カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「甘木、お姉さんいたんだな」
「まあね。驚かせちゃってごめん」
俺と甘木、そして主が教室にいない計三つの机を合わせて弁当を食べながら、俺は甘木に言う。
やや疲れた顔をしている甘木とは対照的に、お姉さんの方はとても嬉しそうにニコニコ笑っていた。
「うんうん! 妹が学園生活を謳歌してて、お姉ちゃんとして嬉しいよ~!」
「姉妹で同じ学校に通うとか、甘木とお姉さんって随分仲がいいんですね」
「別に普通よ、普通。成績その他諸々が似た感じだったから、同じ学校に進学したってだけ」
身長や髪型のおかげで見分けは用意だが、よく似た顔の二人が同時に視界に映ると少し頭がバグる。
甘木はやや不機嫌だが、高校生活三日目にして美少女姉妹と仲良くランチタイムを楽しめているのはかなりの豪運だなと神に感謝する中、お姉さんの方が俺に声をかけてきた。
「一ノ瀬くん、だっけ? もしかしてだけど、私のことを先輩だと思ってない?」
「えっ? 違うんですか?」
「双子よ、双子。心愛も私も同い年。それなのにお姉ちゃんぶるのがすごいっていうか、人を年下扱いするの、面倒だと思わない?」
「あ、あははははは……」
さっきからちょくちょく見受けられるお姉さんの大袈裟な様子を見ていると、甘木がうんざりしてしまう気持ちもわかる。
ただ、彼女が妹を大切に想っていることも同時に理解できた俺が曖昧に笑う中、お姉さんはこう続けてきた。
「そうそう! だから敬語なんて使わないでいいからね! 萌香ちゃんと同じく、普通に話してよ!」
「あ、はい……頑張ります」
「よろしくね! あと、お姉さんじゃなくて心愛でいいから!」
「うえっ……!?」
初対面でありながら名前で呼ぶよう言ってくるお姉さんに、俺はかなり押されてしまっていた。
甘木以上にぐいぐい来る様子を見て、もしかしてあのオーバーな態度は妹限定じゃなかったのかと感じ始める俺へと、彼女が続ける。
「ほら、私も萌香ちゃんも甘木なんだから、どっちを呼んでるのかわかるようにした方がいいでしょ? そんな遠慮しないでさ! ねっ!?」
「い、いや、流石に初対面の人を名前呼びはちょっと……」
「一ノ瀬くんってば真面目~! あっ! じゃあ、私も一ノ瀬くんのことを名前で呼ぶっていうのはどう? それなら対等でしょ? というわけで一ノ瀬くんの名前を――!!」
「心愛! ……私に何か話があったんじゃないの? そんなことしてたら、昼休みが終わっちゃうんだけど?」
俺がすごい勢いで距離を詰めてくるお姉さんにたじたじになる中、その様子を見ていられなくなったであろう甘木が助け舟を出してくれた。
不機嫌そうに顔を歪める甘木の言葉を受けたお姉さんは「そうだった!」と本来の目的を思い出したように笑った後、本題へと入る。
「さっきお母さんから連絡があって、今日は遅くなるから代わりに晩ご飯を作っておいて、だってさ! 前回は私の担当だったから、今回は萌香ちゃんが作るってことでいいよね!?」
「げっ!? マジぃ!?」
予想外の事態に甘木が素っ頓狂な声で叫ぶ。
一瞬、俺を横目で見た後、甘木はお姉さんに手を合わせ、おずおずと当番を代わってもらえないか尋ね始めた。
「あのさ……今日は予定があって、できれば心愛にやってもらいたいんだけど……ダメ?」
「だ~め! 前回もそうお願いされて代わったんだから、今日こそはやってもらうよ!」
「そこを何とか! お願い!!」
「う~ん……しょうがないな~。じゃあ、これで決めよっか!!」
俺との約束を守るために必死になって頼み込む甘木の言葉を受けたお姉さんは、わざとらしく考え込んだふりをした後で上着の内ポケットに手を突っ込んだ。
そこからデッキケースと携帯型の『エヴォルレジェンズ』用立体映像生成装置を取り出した彼女は、驚く甘木へと笑顔で言う。
「こういう時は擁立戦で決めるのが定番! というわけで、勝った方が当番を決めるっていうのでどう?」
にこにこ顔で擁立戦を持ちかけるお姉さんだが、嫌に準備がいい。
もしかしなくても最初からこうするつもりだったんだなと考える俺の前で、彼女が話を続ける。
「萌香ちゃんも『エヴォルレジェンズ』に復帰したんでしょ? 私は歴は長いけど、このデッキは新シーズンに合わせて昨日組んだばかりだから、条件は萌香ちゃんとほぼ同じだよ!」
「準備が良過ぎない!? っていうか心愛、あんた最初からそのつもりだったんでしょ!?」
「まあまあ、その辺のことは気にしないで! それで、どうするの? 受ける!? 受けない!?」
ここまで露骨だと俺だけじゃなく、甘木や擁立戦の気配を察知して集まり始めたクラスメイトたちにもお姉さんの思惑は読めてしまえるだろう。
うきうきとした様子で選択を迫るお姉さんに対して、しばらく唸った後で深く息を吐いた甘木は……懐からデッキを取り出すと共にびしっ! と人差し指を突きつけながら言う。
「いいじゃん! その勝負、乗ってあげるよ!」
「むっふっふ~! 気合十分だね、萌香ちゃん! 言っておくけど、手加減しないよ~?」
「いつまでも姉貴面しないで! 私だってやればできるってところ、見せてやるんだから!!」
姉妹のやり取りは火花が散っているようでとても微笑ましい。実にカードゲームアニメ世界らしい内容だ。
こういうほのぼのとした日常系の展開が是非とも続いてほしいところ――
『勃発、姉妹バトル!心愛VS萌香!!』
「……えっ!? 今の何!?」
考え事をしていた俺の脳裏に、なんだか不思議な映像が浮かび上がってきた。
『城〇内死す』とか『逆転、連〇破壊』みたいなノリで出てきたそれがアニメのサブタイトルの表示だと理解した俺が、なんでこんなもんが見えたんだと次なる疑問に直面して困惑する中、不意に一人のクラスメイトが声を上げた。
「あ、あの……あ、甘木さんは初心者だし、経験者相手だと不利だと思うんで、良ければ俺がアドバイスを……」
「悪いけどいい! この勝負は自分の力だけでやりたいから!」
「で、でも……」
「……経験者として、初心者の力になってあげたいって気持ちは立派だけど、ここは見守るに留めた方がいいんじゃないかな? 本人もああ言ってるしさ」
おそらくは『エヴォルレジェンズ』プレイヤーであろう彼を、甘木の意思を尊重してやんわりと抑える。
話したことはないが、こういう場面で素直に手を上げて協力を申し出るなんていい人なんだろうなと考える俺であったが、その彼には少し睨まれてしまった。
嫌われてしまったかなと少し悲しくなったが、今は甘木たちの擁立戦を見守ることにしよう。
「萌香ちゃん、準備はいい?」
「当然! いつでもいいよ!」
机の上に携帯型立体映像生成装置とデッキを置き、最後にレジェンドを指定の位置に配置した二人がお互いの顔を見つめ合う。
闘志を漲らせている甘木と、楽しみで仕方がないといった様子のお姉さんという相反する表情を浮かべた二人は、同時に同じ言葉を発し、カードを裏返した。
「「オープン・ザ・レジェンド!」」