カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
逆巻く赤黒い血の渦の中から姿を現す、私の分身。
最大の力を発揮できる状態まで進化したルルリカが戦場に降り立つ中、私は一ノ瀬へと言う。
「この子の能力を説明する必要はないでしょ? ダメージを三点で抑えてたのがその証拠……でもね、あの雑魚との戦いで手の内全部を晒しただなんて思わないで!!」
「何だって、まだ隠された能力があるというのか!?」
場にいる五体のユニット全てをハーツに入れ、ルルリカの真の力を解放する。
ダメージ二と三回の連続攻撃を可能にしたレジェンドの姿を見せつけながらの言葉に擁立戦を見守っていた変な格好の男が驚愕する中、私はさらにルルリカを強化していった。
「ハーツ内の【クリミナルメイド ペレノ】と【クリミナルメイド ルヴィ】の効果を発動! このカードをドロップゾーンに送ることで、ルルリカのパワーを+5000できる!」
「これでルルリカのパワーは23000……! その三連続攻撃をパワーダウンしたクロスで迎え撃たなければならないとは……!!」
「一ノ瀬……っ!!」
観戦している変な男とこの世界の私には、今の状況がどれだけ絶望的か理解できているようだ。
雑魚との擁立戦を観戦したことで情報アドバンテージを得たつもりだったんだろうが、私はそれを逆に利用して相手のガード値の計算を狂わせた。想定とは違う展開になったところを急襲されれば、一ノ瀬だって冷静に対処はできないだろう。
このターンで全てを終わらせる……強い決意を胸に対戦相手を見つめた私は、燃え上がる闘志のままに攻撃を宣言した。
「行くよ……! ルルリカでクロスにアタック!!」
「……ノーガード!」
お互いのレジェンドのパワーと手札を確認した一ノ瀬が静かに、だが強い意志を込めて攻撃を受けることを宣言する。
奴の目論見は理解できた。ここでマーカーを出し、下がったパワーを少しでも上昇させて残る二回の攻撃を防ごうとしているのだ。
運に任せた勝負。しかし、間違った判断ではない。
逆にここでマーカーが出てしまえば、こちらが苦しくなるところだが……運命の女神は、私に味方してくれたようだ。
「マーカーは、なし……! パワーは上がらない……!」
ダメージゾーンに置かれた二枚のカードたちにマーカーが描かれていないことを見て取ったこの世界の私が顔を青くしながら呻く。
対照的に、一気に勝利が近付いたことを確信した私は、続けての攻撃を繰り出した。
「二度目の攻撃!! 行けっ、ルルリカ!!」
「【
どれだけパワーに差があっても関係なく攻撃を防ぐことができる【無敵】カードを使い、二度目の攻撃を防ぐ一ノ瀬。
しかし、ここまでだ。仮に彼の手札に二枚目の【無敵】カードがあっても関係ない。
「三度目の攻撃! この攻撃に対して、あんたは手札からカードを使って防御することはできない!!」
「マズいぞ! この攻撃が通ったら、盟友は……!!」
作り出される巨大な血の牙。相手に恐怖を植え付け、防御に制約を課すルルリカ三度目の攻撃がクロスに迫る。
ダメージが五である一ノ瀬がこの攻撃を受ければ、ほぼ敗北は確定するだろう。
それと同時にこの世界の私は消え、私たちが新しい甘木姉妹になる。求めていた幸せが手に届くところまでやって来たことを感じ、強く心臓の鼓動が響いたことをも感じながら、私は叫んだ。
「これで終わりよ……! 【ブラッディ・ファング】!!」
「前列のユニットたちで【護衛】!! クロスを守らせる!!」
【護衛】……前列にいる場合、このユニットを手札にいる時と同じようにガードに使うことができる能力。
これならばルルリカの効果に引っ掛かることはないが、無駄な足掻きだ。これだけではガード値は足りない。私の攻撃は通る。
「無駄な抵抗を! 邪魔する奴ら全員噛み砕いて、ルルリカっ!!」
「いっ、一ノ瀬ーーっ!!」
血の牙が、護衛に入ったユニットたちごとクロスを捉える。
一瞬、静止した後、全霊の力を以てユニットたちを噛み砕いた牙は大爆発を起こし、戦場に赤い煙が漂い始めた。
「……やった、やったよ。これでもう一度、私たちは――!!」
勝った……代理として擁立戦を行った相手を倒し、最後の障害を取り除くことができた。
これでこの世界の私は消え、私が甘木萌香になる。既に倒した甘木心愛の存在も消え、お姉ちゃんがその座に就くはずだ。
もう一度、姉妹揃って生きられる。あの事故をなかったことにして、二人で幸せな人生を送ることができる。
その喜びに涙をあふれさせかけた私であったが……ゆっくりと煙が晴れた後、そこに立つクロスの姿を見て、こぼれかけた涙が渇いていくことを感じだ。
「なん、で……!? どうしてダメージを受けてないの!? あの攻撃を防げるはずが――!!」
「ハーツからカードを使ったのはお前だけじゃないってことだよ、甘木」
そう言いながら、一ノ瀬が私にカードを見せる。
それが最初のターン、真っ先に彼がクロスのハーツに入れたカードであることに気付いた私が息を呑む中、一ノ瀬はそのカードの効果を解説し始めた。
「【
「くっ、ぐぅ……っ!!」
ハーツからの防御札の使用……ルルリカから科された制約を擦り抜け、最後の一撃を防ぎ切ってみせた一ノ瀬のプレイングに、私は呻くことしかできない。
決して、油断していたわけではなかった。しかし、彼の腕をどこか舐めていた自分がいたことも否定できない。
ダメージ調整以外にも対策用のカードを入れ、最適なタイミングでそれを使用した一ノ瀬は、私の想像を超えた実力を持つプレイヤーだった。
トドメを刺しに行くはずが、一転して窮地に追い込まれた私であったが、それでも心は折れていない。むしろ、己の不甲斐なさを自覚したことで闘志はさらに激しく燃え上がっていた。
「認めるわ、一ノ瀬進弥……! あなたは強い。だけど、私は負けるわけにはいかない! あなたもダメージは五、ギリギリの状態! ここを凌げれば、まだ勝機はある!!」
そう、そうだ。一ノ瀬もダメージは五。あと一回でも攻撃を受ければ、敗北が確定する。
このターンさえ凌げれば、私にも勝ち目はあるのだ。そのために必要な手札も確保できているはずだと、そう自分自身に言い聞かせる。
「負けない、勝つのよ。それで心愛と幸せに――!」
「……本当に幸せになれるって、そう思ってるのか?」
「っっ……!」
私の想いを否定するような一ノ瀬の言葉に、思わず顔を上げてしまう。
彼が身勝手な私を咎める怒りの形相を浮かべていると思い込んでいた私であったが、目に飛び込んだ一ノ瀬の表情には、深い悲しみと強い覚悟が浮かび上がっていた。
「甘木……お前の事情はわかった。死んだお姉さんともう一度一緒に居たいって気持ちも痛いほど理解できる。でも俺にはお前がこの世界で幸せになれるとは思えねえよ」
「あんた、何を言って……っ!?」
「だってそうだろ? 自分の幸せのためにもう一人の自分を消したりなんかしたら、一生その十字架を背負い続けることになるんだぞ? お前もお姉さんも、本当は優しい人間なんだ。そんなことをして、後悔しないわけないじゃないか!」
「そんなことどうだっていい! 私は、どんなことをしてでももう一度心愛と――!!」
「お前はそう思うかもしれない。でも、お姉さんはどうだ? 誰よりも大切な妹が手を汚したことを後悔しないと思うか!? お前だって、大好きなお姉さんにもう一人の自分自身を消させたことを後悔してるんじゃないのか!?」
「~~っっ!!」
その言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
一ノ瀬の言う通りだ。私は、心愛に手を汚させてしまったことを悔やんでいる。
別世界の存在とはいえ、自分自身を消すだなんて罪を大切な姉に背負わせたくなかった。
心愛も同じだったんだろう。こっちの世界の私を消す役目も自分が担うと、もう手を汚してしまった自分が全ての罪を背負うと、そう言ってきた。
それを拒んだのは、心愛にだけ罪を背負わせたくなかったからだ。
堕ちるのならばそれも一緒がいいと思った。だから、自分自身を消すためにここまでやって来た。
でもそれも、逃げだったのかもしれない。これ以上、私のせいで苦しむ心愛を見たくなかったから……私は、自分の手を汚す選択をしたのだと、本心ではわかっていたんだ。
「そんな悲しそうな顔で擁立戦をしてる奴が、これから幸せになれるわけないじゃねえか……! 恨まれても、憎まれてもいい。それでも、俺はお前にこれ以上つらい思いをしてほしくない。だから俺は、お前を止めるよ」
悲しそうな顔をしているのは彼も同じだ。それでも彼は、
その覚悟に呼応するように煌めきを増す蒼炎に目を奪われる中、静かにカードを引いた一ノ瀬が言う。
「……このカードが場に出た時、あるいは俺のターン開始時、相手のレジェンドのレベルが3以上であるならば、手札かドロップゾーンから【龍装】カードを選び、ハーツインできる。そして……【蒼炎解放】!!」
炎の勢いが強く、そして大きくなる。
紅の闇を祓う蒼い炎が空間を満たしていく中、私を見つめる一ノ瀬が静かに言った。
「終わりにしよう、甘木……ファイナルターン!」