生徒たちの間で、不思議な噂が流れていた。
曰く、全身白の装いであったと。
曰く、艶やかな濡羽色の長髪であったと。
曰く、優しく不気味な声色であったと。
曰く、天女のごとく美しい顔であったと。
曰く、八尺はあろうかという身の丈であったと。
曰く、曰く、曰く……。
目撃証言は数多くある。
だが、その実態を知る者はほとんどいない。
ある者は夜の百鬼夜行で。ある者は遠く離れた学園の外れで。
気がつけばそこにいて、いつの間にか姿を消している。
いつからだろうか。
怪談のように語られる、その女性はこう呼ばれるようになっていた。
『キヴォトスの八尺様』、と。
これは、怪異と噂される一人の生徒と、彼女に出会った人々のお話。
※本作では、校正、文章の推敲に生成AIを利用しています。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
月が雲に隠れる夜。
倉庫と倉庫の狭間に、まだ幼子とも呼べる少女が身を隠していた。
膝を抱え、口を両手で覆う。
息を止めたい。けれど、走り続けた身体は言うことを聞いてくれない。
喉の奥がひゅうひゅうと鳴る。
「全く、どこに隠れやがったんだ」
「ま、ここら一帯はうちらの縄張りだ。慌てなくても見つかるさ」
通りの方から、大人たちの声がする。
硬い足音。何かを蹴り飛ばす音。
少女は肩を震わせ、さらに小さくなった。
昼間までは、いつもと変わらない一日だった。
迎えの車が来る場所で待って、見慣れた会社の印を見つけて。
お父様のお使いです、と言われて乗り込んだ。
それから、知らない道。
止めてほしいと言っても、返事のない運転席。
扉は開かず、取り出した端末は後ろから伸びた手に奪われた。
連れてこられた部屋には、窓がなかった。
椅子に座らされ、両手を縛られた。
差し出された電話へ、言われるままに父を呼んだ。
『お父様』
そこから先は、泣いてしまってうまく話せなかった。
父の声が聞こえたのは、ほんの少し。
すぐに電話を取り上げられ、代わりに大人が金額を読み上げていた。
少女にも分かった。
自分を返す代わりに、お金を払えと言っているのだ。
父は、キヴォトスでも指折りの物流会社で役員を務めている。
街を走るトラックを見かけるたび、あれもお父様の会社なの、と友達に教えていた。
それが、こんなことにつながるとは思わなかった。
「おい、そっちの裏は見たか?」
近づく足音。
少女は息を呑んだ。
縛られていた手首が、まだ痛い。
椅子の背にあった金具へ、何度も何度も紐を擦りつけた。指先で引っ張り、少し緩んだところへ無理に手を通した。
痛くても、声は出さなかった。
見張りがドアの前から離れた隙に、部屋を出て、裏口まで走った。
あとは夢中だった。
どちらへ行けば帰れるのかも分からないまま、明かりのある方へ。
その明かりも、今は倉庫の壁に遮られて見えない。
月はまだ顔を見せない。
足音が止まった。
少女は動かなかった。
目の前には、埃にまみれた空き箱が重なる。隙間から、細い光が横切る。
一度。二度。
やがて光は離れ、足音も遠ざかっていく。
まだ。
まだ、動いてはいけない。
両手を口に押しつけたまま、少女は待った。
十まで数えて、もう一度十まで数える。
ようやく膝を伸ばそうとした時、足元で何かが転がった。
からん。
空き缶だった。
「……そこか」
箱の向こうから、光が戻ってくる。
少女は立ち上がり、倉庫の隙間を走り出した。
通りへ出る。
あと少し。向こうの角を曲がれば。
「おっと」
角から現れた黒い腕が、行く手を塞いだ。
止まりきれず、その腕にぶつかる。
硬い指が少女の二の腕を掴んだ。
「ずいぶん手間をかけさせてくれたな、お嬢ちゃん」
黒いスーツ。首元の曲がったネクタイ。
見上げた先で、ロボットの単眼が少女を捉えていた。
「いやっ、放して!」
腕を振る。足を踏ん張る。
靴底が地面を擦るばかりで、相手の腕は少しも動かない。
背後から来た別のロボットが、残った手も掴んだ。
「暴れるな。痛い思いはしたくないだろ?」
「車を回せ。今度は足も縛っとけよ」
「本家に知られる前に金を受け取るんだろ。急ごうぜ」
角の向こうから、黒塗りの車が入ってくる。
昼間、少女が乗せられた車だった。
扉が開く。
暗い後部座席が見える。
あそこへ戻ったら、もう逃げられない。
「いや……いやだ……!」
両足で地面を蹴る。
それでも、身体は車へ引きずられていく。
車まで十歩。八歩。
「お父様……お母様ぁっ!」
その声に、低い音が重なった。
ぼ……。
少女を掴んでいたロボットが、顔を上げる。
ぼぼ……ぼぼぼぼ……。
倉庫街を抜ける、まっすぐな道。
その奥で、白い光が一つ揺れていた。
低く、腹に響くようなエンジン音。
「何だ? こんな時間に」
誰かが言った。
少女を引く手が止まる。
次の瞬間。
少女から遠い側にある車の鼻先が、ひしゃげた。
重い車体が横へ跳ねる。
砕けた部品が路面を叩き、前輪が不自然な方向へ折れ曲がる。
遅れて届いた轟音に、少女は目を閉じた。
「なっ……!」
「撃たれたぞ!」
少女の腕から、片方の手が離れた。
ロボットたちが一斉に銃を抜く。
だが、構える先には、もう眩しい光が迫っていた。
ぼぼぼぼぼぼぼ――。
巨大な前輪。
その後ろに続く、見上げるような車体。
側面に固定された長い砲身から、細く煙が流れている。
バイクだ。
けれど、少女の知っているバイクより、何もかもが大きい。
白い乗り手が、身を起こした。
後輪が横へ流れ、路面を削る音が響き渡る。
少女たちと壊れた車の間へ、車体が割り込んだ。
停止と同時に、白が跳ぶ。
「てめえ、何の――」
少女を掴むロボットへ、大きな手が伸びた。
金属の手首を捕らえ、捻りあげる。
少女の腕を締めつけていた指が、開いた。
ようやく離れた。
そう思った時には、ロボットの両足が地面を離れていた。
黒い身体が宙を舞う。
道の向こうへ飛び、積まれた空箱の中へ消えていく。
木材の砕ける音。遅れて、短い悲鳴。
少女は、その場に座り込んだ。
目の前に立つ、白い背中。
長い黒髪が揺れている。
その向こうで、銃声が弾けた。
白い人影は、少女の前から動かなかった。
肩口が小さく跳ねる。
それから、ゆっくりと顔が銃口の方へ向いた。
撃っていたロボットが、一歩退く。
さらに一歩。
次の一歩を踏み出す前に、白い袖が伸びた。
銃身を掴み、上へ向ける。
空へ、二発。
もう一方の手が襟首を捕らえた。
また一人、飛んだ。
「囲め! 一人だぞ!」
車から離れた運転手と、後から追いついた二人が左右へ散る。
その中で一番大きなロボットが、太い腕を振り上げた。
鋼鉄の拳。
少女の顔ほどもあるそれが、白い人影へ叩きつけられる。
鈍い音。
拳は止まっていた。
開かれた片手の中で。
「……は?」
ロボットの足が浮く。
少女を掴んでいた者よりも、さらに大きく、重そうな身体。
それが腕一本で持ち上がる。
残りの二人が、動きを止めた。
一拍。
大きなロボットが、その二人めがけて投げつけられた。
悲鳴が重なる。
金属同士がぶつかり、三つの身体が絡まるように転がっていく。
最後に壁へ突き当たり、ようやく止まった。
「お、俺の脚……脚ぃ!」
「早くどけ! 重い!」
うめき声。
路面を掻く、鋼鉄の指。
それでも、立ち上がってくる者はいなかった。
静寂が戻る。
バイクのエンジンだけが、低く鳴っていた。
白い人影が、振り返る。
少女は、息を呑んだ。
大きい。
先ほどまで自分を追っていた大人たちよりも。
父よりも、護衛の人たちよりも。
ずっと、ずっと、大きい。
白い衣に、濡羽色の長髪。
月が雲を離れ、その顔を照らし出す。
静かな瞳。整った鼻筋。薄く微笑んでいるようにも見える唇。
美しい人だった。
けれど、それを見つめる余裕はなかった。
一歩、近づいてくる。
少女は両手を地面につき、後ずさった。
背中が倉庫の壁に触れる。
もう、下がれない。
白い人が止まった。
少女の顔を見て、それから自分の手を見下ろす。
手の中に残っていた黒いネクタイを、そっと脇へ置いた。
衣の裾を押さえ、膝を折る。
高いところにあった顔が、ゆっくりと下りてくる。
少女の目の高さまで。
大きな手が伸びた。
少女は肩をすくめ、目を閉じた。
ふと、頭に温もりがあった。
走り回って乱れた髪の上を、温かな手のひらが撫でる。
一度。それから、もう一度。
「よく頑張りましたね。もう大丈夫です」
柔らかな声だった。
低く、静かで、すぐ近くにいるのに不思議と遠くまで届きそうな声。
少女は、恐る恐る目を開けた。
目の前の人は、まだそこにいた。
手を引っ込めることも、返事を急かすこともなく、少女を見ていた。
「お父様と、お母様がお待ちです。お迎えに参りました」
その言葉で、少女の顔が歪んだ。
「お、と……さま……」
「ええ」
「かえれ、る……?」
「帰れますよ」
張りつめていたものが、ほどけた。
少女は白い胸元へ飛び込んだ。
縋りつき、顔を埋め、声を上げて泣いた。
綺麗な服が汚れてしまうと、ほんの少しだけ思った。
それでも、手を離すことはできなかった。
大きな手が、背中へ回る。
もう一方の手は、ずっと頭を撫でてくれていた。
その時だった。
倉庫の奥で、何かが軋んだ。
少女の肩が跳ねる。
白い胸元に顔を埋めたまま、音の方へ目を向けた。
閉ざされていた大きな扉。
その隙間から、赤い光が覗いていた。
低い駆動音。
重いものが、床を踏みしめる音。
扉が左右へ開いていく。
「好き放題やりやがって……!」
倉庫の入口に、一体のロボットが立っていた。
両手で抱えた端末を操作しながら、こちらを睨んでいる。
その背後で、巨大な影が動いた。
太い脚。
分厚い装甲。
倉庫の入口を塞ぐほどの、鋼鉄の巨体。
一歩、踏み出す。
地面が震え、少女の足元で小石が跳ねた。
「こいつまで持ち出したんだ。もう、ただじゃ済まさねえぞ!」
ゴリアテ。
少女も、写真で見たことがあった。
けれど、こんなに大きなものだとは思わなかった。
白い服を握る指に、力がこもる。
頭を撫でていた手が止まった。
少女は顔を上げた。
白い女性は、倉庫の方を見ていた。
先ほどまでと変わらない、静かな横顔。
視線が下りてくる。
大きな手が、もう一度だけ少女の髪を撫でた。
「少しだけ、耳を塞いでいてくださいね」
少女は小さく頷いた。
手を引かれ、隣の倉庫の角へ移る。
厚い壁の陰。そこからは、ゴリアテの姿が見えなくなった。
白い袖から、指を離す。
女性は少女が座ったのを確かめると、通りへ戻っていった。
向かった先は、大きなバイク。
がちり。
留め具が外れる。
続いて、もう一つ。
車体に沿っていた長い砲身が、ゆっくりと持ち上がった。
バイクの一部だと思っていた。
けれど、違った。
それは、この人が持つための武器だった。
8.8 cm FlaK 36高射砲。
通称、アハト・アハト。
白い両手が、その巨大な砲を保持する。
腰の高さへ引き寄せ、長い砲身を前へ向ける。
足を開く。
衣の裾が広がり、踏みしめた靴底が砂を噛んだ。
迫る鋼鉄の巨体。
その胸元へ、砲口がゆっくりと持ち上がる。
女性の表情は、変わらなかった。
少女は、両耳を塞いだ。
それでも聞こえる。
重い足音。唸る駆動音。
道の向こうで、ロボットが何かを叫んでいる。
女性の唇が動いた。
「……そこまでです」
一瞬、通りが白く染まった。
両手の上から、轟音が突き抜けた。
少女は目を閉じ、身を縮める。
続いて、何かが砕ける音。
大きく、重いものが崩れ落ちる音。
地面が、一度だけ大きく揺れた。
それきりだった。
少女はそっと目を開けた。
通りに、白い姿が立っていた。
長い黒髪が、ゆっくりと落ち着いていく。
その向こうを、煙が流れていた。
先ほどまで立っていた鋼鉄の巨体は、胸部に大穴を開け、倉庫の前に沈んでいた。
「……は?」
端末を持ったロボットが、立ち尽くしている。
ゴリアテを見る。
手元の端末を見る。
もう一度、ゴリアテを見る。
その顔が、ゆっくりと白い女性へ向いた。
砲口から、細く煙が昇っていた。
端末が地面に落ちる。
続いて、二本の腕が高く上がった。
女性はしばらく相手を見つめてから、砲口を空へ向けた。
そのまま、砲の後端を地面へ突き立てる。
鈍い音。
舗装に、小さな亀裂が走った。
長大な砲が、そこに立っていた。
女性は手を離し、少女の方へ歩き出した。
衣擦れ。
近づいてくる足音。
少女は、耳から手を離した。
白い人影が、倉庫の角から顔を覗かせる。
少女を見つけ、柔らかく微笑んだ。
「お待たせいたしました」
大きな手が差し出される。
今度は、目を閉じなかった。
少女は自分から、その手を握った。
温かかった。
先ほどと、少しも変わらなかった。
*
少女がようやく顔を上げた頃、遠くに幾つもの明かりが見えた。
車の列だった。
手を借りて立ち上がると、少女は女性と一緒に通りへ出た。
白い女性が明かりに向かって手をふる。
車が近づいてきたことを確認すると、再び少女へ微笑む。
少女はまだ、その手を握っていた。
先頭の車が止まる。
扉が開き、聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。
「お母様!」
駆け出そうとして、足がもつれた。
大きな手が背を支えてくれる。
次の瞬間には、駆け寄ってきた母の腕に抱き締められていた。
顔を触られる。髪を撫でられる。
母は何度も同じことを尋ね、その返事が終わる前にまた少女を抱き寄せた。
遅れて父が膝をつき、二人をまとめて腕の中へ収める。
また涙が出た。
今度は、止めようと思わなかった。
護衛たちが周囲へ散っていく。
倒れたロボットたちから武器を取り上げ、手際よく拘束する。
倉庫の前で両手を上げていた一体も、大人しく差し出した腕を縛られていた。
護衛の一人が壊れた車を見て、次に沈黙したゴリアテを見た。
最後に、舗装へ突き立てられた砲を見上げ、何か言いかけて口を閉じる。
父が顔を上げた。
「本当に……何とお礼を申し上げればよいか」
「間に合って、何よりでした」
白い女性は、穏やかに答えた。
「捜索を手伝っていただいたうえに、こんな……お怪我はありませんか」
「いいえ。少し、服が汚れたくらいです」
自分の肩を見下ろす。
白い布に黒い跡がついていた。
少女はそこで、先ほどの銃声を思い出した。
「おねえさん、撃たれて……」
「ええ。少し驚きました」
少し。
少女はその言葉を、心の中でもう一度繰り返した。
母が少女を車へ連れていこうとする。
少女は振り返り、白い女性を見上げた。
「どうして、ここが分かったの?」
女性は、バイクの荷台へ目をやった。
大きな鞄の口から、紙袋が一つ覗いている。
丸い団子が三つ並んだ、店の印。
「お団子を、食べに来ておりましたので」
少女は瞬きをした。
団子。
「こちらへ来る途中、あの車を見かけまして。戻った先で、ご両親がお探しになっていたものですから」
父が静かに頷いた。
「近くのお店を、一軒ずつ回っていたんだ。誰か、車を見ていないかと思ってね。その時、この方が声をかけてくださった」
偽の送迎車が向かった先は、ブラックマーケットに近い倉庫街。
両親に見せられた写真には、少女と、普段の送迎車が写っていた。
それとよく似た色と形。同じ会社の印。
団子屋へ向かう道で、進路を塞ぐかのように勢いよく曲がってきた車があったのを思い出したのだという。
「先に様子を見てまいります、とおっしゃって……私たちは、後から」
父の視線が、バイクへ移る。
追いつけなかったのだと、少女にも分かった。
「そこまで分かれば、あとは声が聞こえましたので」
「……聞こえたの?」
「はい。よく聞こえましたよ」
最後に父と母を呼んだ声。
誰にも届かないと思った、あの声。
少女は、自分の胸元を握った。
「おねえさん」
「はい」
「ありがとう!」
ようやく言えた。
女性は目を細め、微笑む。
「ふふっ、どういたしまして」
父が改めて、連絡先と名前を尋ねる。
女性は父の端末に連絡先を送り、名乗った。
「百鬼夜行連合学院、三年。八十八夜(ちゃつみ)ヤヒロと申します」
生徒だったんだ。
とっても大きくて、強くて、優しいお姉さん。
少女はヤヒロの頭上を見た。
夜の中に、ヘイローが浮かんでいた。
今になって初めて、それをきちんと見た気がした。
「後日、必ずお礼をさせてください」
「お気遣いなく。まずは、お嬢さんを温かいところへ」
父は深く頭を下げた。
少女も母の隣で頭を下げ、今度こそ車へ乗り込んだ。
柔らかな座席。肩にかけられる上着。
隣には母がいる。開いた扉の向こうには父もいる。
それを一つずつ確かめてから、少女は窓の外を見た。
ヤヒロはバイクの脇に立っていた。
鞄から紙袋を取り出し、その中を覗いている。
少しだけ、肩が下がった。
「どうかなさいましたか」
父の問いに、ヤヒロが袋を持ち上げる。
中には、小さな箱が入っていた。
蓋の隙間から、潰れた団子が覗いている。
「……少々、暴れすぎました」
少女の口から、小さな笑いがこぼれた。
自分で驚き、口元を押さえる。
ヤヒロがこちらを見た。
叱られるだろうか。
そう思ったが、ヤヒロも困ったように笑っただけだった。
「お味は、変わらないでしょうから」
そう言って、箱を大切そうに袋へ戻す。
それから、地面に立つ砲へ手をかけた。
軽く引き抜き、バイクの側面へ収める。
重い留め具の音が、二度響いた。
少女は窓へ手を当てた。
向こうで、大きな手が上がる。
車が動き出してからも、少女はずっと後ろを見ていた。
白い姿が小さくなる。
角を曲がる直前、低いエンジン音が聞こえた。
ぼ、ぼぼぼ……。
今度は、少しも怖くなかった。
*
それから、しばらくして。
生徒たちの間に、また一つ、不思議な噂が加わった。
八尺様は、バイクに乗る。
それも、見上げるほど大きなバイクに。
大砲を携え、悪い大人を片手で放り投げるのだという。
「それ、もう八尺様の話じゃなくない?」
「でも、白い服で、黒い髪で、すっごく大きいんだって」
「大砲って、本当に?」
疑う者。面白がる者。
噂は人から人へ渡るうちに、また少しずつ姿を変えていく。
その輪の中で、一人の少女が口を開いた。
「あとね」
皆が顔を向ける。
少女は少し考えてから、笑った。
「お団子が、好きなんだよ」
その手は、とても大きくて。
とても、温かい。
それはまだ、少女だけが知っている話。
ブルアカ二次創作、2作品目の投稿になります。
キヴォトスの八尺様こと八十八夜(ちゃつみ)ヤヒロは、2年くらい前からアイデアブックに思いついた設定を書き足し続けて来て生まれた生徒です。
今後、少しずつ脳内に浮かぶ場面を投稿していけたらなと思います。
よろしくお願いします。