カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「【導かれし者 クロス】!」
「【
お互いにレジェンドを公開して対峙する、何度も行った擁立戦の始まり。
しかし、この手に持つカードが、山札からドローする一枚が、異様なほどに重い。
この戦いに甘木の運命がかかっているが故の重圧を感じながらも深く息を吐いた俺は、いつも通りのプレイングを心掛け、動き始めた。
「クロスの効果発動。手札を一枚捨てることで山札から【龍装】を持つカードを選び、ハーツインできる。同時に進化条件を達成。レベル1【龍の魂を継ぐ者 クロス】に進化して、ターンエンド」
「私のターン。【クリミナルメイド パンナ】を召喚。この子は前列にいる限り、場から離れない。そして場に【魔族】ユニットが出たことで進化条件達成。レベル1【
(進化条件は特定の種族を持つユニットを場に揃えることか……? いや、決めつけるのは危険だ。落ち着いて判断していこう)
俺が確認できているのは、相手の切り札であるレベル3ユニットの効果だけだ。
そこに至るまでの道筋は黒岡先輩が撮影してくれた映像の中にはなかったため、詳しい戦略はわかっていない。
だが、ある程度はプレイングの方針を立てられている。
プレッシャーでミスをしないように自分を落ち着かせる俺へと、赤い甘木が攻撃を仕掛けてきた。
「バトル。パンナとルルリカでクロスにアタック!」
「パンナの攻撃はガードする。ルルリカはノーガードだ」
手札を使い、攻撃を一回だけ防ぐ。
続く攻撃を受けてダメージゾーンにカードを置いた俺は、手札と共に最優先事項を確認した。
(俺が受けられるダメージは三までだ。相手の切り札が出た時に四ダメージ以上だと、一気に苦しくなる)
赤い甘木の切り札【
もしも四ダメージを受けた状態で効果発動を許してしまったら、俺は一度も攻撃を食らうことを許されない。しかし、レジェンドの弱体化や手札からのガード不可能という制限がある以上、完璧に防ぎ切ることは困難を極めるだろう。
だからダメージは三で抑える。そうすれば、一度だけならば攻撃を受ける余裕が生まれるからだ。
序盤に手札を消費してでも攻撃を防ぐ理由を再確認した俺は、そのままターンをもらい、カードをプレイしていく。
「後列に【龍の巫女 イズチ】を召喚し、効果発動。ダメージブラスト①でカードを二枚ドローし、手札から一枚を捨てる。【龍の魂を継ぐ者 クロス】は一ターンに一度、墓地に送られる【龍装】カードを代わりにハーツに入れることができる。捨てるカードをハーツインし、進化条件達成。【蒼炎龍騎 クロス】に進化!」
「ふ~ん……! 手札補充をしつつ、そのコストで進化条件も達成か。やるじゃん!」
赤い甘木が、俺の動きを見て楽しそうに笑った。
まだ余裕がある、こちらを嘲っているような笑みに乱されそうになる集中をどうにか保ちながら、俺はさらにユニットを召喚していく。
「【コバルトアックスドラゴン】を召喚、バトルフェイズに入る。まずはクロスでアタック!」
「ん~、その攻撃はガードしちゃおっかな~!」
「続けて、イズチで支援した【コバルトアックスドラゴン】でアタック! 自分のレジェンドが【クロス】なら、効果でパワー+5000!」
「そっちはノーガード。パワーが高いからね」
赤い甘木も俺と同じく、攻撃を一度だけ受ける選択をした。
相手がダメージゾーンにカードを置いたことを確認した後、俺は効果の発動を宣言する。
「攻撃を成功させたことで【コバルトアックスドラゴン】の効果が発動する。ダメージゾーンのカードを一枚表向きに。そしてターン終了時にこのカードはドロップゾーンに送られるが、カードを一枚ドローできる」
「使用したコストを回復しつつ、ドローまでしちゃうんだ! 雑魚のくせに生意気~!」
こちらを褒めたり貶したり忙しい赤い甘木の言葉を無視して、山札からカードを引く。
そうしながら、俺は気になっていたことを彼女に尋ねた。
「なあ、教えてくれ。お前はどうして、この世界の甘木の存在を乗っ取ろうとしてるんだ?」
目の前にいる赤い甘木は、別世界の甘木だということはわかった。しかし、どうして彼女はこの世界の甘木萌香になろうとしているのだろうか。
赤い甘木にも自分自身が生きてきた世界があるはずで、その世界や過去を捨て去ってでもこちらの世界で甘木萌香になろうとする理由は何なのかと、そう問いかける俺へと、彼女は言う。
「それ、あんたに教える必要ある? どうせこの擁立戦が終わったら、こっちの私の存在と一緒に忘れちゃうのにさ」
「それは俺が負けたらの話だ。俺は負けるつもりもないし、甘木を忘れる気もない」
「……ホント、ムカつく。身の程知らずの雑魚の癖に……!!」
苛立ちを多分に含ませたその呟きからは、赤い甘木の素の感情が強く感じられた。
やはりあのメスガキめいた言動は演技だったのだと俺が理解する中、話を打ち切った彼女がユニットを召喚していく。
「【クリミナルメイド エヴィアン】を召喚。この子は場に出た時、
厄介なユニットが出てきてしまった。確かあいつは、ルルリカの効果で数える際、特殊効果を発揮するユニットだ。
切り札の爆発的火力を発揮するための準備を着々と整えていく赤い甘木のプレイングに冷や汗を流す俺の前で、彼女はレジェンドを進化させる。
「場に【魔族ユニット】が三体、これで進化条件達成。【
これでお互いにレジェンドのレベルは2。切り札を出した時に備えて、着々と準備を整えている。
できることならば、相手の盤面に干渉して、ユニットを破壊したいところだが……俺のデッキはそういったことには向いていない。
「さらに【クリミナルメイド ルヴィ】を召喚。攻撃、バトルに入るよ」
しっかり打点を三つ用意してからバトルフェイズに入った赤い甘木がニヤリと笑う。
深呼吸し、手札を確認してから、俺はその攻撃を捌きにかかった。
「パンナの支援を受けたエヴィアン! ルヴィ! そしてルルリカの三体で攻撃!!」
「ルヴィの攻撃をガード! 残りの攻撃は受ける!」
吸血鬼とその眷属であるメイドたちの牙が、爪が、クロスに迫る。
その内一回だけを防ぎ、ダメージを三で止める調整をした俺へと、赤い甘木が言う。
「三点で止めた、か……なるほどね~」
二点でも四点でもなく、三点。奇数でダメージを調整した俺のプレイングを見て、赤い甘木もその意図を察したようだ。
情報アドバンテージを握られていることを悟ったであろう彼女だが、余裕の表情は崩さずにいる。
それだけ自信があるんだろうと理解しながら、俺は再度彼女へと質問を投げかけた。
「……どうしてお前は、そんなふうになったんだ?」
「そんなふう、ってどういう意味?」
「相手を馬鹿にしたり、対戦中に雑魚だって煽ったり、この世界の甘木を消そうとしたり……どうしてそんな性格になったんだ?」
俺の質問に対して、赤い甘木はわずかに目を細めた。
そんな彼女に対して、俺は問い質すように言う。
「俺が甘木と友達になったのはついこの間の話だ。でも、短い関わりの中でも言えることがある。甘木は、誰かを嘲笑ったり、対戦相手を煽ったりするような人間じゃない。お前も別の世界のではあるけど、同じ甘木萌香なんだろ? だったら、本当はそんなことをする人間じゃないはずだ」
「………」
「どうしてそんなことをするようになった? なんでこの世界の甘木を乗っ取ろうとしてる? 何か理由があるなら教えてくれ、甘木!」
情に訴えたかったわけじゃない。ただ、どうしても気になってしまった。
誰にだって優しくて真面目なはずの甘木萌香が、ここまで歪んでしまった理由……それを尋ねる理由を、俺はカードたちを見つめながら話す。
「こうして戦ってみてわかったよ。お前は本心から他人の不幸を望んでるわけじゃない。伝わってくるのは、負けるわけにはいかない……そんな強い感情だ」
「っっ……!」
「何か事情があるなら教えてくれ! もしかしたら、何か力になれるかもしれないだろ!?」
「……だとするなら、私に負けてよ。でも、そんなことできないでしょ?」
「それは……っ!」
「無駄なおしゃべりはここまで。私はこれでターンエンド……ほら、あなたのターンだよ」
「くっ……!」
頑なに何も語ろうとしない甘木だが、少しだけ雰囲気が変わったように見えた。
やはり、あのメスガキめいた振る舞いは本当の自分を隠すための仮面なのだと……別世界とはいえ、その下には本当の
「……手札から【龍の巫女 ミハヤ】を召喚。登場時効果を発動、ダメージブラスト①でデッキから【龍装】カードを選び、ハーツイン。これでハーツ内の【龍装】カードは三枚……進化条件達成だ」
ここからが本当の戦い……最大レベルにまで育て上げたレジェンドたちによる、全力の殴り合いが始まるという意味もある。
ただ、それ以上に真実を知るための戦いという意味合いが俺の中では大きかった。
今、目の前にいる別世界の甘木は、何故自分の世界を捨て、こちらの世界の甘木の存在を乗っ取ろうとしているのか?
きっと何か、大きな秘密が隠されているのだろう。それを知ったところで何もできない可能性だってある。
だが、それでも……この擁立戦を通じて、甘木の苦しみを感じ取った俺は、どうしても彼女を放っておけなかった。
あの甘木が敵だということはわかっている。だけど、俺は甘木の友達だ。悩み、苦しんでいる友達を前に、何もしないなんて選択はしたくない。
(俺に何ができるかなんてわからない。俺はただ、全力でぶつかるだけだ)
本音を、想いを、全力でぶつける。それがきっと、甘木の心を開く鍵になると信じて。
静かに息を吐いた俺はレジェンドデッキから切り札を掴み、正面に立つ甘木を見つめながらそれを繰り出した。
「燃えよ蒼炎、響け魂! その拳で闇を貫け!