終生のライバルに負けたオレ。女になってそいつの嫁になりました ~死んだことになった元公爵令息と、救国の英雄の辺境新婚生活~   作:APP3

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第九話

 初めて入った友の寝室。

 貴族の嫡男だというのに飾り気のない、寂しい部屋。

 そんな部屋に、鼻をつく薬品の匂いが充満していた。

 

 

「なんで、どうして」 

 

 

 声を零したカイルの視線の先には、ベッドに横たわり、目を閉じたままピクリとも動かないルシアンの姿があった。

 

 

「にいさま! にいさまぁ!!」

 

 

 ベッドの側で泣き崩れる、ルシアンの弟、エリオット。

 そんなエリオットの頭を撫でる、覇気を失ったレグリア公爵の背中。

 

 おかしいだろ。

 俺は確かにあの時、ルシアンを救ったはずだ。

 間に合ったはずだ。

 

 

「体内の損傷が激しい。これほどの損傷は、全身に強い雷でも流さない限り起こりません。何か心当たりは?」

 

 

 診察が終わり、医者の声が部屋に響く。

 

 ──背筋に、嫌な汗が流れた。

 

 俺は知っている。

 昔、ルシアンが天才的な魔法だと言い、俺との勝負でよく使っていた魔法だ。

 雷を直接身体に流し、擬似的に身体強化を行う魔法。

 

 

「彼がいつ目を覚ますのか、私にはわかりません。一週間後に目が覚めるかもしれませんし、そのまま眠り続けるかもしれない」

 

 

 俺か? 俺のせいなのか?

 俺がルシアンと一緒にいたいって願ったから?

 

 

「おまえの……おまえのせいでにいさまは!!」

 

 

 エリオットがこちらを必死の形相で睨みつけ、叫ぶ。

 

 俺は、その顔を一生忘れられないだろう。

 

 そうだ。

 ──全部、俺のせいなんだ。

 

 

◯────

 

 

「アーシャ。頼めるかしら」

 

「任せてください!」

 

 

 鏡台の前、背後に立つアーシャに髪を櫛でとかれ、慣れた手付きで綺麗に纏められていく。

 

 

「手際がいいわね?」

 

「えへへ。ウチの妹達にもやってたので慣れてるんです!」

 

「へぇ……仲、いいのね」

 

「勿論です! 大切な家族ですから」

 

「……大切にしなさいよ。後、手紙も出してあげなさい。私が父に送る手紙と一緒に送ってあげるわ」

 

「いいんですか!? ありがとうございます!!」

 

 

 アーシャの満面の笑みが鏡に映る。

 

 ──家族、か。

 

 ルシアンは眉を顰める。

 

 

 偉大な父に、まだまだお子様な弟。

 離れてしまったが、今後途切れることのない関係。

 

 そして、オレの旦那の、カイル。

 

 

『俺は、ルシアンが好きだ!!』

 

 

 ふと、昨日のカイルの言葉が蘇る。

 

 

「──ッ!!」 

 

「奥様?」

 

「……なんでもないわ」 

 

 

 頬に手を当てる。

 何故こうも顔が熱くなるのだろう。

 あの一件は昨日の出来事で、また直接言われたわけでもないのに。

 

 どうして思い出すだけでこんな気持ちになるのだろうか。

 

 それもこれも全部アイツのせいだ。

 

 

「はい! できましたよ!」 

 

「ありがとね」

 

 

 鏡に映る、整えられた自身の姿を見る。

 やはり、この娘はこういったことをさせたら器用だ。

 

 まるで、学生時代人気だった令嬢のようだ。

 妙な感慨に耽りながら、ちらりと時計に目を移す。

 

 時計の針はまだ予定の時間を指していなかった。

 

 

「まだ時間があるわね……」

 

「それなら本でも読みますか? 色々と持ってきてますよ!」

 

「丁度いいわ。紅茶と一緒に持ってきて頂戴」

 

「わっかりました!」

 

 

 一礼して部屋を出ていくアーシャを見送り、ルシアンはもう一度鏡に映る自分を眺める。

 

 ──改めて見ると、やっぱり可愛くないか? オレ。

 

 ニコリと微笑んでみる。

 少し怒った顔をしてみる。

 

 アイツはこれからこの顔を毎日見るのか。

 もっと有り難がってもらいたいものだ。

  

 

 ルシアンは鏡の中の自分と手を合わせる。

 

 

「違う。アイツは……オ(・)レ(・)が好きなんだよな」

 

 

 ポロリと零れる言葉。

 口に出して言ってみれば、何故だか心が温まる。

 

 ──意味わかんねぇよ。やっぱ。

 

 ルシアンは自身の胸に手を当て、目を瞑った。

 

 

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