また、ここに来た   作:フォートナー

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 気づけば

 いつも隣に誰かがいるようになっていた

 朝、学校へ行けば湊がいる

 休み時間になれば、くだらない話をする

 昼休みには、一緒にご飯を食べる

 放課後になれば、また一緒に帰る

 そして

 少しずつ

 湊以外にも、話す相手が増えていった

 笑ったり

 困ったり

 くだらないことで騒いだり

 一人だった頃には知らなかった時間

 そんな毎日が

 いつの間にか、大切になっていた

 もちろん

 彩葉には、もう一つ大切なものがある

 画面の向こうで笑う、あの少女

 月見ヤチヨ

 声を聞けば元気になれる

 配信を見れば、また頑張れる

 だから

 今日も頑張ろうと思う

 ただ

 人との繋がりは

 いつだって、思っているより少しずつ増えていく

 これは

 一人だった少女の日常に

 少しずつ、仲間が増えていく春の話


第5話 増えていく日常

 夏が終わり、少しずつ学校での生活も落ち着いてきた

 

 朝、教室に入れば湊がいる

 

 休み時間になれば自然と話をするし、昼休みには一緒に昼食を取ることも増えた

 

 放課後になれば駅まで一緒に歩き、家に帰れば隣の部屋に湊がいる

 

 最初の頃は、それが少し不思議だった

 

 けれど、いつの間にか、それが当たり前になっていた

 

 自分の席から少し離れたところにいる湊を見る

 

 今日も誰かに勉強を教えているらしい

 

「ここは、この公式使えばいいよ」

 

「なるほど」

 

「分からなかったらまた聞いて」

 

 そう言って笑う

 

 いつも誰かに頼られている

 

 そして、頼られると断らない

 

 それが湊という人だった

 

 思わず小さく笑う

 

 湊がいる

 

 それだけで、学校に来るのが少し楽しくなっていた

 

     *

 

 家に帰れば、また湊と顔を合わせる

 

「ただいま」

 

「おかえり、彩葉」

 

「今日もいたんだ」

 

「そりゃ家だからな」

 

「そうでした」

 

 そんなくだらない会話をする

 

 でも、それが好きだった

 

 何でもない話

 

 何でもない時間

 

 それなのに、気づけば、その時間を楽しみにしている自分がいた

 

 そして、もう一つ楽しみにしているものがある

 

 ヤチヨの配信だ

 

 学校から帰ってきて、疲れていても、眠くても、ヤチヨの配信を見ると元気が出る

 

 声を聞くだけで元気になる

 

 笑っているのを見るだけで安心する

 

 配信の中で楽しそうにしている姿を見ると、自分も頑張ろうと思える

 

 だから、少しくらい睡眠時間を削っても大丈夫

 

 そう思っていた

 

「ヤチヨの配信を見れば栄養が取れる」

 

 それは、もう揺るぎない事実だった

 

 もちろん湊には、

 

「それ、普通に飯も食えよ」

 

 と言われている

 

 でも、ヤチヨが好きだった

 

 大好きだった

 

     *

 

 冬

 

 高校一年の最後の試験が近づいていた

 

 教科書を開きながら、机に向かう

 

 隣では湊も勉強している

 

「ここ、分かんない」

 

「どこ?」

 

「この問題」

 

 湊が覗き込む

 

「これはこう考えればいい」

 

「……あ」

 

「分かった?」

 

「分かった」

 

「じゃあ次」

 

 教えてもらうと、すぐに理解できる

 

 湊は説明が上手かった

 

 難しいことでも、分かるように言葉を変えてくれる

 

「ありがとう」

 

「別に」

 

 そんなやり取りをしながら、二人で勉強する

 

 静かな時間だった

 

 でも、嫌ではなかった

 

 むしろ、一人で勉強している時よりずっと集中できる

 

 隣に誰かがいる

 

 ただ、それだけなのに少し安心する

 

 そんなことを、ふと思った

 

     *

 

 そして、試験が終わった

 

「終わったー!」

 

 教室のあちこちから声が上がる

 

 小さく息を吐く

 

「疲れた……」

 

「お疲れ」

 

「湊もね」

 

「まあ、俺はそんなに」

 

「ずるい」

 

「何が?」

 

「余裕そうだから」

 

「そう見えるだけ」

 

「本当?」

 

「本当」

 

 思わず笑ってしまう

 

 その時、教室の後ろから声が飛んできた

 

「彩葉ー!」

 

 振り向くと、芦花がこちらに手を振っていた

 

 その隣には真実もいる

 

「終わったねー」

 

「やっと終わった」

 

「うん」

 

 夏休みが終わって少し経った頃から、二人とは話すようになった

 

 最初は休み時間に少し話すくらいだった

 

 それが何度か続いて、昼休みに一緒に過ごすようになり、いつの間にか自然と友達になっていた

 

「彩葉、今日このあと暇?」

 

 芦花が聞く

 

「うん、アルバイトまでなら」

 

「じゃあ、少しどっか寄っていかない?」

 

「いいよ」

 

「湊くんも?」

 

 芦花が湊を見る

 

「俺も?」

 

「嫌ならいいけど」

 

「別にいいよ」

 

 湊が頷く

 

 湊と二人が話すのを見るのは、これが初めてだった

 

 名前くらいは知っていた

 

 同じクラスなのだから、知らない方が難しい

 

 けれど、今まで直接話しているところを見たことはなかった

 

 湊も二人のことは知っていたらしい

 

「綾紬と諌山だよな」

 

「そうそう」

 

 芦花が笑う

 

「湊くん、名前知ってたんだ」

 

「同じクラスだし」

 

「でも、話したことないよね」

 

「ないな」

 

 真実が少し不思議そうに湊を見る

 

「じゃあ、今日から話せばいいじゃん」

 

「それもそうだな」

 

 湊が笑う

 

「改めてよろしく、綾紬、諌山」

 

「よろしく、湊くん」

 

「よろしくー」

 

 こうして、四人で話すことが少しずつ増えていった

 

     *

 

 休み時間に四人で話したり、一緒に帰ったり、くだらないことで笑ったり

 

 湊が誰かの相談に乗っていたり、芦花がこちらを気にかけていたり、真実が突然食べ物の話を始めたり

 

 そんな時間が少しずつ増えていった

 

「彩葉、今日ちゃんと昼食べた?」

 

 芦花が聞く

 

「食べたよ」

 

「何食べた?」

 

「パン」

 

「それだけ?」

 

「うん」

 

 芦花がじっとこちらを見る

 

「な、何?」

 

「なんでもない」

 

 そう言いながらも、明らかに心配している

 

 その横で真実がパンを食べている

 

「真実は?」

 

「私はおにぎり二個」

 

「普通だね」

 

「あとパン」

 

「普通じゃないじゃん」

 

「え?」

 

「食べすぎじゃない?」

 

「そうかな?」

 

 真実は首を傾げる

 

 湊が笑う

 

「まあ、諌山は食べるからな」

 

「食べるよ」

 

「堂々としてるな」

 

「食べるの好きだから」

 

 三人を見て、また笑う

 

 こういう時間も悪くない

 

 むしろ、楽しかった

 

     *

 

 春休み

 

 学校がなくなっても、四人で連絡を取ることは増えていった

 

 湊から連絡が来る

 

 芦花からも来る

 

 真実からは食べ物の写真が送られてくる

 

 そして、自然に返信するようになっていた

 

 以前なら、学校が休みになれば一人で過ごしていた

 

 勉強して

 

 アルバイトに行って

 

 帰って

 

 また勉強する

 

 そんな毎日だった

 

 でも、今は違う

 

 スマホを見れば、誰かからメッセージが届いている

 

 学校に行けば、話す相手がいる

 

 家に帰れば、隣の部屋に湊がいる

 

 そして、画面の向こうにはヤチヨがいる

 

 ふと考える

 

 いつからだろう

 

 こんなに、自分の周りに人が増えたのは

 

 そして、いつからだろう

 

 それが、こんなに嬉しいと思うようになったのは

 

 答えは分からない

 

 ただ、湊と出会ってから、少しずつ変わっていった気がする

 

 窓の外を見る

 

 春の風が吹いている

 

 新しい季節が始まろうとしていた




ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!

青い蒼さん、かずちんさん、ROSOさん、Msmtさん、りりださん、
りんどー8000さん、シン・富さん、お気に入り登録までしていただけて、とても嬉しいです

この作品を見つけてくれて、読んでくれて、さらに「また読みたい」と思ってもらえたことが、何よりの励みになっています

これからも湊たちの物語を楽しんでもらえるように頑張ります

引き続き『また、ここに来た』をよろしくお願いします!
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