カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
……忘れていたわけじゃない、そのことを。
『エヴォルレジェンズ』のカードたちには属性が割り振られていて、各属性にそれぞれの特性がある。
赤の属性ならば強化したレジェンドで怒涛の猛攻を繰り出す、紫はハーツを活用した多種多様な戦法、黄はコマンドカードを使ったテクニカルな戦い方……といったように、各色に合わせた強みや戦術があった。
そして今、私が戦っている男が使っている【蒼炎龍皇 クロス】の属性は青。
その特色は、特定の条件を満たすことで自身やユニットたちに特殊な状態を付与できるというものだ。
青のレジェンドたちはこの状態にならなければ本領を発揮できない。
先のターンで見せた四連続攻撃ですらもクロスの力の一端でしかないことを理解しているからこそ、私は敵が真の力を解放する前に決着をつけようとしていた。
(でも、だからといって負けたわけじゃない! 絶対に、ここを凌ぎ切る!!)
最終ターン宣言までしたのだ、一ノ瀬はここで勝負を決めるつもりだろう。
この攻撃を乗り切れれば、流れはこちらに傾くはずだと考える私の前で、クロスの真の力が発揮されていく。
「【蒼炎解放】状態になったクロスの効果発動! ダメージブラスト①で、ハーツから二枚まで【龍装】カードを選択し、パワー13000のユニットとして場に出すことができる! 【
「くっ……! 空いた前列にユニットを……!!」
「このカードは、【蒼炎解放】状態のクロスが場にいる時、ハーツから発動できる! コマンドカード、【
前列のユニットのを【護衛】でガードに使用したことで空いた穴を即座に埋めただけでなく、【蒼炎解放】状態になるためにハーツインしたカードを使ってのパワーアップ……無駄のないプレイングに舌を巻く私のカードを掴む手には、知らず知らずのうちに力が込められていた。
緊張と共に炎の勢いが高まる中、一ノ瀬がバトルフェイズに入ることを宣言する。
「バトルだ! 【
「ガードっ!!」
「続いて、【
「ぐうっ!?」
二度目の攻撃は防げなかった。これでダメージは五。その上、【龍装】カードたちによる攻撃でクロスのパワーは上昇し、効果を発動するためのコストも回復されている。
それでも、私は負けない。ここから繰り出されるクロスの攻撃を凌ぎ切れるだけの自信があった。
「行くぞ……! 【蒼炎龍皇 クロス】で攻撃!!」
「【無敵】カードでガード!!」
炎を纏ったクロスの一撃を、赤い血の盾が阻む。
繰り出した拳を防がれたクロスであったが、即座にもう片方の拳に蒼炎を宿すと、二発目の攻撃をルルリカに叩き込んできた。
「クロスの効果発動! 再度立ち上がり、攻撃っ!!」
「デュアルソードドラゴンの【支援】込みでパワー46000! この攻撃なら――!!」
クロス二度目の攻撃は、先のターンで見せた火力を大きく超えていた。
あと一点。一ノ瀬の勝利のためにこの攻撃が通ることを望む観客たちであったが、その希望を打ち砕くように私はカードを切る。
「もう一度、【無敵】カードでガードっ!!」
「そんなっ! 二枚目を持っていたの……!?」
再び出現した血の盾が、燃え盛る蒼炎を押し流す。
クロスの拳を、全てを懸けた攻撃を防いでみせた私は、高鳴る鼓動と興奮を表すように熱い息を吐いた。
(やったよ、お姉ちゃん。これで、私たちは――!!)
勝てる。幸せを掴める。もう一度、二人で歩いていける。
涙がこぼれそうになるくらいの感動と歓喜に全身を震わせながら、最大の窮地を乗り切った興奮で熱くなる心臓を押さえるように左胸に手を当てた私は……そこで、違和感に気付いた。
(……何、この熱は?)
人生最大の喜びを味わい、興奮している私の体が発する熱。
しかし、それを超える熱さを肌と魂で感じた私がはっと息を呑むと共に顔を上げる。
二度の攻撃を防がれ、地に膝を突くクロス。
しかし、その背後にいる男の目は、まだ死んでいなかった。
「……【蒼炎龍皇 クロス】には、【蒼炎解放】状態でのみ、そしてゲーム中に一度だけ発動できる能力がある。自分の場、そしてドロップゾーンから三枚の【龍装】カードを選び、ハーツインすることで、クロスはもう一度立ち上がる!! 蒼炎再起!!」
「なっ……!?」
一度消えたはずの蒼い炎が、私の前でその輝きを取り戻した。
先ほどよりも熱く、大きく、そして強く燃え盛る炎を宿しながら立ち上がったクロスが、蒼炎と想いを宿した拳を握り締める。
「この効果を使用した時、クロスのパワーはハーツ内の【龍装】カード×10000上昇する! 合計パワーは53000!! これで最後だ!! 【【
今までで一番力強く燃え上がった蒼い炎が、龍の形になる。
その炎と共に突撃してきたクロスの攻撃を防ぐだけの力は、私とルルリカには残っていなかった。
「くそっ……! ちくしょう、ちくしょう……っ!!」
血の池が蒸発するほどの炎に襲われたルルリカが悲鳴を上げると共に、私のデッキからカードが飛ぶ。
弧を描き、ダメージゾーンへと落下したそのカードには、一発逆転を可能にするマーカーは描かれていなかった。
「あと少し、だったのに……! あと少しで、私たちは……っ!!」
ダメージ六。勝負は決した。
その場に崩れ落ち、握り締めた拳を地面に叩きつけながら、私は呻く。
悔しい。悲しい。憎い。込み上げる様々な感情が入り混じって、涙となってあふれ出ていく。
擁立戦の終わりを告げるように分身であるルルリカが消えていく中、私の口から飛び出したのは、謝罪の呻きだった。
「ごめん、お姉ちゃん……私、負けちゃった……」