カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ! 作:烏丸英
「お姉さんから……! でも、これは……!」
「……出てみる。一ノ瀬も傍で聞いてて」
一気に緊張が高まる中、意を決した甘木が深呼吸をした後で画面をタップする。
スピーカーモードになっているスマホの先に居るであろう人物に聞かせるように、甘木は静かだがはっきりとした声で呼びかけた。
「……もしもし」
暫し、無言。相手の反応を待つ俺たちが口を閉ざし続ける中、ため息の声が聞こえた後に冷たい声が聞こえてきた。
『そう……あなたが出るってことは、萌香ちゃんは負けたのね』
「………」
『萌香ちゃんを倒したのはあなたじゃないんでしょ? 私の萌香ちゃんがあなたなんかに負けるはずがない。代理は楔になってる男の子かしら? 本当に……やってくれたわね』
悲しみと怒り、そして憎しみ……通話越しにでもわかるくらいに感情が伝わってくるその声には、聞いていると背筋が凍り付いてしまいそうになる冷たさがある。
俺がごくりと息を呑む中、もう一人のお姉さんが感情を憎悪を込めた声で言う。
『でも、まだ終わりじゃない。決着をつけましょう。明日の昼、××街の高架下に来なさい。全力で、叩き潰してあげる』
「……!!」
『楔の男の子に伝えておいて。あなただけは許さない、萌香ちゃんを泣かせた償いをさせてやる……ってね』
「……明日の昼、××街の高架下ね」
『ええ。勝った方が本物の甘木姉妹としてこの世界に残り、負けた方は消える。お互いの存在を懸けた、最終決戦……逃げるだなんて、許さないから』
その言葉を最後に、通話は途切れた。
一つのピンチを乗り切った直後に訪れたラスボスとの決戦……しかし、この戦いに勝利すれば元通りの日常が戻ってくるのだと、そう自分に言い聞かせる俺へと、甘木が言う。
「一ノ瀬……さっき言いかけた話の続きなんだけどさ……次は、私に戦わせてほしい」
「えっ……!?」
電話がかかってくる前に言おうとしていた願い……それを改めて口にした甘木へと、俺は驚きの視線を向ける。
「何を言ってるんだって思われるのはわかってる。でも、ここで一ノ瀬に頼ったら、私は何も変われないまま……自分の姉を助けることすら他人任せにするだなんて、耐えられない。無茶で無謀かもしれないけど、それでも……決着は、私がつけなくちゃいけないって思うから……!!」
「甘木……」
その言葉に、もう一人の甘木との擁立戦を終えた後のことを思い出す。
敗北したことを、己の弱さを悔やむもう一人の自分に対して、甘木は理解を示すと共に自分の弱さを乗り越えたいと語った。
あの時にはもう、こうすることを決断していたのだろう。
肝心な時に誰かに頼ってしまう自分自身の弱さを乗り越え、大切なお姉さんを取り戻すための戦いに臨む覚悟を、甘木は固めていた。
相手がどれだけ強いかは、俺よりも甘木の方が理解しているはずだ。
それでも自分が戦いたいと頼んできたその覚悟は、とても固く思えた。
(正直、分が悪い勝負なのは間違いない。だけど、他でもない甘木がここまで言ってきたのなら、俺がすべきなのは――)
もう一人のお姉さんがどんなデッキを使うかの情報もない。プレイスキルに関しても、甘木が一度負けているこちらの世界のお姉さんを倒したということは、彼女以上なのだろう。
まともにやっても……いや、そうじゃなくとも厳しい戦い。だが、それを理由に甘木の覚悟を無下にすることは、絶対にしたくなかった。
「……わかった。なら、明日までにデッキを見直そう。使えそうなカードも片っ端から渡すから、色々試してみるんだ。ちょうど、今の甘木なら使いこなせそうなカードがあったしさ。黒岡先輩たちにも協力してもらって、万全の状態に調整しようぜ」
「一ノ瀬……! ありがとう!」
「お礼は明日、お姉さんを助け出してからでいいよ。それにほら、俺まだ、甘木に約束守ってもらってねえし」
「約束……?」
「飯、奢ってくれるんだろ? おすすめの店を紹介してくれるって、そう言ってたじゃん」
照れ隠しにカードを開封した際に交わした約束を口にしてみれば、甘木もそうだったとばかりに苦笑しながら頷いた。
それで少し、緊張も解れたみたいだ。くすくすと笑った後で甘木が俺へと言う。
「そうだったね。それじゃ、一ノ瀬とのデートのためにも頑張りますか!」
「おっ、おう! そうだな!」
聞き慣れないデートという単語に緊張しつつ、それを誤魔化すように威勢よく返事をする。
ただ、こんな他愛無い会話や友達同士で遊びに出かける