カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「ルルリカが赤属性のユニットに……!? こんなの絶対おかしいよ……!!」
「甘木だけじゃない。レジェンドも少し違う別の存在になってる……!」
偽甘木とクラスメイトの男子との擁立戦の映像を確認した俺は、彼女が使っていたレジェンドを見て、驚愕していた。
甘木も使っているレジェンド、【ルルリカ】……属性も見た目も変わっていたが、同じ名前のレジェンドを偽甘木も使用していることを知った俺たちへと、黒岡先輩が声をかける。
「これでお互いが持つ情報を全て開示できた。ここからは、我の仮説を聞いてもらいたい。友よ、我が屋上で話したことを覚えているか?」
「エヴォルレジェンズ部と擁立戦をした時の話ですよね? 相手の代表三名全員と戦った記憶があって、しかも勝った時と負けた時の記憶、両方もあるっていう」
俺の答えに頷いた黒岡先輩が、テーブルの上にカードを並べていく。
合計六枚のカードを『エヴォルレジェンズ』の盤面のように並べた先輩は、それを指し示しながら話し始めた。
「今、お前が言った通り、我には三人の代表者たち擁立戦を行い、勝利した記憶と敗北した記憶がある。それら全てが実際にあったこととするなら、世界線は三×二で六つ存在しているはずだ……そう、我は考えていた。だが――」
前提条件を話した先輩が、並べたカードの周囲にまたカードを置いていく。
今度は規則正しい形ではなく、無茶苦茶にカードを置きながら先輩は話を続けた。
「実際はそうではなかったのかもしれない。例えば、我が勝つにしても相手の手札事故が要因だった場合もあるし、運よくマーカーを出しての逆転勝利という形もある。勝った負けたの二極化だけではない。我らが観測できなかった、様々な形での勝ちと負けが存在することが重要なんだ。そしてそれは、実際になかったとしても可能性の世界線を生み出す」
「可能性の世界線……?」
「そうだ。あったかもしれないという可能性は無限のIFを生み出す。その結果、世界線の膨張は我々の想像を遥かに超えたものになるはずだ」
そう語る黒岡先輩が置いたカードは、机の縁ギリギリまで広がっていた。
それを俺たちに見せつけた後、先輩はカードたちに手を伸ばす。
「これだけ乱雑に散らばったとしても世界線は収束する。無数の世界が一つに融合する際、大きく広がった世界線が全く違う世界を巻き込んでしまう可能性はゼロじゃない。我々の世界と根本は同じだが、決定的に違う部分もある世界が、収束の際に巻き込まれてしまった……それが、甘木姉妹が二組存在する元凶だと我は考えている」
なんとなく、そうじゃないかと思っていたところはある。
甘木たちとそっくりだが、明らかに違うもう一組の甘木姉妹。その正体は、別の世界からやって来た存在なのではないかと、薄っすらだがそう考えていた。
俺自身も転生者、世界を超えた存在だ。その可能性を補強する材料にもなる。
ということは、別世界の甘木たちの目的は……と考える俺へと、先輩がもう一つの仮説を語り始めた。
「そして、もう一つ……我は先日、エヴォルレジェンズ部の誰と戦ったのか覚えていないと語ったが……あれは覚えていないのではなく、
「重なり合った世界線が確定されていない……ってことは――!!」
先輩の話を聞いた俺の脳裏に、少し前にクローバーで行った鎌瀬犬介との擁立戦での出来事が浮かび上がる。
本来、五十枚で構成されるデッキにイカサマで数枚のカードが追加された。この世界では今、それと似たようなことが起こっている。
可能性の世界線が広がり、それが収束した結果、俺たちの知らない世界から別の甘木がこの世界にやって来てしまった。
元々、この世界に存在していた甘木萌香と、別世界からやって来た甘木萌香。この世界は今、二人のどちらが
だが、同一人物が二人存在しているというのは世界にとって明らかなバグだ。
イカサマで増えたカードを排除し、本来の規定数である五十枚のデッキに戻さなければならないように……二人のどちらかをこの世界の甘木萌香として選び、そうでなかった方を消さなければならない。
別世界の甘木たちはその状況を理解している。だから、本物の甘木姉妹を消し、自分たちがこの世界の甘木姉妹になるために動いているのだ。
「乗っ取るつもりなんだ、この世界での甘木姉妹の立場を……! それが、あいつらの目的……!!」
「そして、奴らの目論見は上手くいっている。盟友以外の人間がこの世界の甘木萌香の存在を感知できなくなっているのがその証だ。このまま計画通りに話が進めば……」
「そう、この世界の私の存在が消え、私が本物の甘木萌香になる」
「「「っっ!?」」」
突然、廊下から聞こえてきた声。その声に驚き、一斉に部屋の入り口を見た俺たちの目が、一人の少女の姿を捉える。
真っ赤な髪。薄い嘲笑を浮かべている顔。異質な雰囲気。
明らかに別人。だが、本物と同じ雰囲気を持っている少女……別世界の甘木萌香が、そこに立っていた。