カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「ここで一気に決める! 私のターン! ドロー!!」
気合十分といった様子に甘木がカードを引くと共に、手札を確認する。
そのまま、ダメージゾーンへと手を伸ばした甘木は、そこに置いてあるカードを一枚裏返してルルリカの効果発動を宣言した。
「まずはルルリカの効果を発動するよ!」
「またその効果かぁ……! やっぱ強いって!!」
「これでハーツは合計七枚……さあ、行くよ!!」
進化条件を達成した甘木がレジェンドデッキに残された最後の一枚を手にすれば、それに合わせるように立体映像装置がルルリカの周囲に青い光のエッフェクトを発生させる。
小さく息を吐き、深く吸って……手にしたカードを見つめた甘木は、対戦相手であるお姉さんへと視線を移し、口を開く。
「魔界の姫はいつでも腹ペコ! 邪魔な敵を平らげて、料理も勝利もいただきます!
青い光に闇が混じり、紫色の輝きに変化していく。
その中から姿を現したルルリカはふさふさの尻尾を揺らしながらぺろりと舌なめずりをし、正面に立つ敵ことミリーを睨みつけた。
かなり露出が激しいケモ耳ロリっ子の登場に男子たちは湧き立ち、女子たちはそんな彼らへと冷ややかな視線を向けている。
確かに立体映像で再現されたルルリカは想像以上にヤバい格好をしているぞと、カードじゃ見えない背中側(お尻は尻尾のおかげで無事だった)の大胆さを思い知った俺もそっち方面に思考が引っ張られそうになったが、どうにか耐えることができた。
甘木の方は観客たちの興奮や反応も気に留めていないようだ。
楽し気な笑みを浮かべているルルリカとは対照的に、真剣な様子で冷静にプレイングを続けていく。
「【
(パルフェを引いてたのか! これはデカいぞ!!)
空いている盤面に一気にユニットを召喚した甘木。その中にいた、生クリームを思わせる真っ白な髪にごてごてと髪飾りを着けたメイドがいることに気付いた俺は、小さく拳を握り締めた。
一緒に出したカードもかなりいい感じだと、ここからの展開を想像した俺が見つめる中、甘木がその通りのプレイングを見せていく。
「順番に効果を解決していくよ! まずはオロロン! 場にいるこの子をハーツインすることで、ダメージゾーンにある裏向きのカードを表に戻すことができる! 【ジャンピング・ティー】はドロップゾーンに送ることで、山札の一番上をハーツインできるよ!」
「コストを回復しながらハーツを増やして、ルルリカの能力を強化したんだね。萌香ちゃん、やるぅ!」
細身の幸が薄そうな幽霊が泣きながらルルリカにお菓子を差し入れし、ふくよかなメイドがそれに合う紅茶を差し入れる。
「まだまだこんなもんじゃないから! 【スイートメイド パルフェ】の効果発動! ダメージブラスト①で山札の一番上をハーツへ! 続いて、ドロップゾーンから一枚を選んでこれもハーツインするよ!」
「これでハーツは十二枚、ルルリカのパワーは12000上昇するってことか……!」
「ふふっ……! 甘いね、心愛。パワーアップするのはルルリカだけだと思った?」
「えっ……?」
不敵に笑った甘木が、驚いて目を見開くお姉さんの前でダメージゾーンのカードを裏返す。
十分過ぎるほどの仕込みはしたと、そう表情で語る甘木の前で、ルルリカが真の力を解放してみせた。
「美味しいものは、みんなで分け合うことでもっと美味しくなる! 【暴食の姫 ルルリカ】の効果発動! このカードのパワー上昇効果を、味方の前列ユニットにも適用する!」
「げげっ!? ってことは、今ハーツインした一枚も含めて、三体のユニットがパワー+13000されちゃうの!?」
「そういうこと! でも、パルフェを忘れてもらっちゃ困るな~! この子が場にいる時、ハーツにカードが置かれたら、一回につきパワーが3000上がるんだよね!」
「い、一回につき、3000!? えっと、パルフェが出てから萌香ちゃんがハーツにカードを置いた回数は……?」
「合計五回、つまりパルフェのパワーは合計15000上昇してるってこと!」
「ちょっ!? ええ~~~っ!?」
ルルリカのパワーは元々の13000+効果によるパワーアップの13000を加えて、合計26000。
その後列にいるパルフェは8000のパワーに15000のパワーアップで、23000。彼女の援護を受けたルルリカの合計パワーは49000というとんでもない数値になるわけだ。
他の前列ユニットもパワーが上昇しているし、後列に援護用のユニットが置かれれば30000は超える。
一気にムキムキ過ぎる盤面を作り出した甘木のプレイングとその脳筋さには、お姉さんもクラスメイトたちもびっくりだ。
(やるな、甘木……! 新しいデッキを使い始めてまだ数日だっていうのに、理想的な回し方ができてる……!!)
【閑職おばけのオロロン】の効果でこのターンに使うためのコストを回復しつつ、ハーツを増やしただけでなく、【ジャンピング・ティー】をドロップゾーンに送ることで【スイートメイド パルフェ】の効果の補助をしてみせた甘木は、デッキの回し方を完全に理解している。
何より、構築済みデッキには二枚しか入っていないパルフェをしっかりと温存した上で一気にパワーを上昇させる爆発的なハーツ増加を可能にした手札を用意できていたことが、甘木のカードセンスを物語っているだろう。
その後、空いているエリアに再度ユニットを召喚した甘木は、万全の体制を作り上げてからお姉さんへと言う。
「バトルフェイズ、行くよ! この攻撃が全部通れば、私の勝ちだ!」
「ぐぬぬぅ……!!」
この擁立戦が始まって初めて、お姉さんに本気の焦りが見えた。
ここからの三連撃、一度も防げないということはないだろうが、それでもガードのために相応の手札は消費するはずだ。
加えて、お姉さんの黄属性デッキにはガードに使用できないコマンドカードが投入されている。
もしもあの手札に俺が想像している以上のコマンドカードが握られていたとしたら、ガード値が足りずに三連撃を受け入れるしかない……という可能性も十分にあり得た。
「キャンディの攻撃! ガードは!?」
「うっ……! ノーガード……!」
立体映像で表現される戦い……カラフルな髪色のメイドが同じ色のモップを振り回し、ミリーに挑みかかる。
ドガッ! と強烈な一発を食らったアイドルが吹き飛ぶ中、甘木は次の攻撃を指示した。
「デイビスの攻撃! パワフルゴーストパンチ!」
「やっば……!!」
(この攻撃も防がないってことは……これ、いけるんじゃないか……!?)
二発目の攻撃が通る様を目にした俺は、甘木の三回目の攻撃が通ることをほぼ確信していた。
パワーが一番高いのは、最後に残ったルルリカだ。ここまでの二回の攻撃を防げるだけのガード値があるのなら、そこで切ってしまった方が消費が少なくなる。
それなのにそれをしないということは、お姉さんの手札はやや事故り気味で、ガードに使えるカードがあまりないということなのだろう。
少なくとも、ルルリカの攻撃を防ぐことはできないはずだと……そう考える俺であったが、ダメージゾーンに置かれたカードが光る様を目にして、その考えを修正する羽目になった。
「やった! ドローマーカー! ミリーのパワーをアップして、一枚ドロー!!」
ダメージゾーンに置かれた際に効果を発動する、マーカー持ちのカード。
その中の一つ、ドローマーカーを持つカードが出たことにガッツポーズを取ったお姉さんが天からの救いとばかりにミリーのパワーを上昇させ、カードを引く。
その様子に一瞬、攻め気を削がれた甘木であったが、すぐに気を取り直すと最後の攻撃を宣言した。
「それでもこっちは超パワーの攻撃が残ってる! 【暴食の姫 ルルリカ】で攻撃! グラトニーバイト!!」
『いっただっきま~すっ!!』
ぴょんっ! とジャンプしたルルリカが両手を広げれば、魔力で作られた巨大な牙が空中に出現した。
上空から真っすぐに向かっていく牙がミリーの前で大きく開かれる様を目にした俺たちは、この一撃で決着がつくことを確信していたのだが……?
「させないよ! 『
「えっ……!?」
「あっ……!?」
その牙が、突如として出現した巨大な星の盾にぶつかり、消滅する。
最大級にまでパワーを上昇させた強烈な一撃が防がれたことに驚く甘木の前で、お姉さんは安堵の息を吐くと共に言った。
「危なかった~……! 今のドローマーカーで『無敵』のカードを引けなかったら、普通に負けてたよ~!」
「『無敵』!? 何それ!? 私、知らないんだけど!」
(し、しまった……! 完全に忘れてた……!!)
『
だが、相手の攻撃時にガードに使用すると、その名の通りにレジェンドを無敵にしてくれるという防御に特化した効果を持っている。
(すまん、甘木! 教えるの忘れてた……!!)
少し前から存在している能力なのだが、甘木が購入したストラクチャーデッキには『無敵』カードは封入されていなかった。
今やデッキを作るとなれば普通に四枚採用される定番のカードたちなのだが、まだ甘木には教えていなかったことを思い出した俺が全力で詫びる中、攻撃を終えたことで彼女のターンが終了してしまう。
(っていうか、あのドローでよりにもよって『無敵』を引くのかよ!? お姉さん、豪運過ぎるだろ!?)
引いたカードが『無敵』能力を持つカードでなければ、今の攻撃で勝負は決まっていたはずだ。
ギリギリのところで最良のカードを引き当てたお姉さんの運の良さ……もとい、運命力に驚愕する俺の前で、ピンチを凌いだ彼女が楽し気に笑う。
「さ~て、今度は私の番だよ~! 萌香ちゃ~ん、覚悟はいいかな~?」
奇跡のドローで逆境を切り抜けたせいか、お姉さんは心なしかテンションがハイになっているように見える。
ターンが回ってきたことでアイドルであるミリーが立つライブステージの音楽も大きくなっていて、それが一層彼女の気分を上げている気がした。
「手札からコマンドカード、【ソウルソング・オブ・ヴィーナス】を発動! これで私の場にはライブステージが三枚! 進化条件達成だよ!」
黄金の星々が宙を舞う、これまでで一番大きくて美しいステージに立ったミリーを、まるでスポットライトにように星の輝きが照らす。
俺も、クラスメイトたちも、対戦相手である甘木でさえもその輝きに目を奪われる中、お姉さんは自身の切り札を呼び出してみせた。
「その歌声は星々を繋ぎ、宇宙に響き渡る! 最強無敵のアイドル、ここに爆誕!
壮大な音楽。眩く輝くスポットライト。そして、圧倒的なオーラ。
デビューから幾星月、長い下積みと努力を重ねて成長を果たしたミリーは、ギャルっぽい雰囲気はそのままに銀河に名を轟かせる超一流アイドルに相応しい風格を漂わせている。
ただ、その本質は何も変わらない。目の前のライブに全力で臨み、観客たちを楽しませるだけだ。
そんなミリーの想いを表現するかのように、お姉さんもまた場を盛り上げるようにカードをプレイしていく。
「【
(最初のターンに【デビュー・オブ・アース】で捨てておいたカードか。お姉さんもしっかり準備してたんだな)
手札入れ替えの効果を持つコマンドカードで墓地に捨てておいたカードを発動したお姉さんのプレイングに、俺は静かに感心する。
甘木も初心者とは思えない腕前を見せてくれたが、お姉さんもかなりの実力者だ。
さっきは運に救われた部分もあるが……発売から間もないカードだけで組んだデッキをフル活用して理想的なプレイングを見せている彼女の腕前は、疑いようもなかった。
「またレジェンドのパワーを上げたみたいだね。でも、その程度なら……!」
「ちっちっちっ……! 甘いね、萌香ちゃん! さっき驚かされた分、今度は萌香ちゃんにも驚いてもらうよ! ミリー第二の効果、発動! レッツ、アンコール!!」
お姉さんの宣言に合わせて腕を上げたミリーがウィンクをすれば、それに合わせて音楽が盛り上がり、演出も派手になっていく。
全てがクライマックスに向かっていくことを感じさせる熱の中、お姉さんは発動した効果を説明し始めた。
「悲しいけど、ライブも擁立戦もいつか絶対に終わっちゃう。でも、どっちも終わる間際が一番熱く盛り上がる!! アンコールのために舞台に立ったミリーは、自分の場のライブステージを裏返すことで、最高のパフォーマンスを見せてくれるの!!」
魂を震わせる熱いロックが鳴り響き、ミリーが高く拳を突き上げる。
その熱は彼女からライブを見る者全てに伝播していき、激しい昂ぶりを生み出していった。
「選択した【ホットロック・マーズ】の効果を発動! このカードがアンコールで使用された時、パワー上昇効果をレジェンドだけでなく、自分の場のユニット全員に与える!!」
『みんな~っ! 最後まで、盛り上がっていこ~~っ!!』
『ウオオオオオオオオオオッ!!』
響いた雄叫びが立体映像による演出の一環なのか、それともクラスメイトたちが知らず知らずのうちに叫んでいた声なのか、俺には判断ができなかった。
ミリーのアンコール効果……一度使用したライブステージの効果をさらに強化して発動する強力な能力を活用したお姉さんは、異様な雰囲気に呑まれつつある甘木に攻撃を仕掛けていった。
「行くよ、萌香ちゃん! 私たちの輝き、受け止めてっ!!」
「くぅぅ……!!」
(マズい、この状況は……!)
先ほどのターン、甘木はハーツを増やし、盤面を整えるために手札を多く使用した。
まだギリギリ一回くらいは攻撃を防ぐことはできるだろうが……と考える俺の前で、甘木がガードを宣言する。
「【バックダンサーガール】の攻撃はガード! これでギリギリダメージ五。なんとか守り切れ――」
「残念。甘いよ、萌香ちゃん」
「えっ……?」
不敵に笑うお姉さんが何をするのか、俺にはわかっていた。
その予想通りに、お姉さんはミリー第三の効果を発動する。
「【超銀河歌姫 ミリー】の攻撃時効果! 自分の場のライブステージ二枚までを裏向きにすることで、そのカードと同じレベルのユニットを手札から選び、場に出すことができる! 私はレベル2の【ホットロック・マーズ】とレベル1【デビュー・オブ・アース】を裏向きにして、同じレベルのユニットを召喚!」
「あっ……!」
「そしてここで【ソウルソング・オブ・ヴィーナス】の効果が発動! バトルフェイズ中に召喚されたユニットたちのパワー+10000!」
攻撃を終えたユニットを下がらせ、代わりのユニットを場に出すことで攻撃回数を増加させるミリーの能力とライブステージのコンボが綺麗に決まった。
新たに出てきたユニットと自分の手札を交互に見つめた甘木が悔しそうに顔を顰める中、ミリーがマイクパフォーマンスを見せる。
『それじゃあみんな! 最後に一緒に叫んでね! いっくよ~っ!』
ルルリカに攻撃が迫り、彼女が焦りの表情を浮かべる。
最後の一撃が叩き込まれたその瞬間、星々が眩く爆発する音とと共にミリーと観客たちの声が響いた。
『3.2.1……ビッグバ~~~ンッ☆☆☆』