カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「一ノ瀬!」
「やったな、盟友!!」
戦いを繰り広げていたユニットたちの姿が消えていく様を見つめていた俺へと、甘木と黒岡先輩が声をかけてくる。
その声を聞いて、本当に擁立戦が終わったのだと認識できた俺は、静かにだが深く息を吐くと共にもう一人への甘木へと視線を向けながら口を開いた。
「勝てたけど、複雑な気持ちです。こうするしかないってことはわかってる、でも……」
「うっ、ぐずっ……! お姉ちゃん……!!」
崩れ落ち、ぼろぼろと泣きじゃくる赤い甘木の姿を見ていると、どうにも仄暗い罪悪感に胸を締め付けられる。
俺が望み、聞かせてもらった事情だ。その上で、彼女の希望を打ち砕くことを俺自身が選び、全力でその道を突き進んだ。
その選択に後悔はしていない。だが……と考える俺の肩を黒岡先輩が叩く。
「……素直に喜べないお前の気持ちもわかる。だが、お前は間違ったことはしていない。戦いの中でお前が言ったように、別世界の甘木姉妹がこのまま突き進んだとしても、幸福な未来を掴むことはできなかっただろう。お前はこの世界だけでなく、別世界の甘木萌香をも守ったんだ。胸を張れ」
「そうだよ。一ノ瀬は悪くない。悪いのは、きっと……」
黒岡先輩に続き、甘木が沈鬱な表情で何かを言いかける。
その最中、俺たちを取り囲んでいた赤い霧が薄くなっていき、それに合わせるようにもう一人の甘木の気配が弱まっていった。
「ごめん、お姉ちゃん……私、結局……」
項垂れながら、ここにいない姉への謝罪を繰り返す赤い甘木。
そんな彼女を見つめていたこちらの世界の甘木が、意を決したように一歩前に出る。
驚く俺たちの前でもう一人の自分のすぐ傍まで歩み寄った甘木は、顔を上げた彼女へと静かな声で言った。
「……こんなこと言われても何の慰めにもならないことはわかってる。でも……あなたの気持ち、わかるよ」
「は……? 何? 何のつもり? 同情したふりなんてやめてよ! 本当は散々自分を苦しめた私のことを憎んでるんでしょ!?」
「そう思った時もあった。でも、今はそうじゃない。わかるんだよ、自分が弱いせいで心愛に迷惑をかけることを悔しく思う、あなたの気持ちが」
「……!!」
甘木の言葉に、もう一人の甘木が信じられないといったように目を見開く。
顔を上げて彼女のことを真っすぐに見つめた甘木は、今度は力強い声で言った。
「だからこそ、私は自分の弱さを乗り越えたい。あなたと一ノ瀬の擁立戦を見て、肝心な時、怯えて蹲ってるだけなんじゃダメなんだって、そう思えたから……」
「……ムカつく。さっきまでビビリっぱなしの雑魚の顔してたのに、そんな顔しちゃってさ。なんか、踏み台にされた気分だよ」
泣きそうで笑いそうな表情でそう言った赤い甘木が、視線を俺へと向ける。
涙を流しながら自嘲気味に笑った彼女は、か細い声で後悔を呟いた。
「いいなぁ、羨ましいなぁ……前を向いて生きていれば、私も出会えたのかな? 私のことを全力で守ろうとしてくれる、馬鹿みたいだけど温かい人に……」
「今からでも遅くないよ! あなただって――!!」
「ははっ! ……な~んてね。ああいう暑苦しいのは勘弁だし、まだ何も終わってない。最後の戦いが残ってるでしょ?」
甘木からの同情を、慰めを、拒絶するように笑った赤い甘木の姿が薄くなっていく。
最後にもう一人の自分を見つめ返した彼女は、エールとも恨み言とも取れる言葉を口にした。
「あんたの姉貴と一緒に最後まで見守っててあげるからさ……せいぜい最後まで頑張りなよ、ざ~こ」
その言葉を最後に、彼女と赤い霧が消えた。
気が付けば、俺たちは部屋の中にいて……あの空間から戻ってきたことを理解したところで、階段を駆け上がる足音が聞こえてくる。
「進弥? ちょっといい? 洗濯物の中にその、見慣れない女ものの下着があったんだけど、あなた何か……って、ええっ!? 甘木ちゃん!?」
「母さん、甘木が見えてるの!?」
「はぁ? そんなの見えるに決まってるでしょ? っていうか何なの、その格好は!? そもそもいつの間にうちに!? まさか、あの下着は甘木ちゃんの……!?」
甘木の姿が母に見えている……どうやらあの擁立戦の結果、赤い甘木の存在は一旦はこの世界から消えたようだ。
まだ全てが解決したわけじゃないし、新たな問題が現在進行形で生み出されているような気もするが、これで多少は安心できる……と考えた俺の膝から、一気に力が抜ける。
「おわっ……?」
「むっ!? 盟友、どうした!?」
「一ノ瀬!? しっかりして、一ノ瀬っ!!」
安心感から脱力してしまった俺は、支えてくれた黒岡先輩に謝罪してから立ち直ろうとしたのだが、襲ってきた疲労感に負けて意識が遠くなっていく。
驚き、必死になって俺を呼ぶ甘木の声に反応することもできないまま……俺は、静かに眠りにつくのであった。