カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ!   作:烏丸英

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宿命決戦、開幕

「お前は……!」

 

「あっはぁ……! 本命とその楔になってる奴、一緒に見つけちゃった~! 私ってば冴えてるぅ!」

 

 怯える甘木と、彼女を束うように立ち上がった俺を見た別世界の甘木が、嬉しそうに笑う。

 その笑顔に言いようのない恐れを感じた俺が息を呑む中、同じく立ち上がり、腕に巻いた包帯に手をかけて警戒の姿勢を見せる黒岡先輩が口を開いた。

 

「答えろ、貴様はどうしてここに……?」

 

「ん~? 今日、倒した雑魚から、こっちの私が隣の席の男と仲良くしてたって話を聞いてさ、匿われてるならそこかな~って考えて、休んだそいつにプリントを届けるとか理由をつけて、先生から住所を聞いてやってきたってわけ」

 

 そんな簡単に個人情報を教えるなよ、と担任の先生に心の中でツッコむ俺であったが、俺と甘木の関係を知られた時点でほぼ詰みだったのだろう。

 なにせここは擁立戦で大体のことが決まるヤバい世界。先生が住所を教えることを拒否しても、擁立戦で勝てば関係ないのだから。

 

「ま、そんな話はどうでもいいんだよね。私の目的は一つだけなんだからさ」

 

「ひっ……!」

 

 獰猛な笑みを浮かべた赤い甘木が、本物の甘木へと視線を向ける。

 彼女の目が赤く妖しい光を帯びたと思った次の瞬間、俺たちは赤い霧に囲まれた異空間に移動していた。

 

「この空間は……!? それに、甘木萌香がもう一人……!?」

 

「先輩、甘木が見えるんですか!?」

 

 俺の質問に、黒岡先輩が動揺を浮かばせながら大きく頷く。

 どうやらこの空間は普通ではないようだとわかりきっていたことを再認識する俺の前で、赤い甘木が口を開いた。

 

「今度は逃がさないよ。あんたを消して、私がこの世界の甘木萌香になる……そして、私たちはやり直すの。今度こそ、二人で幸せになる、なってみせる」

 

 そう言った赤い甘木が指を鳴らせば、光で作られた薄い板のようなものが向かい合うように二つ出現した。

 赤と青……二色に分けられたそれがファイトテーブルだと理解する中、赤い甘木は赤いテーブルの前に立ち、デッキを置いた。

 

「ほら、準備しなよ。それとも、戦わないで負けを認める? 私はそれでもいいけどね~!」

 

「な、何……? どういう意味……?」

 

「擁(・)立(・)戦(・)、やろうって言ってるの。もちろん、楽しく遊びましょうって言ってるんじゃないよ? 自分自身の存在を賭けて殺し合おうって、そう言ってるの」

 

 殺し合う……その言葉を聞いた甘木の体が、小さく震える。

 カードゲームアニメでは定番だが、実際にそれを申し込まれた側からすれば、恐ろしくて仕方がないだろう。

 

 これは、自らが推す英雄を王として擁立する戦いではない。

 文字通り、この世界での自分自身の存在を確立し、他でもない自分自身を擁立するための戦いだ。

 

「ま、待ってよ、そんなこと、急に言われても……」

 

「別に私はいいけど、もたもたしてると戦う意思がないと見なされて強制的に負けになっちゃうよ? その場合、どうなるかなんて説明する必要ないよね?」

 

「う、あ……」

 

「甘木、落ち着け! しっかりするんだ!」

 

「奴のペースに飲まれるな! 意志を強く持て!」

 

 完全に、甘木はこの異様な雰囲気に呑まれている。

 このまま擁立戦をしても負けは見えているどころか、勝負の場に立つこと自体が怪しいと俺たちが焦る中、ニヤリと笑った赤い甘木が意味深なことを言う。

 

「まあ、それでもいいんじゃない? あんたの大好きなお姉ちゃんも、この世界にはもういないんだしさ」

 

「えっ……?」

 

 その言葉を耳にした甘木の目が、小さく見開かれる。

 反応を見て愉快気に笑う赤い甘木へと、甘木は震える声で問いかけた。

 

「どういう意味……? 心愛は、どうなったの……?」

 

「え~? 教えちゃっていいの? っていうか、本当はあんたもわかってるんでしょ?」

 

「違う……! そんなわけない! 心愛は、心愛はっ!!」

 

 頭の中に過ぎる最悪の想像を必死に否定するように、甘木が大声で叫ぶ。

 しかし、赤い甘木はそんな彼女を嘲笑うように絶望を叩きつけてきた。

 

「何にも違わないよ! あんたの姉は、私のお姉ちゃんとの擁立戦に負けて、消滅した!! もうこの世界のどこにも存在なんてしてないんだよ!」

 

「……嘘だ。そんなの、絶対――!!」

 

 赤い甘木の言葉を、首を大きく振って、目に涙を浮かべながら否定しようとする甘木であったが……その目の前に、偽甘木が得意気にデッキケースを見せつけてきた。

 

「これ、な~んだ?」

 

「あっ……!?」

 

 そのデッキケースには、見覚えがあった。

 甘木のお姉さんが使っていたもので、中にミリーのカードが収まっているのが見える。

 

 それをもう一人の甘木が持っているということは……と、最悪の想像が現実になってしまっていることを理解した甘木の目から、大粒の涙が零れ落ちた。

 

「心愛、嘘……いや、いやああっ! 心愛ぁっ!! 心愛あぁっ!!」

 

「甘木萌香っ! しっかりしろっ!!」

 

 姉は既に敗れ、消滅した……その事実を突きつけられた甘木がその場に崩れ落ち、大声で泣き叫ぶ。

 そんな彼女を嘲笑を浮かべながら見つめる赤い甘木は、とても楽し気にこう言った。

 

「だからほら、もう諦めちゃいなって! この状況を乗り切ったとしても、あんたの大好きなお姉ちゃんはもう戻ってこない! 何をやってもぜ~んぶ無駄なんだからさぁ……負けを認めて、楽になろ? そっちの方が幸せだよ、ほらぁ……!!」

 

「あ、ああ……心愛、心愛ぁ……っ!」

 

「こ、これは……っ! マズい!」

 

 赤い甘木の言葉に心をへし折られていく甘木の体が、徐々に光の粒に変化していく。

 このままでは、本当に彼女の存在が消滅してしまうと……その危機に黒岡先輩が冷や汗を流す中、俺は甘木へと叫ぶように言った。

 

「しっかりしろ、甘木! まだ大丈夫だ! お(・)姉(・)さ(・)ん(・)は(・)取(・)り(・)戻(・)せ(・)る(・)っ!!」

 

「……!!」

 

 俺の叫びを耳にした赤い甘木が、小さく息を呑んだことがわかった。

 その反応から、自分の考えが間違っていないことを確信する俺へと、顔を上げた甘木が小さな声で呻く。

 

「一ノ瀬……どうしてそんなことが言えるの? 心愛はもう、あいつらに負けて……っ!」

 

「甘木がまだこの世界に存在してるからだよ! 甘木が生きていれば、お姉さんも完全に消滅しないんだ!」

 

「えっ……?」

 

 そう言った後、俺は赤い甘木へと視線を向けた。

 さっきまでとは一転、苛立ったような表情を浮かべてこちらを睨みつける彼女を睨み返しながら、俺は言う。

 

「あいつはさっき、俺のことを甘木の楔だって言った。お姉さんが消えて、家族や友達全員の記憶を塗り替えられても甘木が存在できているのは、俺が本当の甘木のことを覚えているからだ。その記憶が甘木をこの世界に繋ぎ止めている。だから楔なんだよ」

 

「そうか……! 別世界の甘木姉妹は、擁立戦で勝利することで他者を消滅させ、記憶を塗り替え、自らの存在を強固なものにしていく。しかし、その横暴を止める抑止力もこの世界には存在していた! それが盟友ということなのだな!?」

 

「俺だけじゃない。俺が甘木を覚えていることでその存在を繋ぎ止められているというのなら、お姉さんを覚えている誰かが彼女の楔になっているはずなんだ。そして、甘木は消えたはずのお姉さんのことをしっかり覚えてる。お姉さんの楔はお前なんだ、甘木!」

 

「私が覚えている限り、心愛は消えない……? じゃあ、じゃあ……!!」

 

「あいつと、もう一人のお姉さんを倒すことができれば、世界は元通りになる! お姉さんも取り戻せるんだよ!!」

 

 もう一人の甘木が小さな舌打ちを鳴らす音を聞いた俺は、この考えが正しいことを再度確信した。

 甘木やお姉さんの存在を明確に覚えている人間がいる限り、二人とも完全に消滅はしない。つまり、甘木姉妹の内、片方が消えたとしても、もう片方が無事ならばその存在は完全に消滅しないのだ。

 

 それを理解した甘木の体が、再び輪郭を取り戻していく。

 戦わずして敗北する危機を回避したことを安堵する俺であったが、赤い甘木がそんな俺たちへと忌々し気に声をかけた。

 

「……それがわかったからどうしたっていうの? 立ち直ったとしても、既に私に負け犬根性を植え付けられたそいつじゃ私に勝つなんて無理な話よ」

 

「だったら、甘木以外の誰かが戦えばいい。それだけの話だ」

 

 そう言って立ち上がった俺は、懐から自分のデッキを取り出す。

 蒼炎を宿す新たな相棒を軸に組み上げたデッキを青のファイトテーブルの上に置いた俺へと、赤い甘木が引き攣った笑みを浮かべながら吠えた。

 

「あんたが、擁立戦をする……? もう一人の私の代理で? 笑わせないでよっ!!」

 

「何がおかしい? 俺が戦っちゃいけないなんてルールはないはずだ」

 

「っっ……!! 本人が認めるかどうかは別よ! 自分の存在を、未来を、本気で他者に委ねられるわけないじゃない! あんたが負けたらあいつは消える! 姉と一緒にね! それを理解した上で、こいつに運命を預けるっていうの!?」

 

 言質は取った。甘木が認めさえすれば、代理で戦うことはできる。

 それを確認した俺は、小さく息を吐いてから振り向き、彼女へと言った。

 

「……信じてくれ、甘木。俺は絶対に……約束を守る」

 

 何があっても甘木を守り、元の平穏な日々を取り戻す……昨晩交わした大切な約束を、俺も甘木も忘れてなんかいない。

 絶対にお姉さんを取り戻す。そして、また笑って『エヴォルレジェンズ』を楽しむ。

 必ず、俺たちの未来を掴んでみせると……そう告げる俺を真っすぐに見つめ返した甘木は、静かに笑みを浮かべると共に頷いてくれた。

 

「……うん、信じてる。私の、私たちの全部、一ノ瀬に預けるよ」

 

「……ありがとう、甘木」

 

「ぐっ……!」

 

 最後の精神攻撃も無駄に終わった赤い甘木が悔し気に呻く。

 小さく肩を震わせていた彼女であったが、やがてため息を吐くと共に気持ちをリセットしたようだ。

 

「ふぅ……まあ、いっか! どうせ結果は変わらないもんね! あんたを倒せば、私たちは幸せになれる! だから、ここで消えろ!!」

 

「悪いけど、負けるわけにはいかない。俺を信じてくれた甘木のために、絶対に勝つ!!」

 

 異様なオーラを放つ赤い甘木に負けないよう、勇気を振り絞り、自分を奮い立たせる。

 赤と青、二つの光が膨れ上がり、弾け飛ぶ。それを合図に、甘木萌香の存在を賭けた俺たちの擁立戦が幕を開けた。

 

「「オープン・ザ・レジェンド!」」




一ノ瀬進弥VS甘木萌香(Another)

宿命決戦、開幕
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