カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「なるほどな……まさか、そのような事態が起きていたとは……」
「ねえ、一ノ瀬? この人、本当に頼りになるの?」
「黒岡先輩はこの状況もすんなり受け入れてくれる数少ない人だからね。それに、俺の頼みも聞いてくれたしさ」
いつも通りの包帯ぐるぐる巻きという奇抜なファッションで俺の家にやって来た黒岡先輩に状況を説明すれば、彼は神妙な表情を浮かべながら静かに唸った。
そんな先輩に対し、甘木は若干疑念の視線を向けているようだ。
ただ、この状況で先輩はかなり頼りになると、そう判断した俺に対し、彼が言う。
「盟友よ。この場に甘木萌香がいるんだな? だがしかし、お前以外には感知できない、と」
「はい。信じてもらえるかはわかりませんが……」
「信じよう。
やっぱり先輩は受け入れが早い。俺や甘木がパニックになってしまった話を、むしろ嬉々として飲み込んでくれた。
「だがしかし、無念だ……我の力を持ってすれば、甘木萌香の姿を見るどころか再度彼女をこの世界に現出させることも可能だが……今は魔力が足りん。すまない、盟友。非力な我を許してくれ」
「ああ、いえ、大丈夫です。お気になさらず……」
こういう厨二なところが玉に瑕だが、まあ気にしない方向でいこう。
どこぞの光ってる天使的なカードを使うバリ○ンみたいなことを言う先輩を軽くスルーする俺へと、今度は甘木が声をかけてきた。
「一ノ瀬、先輩に頼みごとをしたって言ってたけど、何をお願いしたの?」
「ああ、学校の様子……正しくは、学校に来るかもしれないもう一人の甘木たちを監視してもらえるように頼んだんだ。あいつらの目的が何かわかるかもしれないと思ってさ」
今、俺たちが一番求めているのはもう一人の甘木たちに関する情報だ。その中でも、奴らの目的がなんなのかを知ることはとても重要になる。
もしももう一人の甘木たちが学校に来れば、そこから何かを掴めるかもしれないと考えた俺は、黒岡先輩に頼んで二人を監視してもらっていた。
「甘木萌香と心愛……お前たちからすれば偽物だということで、偽をつけて呼称するが、偽甘木姉妹は学校に来た。そして、ほとんど普通に過ごしていたぞ」
「クラスのみんなは何も言わなかったんですか? 髪の色とか、昨日と完全に違ってたはずなのに?」
「特に反応はなかったな。周囲の者たちも普段と何も変わらない様子だった」
「そんな、どうして……!?」
甘木の話を聞く限り、二人と偽甘木姉妹は髪型や髪色といったわかりやすい違いがあるはずだ。
それに関してクラスのみんなが何の反応も見せなかったという報告に甘木が顔を青くする中、黒岡先輩が机にスマホを置きながら言う。
「もう一つ、報告することがある。この映像を見てほしい」
「これは……もう一人の私と、クラスメイトの……?」
「デッキが置いてある。ってことは、擁立戦をしてるんですか?」
やや離れた位置から撮影された映像。それは、偽甘木とクラスメイトの男子が『エヴォルレジェンズ』のデッキを出し、擁立戦をしている場面だった。
映像装置で再現された騎士のユニットを従えている彼には見覚えがある。確か、甘木がお姉さんと擁立戦をした時に、アドバイザーになろうとした子だ。
「現時点で偽甘木がダメージ五、男子生徒が四だ。次のターンで決着がつく。まずはこれを見てほしい」
そう言って、黒岡先輩が映像を再生していく。
俺と甘木は、食い入るようにスマホの小さな画面を見つめ、擁立戦の行く末を見守り始めた。
★ ★ ★
「ちぇっ! トドメは刺せなかったか。でも、次のターンで決めてやるぜ!」
最後の攻撃を防がれたことを悔しがりながらも、俺は自分の勝利を確信していた。
潤沢にある手札。揃っているユニット。ダメージでも有利を取っているし、相手の攻撃を防げるだけのガード値もある。
何より、萌香が使うルルリカデッキの挙動は完璧に把握しているから、対処法もわかっているのだ。
(うっひょ~っ! これで萌香とのデートは確定! 折れてたと思ってたフラグが復活するぜ~!)
今朝、クラスで萌香の姿を見た時、何か違和感のようなものを覚えたが、今となってはそんなことどうだっていい。
毎日のように萌香と仲良く話しているモブ野郎が休みだったおかげか、なんと彼女の方から俺に声をかけ、擁立戦を申し出てくれたことは今日までの不運を帳消しにするくらいのラッキーだ。
しかもこの勝負に勝ったらデートまでしてくれるというのだから、最高以外の何物でもない。
ようやく萌香とのイベントが進む気配を感じ、大喜びで擁立戦の申し出を受けた俺は、あと一歩で彼女を倒すところまで追いつめていた。
「う~ん、ダメージ五かぁ……思ってたより、だなぁ……」
「どうだ? 俺、思ってたより強いだろ!?」
対面の萌香の呟きに、俺は胸を張って応える。
『エヴォルレジェンズ』初心者の萌香は、実力者に対して好感を抱くはずだ。こうして直接彼女を倒せば、好感度の上昇も大きくなる。
この調子で実力を見せつけていけば、あの一ノ瀬とかいうモブなんかあっという間に追い越して、萌香を俺の彼女にできるはずだと……その先に待つ、巨乳双子姉妹の美少女ハーレムを想像して鼻の下を長くしかけていた俺の耳に、意味深な笑い声が響く。
「ふっ、ふふふっ……! あはははははっ! 勘違いしちゃって、面白~い!」
おかしさを堪えきれなかったとでもいうように大声で笑い始めた萌香が、俺に視線を向ける。
その目に、視線に、嘲りの色が浮かんでいることに気付いた俺が息を呑む中、彼女は続けた。
「私、まだ全然本気出してないっていうのに、五点ダメージを与えたからって調子に乗っちゃってさ~……! デートを餌にちらつかせた時もそうだったけど、やっぱりわかりやすいよね~、雑魚ってさ!」
「ざ、雑魚……?」
「うん、自分の実力を勘違いしてるクソ雑魚! さっき次のターンで~とかなんとか言ってたけど、雑魚のターンなんて来ないから、そこも勘違いしてるよね~!」
……何かがおかしい。何かが変だ。
俺の知っている萌香はこんなキャラだったか? こんな、メスガキめいた煽りをしてくるキャラだっただろうか?
今になって、朝、萌香を見た時に感じた違和感が膨れ上がってきた。
その違和感がさらに大きくなっていく中、嘲りの笑みを浮かべる萌香がデッキからカードをドローする。
「私のターン、手札から【クリミナルメイド・リズベッド】と【クリムゾンバット】を召喚。これで自分の場にユニットが合計五体以上揃った。さあ、お目覚めの時間だよ」
空いている場を埋めるようにユニットを召喚した萌香が、妖しい笑みを浮かべる。
レジェンドデッキに置かれてあるカードが紅の暗い光を帯びる様を目にした俺は、そこで今まで見過ごしていた最大の異変に気付いた。
(あれ……? ルルリカって、紫属性のカードだよな? じゃあなんて、萌香は赤属性のデッキを使ってるんだ?)
俺が知っているルルリカは紫属性のはずだ。だが、今、萌香が使っているカードたちは赤属性になっている。
こんなのおかしい。明らかに変だ。俺は、こんなカードたちを知らない。
「じゃあ、雑魚に見せてあげるね。私の、私たちの本気を――!!」
何かとんでもない異変が起きていることに気付き、愕然とする俺へと嘲笑を向けた萌香が言う。
立体映像で再現されるバトルフィールドに瘴気が満ち、鮮血が渦巻き始める中、萌香は切り札を召喚してみせた。
「鮮血の暴君よ、愚かなる騎士を噛み砕き、世界の全てと勝利を手に入れろ!