カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ!   作:烏丸英

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【紅蓮衆】VS【ハウンドドッグ】※

 立体映像を使った本格的な対戦ができるファイトテーブル。それを使った擁立戦が行われるということで、ゲームエリアにいた子供たちは期待に満ちた表情を浮かべていた。

 そんな子供たちの様子すらも鬱陶しく思っているのか、先に待っていた男は姿を見せた俺に対して苛立った様子で言う。

 

「遅えんだよ。さっさと支度しろ、グズ店員」

 

「はいはい、申し訳ありません。念のため確認しますけど、前シーズンのカードを使っての擁立戦で大丈夫ですよね?」

 

「当たり前だろ。発売直後のカードでデッキ組んで戦えってのか?」

 

 いちいち一言多いなと思いながら、確認ができた俺は自分のデッキをテーブルに置いた。

 五十枚のカードで組まれたメインデッキと、それとは別に用意してある四枚のカードたち。

 これはレジェンドデッキと呼ばれている、擁立戦のメインとなるカードたちだ。

 

 レジェンドデッキにはその名の通り、レジェンドと呼ばれるカードたちで構成されている。

 俗に言う、リーダーカードであり、背景ストーリーで自分たちが思い描く王になるために戦いを繰り広げる英雄たちとして設定されている彼らレジェンドを進化させて戦うから、『エヴォルレジェンズ』と呼ばれているわけだ。

 

 レジェンドは縦三列、横二列で構成されたバトルフィールドの前列中央に配置され、そこから離れることはない。

 残りの五つのエリアにユニットを召喚して共に戦わせたり、様々な効果を発動するコマンドカードと呼ばれるカードたちを使用して戦い、先に相手に六ダメージを与えたプレイヤーが擁立戦の勝利となる。

 

 要するに、俺たちプレイヤーは推しであるレジェンドを王様にするために戦うということだ。

 新シーズンに入って、このデッキもそろそろ使えなくなってしまうなと思っていたところに思ってもみなかった出番がもらえて、少しラッキーだと思っている自分もいる。

 

「おい、モタモタすんなよ。早くしろ」

 

 そんなに時間をかけているわけでもないのに苛立ちがすごいことになっている男を見ながら、俺は初期手札を山札から引く。

 その際、ファイトテーブルに表示された相手の名前を見て、目を細めた。

 

鎌瀬犬介(かませけんすけ)……? なんかこう、もっとあるだろう!?)

 

 こんな状況でも同情してしまう男性客こと鎌瀬のことを不憫に思いながら、心の中でツッコミを入れる。

 ただまあ、この世界では名は体を表すなんてことも珍しくないわけで、そういった意味でも恐ろしい世界でもあった。

 

 もしかしなくても、彼ってこれまでもこれからも名前の通りの人生を送っていくのかもな……と、彼のことを本当に不憫だなと考えた俺だったが、相手が転売ヤーであることを思い出したおかげで同情を完全に消すことができた。

 そうして準備を整えた俺は、鎌瀬へと言う。

 

「準備できました。対戦、よろしくお願いします」

 

「ちっ、やっとかよ……!」

 

 そう言いながら、鎌瀬が裏向きにしたままの自分のレジェンドカードへと手を伸ばす。

 俺も同じように自分のレジェンドを手に取ると、擁立戦開始の合図と共にそれを表向きにした。

 

「「オープン・ザ・レジェンド!」」

 

「【ハウンドドッグブリーダー チアキ】!」

 

「【紅蓮衆見習い ガイム】」

 

 擁立戦の開始と共に、表向きにしたレジェンドたちがお互いの場に立体映像として表示される。

 俺の場には橙色の具足を纏った少年武者が、鎌瀬の場にはスタイルのいい黒髪の美女が出現し、その姿を目にした子供たちが歓声を上げた。

 

(白の【ハウンドドッグ】デッキか。構築は大体読めるな)

 

 鎌瀬が使うレジェンド【ハウンドドッグブリーダー チアキ】は、その名の通り猟犬たちを使役するカードだ。

 【ハウンドドッグ】と名の付くユニットを強化する彼女の能力と場にユニットを揃えやすいという白属性の特徴が合わさることでお手軽に強力な盤面を作れることから、初心者におすすめのデッキとされていた。

 

 その反面、構築がほぼ固まっていることやどんなに上手く使っても出せる力に限界があるという弱点も抱えている。

 簡単に強くなれるが一定のランクに到達するとそれだけじゃ勝てなくなる、ス〇6のエド〇ンド〇田みたいなデッキだ。

 

 とは言いつつも、安定性の高さとチアキがエロかわいい人気ユニットということもあって、使い続けるプレイヤーも数多くいる。

 使い込んだプレイヤーが指揮を執ると元々のパワーも相まって本当に難敵と化すのだが……と考える俺の前で、鎌瀬がプレイングを開始した。

 

「先攻は俺がもらうぜ! 場に【ハウンドドッグ ポメラ】を召喚だ!」

 

 先攻は宣言した者がもらうというのはカードゲームアニメあるあるだが、できれば公平なルールで決めさせてほしい。

 まあ、俺も慣れてしまったから敢えて何も言わないことにした。

 

「場にハウンドドッグが一体以上存在することで、条件達成! 【ハウンドドッグブリーダー チアキ】を【ハウンドドッグテイマー チアキ】に進化させるぜ!」

 

 進化時の効果で一枚ドローする鎌瀬の前で、チアキの姿に変化が起きる。

 手に鞭を持ち、胸がむちっと大きくなった彼女を満足気に見つめながら、鎌瀬はターン終了を宣言した。

 

「先攻は攻撃できない。これでターンエンドだ」

 

「ターンもらいます、ドロー」

 

 宣言を確認してからカードを引き、メインフェイズに入る。

 『エヴォルレジェンズ』では基本的に相手の動きを妨害することはない。気持ち良くデュエルさせてもらおう。

 

「【紅蓮衆見習い ガイム】の効果発動。手札から一枚選び、このカードの下(ハーツ)に置きます。これで進化条件達成。【紅蓮衆 剣客のガイム】に進化」

 

 レジェンドの下に重ねられているカードはハーツと呼ばれ、これを参照したり、活用する効果を持つカードも多い。

 まあ、それはさておきといった感じで、俺はさらにプレイングを続けていく。

 

「【紅蓮衆 一番槍のバロウ】と【紅蓮衆 再燃のサク】を召喚。バトルフェイズに入ります」

 

 前列にユニットを展開。攻撃の準備は整った。

 バトルフェイズに入ることを宣言した俺は、続いて攻撃の宣言をする。

 

「まずは再燃のサクで攻撃。通りますか?」

 

「へっ、ガードさせてもらうぜ」

 

 相手の攻撃に対して、防御側のプレイヤーは手札からユニットを出すことで、そのユニットが持つガード値を攻撃されているユニットのパワーに加えることができる。

 その合計値が攻撃側を上回れば防御成功となるわけで、『エヴォルレジェンズ』において手札は攻撃のための剣であると同時に防御のための盾でもあるわけだ。

 

 俺の初撃をガードした鎌瀬が使ったカードをドロップゾーンに送る中、俺は二度目の攻撃を宣言する。

 

「ガイムで攻撃。ガードは?」

 

「その攻撃もガードだ! 通さねえよ!」

 

 レジェンドが攻撃する際、攻撃側のプレイヤーはレジェンドのレベルと同じ数だけカードをドローすることができる。

 ガイムの攻撃宣言の後、山札から一枚カードを引いた俺は、鎌瀬のプレイングに対する違和感に目を細めていた。

 

(こいつ、防御のために手札を使い過ぎてないか?)

 

 まだ擁立戦が始まったばかりだというのに、鎌瀬は既に二枚のカードを使用して俺の攻撃を防いでいる。

 いくら白のデッキが展開力に優れているとはいえ、そこまで手札を使ってまで防御する必要はないはずだ。

 

 続けての三度目の攻撃は通ったが、俺のカードゲーマーとしての勘がどうにも妙だと警鐘を鳴らしている。

 このプレイングには何か裏があると……そう俺が考える中、ターンをもらった鎌瀬がプレイを見せていった。

 

「俺のターン! 【ハウンドドッグ ビーグル】を召喚! これで【ハウンドドッグ】と名の付いたユニットが二体揃い、進化条件達成!! 【ハウンドドッグテイマー チアキ】を【ハウンドドッグコンダクター チアキ】に進化! そのまま効果はつど……っ!?」

 

 ユニットを進化させた鎌瀬が、そのまま自分のダメージゾーンに手を伸ばしながら効果発動を告げようとして……動きが止まった。

 そんな彼の様子を見ながら、俺は静かに言う。

 

「……チアキの効果発動に必要なコスト、足りてないですよ」

 

「うるせえな! わかってるよ!」

 

 【ハウンドドッグコマンダー チアキ】には、デッキから【ハウンドドッグ】ユニットを場に出せる効果がある。

 ただし、そのためにはダメージブラスト②……ダメージゾーンにあるカードを二枚、裏向きにする必要があった。

 

 先のターンで鎌瀬が受けたダメージは一。これでは効果発動に必要なコストが足りない。

 どうしてこんな初歩的なミスをしたのかと訝しむ中、鎌瀬は攻撃を宣言する。

 

「チアキとビーグルでガイムに攻撃だ!」

 

「……ノーガード」

 

 たわわな胸を揺らすチアキが振るった鞭と飛びかかってきた犬の牙がガイムにヒットし、俺もダメージを受ける。

 これでダメージを逆転されたわけだが、俺はあまりにも不可解な鎌瀬のプレイングに困惑しっぱなしだった。

 

(進化条件に必要なユニットだけを場に出して、それ以上の展開をしなかった……マジでどういうことだ?)

 

 【ハウンドドッグ】デッキの性質を考えると、ここでユニットを展開しないのは鉄板のプレイングから外れる行為だし、そうならないように気を遣うのがこのデッキを握る者が持つ思考のはずだ。

 チアキの効果が発動できずにゲームプランが狂ったというのもあるのかもしれない。前のターン、手札を使い過ぎて攻撃に必要なユニットが確保できなかった可能性もある。

 ただ……おそらくはこういった賭け擁立戦に慣れているであろう鎌瀬が、初心者のようなミスを連発していることが気になった。

 

「お前のターンだぜ、早くしろよ」

 

「………」

 

 奇妙な薄気味悪さを感じながら、俺も自分のプレイを行う。

 このターンはユニットを進化させると共に再度攻撃を仕掛けたが、やはり鎌瀬は手札を消費して一ダメージを受けるだけに留めてきた。

 

「俺のターンだな。一気に決めさせてもらうぜ!!」

 

 ターン権を得た鎌瀬が、意気揚々とプレイングを開始する。

 ドローの後、そのまま引いたカードを場に叩きつけるようにしながら、奴はユニットを召喚した。

 

「【ハウンドドッグ ドーベル】を召喚! 場に存在する三体の【ハウンドドッグ】ユニットを手札に戻すことで、進化条件達成!」

 

 鎌瀬の宣言と共に、立体映像で表示される三体の猟犬たちが光の玉へと変化していく。

 激しく回転し始めた光の玉たちに囲まれ、全身を強い光に覆われたチアキは、その光の中で最後の進化を見せていった。

 

「猟犬たちを束ねる麗しき指揮官! その鞭を振るい、牙剥く猛犬たちの脅威を敵に知らしめろ! レベル3! 【ハウンドドッグコマンダー チアキ】!!」

 

 纏う衣装を黒い軍服に変え、谷間を協調するかのようにシャツのボタンを開けたチアキが姿を現した時、観客たちから小さな歓声が上がった。

 チアキに熱い視線を向ける幼い少年たちがこのスタイル抜群なセクシー女軍人のせいで性癖を歪められていないか不安になる中、鎌瀬は効果の発動を宣言する。

 

「【ハウンドドッグコマンダー チアキ】の効果発動! ダメージブラスト②を行い、デッキトップから三枚を見て、【ハウンドドッグ】ユニットを一枚選び、バトルゾーンへ!」

 

 デッキトップから三枚を確認した鎌瀬が、ニヤリと笑うと共にドーベルマンのユニットを召喚する。

 これでがら空きだった盤面が一つ埋まったわけだが、こんな物では終わらない。むしろここからが【ハウンドドッグ】デッキの本領発揮だということを俺は知っていた。

 

「この効果を発動した後、俺の場に空いているユニットサークルがあるのなら、デッキトップを確認できる。それが【ハウンドドッグ】ユニットなら同じように場に出し……この処理を、再度繰り返すぜ」

 

 これが【ハウンドドッグ】デッキの強みだ。

 【ハウンドドッグコマンダー チアキ】の進化条件を達成するために空けたポジションに、彼女の効果を使って新たなユニットを呼び出せる。

 

 多少運任せにはなるが、基本最初の三枚確認で欲しいユニットを場に出すことができるし、進化のために戻した三枚のカードはガード値として使えるため、無駄がない。

 そして、チアキには自分の場の【ハウンドドッグ】を強化するという自動効果がある。このバフと大量展開を活かして猛攻を仕掛けるのが【ハウンドドッグ】デッキの勝ちパターンだ。

 

 事実、目の前の鎌瀬はこの効果で次々と場にユニットを召喚している。がら空きだった場は、あっという間に最適な盤面を形成しつつあった。

 だが、しかし……俺はそんな鎌瀬の場に……いや、この状況に違和感を覚えている。

 何もかもが、鎌瀬の理想通りに動き過ぎているように見えたからだ。

 

 先にも述べた通り、チアキの効果を活用した【ハウンドドッグ】デッキの展開は多少の運が絡む。

 最初の三枚確認を除けば、あとはデッキトップからの坊主捲り。【ハウンドドッグ】名称のユニットが出なければそこで終わりだし、仮に出続けたとしてもゼロから理想的な盤面が築けるかと聞かれると難しいものがある。

 

 例えばだが、捲れたカードが全部パワーの低い低レベルユニットになる可能性もあるし、逆に高いパワーを持つレベル3ユニットばかりを引いても攻撃できない後列に置く羽目になって、無駄引きになることだってあるわけだ。

 だから、基本的に【ハウンドドッグ】デッキの使い手はゼロからの盤面形成はしない。前のターンからある程度のユニットを場に出し、柔軟に動ける盤面を作るための準備を行っていく。

 

 しかし、鎌瀬はそれをしていなかった。定石から外れたプレイングを連発し、ゼロからの盤面形成というギャンブルを行っている。

 それなのに彼の場には前衛を任せられる高パワーのユニットと、それを援護する後衛の低レベルユニットがバランス良く置かれ、理想的な盤面が作られていた。

 

「へへへ……! 最高の盤面だ。俺がデッキに愛されてる証拠だなぁ……!!」

 

 自己陶酔しているように笑いながらそんなことを呟く鎌瀬の言う通りなのだろう。

 名前のおかげというわけではないが、相当に運が良く、デッキに愛されていなければこんな理想的ムーブをギャンブルで作ることはできない。

 ……あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、と考える俺へと、展開を終えた鎌瀬が猟犬たちと共にその牙を剥く。

 

「さあ、攻撃だ! 血に飢えた猟犬たちよ、身の程知らずの敵を食い千切ってやれ!!」

 

 チアキによるパワーアップ効果を受けた【ハウンドドッグ】たちが、彼女と共に俺に襲いかかってくる。

 しかし、特に焦る必要はない。ここで三連続ダメージを受けたとしても、合計ダメージは五。敗北まで一ダメージ足りないのだから。

 

「ノーガードで、全部受けます」

 

「ヒャハハハハッ! 手も足も出ねえみたいだなぁ!? そのまま何もできずに死んじまいなぁ!!」

 

 ダメージ五だから死なないんだよなぁ……と思いながら、俺は全ての攻撃を受ける。

 猟犬たちの牙が、チアキの鞭が、ガイムにヒットする度に軽い衝撃を受けたが、別段気にするほどのものでもなかった。

 

「はっ! どうにか命拾いしたみたいだな。だが、お前の敗北まであとダメージ一……次のターンで終わりにしてやるよ」

 

 命拾いしたんじゃなくて、普通に負けないから攻撃を受けたんだって……と心の中でツッコミながら、小さく息を吐く。

 自分と相手の盤面、手札の数と内容、ユニットの効果。それら全てを確認した俺は、心の中で呟いた。

 

(よし、勝ちにいくか)

 

 前のターンでは好き勝手煽ってくれたが、ここからは俺のステージだ。

 思いっきり……やり返させてもらおう。

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