カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「お、お邪魔しま~す……!」
「何度も言わなくていいって、家に入る時も言ったじゃんか」
「いや、そうだけどさ。なんか緊張しちゃって……」
昼休みには色々あったが、午後の授業が終わる頃には俺たちも普段通りに気持ちを立て直せていた。
無事に放課後を迎えた俺たちは新弾の開封をすべく、予定通りに俺の家にやって来た、という感じだ。
「一ノ瀬のお母さんすごいびっくりしてたね」
「まあ、だろうね。カードばっかやってて女っ気のない息子が高校に進学してすぐに甘木みたいなかわいい子を連れて帰ってきたら、そりゃあ驚くって」
先ほど、甘木は緊張していると言っていたが、それはこちらも同じだ。
だがしかし、ついさっき甘木と一緒に帰ってきた俺を見た母が今まで見たこともない顔をしている様を目撃したおかげで、ちょっと落ち着いている。
自分より怖がっている人を見ると落ち着くという話は聞いたことがあるが、驚きも一緒なんだなと思うのと同時にやっぱりこの状況ってすごいよなと、この世界に転生してから一度も経験していなかった『女の子を部屋に招き入れる』という一大イベントを経験することになった俺は、強まってきた緊張を落ち着けるように深呼吸をしてから甘木へと言った。
「そんじゃ、準備するからちょっと待っててくれ」
「ん、おっけ~!」
甘木に確認を取ってから、開封に必要なあれこれを用意していく。
部屋の中央に折り畳み式のミニテーブルを組み立てて置き、ハサミやごみを入れるための袋を出して……と俺が動く中、勉強机の上に置いてあるカードを見た甘木が驚いたように言う。
「えっ!? これ、大会優勝した人が貰えるプロモカードじゃん!」
「そうだけど、よく知ってるな?」
「心愛も持ってるんだよ。これ、そこそこ大きめの大会で勝たなきゃ貰えないカードだよね? ってことは一ノ瀬、やっぱ強いんじゃん!」
「運が良かっただけだよ。大人は参加しない中学生以下の大会だったから勝てたってだけ」
少し前の公式大会に優勝すると貰えるプロモカード。今回は俺も好きで使っていた【紅蓮衆 豪火剣乱のガイム】が賞品になっていたから、いつも以上に頑張ってゲットした上で大切に飾ってあったそれを見た甘木は、とても感心しているようだ。
っていうか、お姉さんも持ってるってことは彼女も相当な実力者なんだなと改めて理解する俺へと、楽しそうに笑いながら甘木が言う。
「ねえ、他にもこういうカードとか持ってるの?」
「少しだけな。優勝以外のプロモとかも含めて、バインダーに保管してあるよ」
「うわ、すっご! それ、見せてもらってもいい?」
「別にいいけど……今はこっちが優先だろ?」
そう言いながら、クローゼットの中にしまっておいた段ボール箱をミニテーブルの上に置く。
ズシッ! という重量感のある音が響く中、俺は満面の笑みを浮かべて甘木へと言った。
「『エヴォルレジェンズ』新生編第一弾! 【新たなる伝説】、一カートン!! これを全部開けていくぞ~っ!!」
「一カートン……って、十二箱ってことだよね!? そんなに買ったの!?」
「ふっふっふ……! バイトも始めたから、今回は初のカートン買いをしちゃいました。店長も予約してくれるって言ってくれたしな!」
前世も含めて、人生で初のカートン買いに俺のテンションも上がっていく。
未だかつてこれだけの量のカードパックを開けたことがない俺が、今から始まる開封と新たなカードたちとの出会いに思いを馳せ、興奮を高める中、甘木が口を開いた。
「カードって一箱大体五千円くらいするよね? それが十二箱ってことは、これ全部で大体六万円かかったってこと?」
「ん? まあ、そうだな!」
「……本当に失礼かもしれないんだけどさ、一ノ瀬ってカード以外にお金を使うあてってないの? 女の子と遊びに行くとか――」
「――のせ! 一ノ瀬! しっかり!!」
「はっ!? あれ? 俺はいったい何を……?」
唐突に意識を覚醒させた俺は、床から起き上がると共に周囲を見回しながらそう呟く。
ついさっきまで新弾を開封しようと話していたはずなのに、どうして倒れている上に一部の記憶が消えているのか? 不思議な事態に直面した俺の体は、この異質な雰囲気のせいか大量の汗をかいていた。
「あの……ごめんね、一ノ瀬……」
「なんで甘木が謝ってるんだ? 謝るのは、心配かけた俺の方だろ?」
「いや、だって……ううん、なんでもない。ホント、ごめんね……」
何か罪悪感を抱いている様子の甘木からの謝罪を受ける俺だが、なんで謝られているかわからないから困惑するしかなかった。
そんな俺の反応にさらにつらそうにする甘木を見ていたら、この話を続けることが申し訳なくなってしまう。
今日はパックを開封するために来てもらったんだし、こんな話はどうだっていいだろう。
何があったか忘れてるってことは、忘れた方がいいことなんだと納得した俺は、本来の目的を果たすべく軌道を修正していった。
「この話はここまでにして、とりあえずパックを開けていこう! 一人六箱ずつで!」
「あ、ああ、うん……了解……」
ミニテーブルの上に段ボールの中から取り出した新弾の箱を置いていけば、小さな山ができあがった。
それをきっちり半分に分けた後、俺たちは二人で協力してパックを開封していく。
「パック開封かぁ……やっぱレアカードは分けた方がいいよね?」
「そうだな。あと、できたら属性ごとに分けてもらえると助かる」
「オッケー。そんじゃ、記念すべき一つ目のパック……開封!」
ピリッ、という小気味いい音を鳴らしながら、甘木が一つ目のパックを開ける。
中に入っていたカードを広げた彼女は、それを暫し見つめた後で頷きながら言った。
「うん! やっぱ全然わかんない!」
「あははっ! まあ、そんなもんだよな。紫のカードもないし、このカードたちをどんなふうに使うかなんて想像もつかないだろ?」
「そうかも。でも、格好良かったりかわいいな~って思ったりはするよ!」
光っているレアカードもない、ごく普通のパックの中身。
特筆すべきところはないが、開封という行為自体が楽しいからか、甘木のテンションも微妙に高くなっている。
「気になったカードがあったら俺に言ってよ。できるだけ詳しく説明するからさ」
「サンキュー! よ~し! 気合い入れて剥いていくぞ~!」
普段は黙々とパックを開け、中身を確認するだけの開封式だが、甘木がいるおかげでいつも以上に楽しい気持ちになれている。
ちらりと横を見れば、俺の想像以上に楽しそうにしながらパックを開けていく甘木の姿があって……それを見ていると、かつての自分の姿が頭の中に浮かび上がってきた。
(いいよな、パック開封って。新しいカードとの出会いとか、レアカードを当てた時の喜びとか……そういうことの前に、こうして開けること自体の楽しさがあるもんな)
何が当たるのか? どんなカードと出会えるのか? パックを開ける前に味わえるこのドキドキが開封式の何よりの楽しみなのかもしれない。
量が量だからうんざりしないかな……と少し不安だったが、甘木も初めての開封を楽しんでくれてるみたいだ。
「あっ! 光ってるカード出た! って、このカードは……!!」
「おっ、ミリーが当たったのか。スーパーレアの中だと欲しいカードだから、助かったよ」
そんなふうに開封を楽しむ最中、始めてキラカードを当てた甘木が笑顔を浮かべるも……そのカードが少し前に自分に苦汁を舐めさせたミリーであることに気付き、顔を顰めた。
フォローするように声をかける俺に対して、話題を変えたかったであろう甘木が質問を投げかけてくる。
「ねえ、『エヴォルレジェンズ』のカードにもレアリティはあるんだよね? スーパーレア以上にすごいのってあるの?」
「あるにはあるけど、基本のレアリティだとスーパーレアが最高だな。それ以上はちょっと特殊なレアリティって感じだ」
『エヴォルレジェンズ』のカードパックには、一箱に最低一枚特殊レアのカードが封入されている。
下から順番にスペシャルレア、ウルトラレア、レジェンドレアと名付けられており、封入率もレア度に応じたものになっていた。
まず、特殊レアの中では最もレア度が低いスペシャルレアは、多少イラストを拡大したり、効果やパワーが記載されている枠組みを薄くしたりしているだけのカードたちだ。
これでも好きなユニットのイラストがよく見えるという点では嬉しいし、お値段もお手頃だから集めやすいというメリットもある。
次のウルトラレアだが、これは通常とは違う特別なイラストが使用されたカードたちを指す。
主に切り札級のカードたちが通常版より派手で豪華な雰囲気で描かれており、こいつは一カートンに二枚か三枚入っているカードだ。
最後のレジェンドレアは、その名の通り、レジェンドたち限定のレアリティ。
箔押しなどの特殊加工が施され、ウルトラレアよりもさらに派手になったカードたちのことを指し、数カートンに一枚入っているかどうかくらいの超レアカードとなっている。
「へぇ~! そんなに種類があるんだ!」
「まあ、レジェンドレアでもスーパーレアでも効果は変わらないから、コレクター要素が強い部分なんだけどな。初心者は無理して集める必要ないよ。ガチで高いし」
「そんな高いの? いくらくらい?」
「……レジェンドレアなら、このカートンがもう一つ買えるくらいの値段になるかな」
「ええっ!? ま、マジぃ!?」
十万円を超えることも珍しくないという俺の言葉に、甘木が目を丸くして驚く。
もしかしたらこのカードパックの山の中にとんでもないお宝が眠っているかもしれないと想像し、緊張にごくりと息を呑んだ後、ギギギと脂が差されていないブリキ人形のようなぎこちない動きを見せながらこちらを向いた甘木は、再度俺に問いかけてきた。
「あのさ、心愛が私との擁立戦で使った『無敵』のカードあるじゃん? もしかしてだけど、あれも相当高いんじゃ……?」
「ああ、安心して。『無敵』カードはベリーレアだし、割と普通に必要な数が集まるから、ショップでも一枚数百円で買えるよ」
「よ、良かった……! 心愛にリベンジするために必要なカードだし、高かったらどうしようかと……あれ……?」
「ん? 甘木、どうかしたのか?」
『無敵』カードの価格を聞いて安堵した甘木が、テーブルの上に置かれた箱の中をじっと見つめる。
どうかしたのかと思いながら同じところを見てみれば、俺が見逃していたパックが一つ、その中に残っているではないか。
うっかりしてたなと俺が苦笑する中、おもむろに甘木がそのパックを手に取る。
そのまま、無言で封を切れば……今、話題に出していた『無敵』のカード、しかも甘木が必要としている紫属性のそれが出てきた。
「うおっ! すっげぇ! 噂をすれば、ってやつか?」
ちょうど甘木が必要としていたカードが、話題に出していたタイミングで姿を現した。
ルルリカのデッキを入手した時もそうだけど、甘木って持っているよなと彼女の豪運に改めて感心する俺であったが……当の甘木は喜ぶ素振りは見せず、どこか困惑しているような表情を浮かべている。
「甘木……? 嬉しくないのか? 『無敵』カード、欲しかったんだろ?」
「そう、なんだけど……」
俺の問いかけに対し、歯切れの悪い返事をする甘木。
どこか迷っているような雰囲気の彼女は口をもごもごと動かした後、意を決したように俺へと言う。
「ねえ、一ノ瀬。なんか、前にもこういうことってなかった?」