カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
(ヤバい、よね……私のせいで、こんなことになっちゃうなんて……)
マナーの悪い客に追い詰められていく店員さんの姿を見ながら、私は彼への申し訳なさと自分の弱さへの怒りを抱えていた。
現在、ダメージは二対五……盤面や手札の状況も含めて、店員さんが圧倒的に不利な状況だ。
彼が負けたら折角見つけたデッキが奪われてしまうが、それはどうだっていい。
元々、この擁立戦は私が申し込まれたものだ。
店員さんはあの客に威圧されて完全に委縮してしまった私に代わってその申し出を受けてくれただけに過ぎない。
だというのに、あんな暴言を連発したり、煽るような真似を繰り返す客に負けてしまったら、彼の名誉やショップ店員としての立場に傷がついてしまう。
常連客の子供たちの前で敗れ去る彼の姿と、それがもたらす結果を想像した私は、思わず罪悪感に身を竦ませてしまったのだが……そこで優しい声が響いた。
「大丈夫だよ、そんなに気にすることはない」
「えっ……?」
その声に驚いて顔を上げれば、すぐ隣に初老の男性が立っているではないか。
年齢やエプロンを着けていることから察するにこの店の店長なのだろうと理解した私へと、彼は続けて言う。
「心配することないさ。進弥くんは強いからね、絶対に勝つよ」
「で、でも、あと一ダメージでも受けたら、もう……!」
「大丈夫。まあ、見てなって。あの子は負けないよ」
あの店員……進弥という名前の青年に強い信頼を寄せる店長さんの言葉に、私が抱えていた罪悪感が少しだけ和らぐ。
だけど、決して油断はできない状況だと理解している私が祈るように見守る中、進弥は動き始めた。
「中央後列に【紅蓮衆 狙撃手のミザネ】を召喚」
「はぁ? おいおい、ルールわかってんのか? レベル2のユニットは後列に居ても何もできねえよ!」
新しいユニットをレジェンドの後列に召喚した進弥へと、マナーの悪い男性客が嘲笑交じりに言う。
確かにレベル2のユニットは1や0のユニットたちと違って前衛に支援することはできないし、攻撃もできない。
だがしかし、進弥はそんな相手からの言葉を受け流すように召喚したユニットの効果を説明する。
「狙撃手のミザネは後列からでも攻撃できるユニットです。ここに召喚しても問題はない」
「ちっ……!」
「続けて、場に【紅蓮衆】ユニットが三体以上揃ったことで進化条件達成。切り込み隊長のガイムを【紅蓮衆 豪火剣乱のガイム】に進化させます」
進弥の宣言と同時に、彼のレジェンドを燃え上がる炎が包み込む。
火柱の中で新たな力を得たガイムは二本の太刀を手にする紅蓮の武者へと姿を変え、仲間たちと共に倒すべき敵である猟犬軍団へと武器を構えた。
「再燃のサクを後衛に下げ、空いた場に【刀匠 マサムネ】を召喚。ここで【紅蓮衆 豪火剣乱のガイム】の効果を発動! 炎刃・一の太刀!」
元々いたユニットと今しがた召喚したユニットの二体を
炎の太刀を振り上げたガイムは敵陣のユニットへとそれを振り抜き、繰り出された斬撃が猟犬たちを焼き尽くしていく。
「なっ!? お、俺のユニットが……!?」
「豪火剣乱のガイムは自分の場のユニット二体をムーブド状態にすることで、相手の場の同じ縦列にいるユニットを破壊できる。そしてここでコストにした二体のユニットの効果を発動します。まずは再燃のサク、こいつは効果でムーブド状態になった時、ターンに一度だけ
味方をムーブド状態にすることで発動する効果と、ムーブド状態になった時にスタンバイ状態に戻せる効果。
これがシナジーというやつなのだろうと理解する私の前で、進弥はもう一体のユニットの効果を発動する。
「続いて、マサムネの効果。こいつが効果でムーブド状態になった時、ダメージブラスト①とこのカードをハーツインすることで、ハーツ内の同名カードと同じ枚数分、カードをドローできる。ハーツ内にはマサムネが二体、よって俺は二枚ドローします」
「い、いつの間にハーツにマサムネを仕込んだ!? そんなタイミング……あっ!?」
そう言いかけた男とほぼ同じタイミングで、私も気付いた。
最初のターン、レベル0のガイムを進化させるために手札からハーツに入れたあのカード……あれが、一枚目のマサムネだったんだ。
この盤面を見越していたかはわからないが、後の展開を見越して準備を整えていた進弥のプレイングに驚く私の前で、彼はプレイングを続ける。
「ガイムの効果は一ターンに二回まで発動できる。もう一体、マサムネを召喚して、再度効果発動。炎刃・二の太刀!」
「うっ!? ぐううっ!?」
二本目の太刀に炎を灯したガイムが再びそれを振るえば、もう片側の列にいた猟犬たちも灰となって散っていった。
完璧な盤面が一変、左右列のユニットたちを破壊されたことに男が目を見開きながら唸る中、進弥は淡々とユニットの効果を発動していく。
「マサムネの効果を発動。ハーツインして、今度は三枚ドローします」
「ま、また……!? これで合計五枚のドローだと……!?」
「空いている前列にユニットを召喚して、メインフェイズは終了です。続けて、バトルフェイズ。【紅蓮衆 豪火剣乱のガイム】で攻撃する時に、効果発動! ハーツブラスト⑤!」
ここまでに進化していく中で溜まった三枚のガイムたちと、マサムネを二枚。合計五枚のユニットをハーツからドロップゾーンに送る進弥。
その瞬間、ガイムの太刀に灯っていた炎が他の紅蓮衆たちへと飛び散り、彼らの武器に宿ると共にさらなる力を与え始めた。
「このターン、相手の破壊されたユニット一体につき、俺のユニットたちのパワーを5000上昇させる。このターン中に破壊されたユニットは四体。合計20000のパワー上昇だ」
「ぜ、全ユニットのパワーをプラス20000だと!? ば、馬鹿なっ!?」
「す、すごい……!!」
レジェンドの効果で相手の場を崩壊させつつ、自分は大量ドローで手札を補充。
さらにユニットたちのパワーを上昇させて強力な攻撃に繋いだ進弥のプレイングに、私は驚くことしかできなかった。
ここから彼は狙撃手のミザネを含めた合計四回の攻撃を叩き込むことができる。
これが全て通れば相手のダメージは六。進弥の勝ちだ。
しかし、それはあの男もわかっているだろう。なんとしてでも攻撃を防いでくるはずだ。
予想は正しく、どうにか手札を使って致命傷を回避した男は、自分のターンを迎えることができたのだが……私の目には、既に勝敗は決まっているように見えた。
「場のユニットの数も、手札の枚数も、逆転してる……!」
進弥もあの客も、ダメージは同じ五だ。しかし、男の場にいるのはチアキとその後衛のユニットのみ。手札もガードのために使い切り、たった一枚しか残っていない。
逆に進弥の手札は大量に残っている。あれならば、一回程度の攻撃は簡単に防げるだろう。
「ま、まだだ……! 【ハウンドドッグコマンダー チアキ】の効果発動! これでまた、ユニットを再展開すれば、勝ち目は……!!」
そんな感じに油断していた私の耳に、忘れていた情報が飛び込んでくる。
そうだった。チアキの効果を使えば、ユニットを再展開できる。ここでまた盤面を埋められたら、勝負の行方はわからなくなるかもしれない。
再び緊張してきた私の前で、男がギラついた……いや、血走った目でデッキトップを見つめながら三枚のカードを引く。
追い詰められているが故の狂気じみた笑みを浮かべながらそのカードたちを見た彼は……次の瞬間、その笑みを凍り付かせると共に大きく目を見開いた。
「は? え……? な、な、な、なんで……!?」
はらり、と男の手から今引いた三枚のカードたちが落ちる。
ファイトテーブルに落ちたそのカードたちを見た私は、小さく息を呑むと共に呟いた。
「全部、【ハウンドドッグ】じゃない……!」
男が引いたカードたちは、全てが【ハウンドドッグ】の名称を持っていなかった。
チアキの効果で場に出せるのは【ハウンドドッグ】のみ。そして、場にユニットを出せなければ続く効果も発動しない。
「う、嘘だ……! ここでこんな、最初の一回が失敗するなんて、そんなこと……!」
効果の不発……高い安定感を誇っているはずのチアキの効果が失敗したことに、流石の男も呆然とすることしかできないみたいだ。
ぶつぶつと今しがた自分が引いたカードたちを見つめながら呟く彼へと、進弥が静かに言葉をかける。
「……その理由は、自分が一番わかってるはずだ」
「っっ!?」
進弥の言葉に、男は弾かれたように顔を上げた。
どこか怯えているような彼に対し、進弥はひどく悲しそうな表情を浮かべながら言う。
「あんた、イカサマしただろ。さっきのターン、チアキの効果で場に出したユニットたちは、事前にあんたが山札の上に仕込んだカードだ」
「そ、そんな、しょしょしょ、証拠……!!」
「デッキを調べればわかる。多分、仕込んだカードの枚数分、メインデッキの枚数が増えてるはずだ」
「あぅ、あ……」
……デッキを調べずとも、男の反応が全てを物語っていた。
そうだ、あの時……私たちが派手なチアキの進化演出とセクシーな姿に目を奪われていたあのタイミングで、彼は次に発動する効果のために山札にカードを仕込んだ。
あの理想的な盤面は運によって生み出されたものではなく、イカサマによって作り上げられたものだったのだと……そう理解した私たちの前で、進弥が言う。
「あんたは勝つために反則行為を働き、自分のデッキを裏切った。そんな奴に、デッキは応えちゃくれねえよ」
「うぅぅぅぅ……」
ガクリと、男が崩れ落ちる。
今度こそ、真の意味で勝敗は決したのだろう。だけど、勝者である進弥にそれを喜んでいる様子はない。
どこまでも寂しそうで、つらそうな……とても悲し気な表情を浮かべている彼を、私はただ黙って見つめることしかできなかった。