天空城の旅人   作:壊緑茶

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街道の主(前編)

「見つけた」

 

ユレナはそう言って、ホルンカの東門の柵に背中を預けた。靴から膝まで、赤茶色の泥にまみれている。

 

リクが、預かっていたユレナの水筒を差し出した。ユレナは半分ほど飲んで、口元を軽く拭った。

 

「遺跡の出口から、足跡が続いてた。街道に出て、そのまま谷のほうまで」

 

「どれくらいでかい?」

 

ダイチが聞くと、ユレナは水筒をリクへ返した。

 

「昨日拾った毛、まだあります?」

 

俺はストレージから白い毛を取り出した。ユレナが先端をつまみ、目の高さまで持ち上げる。

 

「これが、背中にびっしり生えてた」

 

「1本でこれが背中にびっしりかよ」

 

ダイチが顔をしかめると、ヒナタがうなずいた。

 

「遠くから見たとき、最初はマジで岩だと思いました」

 

そう言って、東へ延びる道を指した。

 

「夕方になる前なら、谷の上から見られます。そこまでは追ってきませんでした」

 

16日目の午後だった。

 

ダイチは少し考えてから、丸盾を背負った。

 

「今日は偵察だけだ。姿を見たら帰る。いいな」

 

俺も白い毛をストレージへ戻し、ユレナたちの後について東門を出た。

 

     ◇

 

谷へ下りる途中で、向こう側の斜面に見覚えのある屋根が見えた。

 

見張り塔の屋根だ。丘の裏へ回ってきたらしい。塔から延びる細い石段は斜面を下り、谷底の古い石の門へつながっていた。

 

村から続く街道は、その門をくぐって谷の奥へ延びている。道の片側は草の生えた急斜面、反対側は岩の崖だ。折れた柱や四角い石が道端に転がり、荷馬車が通れそうなのは、真ん中の踏み固められた部分だけだった。

 

先を歩いていたユレナがしゃがんだ。

 

俺も草の陰に身を沈め、谷底を覗いた。

 

谷底の、道の真ん中に、白い小山があった。

 

たしかに岩だと思った。

 

それが、首をもたげた。

 

背中一面に、地下で拾った針金のような毛が逆立っている。頭の両脇から突き出した角には、砕いた石の粉が白くこびりついていた。

 

昨日まで戦っていた白いボアなら、ソラさんの盾から頭が少し出る程度だった。谷底にいるあれなら、ソラさんが盾ごと腹の下に入りそうだった。

 

大きな鼻が地面へ押しつけられる。土を掘っただけで、拳ほどの石がごろりと転がった。

 

頭上にカーソルが浮かんだ。

 

黒に近い赤。

 

《Earthshaker Boar》

 

その下に、3本のHPバーがずらりと並んでいた。

 

「うわ……」

 

「谷のフィールドボスって、あれだったんだな」

 

ケンさんが俺の隣へしゃがんだ。

 

「掲示板に名前だけ出てた。『低レベルは近づくな』って。もうちょっと詳しく書いといてくれよ……」

 

ダイチが谷底を見下ろした。

 

「近づくなってのは、守れそうだな」

 

大イノシシが顔を上げた。

 

こっちを見た気がして、俺は思わず剣の柄を握った。草の茎が手首に触れただけなのに、びくっと肩が動く。

 

隣に立てかけられたソラさんの大盾には、昨日までの傷が何本も残っている。あのイノシシの角を受けたら、この盾でどこまで止まるんだろう。

 

「下がろう」

 

ダイチが言った。

 

俺はすぐにうなずいた。腰を低くしたまま斜面を戻る。背中を向けるのが怖くて、足元を見るたびにまた谷へ顔を戻した。

 

大イノシシはもうこちらを見ていなかった。鼻を地面へ押しつけ、また土を掘っていた。

 

     ◇

 

「適正レベルなら、6人でも倒せるんだろ?」

 

酒場に戻って最初にそう言ったのは、リクだった。

 

「俺らを入れれば9人だ。人数だけなら足りてる」

 

「適正ならな」

 

ケンさんが返す。注文したスープはまだ熱く、俺はスプーンを持ったまま口をつけられずにいた。

 

「今、俺はレベル6。あのカーソルからみて、適正には届いてねえよ」

 

「俺たちも似たようなもんだな」

 

リクの勢いが少し落ちた。

 

ダイチは腕を組み、今度はソラさんを見た。

 

「あいつの突進は、受けられるか?」

 

ソラさんはテーブルの横の大盾に手を置いた。

 

「受けます。ただ、あの大きさだと正直厳しい気がしてます」

 

「じゃあ、無理だったら俺がヘイトを引く。その間に立て直せ」

 

ダイチが答えた。

 

「1発受けて、きつかったら言えよ。俺ら、盾の後ろからじゃわかんねえからな」

 

「はい。そこは、すぐ言います」

 

「回復、今どれくらい持ってます?」

 

俺が聞くと、それぞれがポーチやメニューを開いた。

 

俺は3本。ソラさんは2本。ナナが4本と答えると、ソラさんが少し意外そうに妹を見た。

 

「お兄ちゃんが、使った分は買い足せって言うから」

 

「買っといてよかっただろ」

 

「うん。お兄ちゃんもね」

 

ナナが小瓶を1本、兄の前へ置いた。ソラさんは自分のポーチを見てから、「助かる」と受け取った。

 

ナナが、肩のあたりの服をつまんだ。

 

「私、この剣は売りたくない。装備のほうを軽くしたい」

 

ナナが椅子に立てかけたアニールブレードを引き寄せた。

 

「この盾も外してみる。剣を構えたときに、ちゃんと踏ん張れるくらいまで軽くしたい」

 

「防御力、落ちるんじゃないか」

 

ソラさんが言うと、ナナはうなずいた。

 

「うん。でも、振り遅れて当てられるのも怖いよ」

 

ソラさんは自分の大盾へ目をやった。

 

「……着替えたら、1回合わせよう。斬ったら俺の右に戻って。そこ、空けとくから」

 

「お願い」

 

「じゃあ、その剣はナナが使う。装備も一緒に見に行こうぜ」

 

ダイチが言うと、ナナは剣の柄を握ったまま、嬉しそうにうなずいた。

 

「ユレナさんたち、待てますか」

 

「うん。こっちもレベル上げたいし」

 

ユレナが答えると、ケンさんが念を押した。

 

「行商人のクエスト報酬は、受けてる俺らだけだぞ。ボスの経験値とドロップは、そっちにも入るんだろうけど」

 

「そっちはもらえるんだ。じゃあ十分。あのボス、何落とすんだろ」

 

「毛じゃねえか」

 

ダイチの答えに、ユレナが顔をしかめた。

 

「せめて角かな。あれは毛じゃない、もうトゲ。枕にも使えなさそう」

 

「あれ詰めた枕で寝たら、朝にはHP減ってますよ」

 

コタが真顔で言い、今度はソラさんまで笑った。

 

ダイチはスープの残りを飲んで、椅子を前へ寄せた。

 

「あと4日、がんばって白ボアを狩ろう。全員7まで上げて、修理と補充を済ませる。20日目の午前で切り上げて、午後は休み。翌朝、もう1回あそこへ行く」

 

俺はうなずいた。怖かったはずなのに、日程が決まると少し楽しみになっていた。

 

     ◇

 

4日間の狩りを終え、20日の昼には俺たち6人ともレベル7になっていた。ナナもアニールブレードに必要なSTR値へ届き、構えた剣先を確かめては、誰に言うでもなく口元を緩めていた。

 

村へ戻って盾を修理し、ドロップ品を売った金で回復ポーションを補充した。6本ずつ詰めたポーチが、歩くたびに鳴った。

 

午後、宿の裏で剣を抜いていたナナは、ダイチに見つかった。

 

「1回だけ」

 

「そう言って、もう振っただろ」

 

ナナが剣先を下げた。入口から見ていた俺も、つい目をそらした。朝から何度も装備を確認していたので、気持ちはわかる。

 

「今日はしまっとけ。気になることがあるなら、飯食いながら聞くから」

 

「……甘いのでもいい?」

 

「いいけど、俺のおごりになってないか?」

 

     ◇

 

翌朝の谷は、日陰だけがまだ湿っていた。

 

草についた水滴がズボンを濡らす。門を抜ける手前で振り返ると、石段の上に見張り塔が見えた。鐘は止まったままだった。

 

谷底では、大イノシシ《Earthshaker Boar》が前と同じ場所を歩いている。

 

カーソルは濃い赤。怖い色には変わりない。それでも、全員が6本の回復ポーションを準備してあり、左上に並ぶ6人のHPは満タンだった。

 

門の陰で、ダイチが俺たちを見回した。

 

ソラさんが大盾を構える。ナナがその右につき、コタが槍を握り直した。反対側では、ユレナたちが斜面に沿って広がっていく。

 

「行くぞ!」

 

ダイチが上げていた手を下ろした。

 

9人で門を抜ける。

 

大イノシシの足が止まった。土に埋めていた鼻先が持ち上がり、黒い目がこちらを捉える。背中の白い毛が、根元から逆立った。

 

「ブゴオォォォッ!!」

 

鼻の奥から押し出された濁った鳴き声が、谷の岩壁を震わせた。

 

3本のHPバーが順に表示される。

 

大イノシシが前脚で2度、土を掻いた。

 

「来る!」

 

巨体が地面を蹴った。靴底から伝わる震えが、一歩ごとに大きくなる。

 

ドンッ!!

 

大盾へぶつかった音が谷に響いた。ソラさんの体が押し戻される。1歩、2歩――3歩目で止まった。

 

「いける! 右、入って!」

 

ソラさんの声で、体が動いた。

 

ダイチがソラさんの左へ回り、《挑発》を使った。大イノシシがそちらへ向き直ろうと、前脚を踏み替える。

 

俺は反対側からソードスキルを入れた。剛毛の下まで刃が届く。コタの槍が続き、ダイチから離れた側では、ユレナたちの剣も光っていた。

 

HPバーの端が削れた。もう一撃入れたくなったが、巨体が動くのを見て飛び退いた。角が胸元をかすめる。

 

「カイくん、今の危なっ!」

 

「大丈夫!」

 

言い返してから、遅れて心臓が跳ねた。あと半歩、欲張っていたら当たっていた。

 

大イノシシが、またソラさんの盾へ頭をぶつけた。

 

ソラさんが大盾を傾け、鼻先を地面へ押さえ込んだ。首の付け根で白い毛が割れる。

 

「ナナ!」

 

ナナが盾の右から踏み込む。

 

《バーチカル》の水色の光が、そこへ落ちた。

 

1本目のHPバーが、目に見える幅で削れた。

 

「っ、減った!!」

 

思わず俺が叫んだ。ナナも一瞬、頭上を見てしまった。

 

振り抜いた格好のまま、ナナの体が止まる。大イノシシの目が、ナナへ向いた。

 

「スイッチ!」

 

コタが横から滑り込み、《ピアス・ライン》で鼻先を突いた。大イノシシがコタへ噛みつこうとする。その間にナナの硬直が解け、大盾の右へ駆け戻った。

 

剣を構え直したナナが、コタへ笑いかけた。

 

ダイチが丸盾を叩く。

 

「今の形! 次もそれでいくぞ!」

 

次もナナが首を斬り、コタが間に入った。2人が戻ってくると、蹴り上げられた土を浴びたケンさんが砂を吐いた。

 

「食わせんなよ、こんなもん!」

 

俺は苦笑いしながら横へ回った。大イノシシが後ずさり、また突進してきた。

 

また、正面から来る。

 

ソラさんが大盾を傾け、足を踏ん張った。さっきまでと同じように、受け流すつもりだった。

 

ぶつかる寸前、大イノシシの頭が不意に沈んだ。

 

角が大盾の下へ潜り込む。

 

次の瞬間、盾ごとソラさんの体が跳ね上がった。

 

「ソラさんっ!」

 

大盾が手から離れ、別の方向へ飛んでいく。ソラさんは受け身も取れず、岩壁の手前へ背中から叩きつけられた。

 

左上のHPバーが、一息に3割近く減少した。

 

ソラさんが地面に手をついた。大丈夫。起き上がれそうだ。俺はポーチに手を伸ばし、駆け寄ろうとした。

 

大イノシシが、まだ走っていた。

 

盾に止められたあとの隙なんて、そこにはなかった。倒れたソラさんへ頭を振り、太い角が脇腹をまともに捉えた。

 

ガンッ!!

 

ソラさんのHPバーが大きく縮む。弾かれた体が岩壁へ叩きつけられた瞬間、もう一度、がくんと減った。

 

まだグリーンだったHPが、レッドゾーンを割り込んだ。

 

「お兄ちゃん!!」

 

ナナの声が耳のすぐ横で割れた。

 

もう1発もらったら、死ぬ。

 

ソラさんの指がポーチへ伸びたところで止まる。左上のソラさんのHPバーに、見慣れない黄色いアイコンが付いた。

 

なんで飲まないんだ。

 

飲んでください。早く。

 

大イノシシが前脚を持ち上げた。その真下にソラさんの膝がある。

 

「こっちだっ!!」

 

ダイチの丸盾が赤く光った。巨体の顔がグイっと横へ引かれる。落ちた前脚は、ソラさんの脇の石を砕いた。

 

その一瞬にコタが滑り込んだ。回復ポーションの栓を抜き、ソラさんの口へ押し当てる。リクとヒナタが両腕を掴んで、彼を岩壁から引き離した。

 

俺は剣を握ったまま、その場に立ち尽くしていた。

 

「カイ、来い!!」

 

ダイチに呼ばれ、ようやく地面を蹴った。大イノシシが救助する3人へ戻ろうとする。その頬へ剣を叩きつけ、俺は喉が痛くなるほど叫んだ。

 

「こっち見ろっ!!」

 

大イノシシが俺を見た。

 

呼んだのは俺だ。なのに、こっちを向かれた途端、逃げたくなった。

 

横からナナの剣が入り、ユレナが続いた。3人で顔を引きつけている間に、ソラさんが自分の足を動かした。

 

「動ける! もう動けます!」

 

よかった。ソラさんが自分の腕で上体を支えた。コタが飲ませたポーションも効き始め、赤いHPバーが少しずつ伸びている。俺はようやく、目の前の敵へ向き直った。

 

     ◇

 

「ソラは下がれ! 俺が引く!」

 

ダイチが前へ出た。迫る角へ丸盾を斜めに当て、体ごと横へ踏み出す。盾の表面を角が滑り、巨体がすぐ脇を通り抜けた。ダイチは引きずられるようによろめき、どうにか足を踏ん張った。

 

ソラさんが回復している間は、ダイチが代わる。酒場で決めたとおりだ。

 

俺はソラさんへ駆け寄りかけたナナを呼んだ。

 

「こっち! ダイチさんのほう手伝おう!」

 

ナナが兄を振り返った。ソラさんが岩陰からうなずくと、剣を握り直して俺の隣へ走ってきた。

 

ダイチだけに何度も受けさせられない。俺たちは突進が通り過ぎるところへ斬りつけ、すぐに離れた。

 

横腹を狙えば、前脚を軸に巨体が回る。硬い毛に肩を削られて、いつのまにか俺のHPも黄色くなった。後ろへ回ったリクは蹴りを受け、地面を転がった。

 

そのリクを追って顔が下がる。ナナが首へ一撃を入れた。

 

1本目のHPバーが消える。

 

「あと2本っ!」

 

コタの声に、誰かが「おう!」と返した。

 

大イノシシは右の前脚を高く持ち上げた。

 

踏みつけだと思った。俺からは遠い。今なら脇へ入れる。

 

踏み込んだ瞬間、前脚が地面を打った。

 

ドンッ!!

 

叩きつけた前脚を中心に、地面が輪の形に盛り上がった。その輪が土と小石を跳ね上げながら、一気に足元へ広がってくる。

 

足の裏を突き上げられ、膝が折れかけた。踏ん張ろうとしても、足が動かない。剣を持ち上げることもできなかった。

 

《Stun 3》

 

視界の端で、数字が減っていく。

 

ソラさんが飲めなかったのは、これか。

 

大イノシシが体をひねる。逃げようとしても、足が動かない。クソッ、あと2秒。早く。早く消えろ。

 

息を止めた俺を、コタが後ろから引き倒した。白い毛が鼻先をかすめ、風と砂が顔へ叩きつけられた。

 

数字が消えた途端、手が動いた。俺は地面を掻き、転がるように離れた。

 

「今の、何!? 足、動かなかった!」

 

ナナが叫んでいた。

 

「スタンだ! 3秒!」

 

答えながらポーションを飲んだ。瓶の口が歯に当たる。

 

「コタは、どうして動けた?」

 

「跳んでたんです! 石、越えようとして!」

 

跳んでいれば、当たらないのか。

 

ダイチが突進を横へそらした。その後ろで、ソラさんが岩に背を預けている。ヒットポイントはまだ黄色だった。少しずつ伸びているのに、見ているとひどく遅い。俺は歯を食いしばり、ダイチの盾へ目を戻した。

 

大イノシシの前脚が上がった。

 

俺は地面を蹴った。

 

着地した、その足元へ土の波が来た。

 

《Stun 3》

 

早すぎた。

 

大イノシシと目が合った。

 

「カイくん、こっち!」

 

ユレナに腕を引かれ、石の陰へ倒れ込んだ。頭上を角が通り、背中へ石の欠片が降ってくる。

 

体が動くとすぐに起き上がった。

 

「ごめん、助かった!」

 

「跳ぶって、そういうこと? 先に言ってよ!」

 

「俺も、今わかった!」

 

ボスの脚が地面を叩く前に、着地してしまった。次はもっと待たないと。

 

ダイチの丸盾へ、また角がぶつかった。2、3メートルも押し返されている。

 

「ソラ! そろそろ代われるか!」

 

「もう少し! もう少しで緑まで戻ります」

 

俺はユレナと左右へ分かれた。大イノシシの前脚が持ち上がる。今度は膝を曲げたまま待った。

 

ドンッ!!

 

土が跳ね、衝撃波が広がってくる。

 

まだ。

 

足が勝手に逃げようとする。ぐっと踏みとどまり、迫った土の盛り上がりを跳び越えた。

 

着地する。すぐに後ろへ下がる。

 

動く。

 

「避けたっ!」

 

思わず声が出た。ユレナも向こう側で着地し、こっちへ顔を向けた。

 

「脚じゃなくて、波ね!」

 

「そう! みんな、足元の衝撃波に合わせて跳んで!」

 

「カイ、あいつの顔こっち向いてるぞ!」

 

ケンさんの声に振り返った。大イノシシが首を引いている。俺はユレナと反対側へ逃げ、角が通り過ぎるのを見送った。

 

跳べたのが嬉しくて、足元ばかり見ていた。

 

「助かりました!」

 

ケンさんは短剣を握ったまま、ボスの顔を目で追っていた。

 

ソラさんが大盾を拾って戻ってきた。ダイチが横目でHPを確かめる。グリーンまで回復していた。

 

「ソラ、まだ受けられるか!」

 

「いけます。さっきは下から角を入れられました。次は押さえ込まずに、ちゃんと流します!」

 

ダイチが大イノシシへ向き直る。

 

「もう1回、合わせるぞ! それでも飛ばされたら引く!」

 

ソラさんが前へ出る。ナナがその右へ駆け寄った。

 

「お兄ちゃん、さっきの、ほんとに怖かったんだからね!」

 

「……うん。俺も怖かった」

 

ソラさんは大盾を斜めに構え、ぶつかる瞬間に横へ踏み出した。角が盾を擦り、巨体がすぐ脇を駆け抜ける。ソラさんがよろめきながら足を踏み直す。俺もその横へ回り、通り過ぎる脇腹へ剣を向けた。

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