カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「まさか、そんなことが……」
助けを求めてきた甘木を保護するような形で家に連れ帰った俺は、彼女の口から何が起きたのかを聞き、愕然としていた。
突然、自分の前に姿を現したもう一人の自分たち……現実離れしたその現象に言葉を失う俺へと、甘木が言う。
「こんな話、信じられないっていうのはわかる。でも――!!」
「わかってる、甘木が嘘を吐く理由なんてない。俺は今の話を信じるよ」
「一ノ瀬……ありがとう……」
普通に考えれば、信じられない話だ。甘木が悪い夢でも見ていたんじゃないかって、そうツッコんで終わりだろう。
だが、俺は黒岡先輩の話を聞き、何か異変が起きていることを前もって理解していたし、甘木が嘘や冗談でこんな話をする人間じゃないということを知っている。
(そもそも俺も転生者だしな。それに、カードゲームアニメならもう一人の自分と遭遇するっていうぶっ飛んだ出来事が起きてもおかしくないし……)
現実離れした存在といえば、俺だってそうだ。転生者である俺は、甘木の話を現実のものとは思えないだなんて言える立場じゃない。
その上で、この現象について考えていった俺は、最初の疑問を口にした。
「でも、どうして甘木なんだ? 俺はもう一人の自分となんて出会ってないし、甘木以外にそんな目に遭った人もいなさそうだ」
どうして甘木とそのお姉さんの下にだけ、もう一人の自分が現れたのか?
俺の周囲でもう一人の自分と遭遇した人物は今のところ甘木だけだ。彼女が選ばれたのには、何か意味があるような気がする。
そして、もう一つ……もう一人の甘木たちは何を目的としているのか? これについては甘木が怯えながらこう答えてくれた。
「わからないけど、あいつらは私に何かをしようとしてた。さっさと済ませようって、ちょうど別々に行動してるから、都合がいいって……あっ!?」
「どうしたんだ、甘木?」
もう一人の自分たちと出会った時のことを振り返り、俺に話してくれていた甘木の目が大きく見開かれる。
何かを思い出したのかと尋ねる俺へと、甘木は焦りを色濃く浮かび上がらせた顔でこう答えた。
「心愛……! あいつらの狙いは私だけじゃない、心愛もだ!! 別々に行動してるからちょうどいいって、そういうことでしょ!?」
ここまで混乱していたせいで頭が回らなかったであろう甘木は、自分だけでなくお姉さんも狙われていることに気付いて再度パニック状態に陥りかけていた。
それでも、俺の家という安全圏内にいるおかげでギリギリ冷静さを保てているであろう彼女は、お姉さんに電話を掛けて安否を確認しようとしたのだが……?
「……ダメ、出ない。もう家に帰っててもおかしくない時間なのに……!」
お姉さんが連絡に応えることはなかった。
時刻を確認し、最悪の事態を想定したであろう甘木は、立ち上がると共に部屋から出ていこうとする。
「一ノ瀬、ごめん。私、一旦戻って、家の様子を見てくる」
「何言ってるんだ! そんなことして、あいつらに見つかったらどうするんだよ!?」
「でも、心愛があいつらに捕まってるかもしれないんだよ!? もしそうだったとしたら、助けないと!!」
「落ち着けって! 行くんだったら俺だ。甘木が捕まったら、それこそお姉さんもピンチになるかもしれないだろ?」
ここで甘木を家に帰らせるのはマズい。お姉さんを心配する気持ちは痛いほど理解できるが、冷静に行動すべきだ。
家の様子は俺が確認すると……そう必死に甘木を説得している最中に、部屋の扉が開いた。
「進弥? どうしたの、そんな大声出して……?」
「あっ、母さん……! ごめん、ちょっと……」
一瞬、甘木共々驚いてビクッとしてしまった俺だが、扉を開けたのが母であることを見て取ると共に安堵のため息を吐いた。
そうした後、事情の説明は後にするとして、今日、甘木を泊めてもいいかを確認すべきだと考えた俺であったが、そんな俺へと母が呆れた様子で言う。
「またレアカードでも当たったの? 嬉しい気持ちはわかるけど、大声は出さないようにしてね」
「え……?」
「あ~あ、甘木萌香ちゃんだっけ? あんなかわいい子を家に連れてきた時はようやく息子に春が来たと思ったけど、やっぱりあんたはそう簡単には変わらないか」
……何かがおかしい。苦笑しながら語る母を見ながら、俺は思った。
その言い方じゃ、まるで……と考えた俺は小さく息を呑むと共に、母へと尋ねる。
「ねえ、母さん……今、この部屋の中に誰がいる?」
「は……? 誰って、
「っっ!?」
驚きながら、呆れた様子で眉をひそめてそう答えた母の言葉を聞いて、俺は愕然とする。
母には、俺のすぐ傍にいる甘木の姿が見えていない。いや、甘木の存在を認識できていないのだ。
「う、そ……なんで……?」
「あま――っ!?」
そのことに気付いた甘木が、顔を真っ青にしながらその場にへたり込む。
その際に響いた音にも気付いていない母が、血相を変えた俺の様子を不思議そうに見つめていた。