切れることのない関係。
そして、オレの旦那の、カイル。
『俺は、ルシアンが好きだ!!』
ふと、昨日のカイルの言葉が蘇る。
「──ッ!!」
「奥様?」
「……なんでもないわ」
頬に手を当てる。
何故こうも顔が熱くなるのだろう。
あの一件は昨日の出来事で、また直接言われたわけでもないのに。
どうして思い出すだけでこんな気持ちになるのだろうか。
それもこれも全部アイツのせいだ。
「はい! できましたよ!」
「ありがとね」
鏡に映る、整えられた自身の姿を見る。
やはり、この娘はこういったことをさせたら器用だ。
まるで、学生時代人気だった令嬢のようだ。
妙な感慨に耽りながら、ちらりと時計に目を移す。
時計の針はまだ予定の時間を指していなかった。
「まだ時間があるわね……」
「それなら本でも読みますか? 色々と持ってきてますよ!」
「丁度いいわ。紅茶と一緒に持ってきて頂戴」
「わっかりました!」
一礼して部屋を出ていくアーシャを見送り、ルシアンはもう一度鏡に映る自分を眺める。
──改めて見ると、やっぱり可愛くないか? オレ。
ニコリと微笑んでみる。
少し怒った顔をしてみる。
アイツはこれからこの顔を毎日見るのか。
もっと有り難がってもらいたいものだ。
ルシアンは鏡の中の自分と手を合わせる。
「違う。アイツは……
ポロリと零れる言葉。
口に出して言ってみれば、何故だか心が温まる。
──意味わかんねぇよ。やっぱ。
ルシアンは自身の胸に手を当て、目を瞑った。