カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「んっ、うぅ~ん……」
「一ノ瀬! 良かった……!」
「甘木? 俺は……?」
……次に目を覚ました時、もう日は沈んでいた。
ベッドから起き上がった俺は暗くなった窓の外を見て、自分がどうなっていたかを尋ねれば、傍で付き添ってくれていた甘木がその疑問に答えてくれる。
「擁立戦が終わって、三時間くらいかな……? 多分だけど、あの擁立戦で体力を消耗したんだろうって黒岡先輩が言ってたよ」
「そっか……あの後、どうなったんだ? 母さんにも甘木の姿、見えるようになってたよな?」
長いようで短い間、眠り続けた俺が現状について質問すれば、甘木はそれについても説明をしてくれる。
「あの後、私の下着が干されてたこととか、急に一ノ瀬が気絶したことでみんなパニックになっちゃってさ、その混乱を上手く使って、一ノ瀬のお母さんを上手いこと誤魔化したんだ。黒岡先輩はお友達にこのことを報告してくるって」
「お、おお……あの状況を誤魔化せたのか。やるな、甘木」
色々と危ない状況だったと思うが、それを誤魔化せたのは本当にすごいと思う。
そんな俺の賞賛に対し、甘木は苦笑しながら首を横に振った。
「ううん、違うよ。なんか、本当に上手くいったっていうか……世界そのものがこの状況を誤魔化せるように動いてたって感じだった。その証拠に、今日もここに泊まっていいって許可ももらえちゃったしさ」
「そう、なのか……」
いまいちどう反応すればいいかわからない俺は、曖昧な相槌を打つことしかできなかった。
そこから暫し、無言の時間が流れた後……不意に甘木が口を開く。
「……ありがとう、一ノ瀬。私のために戦ってくれて。私が消されなかったのは、一ノ瀬のおかげだよ。それと……ごめん。私のせいで、こんな危ない目に遭わせちゃった。本来なら、あの擁立戦は私がすべきものだったのに……」
「き、気にするなよ! むしろ、結果としてピンチを乗り切れたけど、俺も滅茶苦茶やっちまったしさ! ハラハラさせちまって申し訳ないっつーか……!」
「でも、一ノ瀬がいなかったら私はもう一人の私と擁立戦をして、負けてたよ。完全に気後れして、飲まれちゃってたもん。情けないな……」
自嘲気味に笑う甘木が、静かに首を振る。
こういう時、どんな言葉をかければいいのかわからないでいる俺が視線を泳がせる中、再び甘木が口を開いた。
「あのさ……前に一ノ瀬が私にどうして『エヴォルレジェンズ』をするのかって聞いてきた時のこと、覚えてる?」
「え? あ、ああ。この世界、擁立戦の勝敗で色んな事が決まるし、高校生になったのを機に護身のために始めたんだよな?」
「それ、半分は本当だけど、もう半分の理由は隠してた。本当はね、心愛に頼りっぱなしの弱い自分を変えたいって、そう思ったからなんだ」
かつての会話を思い返しながらの俺の言葉に、甘木が呟くように言う。
その言葉の意味を視線で尋ねる俺へと、彼女はこう続けた。
「……昔から何度もデートしてほしいだとか、付き合ってくれだとか、そういう条件付きの擁立戦を挑まれることも少なくなかったんだ。でも、そういう人たちの相手は心愛がしてくれた。『エヴォルレジェンズ』をやってない私に代わって擁立戦をして、私を守ってくれてたの。すごく頼もしくって、自慢のお姉ちゃんだったけど……心のどこかで、心愛に守られてばかりの自分が情けないって、そう思ってた」
俯いたまま、手の中にルルリカのデッキを握り締める甘木がぽつりぽつりと語る。
真っすぐに見つめる俺の方を見ないまま、甘木は深いため息を吐いた。
「高校入学を機に、ちゃんと自分の足で立てるようになろう……そのために、心愛に頼りっぱなしの自分から卒業しようって、そう決めたはずだった。一ノ瀬にも協力してもらって、『エヴォルレジェンズ』のことも勉強できて、これなら何が起きても自分だけの力でどうにかできる……って思ってた。だけど実際は肝心な時に怯えて、一ノ瀬に守ってもらうことになって……本当に情けないよ」
「そんなこと言うなよ。あの状況なら、仕方ないって」
「私はそうは思えない。責任も負担も一ノ瀬に押し付けて、私は見てることしかできなかった。擁立戦に勝ってもらえた後もそう。私のために戦ってくれた一ノ瀬が眠ってる間、私は何もできなかった。もしも一ノ瀬がこのまま目を覚まさなかったら、それは全部弱くて情けない私のせいだ。私のせいで一ノ瀬が犠牲になったらって考えたら……怖くて怖くて、仕方がなかった」
「甘木……」
ぽろぽろと涙をあふれさせながら、自分自身の弱さを後悔し、恐怖を吐露する甘木。
そんなのお前のせいじゃないって、そう言ったとしても甘木は納得しないだろうと理解している俺に対して、涙を拭って顔を上げた彼女が言う。
「だから……お願いがあるの。何を言ってるんだって思われるかもしれない。でも、私は――!!」
何か……甘木がとても重要なことを言いかけたその時、スマホの着信音が鳴った。
驚き、口を閉ざした甘木との間に微妙な沈黙が流れる中、意を決した俺が口を開く。
「あ、あはは……すげえタイミングだな。黒岡先輩からか?」
「あ、えっと、違うみたい。私のスマホに着信が……」
苦笑しながら、少しでも雰囲気を軽くしようとした俺の言葉に反応し、自分のスマホを見やる甘木。
その目が画面に向けられた瞬間、息を呑むと共に彼女が動きを止める。
「……甘木? どうかしたのか?」
その反応から何か不穏な気配を感じ取った俺へと、甘木がスマホの画面を見せる。
そこには、電話のかけ主である『甘木心愛』という名前が表示されていた。
ちょっとインフルエンザにかかってしまいまして、PCの操作すらもしんどい状態に陥っております
更新や感想の返信のペースが落ちてしまうと思うんですが、ご容赦いただけると幸いです。申し訳ありません。