カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「くそっ……! モブ野郎が、調子に乗りやがって……!!」
萌香と仲良さ気に会話するモブ(一ノ瀬とかいったか?)を忌々しく思った俺は、誰にも聞こえないように小さな声で怨嗟の呟きを漏らす。
放課後、教室を出た俺は『エヴォルレジェンズ部』の部室に向かいながら、苛立ちの感情を強め続けていた。
(なんで主人公の俺じゃなくてモブ野郎がヒロインたちと仲良くなってるんだよ? 絶対におかしいだろ!)
『エヴォルレジェンズLOVE4』の主人公として様々なイベントやトラブルの解決を経てかわいい女の子たちから好かれまくり、最高のモテモテ学園生活を送る……この色彩高校に入学することを選んだ時、俺はそんな理想を思い描いていた。
複数ある高校の中で最も攻略対象となるヒロインの数が多いこの学校でなら、夢見たハーレム生活も現実にできると……期待に胸を膨らませながら二度目の高校生活のスタートを切って、クラスメイトの欄に甘木萌香の名前があることに気付いた時、俺は本気で勝ったと思った。
甘木萌香、そして甘木心愛。『エヴォルレジェンズLOVE4』の中でも双子という特異な属性を持っていることもあり、特に人気なヒロインたち。
正統派美少女で胸もデカい心愛と、そんな心愛に対抗心を燃やすロリ巨乳系美少女の萌香は、若干姉の方が人気であるものの、どちらもタイプの違う美少女であることに変わりはない。
ぶっちゃけた話、俺はクラスメイトの萌香よりも心愛の方が好きなのだ。
だから、心愛とクラスメイトになれた方が良かったのだが……姉妹のどちらかと仲良くなれば、結局はもう片方とも出会えるわけだから同じことかと深く考えないことにした。
それに、ここはゲームの世界。現実や『エヴォルレジェンズLOVE4』ではできなかったこともできるはずだ。
姉妹の同時攻略……心愛も萌香も惚れさせて、姉妹ハーレムを作るなんてのも悪くないと、同じ色彩高校に入学した他の転生者たちの中でも、萌香と同じクラスになれたことでその実現に一歩リードしている立場に行けた俺は、自分の勝利を確信していたのだが……現実はそう上手くはいかなかった。
その理由は非常にシンプル、萌香とどう仲良くなればいいのかがわからなかったからだ。
ゲームでは、一定の条件を満たせば出会いイベントが発生して、ヒロインと面識を持ち、交流を深められるようになる。
だから俺はそのイベントの発生を待とうと思っていたのだが、その間に何故か萌香は隣の席のモブ男子と仲良くなってしまっていたのだ。
プレイヤーが務めるはずだった『エヴォルレジェンズ』の先生役もそのモブに奪われ、気が付けば萌香はそいつと毎日のように楽しく話し、昼飯も一緒に食べるようになる始末。
一度、何かのバグでも発生しているんじゃないかと世界の方を疑ったが、そういうわけでもなかったようだ。
そこからの俺は、どうにか萌香と接点を作れないかと動いてみた。
一回、萌香と心愛の擁立戦に際し、初心者である彼女にアドバイスをすることで自分の力量を見せようと声をかけたのだが、それも他でもない萌香に断られ、モブにも注意されるというなんとも情けない結果に終わってしまった。
じゃあ、ゲーム知識を活かして、ここから萌香と仲良くなる方法を見つけ出そうとしたのだが……それも無理だ。
確かに萌香との出会いイベントは様々な形で迎えられるし、『エヴォルレジェンズ』の先生役以外の関係性もある。
だけど、それには他のヒロインを含む多くのキャラクターたちとの関係性が影響してくるし、それを構築するだけのコミュ力が俺にはなかった。
(イベントの発生条件もヒロインの好みのプレゼントも会話時に好感度が上がる選択肢もわかってるのに、それを全然活かせない。こんなんじゃ、何の意味もないじゃねえかよ……!)
ここはゲームの世界だが、同時に現実でもある。ゲームではプレイヤーが何もしていない部分でもいい感じに補完してくれるし、主人公が何もしなければ周囲の環境に変化は起きないが、こっちではそうもいかない。
面倒でも勉強をはじめとした学園生活を送らなきゃいけないし、何もしなかったら孤立していくだけ。その間にも周囲の環境や人間関係は変化していき、萌香のように主人公以外に親しい男友達を作るヒロインも出てしまう。
それは逆に言えば、ゲームのイベントに囚われずにヒロインたちとの関係を構築できるという意味でもあるが……そもそもカードゲームオタクでコミュ力も低く、女の子たちとまともに話したこともない俺たち転生者にそんな真似ができるはずもなかった。
(なんでゲームの世界で現実のコミュ力が必要になるんだよ!? そこはいい感じにどうにかしとけって!!)
イケメンになって、カードが強ければ持て囃される世界に転生して、これからはかわいい女の子たちにモテまくる幸せな人生を送れると思ったのに……その理想は脆くも崩れ去ってしまった。
そう簡単にはいかないと思い知らされた俺は今現在心愛と萌香の攻略を諦め、他のヒロインに狙いを定めている。
それこそが俺が所属しているエヴォルレジェンズ部の部長にしてこのゲームのパッケージを飾るメインヒロイン、
部長と言っても彼女も俺たちと同じ新入生で、エヴォルレジェンズ好きとして入部を希望したわけなのだが……なんとまあ、色彩高校エヴォルレジェンズ部はほぼ活動休止状態。所属している生徒たちも幽霊部員ばかりいう状況。
そんな状況を重く見た学校側から廃部を宣告され、それを撤回させるために部長として奮闘する彼女を支えながら絆を深めていくのが、風花編の王道シナリオだ。
メインヒロインらしい見た目でおっぱいも大きい上にシナリオの突入条件も部活に所属すればいいという非常に楽なことも相まって、甘木姉妹の攻略を一旦諦めた俺と同じ立場の転生者たちが風花を狙い、エヴォルレジェンズ部に集まってきている。
現時点で集まった転生者は俺を含めて三人。当面はこいつらがライバルになるんだなと考える俺の前に、その内の一人が姿を現した。
「おっと、成宮じゃないか。もしかしなくても部活に顔を出すつもりだよな? 悪いが、お前と風花を二人きりにはさせないぜ」
「ちっ……!!」
顔を合わせて早々、いけ好かないことを言ってきた
若干見た目や名前の法則も被っている上に狙っているヒロインも同じこいつのことが、俺は特に気に入らなかった。
「別にお前が風花と二人きりになっても何もできないだろ? 擁立戦で好感度を稼ぐくらいが関の山だ」
「それ、特大ブーメランだからな? 自分で言ってて悲しくならないの?」
お互いに言葉のナイフで刺し合う俺たちだが、内心ではひどく焦っている。
今の段階で誰も風花の連絡先を入手できていないし、彼女の反応に手応えを感じられていないからだ。
ここから先、風花を狙う転生者たちがさらに彼女に接触し始めたら、どんどん攻略が難しくなっていく。
そういう危険性を理解しているものの、俺はとある理由があって少しだけ余裕を持てていたのだが……そこで三島が変なことを言う。
「まあ、風花争奪戦は俺が一歩リードかな? この間の部室争奪戦イベントで活躍したわけだしさ?」
「は……? お前、何言ってんだ?」
「妬むなよ、成宮。その場に居ながら何もできなかったことを悔しがる気持ちはわかるけど、その反応は格好悪いぞ?」
得意気になって俺を挑発してくる三島だが、俺はこいつの言うことに疑念を抱いていた。
三島が言う、部室争奪戦イベント……そこで活躍したのは、俺だったからだ。
このイベントは、エヴォルレジェンズ部の部員として風花を攻略する際に発生するものだ。
部活への昇格を目指す同好会の面々が廃部を目前としたエヴォルレジェンズ部から部室を奪うために擁立戦を仕掛けてくるため、それを撃退するという至ってシンプルな内容のイベントである。
つい先日、俺は部室の明け渡しを求めてきたオカルト同好会の連中と戦い、これを退けることに成功した。
……まあ、一回目は手札事故で負けてしまったわけだが、そこは主人公のチートスキルことリトライでどうにかなったようで、再戦で無事に勝利を掴めたわけだ。
その活躍もあって、風花からの好感度が一番高いのは俺だろうという自負があったのだが……戦っていないはずの三島も何故か、そこで活躍したと宣っている。
(なんだこれ? どうなってんだ? バグ……いや、プレイヤーが多くいるから、調整されてるのか?)
オカルト同好会を退けたのは俺だ。その場には三島もいたが、何もしていない。
だが、三島は自分こそが擁立戦で勝利したと言っている。こいつの様子から嘘を吐いているようにも見えないし、謎は深まるばかりだ。
(こんなことを気にしてても仕方ない。今はとにかく、こいつらを蹴落とす方法を考えないと……!!)
この不可解な事象について考えようとした俺であったが、それよりも優先すべきことがあることに気付いた。
ゲーム世界の意味のわからない現象よりも、同じヒロインを狙うライバルの存在の方が脅威だ。こいつらをどうにかしないと、風花は俺のものにはならない。
好みのプレゼントを贈るなり、イベントを発生させるなりしていち早く風花の好感度を上げる必要があると、そう判断した俺はどうにか他の転生者たちを出し抜けないかと思案を巡らせていくのであった。