カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
(毎回思うんだけど、アニメ世界の学校ってどこも自由に屋上に入れるようになってるよな。普通は立ち入り禁止だって知った時はびっくりしたなぁ……)
多分、最も身近にあるアニメと現実世界との違いについて考えながら、俺は屋上へと歩を進める。
アニメ世界の例に漏れず、特に施錠もされていないドアを開けてみれば、その先にはやや曇っている空と人気のない屋上の景色が広がっていた。
「……よくぞ我々の下を尋ねてきた、というべきか。こうなることは既に知っていた、というべきか」
確かここにオカルト同好会の先輩たちがいるという話だったが……と周囲を見回す中、思っていたよりもずっと近くから声が聞こえてくる。
そちらへと顔を向ければ、昼休みに見た先輩が腕を組み、瞳を閉じながら俺に語る姿が目に映った。
「運命に導かれし者よ、歓迎するぞ。我らの声に応えてくれたこと、嬉しく思う」
「あ、え~っと……あ、あはは……」
よく見れば、先輩の後ろには似たような雰囲気を漂わせる男子生徒が二名ほどいた。
この三人でオカルト同好会なんだなと察しつつ、俺は自己紹介する。
「えっと、俺は一年D組の一ノ瀬っていいます。先輩は……?」
「
「なっ!? ルーラー! お前、初対面の相手に真名を!?」
「構わん。
なんか壮大な秘密を明かした感があるが、教室から逃げる時に普通にその名前で呼ばれてたのを俺は聞いている。
っていうか、黒岡琉人ってまんまオカルトじゃないか。この間の鎌瀬くんもそうだが、やっぱりこの世界の人間って名前がキャラの特徴を表し過ぎてないか?
中二チックな先輩たちのやり取りを聞きながら、話を聞きに来たのは失敗だったかな~と俺が早くも自分の行動を反省し始める中、黒岡先輩が言う。
「一ノ瀬、と言ったか。早速、お前の疑問に答えよう。この世界に迫る危機とは何か? それを説明するためには、数日前に時を戻さねばならない」
「え~っと……何日か前に変なことが起こったってことですか?」
「平たく言うとそうなる。その日、我々は安住の地を得るための聖戦に挑んだ。こいつを使って、な」
「えっ? 『エヴォルレジェンズ』……!?」
黒岡先輩は、話をしながら制服の内ポケットから『エヴォルレジェンズ』のデッキを取り出した。
予想外の事態に俺が驚く中、先輩たちが説明を続ける。
「戦いの相手は活動をほぼしていないエヴォルレジェンズ部……名ばかりの領主を打ち倒し、領地を我々のものにするという作戦だった」
「相手の土俵に立ったのは、得意分野で完膚なきまでに叩きのめすことで心を折るためだ。そのために修練も重ねた」
「そうして我々はエヴォルレジェンズ部の部室に出向き、奴らとの決戦を繰り広げたわけだ」
一気に情報が飛び込んできて困ったが、言いたいことは理解できる。
先輩たちはエヴォルレジェンズ部の部室を奪うべく、勝負を仕掛けた。カードゲームアニメあるあるの大事なものを賭けての擁立戦を行ったということだ。
だけれども、この学校のエヴォルレジェンズ部がほぼ活動していないという話は初めて聞いたかもしれない。
俺はバイトを始めちゃったから入部はできないけど、こんな世界だし、きっと盛り上がっているんだろうなと勝手に思っていたが……どうやら廃部寸前の状況から成り上がっていく方のパターンだったみたいだ。
「でも、先輩たちはまだ屋上を根城にしてるってことは、その勝負に負けちゃったんですよね?」
話を戻した俺は、先輩たちとエヴォルレジェンズ部の勝負の結果について尋ねる。
状況的に考えればそうなるよなと思う俺であったが、先輩たちは実に難しい表情を浮かべながらこう答えた。
「いや、違う。我は勝った。だが、負けたことになっているんだ」
「は……?」
なんだかとんでもなく意味不明なことを言う黒岡先輩へと訝し気な表情を向ける俺へと、彼はより詳しく話をしてきた。
「決戦の日、我は代表としてエヴォルレジェンズ部の代表と一対一の擁立戦を繰り広げた。そして、確かに勝利した記憶がある。だが……同時に、敗北した記憶もあるんだ」
「勝った記憶と負けた記憶がどっちもある……? 失礼ですけどその、勝った方の記憶が先輩の妄想だっていう可能性は?」
「断じて否だ! 俺は勝った! 奴らとの戦いに勝利したはずなんだ!」
「奴
どうにも先輩の話には引っ掛かることが多過ぎる。だがしかし、同時に目の前の彼が嘘を吐いているように見えないことも気になっていた。
特に、一対一の勝負と言ったはずなのに複数の相手と戦ったように聞こえる先輩の言葉について尋ねてみれば、後ろに控える二人の先輩たちが代わりに答えてくれた。
「俺たちがエヴォルレジェンズ部の部室に乗り込んだ際、その場には女子が一人と男子が三名の合計四人の生徒たちがいた。擁立戦に自信がないという女子に代わって、男子の中の一人が俺たちの代表である黒岡と戦ったんだが――」
「――俺たち全員が、その相手が誰だったかを覚えていないんだ。正しくは、三人全員と戦った記憶があるが、結局誰が代表だったかがわからないでいる」
「三人全員と戦った……?」
「そうだ! そして我は奴ら全員に勝った記憶がある! だが、しかし……」
……確かにどうにも奇妙な話だ。オカルト同好会の先輩たちが噓を吐いているようには見えないが、現実のものとも思えない。
黒岡先輩はいったい誰と戦ったのか? 全員と擁立戦をした記憶があると言っていたが、実際にエヴォルレジェンズ部の代表は誰だったのかを突き止めれば少し理解が進むのではないかと考える俺であったが、そんな考えを見抜いたであろう先輩が言う。
「既に相手の女子生徒にあの日、我と戦ったのは誰だったのかを確認してみたが……奴も覚えていないと答えた。これは明らかな異常だ。複数の世界線が混じり合っているとしか思えん」
「……三人の男子生徒のそれぞれが代表になった世界が三つ。彼らとの擁立戦に勝った場合と負けた場合の世界があるから、合計六つの世界が観測できているってことですね?」
俺の確認の言葉に、先輩たちが大きく頷く。
普通に考えればおかしな話なのだが、俺にはこれを中二病患者の妄想と切り捨てることができなかった。
「……実は、俺の友達も似たようなことを言ってたんです。絶対にあり得ないシチュエーションなのに、前にも同じことがあったかもしれないって」
「やはり、我々の他にも異変を感知している者がいたのか……!!」
先日の開封式の中での甘木の発言を再度振り返りながら、俺はその可能性に気付く。
もしかしたら甘木が感じていたデジャヴは思い違いではなく……今の先輩たちのように、
それが何を意味するか、今の俺にはわからない。
だけど、往々にして世界を揺るがすような大事件が発生するのがカードゲームアニメの世界だ。この異変も、今後何かの事件に関係してくるかもしれない。
「……どうやら世界の歪みは我々の想像以上に広がっているようだ。こうして我らが出会えたのも運命なのだろう。この異変に対処するために、今後も情報を共有していくべきだ」
「ああ、連絡先の交換ですね? わかりました」
先輩の遠回しな言い方にも慣れてきた俺は、スマホを取り出して黒岡先輩と連絡先を交換した。
高校に入って初めて連絡先を教えたのがとびきりかわいい女の子で、その次が中二病の先輩かと、その振れ幅に苦笑する俺であったが……ちょうどその時、着信が入る。
ディスプレイに表示された【甘木萌香】の名前と、メッセージではなく通話での連絡であることに眉をひそめながらも、俺はその通話に応えた。
「もしもし? 甘木、どうかしたのか?」
『………』
「……甘木? おい、どうした? 何かあったのか?」
『い、いち、のせ……っ!!』
通話越しに聞こえてくる、荒い呼吸音。
どこかパニックになっているような、浅く速い呼吸を繰り返すその様子から何か異常事態が起きていることを察知した俺へと、甘木が絞り出したような声で言った。
『お願い……助けて……!!』