カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「萌香ちゃん……?」
私がその痛みを感じたのは、家で妹を待っている時だった。
鋭く、そして強い痛み……この痛みを、私は知っている。
忘れもしない、小学五年生のあの日……私を突き飛ばした萌香ちゃんがトラックに撥ねられる姿を目にした時に感じた激痛が今、再び襲ってきた。
それが何を意味しているのかを理解した私は、その場に崩れ落ちると共に苦しみに呻く。
「また、守ってあげられなかった……! ごめんね、ごめんね……!!」
私の萌香ちゃん。小さくてかわいくて、何があっても守ってあげたかった大切な妹。
萌香ちゃんのためならどんなことだってできた。私はお姉ちゃんだから、妹を守るんだって……その想いを胸に、これからもずっと萌香ちゃんを守り続けるって、そう決めていた。
それなのに、私は……肝心な時に何もできなかった。
いや、違う。それどころか、私は守るべき存在だった萌香ちゃんに守られてしまったんだ。
本当なら、トラックに撥ねられていたのは私だった。あの瞬間、駆け出した萌香ちゃんが私を突き飛ばしてくれたから、私は生きている。
何もできなかった私が生きて、私を助けるために走った萌香ちゃんが死んだ。あの日、死ぬべきだったのは私だったはずなのに……私は萌香ちゃんに守られて、こうして生きている。
でも、妹の命と引き換えに得た人生は、あまりにもつらく苦しいものだった。
学校にも行かず、家に引きこもり、生き残ってしまったことを悔やみ続ける日々……唯一の慰めは萌香ちゃんと遊んでいた『エヴォルレジェンズ』の存在。擁立戦の内容を思い出しては再現し、萌香ちゃんが生きていたらこんなプレイングをしたんだろうなと想像しては現実に打ちのめされた。
いくら『エヴォルレジェンズ』に逃げても、萌香ちゃんが戻ってくるわけがないなんてわかっていた。
それでもやめられなかったのは、デッキに触れる度に笑顔を向けてくれる萌香ちゃんの姿が鮮明に浮かんできたからだ。
擁立戦で勝つ度に笑ってくれる萌香ちゃん。すごいねって、自慢のお姉ちゃんだって、そう笑顔で私を褒めてくれる妹の幻影に縋るように、私は『エヴォルレジェンズ』に没頭していった。
それは多分、暗い海の中に沈み続けていく感覚に似ていたと思う。
先なんてないことはわかっている。それでも、深い海の底に何かがあるんじゃないかって期待を捨てられずに、息継ぎもしないでたった一人で潜り続けていくような……そんな人生を送ってきた私に、神が微笑んでくれた。
ようやく出会えた、失ったはずの萌香ちゃん。大切な大切な、私の妹。
今度こそ守ってみせる、二人で幸せになるんだって、その想いを胸に自分自身を打ち倒して、あと少しで理想を現実にできるはずだった。
「許さない……許せない……っ!!」
その幸せを邪魔する奴を、萌香ちゃんを泣かせた奴を、そして、またしても何もできなかった自分自身を……私は絶対に許さない、許せない。
この報いは受けさせる、二度と同じ過ちは犯さない。今度こそ私が、萌香ちゃんを守ってみせる。
「待っててね、萌香ちゃん。お姉ちゃんが助けてあげるから……!」
まだ何も終わっていない。私がここに存在している以上、終わらせたりなんかしない。
囚われた大切な存在を救い出し、二人でやり直す……そのためになら、なんだってする。
たとえどんな罪に塗れようとも、萌香ちゃんを幸せにする、してみせる。
怒りと憎しみと決意を入り混じらせた感情を渦巻かせながら、私は決戦に向けて己のすべきことをし始めた。