カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「ぐぬぬ……! もっといいデッキにできそう感があるのに、どう改造すればいいのかわかんない……!」
「考え過ぎだって。もう十分いいデッキだし、甘木の腕も上がってるよ」
「でも、デッキを組んだばっかの一ノ瀬に負けっぱなしじゃん! 色々カードも貰って強くできてるはずなのに、悔しい……!! でもハマっちゃう……っ!!」
「そこは経験の差だから。あと、俺がルルリカの動き方を理解して、対処できてるだけだって」
甘木とのパック開封式から、数日が過ぎた。
その間、俺は新しく組んだクロスのデッキを調整したり、彼女に『エヴォルレジェンズ』について教えたり、バイトに精を出したりして、充実した日々を過ごしている。
甘木もカードゲームの魅力にドハマりしてくれたみたいで、暇さえあればデッキやプレイングについて考え、相談してくるし、クローバーにも顔を出して店長からも意見を聞いたりしていた。
そんな甘木の今の悩みは俺やお姉さんとの対戦成績が悪いことのようだ。深いため息を吐きながら、愚痴っぽく俺に言う。
「心愛も同じこと言うんだよね。経験の差とか、相性とか、対処法がわかってるからって。でも私も二人のデッキについてわかってきたんだから、勝ちが先行してもいい頃合いじゃん?」
「まあな。でも、焦る必要はないよ。多分、今が一番楽しい時期だからさ」
「……それはそうかも。自分の腕前が上がってるのもわかるし、色々悩むけどデッキのここをこうすればもっと良くなるとか、そういうことを考えるのめっちゃ楽しい」
負けることを悔しがる甘木だが、同時にカードゲームの楽しい部分をたっぷり味わっている。
デッキの回し方やより良い改造方法を理解し、その上で擁立戦に勝つことで達成感を得られる……自分が強くなって、カードゲームを理解していることを実感できる最高に楽しい時期だ。
願わくば甘木が苦悩しながらも自分なりの答えを見つけて、もっと『エヴォルレジェンズ』にハマってもらえたら嬉しいなと思いながら、俺は彼女の相談に乗っていく。
「そう言えばなんだけど、心愛からアルティメットマーカー持ちのカードを貰ったんだよね。これ、私のデッキに合うと思う?」
「ん? どれどれ……?」
そんなふうに、俺たちがいつも通りの昼休みを過ごそうとしていた時だった。
急に教室の扉が開き、大きな音を響かせる。
その音に驚いて前を向いた俺たちは、奇妙な格好をした男子生徒の姿を見て、目を丸くしてしまった。
右腕に包帯をこれでもかというくらいに巻き、同じく右目を隠すように包帯を巻き、さらに制服の上着を肩に掛けるようにして着ている(?)彼は、くわっ! と目を見開くと大声で叫んだ。
「聞け、民衆よ! 今、この世界に危機が迫っている! 我々はその危機について知らなければならないのだ!」
(わぁ、危ない人だぁ……!)
おそらくは一つ上の先輩だが、完全に中二病に罹ってしまっている。あれはもう手遅れだ、ご愁傷様です。
「あれ、オカルト同好会の先輩ね。奇行で有名みたい」
格好も言動も全てがおかしいを通り越して危ない先輩を見つめる俺へと、同じ目をしていた甘木が小さな声で言う。
新入生である俺たちにも存在を知られるくらい奇行で有名って、本当にヤバい人なんだなと俺が思う中、先輩は演説を続けていった。
「お前たちの中に世界の異変を感じ取っている者はいないか!? 混じり合う虚ろな世界! 混濁する記憶! 異変を異変と思えない思考の鈍化! 我々の他にもそれらに心当たりがある、選ばれし者がいるはずだ!!」
「ん? んん……?」
どうしよう、何を言ってるのか全然わからない……というつもりだったのだが、俺はほんの少しだけだが先輩の大袈裟な言い回しの意味が理解できてしまった。
いや、俺の考え過ぎな気しかしないのだが、それでも少しだけ心当たりがある。
例えば、混じり合う虚ろな世界。何がどう虚ろで混じり合っているのかはわからないが、転生者である俺は世界が複数あることを身を以て理解している。
混濁する記憶はデジャヴのことだろう。そう言えば開封式の時、『無敵』カードを当てた甘木が奇妙なデジャヴを感じていたことを思い出した。
最後の思考の鈍化だが……これについてはよくわからない。強いて言えば、異常な転生という事態を受け入れてしまっていることがそれに当たるだろうか?
(意味わかんないんだけど、理解できなくもないっていうか、微妙に心当たりがあるっていうか……なんだ、これ?)
普通に考えれば、中二病患者の意味不明な戯言なのだが、妙に気になってしまう。
それに、カードゲームアニメだとこういう電波系キャラが重大な事実に気付いているだなんて展開が結構あるし……と俺が考える中、教室の外から声が響いた。
「ルーラー、憲兵だ! 一旦退くぞ!!」
「くっ! もう来たか……! 残念だが、詳しく話す時間がない! だが、もしも我々の言葉に何かを感じた者がいたら、放課後に屋上に来い! そこで全てを話そう!! さらばだ!!」
そう言い残して、高二で中二病な先輩は猛スピードで逃げ去っていった。
学校内にいる以上、どう足掻いても捕まって怒られるんだろうなと、そう考える俺へと甘木が声をかけてくる。
「なんか、すごい人だったね。傍から見てる分には面白そうだったけど……」
「まあ、うん……そうだな」
とても感想に困る中、お互いに何とか捻り出した言葉を口にした俺たちが渇いた笑い声を漏らす。
だが同時に、俺はあの先輩の言葉に無視できない何かを感じてもいた。
(放課後に屋上、か……)
妙な先輩たちとの接点ができてしまうのは少し嫌だが、それを考慮しても聞く価値がある話かもしれない。
今日は甘木もこの間の埋め合わせに家族の夕食を作ると言っていたし、バイトも休み。特に予定もないし、暇つぶし感覚であの先輩たちに会いに行ってみよう。
(……なんか思いっきりアホな選択をしてる気がするなぁ)
自分でそう思ってしまいそうになるところをどうにか制しながら、俺はとりあえずの予定として、オカルト同好会の先輩たちの話を聞きに行くことを決めるのであった。